名誉毀損裁判も勝つことができました
―250万円の賠償金と謝罪広告を命じる高裁判決が―
上杉 聰
2003年7月31日午後、東京高裁で、私が小林よしのり氏のマンガを引用して批判した著作(『脱ゴーマニズム宣言』東方出版)を発表したことに対し、同氏が「新ゴーマニズム宣言」において私を「ドロボー」と非難し、またそのようにマンガで描いたことについて、名誉毀損・肖像権侵害事件として訴えた裁判の控訴審判決が出されました。
その内容は、先の東京地裁判決を変更し、小林よしのり氏と小学館に対して、合わせて250万円の賠償金と下記のような謝罪広告をSAPIO誌上に掲載するよう命じるものでした。マンガに描かれたことによる肖像権侵害については、残念ながら私の主張は認められませんでしたが、名誉毀損による被害の深刻さを正確に認定し、かなり高額な賠償を相当としたこと、また判決として通常はなかなか出ない謝罪広告が認められたことなどを考えれば、現状ではかなり良い勝利判決が出たと評価できると思います。
上杉 聰殿
私、小林善範は、後記1の雑誌及び後記2の書籍に掲載した「新・ゴーマニズム宣言第55章『広義の強制すりかえ論者への鎮魂の章』」において、貴殿が、貴殿の著書「脱ゴーマニズム宣言」で私の漫画の著作権(複製権)を侵害したかのごとく表現し、小社、株式会社小学館は、前記「新・ゴーマニズム宣言第55章『広義の強制すりかえ論者への鎮魂の章』」を掲載した後記1の雑誌及び後記2の書籍を発行しました。しかし、貴殿の著書「脱ゴーマニズム宣言」は小林善範の漫画の著作権(複製権)を侵害したものではなく、「新・ゴーマニズム宣言第55章『広義の強制すりかえ論者への鎮魂の章』」における上記表現は、事実に反するものでした。ここに、前期の漫画によって貴殿の名誉を毀損したことを謝罪します。
記
1 雑誌「SAPIO」1997年11月26日号
2 書籍「新・ゴーマニズム宣言第5巻」
平成 年 月 日
小林よしのり こと 小林善範
株式会社小学館代表者代表取締役 相賀昌宏
上告するかどうかは今しばらく検討いたしますが、双方から申し立てがなされたとしても、今回の判決がくつがえる可能性はほぼ100%ないと言ってよいと思いますので、この訴訟も勝訴の結果を遠からず迎えることができるものと思います。
「楽しむ会」の皆さん、そして様々な形で応援してくださった皆さん、ありがとうございました。この訴訟は、小林氏が1997年12月に私を東京地裁に提訴して以来5年と7カ月、名誉毀損裁判だけでも、2000年9月の提訴以来3年近くを要しました。今後、最高裁での審理がつづく可能性は残されていますが、手続きとしては双方、判決・決定を待つだけですので、これで裁判闘争は、二つの裁判ともに勝利のうちに終了する段階に入ったとご理解いただいてかまわないと思います。
長い裁判の過程では、ご支援いただいた皆さん方の生活条件や環境、あるいは居住地さえかわっていかれた方が多くありました。にもかかわらず、最後まで様々な形で各地から応援して下さり、そして東京周辺の方は、わざわざ休暇をとって常に傍聴に駆けつけてくださいました。私が強いプレッシャーの中で裁判を続けていくことができた理由の第一は、こうした皆様のご支援でした。私は、皆様から数々のお力をいただき、最後まで、しっかりがんばることができました。
そして、法廷では、たいへん優秀な弁護士である高橋謙治先生をはじめ土屋公献元日弁連会長の法律事務所の全面的なバックアップを受け、後世に残る判決を勝ち取ることができました。一つは、マンガの引用が可能という判例を得たこと、もう一つは今回の、マンガも名誉毀損になりうるという判決です。その意味では、「たかがマンガ」という一般的意識の陰に隠れ、好き勝手をしていた小林君の「甘え」た体質を広い世界に引き出し、マンガに文化的な意義を認めるがゆえに、彼にも大人としてのモラルと責任を持ってもらうため、良い薬(お灸?)を与えることができたと思います。
とはいえ、彼と論争する発端となった「慰安婦」にされたおばあさんたちの問題はなに一つ解決していないばかりか、かえって解決がより困難な状態になりつつあり、そうした被害を生んだ戦争そのものさえ再びこの東アジアで起こりかねない危険な動きが広がっています。私としては、今回の二つの裁判の勝利を励みとし、戦後補償と歴史認識の分野で、彼ら「記憶の暗殺者たち」とのたたかいをよりいっそう進めるとともに、おばあさんたちの問題の解決と、さらに平和な世界を実現する道を、より確実にしたいと念願しています。
いま、皆さんの一人一人のお顔とお力添えを思い出しつつ、感謝のうちに、急ぎご報告とさせていただきます。(2003.8.1)
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