小野悦夫氏関係記事データ

朝日新聞記事データベース

/G−Search 96年05月22日検索


目次

◆000001 (T860121M22--03)
松戸の女性暴行殺人で小野被告に無期求刑
86.01.21 朝刊 22頁 2社 写図無 (全831字)

◆000002 (T860318M22--03)
松戸の女事務員殺し、11年ぶり結審 小野被告、無罪を主張
86.03.18 朝刊 22頁 2社 写図無 (全782字)

◆000003 (T860902E03--01)
えん罪の叫びどう裁く 12年前の松戸OL殺人、4日地裁判決
86.09.02 夕刊 3頁 らうんじ 写図有 (全4395字)

◆000004 (T860904E15--03)
松戸OL殺人、小野被告に無期懲役 千葉地裁支部判決
86.09.04 夕刊 15頁 1社 写図有 (全1475字)

◆000005 (T860907M22--11)
小野被告が控訴 松戸の女性殺人
86.09.07 朝刊 22頁 2社 写図無 (全243字)

◆000006 (T910409M29--02)
自白の信用性どう判断 松戸の女性殺人 証言台1991(記写縦横)
91.04.09 朝刊 29頁 社会 写図有 (全2118字)

◆000007 (T910422E14--19)
自白の任意性が最大の争点に 松戸のOL殺人、あす判決
91.04.22 夕刊 14頁 2社 写図無 (全313字)

◆000008 (T910423E01--02)
松戸OL殺人事件の小野被告に逆転無罪 自白の任意性否定 東京高裁
91.04.23 夕刊 1頁 1総 写図有 (全1817字)

◆000009 (T910423E03--01)
代用監獄の問題点、鮮明に 松戸OL殺人逆転無罪判決<解説>
91.04.23 夕刊 3頁 らうんじ 写図無 (全1097字)

◆000010 (T910423E18--03)
問われる事件報道 松戸OL殺人逆転無罪
91.04.23 夕刊 18頁 2社 写図無 (全1485字)

◆000011 (T910423E19--02)
17年間長かった 小野さん、涙をぬぐう 松戸OL殺人逆転無罪判決
91.04.23 夕刊 19頁 1社 写図有 (全1671字)

◆000012 (T910424M02--01)
犯罪報道で一層自戒したい(論説)
91.04.24 朝刊 2頁 2総 写図無 (全1370字)

◆000013 (T910425M30--14)
「拘禁2法案阻止を」 東京で集会
91.04.25 朝刊 30頁 2社 写図無 (全222字)

◆000014 (T910429M17--04)
再審請求へ壁、死刑囚の待遇(声)
91.04.29 朝刊 17頁 声 写図無 (全543字)

◆000015 (T910502M17--06)
犯罪報道への深い反省評価(声)
91.05.02 朝刊 17頁 声 写図無 (全585字)

◆000016 (T910504M17--03)
犯罪報道の反省を評価 奥平康弘(私の紙面批評)
91.05.04 朝刊 17頁 声 写図有 (全0字)☆
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◆000017 (T910507E19--05)
松戸OL殺人事件、検察側が上告断念 起訴後16年余、無罪確定
91.05.07 夕刊 19頁 1社 写図無 (全484字)

◆000018 (T910516M15--08)
小野さんにおわび、報道を反省(読者と新聞 編集局から)
91.05.16 朝刊 15頁 声 写図無 (全851字)

◆000019 (T910516E22--07)
松戸OL殺人で無罪の小野悦男さん、刑事補償請求の総額3650万円
91.05.16 夕刊 22頁 2社 写図無 (全185字)

◆000020 (T910524M30--10)
小野悦男さんらが代用監獄を批判 自らの体験もとに 東京で集会
91.05.24 朝刊 30頁 2社 写図無 (全281字)

◆000021 (T910525M17--03)
考えさせられる犯罪報道 阪本和子(私の紙面批評)
91.05.25 朝刊 17頁 声 写図有 (全0字)☆
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◆000022 (T910712MCB1-12)
代用監獄廃止を訴え市民集会 23日に県弁護士会 千葉
91.07.12 朝刊 千葉版 写図無 (全379字)

◆000023 (T910918MIG1-06)
犯罪報道の犯罪考える 元被告の小野悦男さん招き きょう水戸で
91.09.18 朝刊 茨城版 写図無 (全432字)

◆000024 (T911226M26--01)
雑煮 小野悦男さん 今年の5人:2(それから)
91.12.26 朝刊 26頁 2社 写図有 (全926字)

◆000025 (S920626E11--10)
事件報道(偏西風) 【西部】
92.06.26 夕刊 11頁 1社 写図無 (全605字)


◆000027 (T960427M35--02)
小野悦男容疑者を逮捕 幼稚園女児のわいせつ目的誘拐容疑などで
96.04.27 朝刊 35頁 1社 写図無 (全1105字)

◆000028 (T960427M35--08)
小野悦男容疑者の遺留体液、DNA一致 足立の死体遺棄で警視庁調べ
96.04.27 朝刊 35頁 1社 写図無 (全686字)

◆000029 (T960502E15--03)
裏庭から頭骨・ノコギリ 女児殺人未遂で逮捕の小野容疑者宅 東京
96.05.02 夕刊 15頁 1社 写図有 (全818字)

◆000030 (T960508E01--02)
小野悦男容疑者、女児殺人未遂認める 上申書「騒がれ首絞めた」
96.05.08 夕刊 1頁 1総 写図無 (全1291字)

◆000031 (T960509M31--02)
贖罪したい 弁護士、小野容疑者の心情を公表 女児殺人未遂事件など
96.05.09 朝刊 31頁 1社 写図有 (全1200字)

◆000032 (T960509M31--05)
首なし事件も認め、上申書を提出 女児殺人未遂事件の小野悦男容疑者
96.05.09 朝刊 31頁 1社 写図無 (全153字)

◆000033 (T960511M31--03)
東京・足立の首なし死体は茨城出身の41歳女性 DNA型鑑定で確認
96.05.11 朝刊 31頁 1社 写図無 (全392字)

◆000034 (T960518M35--07)
小野悦男容疑者を東京地裁に起訴 女児誘拐・殺人未遂など4つの罪
96.05.18 朝刊 35頁 1社 写図無 (全576字)



朝日新聞記事データベース/G−Search 96年05月22日

◆000001 (T860121M22--03)

松戸の女性暴行殺人で小野被告に無期求刑

86.01.21 朝刊 22頁 2社 写図無 (全831字)
 49年夏、千葉県松戸市馬橋の宅地造成地で、近くに住む信用組合事務員宮田早苗 さん(当時19)を乱暴して殺し、土中に埋めたとして、殺人、死体遺棄罪などに問 われ、「えん罪」を主張している茨城県生まれ、住所不定、無職小野悦男被告(49) に対する論告求刑公判が、20日、千葉地裁松戸支部(丹野益男裁判長)で開かれた。 検察側は「被告の自白は動かし難く、犯行は極めて凶悪かつ残忍非道」として、無期 懲役を求刑した。
 当時、同地区では2カ月の間に3件の女性殺害事件が相次ぎ、捜査当局は、窃盗の 疑いで逮捕した小野被告を追及、半年にわたる取り調べの末、うち1件の宮田さん殺 害容疑で起訴した。残る2件は事実上未解決となっている。松戸市のほか、東京、埼 玉など首都圏で女性殺人事件が連続しており、小野被告はその中での「犯人逮捕」と して注目を集めた。これまで小野被告は「精神的拷問や誘導により自白した」と一貫 して無実を訴え、11年に及ぶ審理が続いている。弁護側の最終弁論は3月17日、 判決は6月下旬ごろの予定。
 求刑によると、小野被告は、49年7月3日午後10時ごろ、同市の国鉄馬橋駅西 口前の路上を歩いていた宮田さんに刃物を突きつけ、近くの建築中のマンションに連 れて行き乱暴。送っていこうとしたところ、宮田さんが急に走って逃げようとしたた め、宮田さんの着ていたサロペットスカートのつりひもで首を絞めて殺し、午後11 時過ぎ、遺体を近くの造成地の土中に埋めた。
 論告の中で検察側は、最大の争点となっている自白の任意性、信用性について、 (1)被告は「話したいことがある」と捜査官を呼んで自発的に供述しており、強制、 誘導など不当な取り調べがなかったのは録音テープなどでも明らか(2)自白に基づ いて、被告が捨てた定期入れや着衣が見つかっている(3)自白の中に、宮田さんを 乱暴した建築中のマンションの様子など犯人しか知らない秘密の暴露がある、などと して、自供内容に疑いをさしはさむ余地がないと主張した。
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◆000002 (T860318M22--03)

松戸の女事務員殺し、11年ぶり結審 小野被告、無罪を主張

86.03.18 朝刊 22頁 2社 写図無 (全782字)
 千葉県松戸市馬橋の宅地造成地で49年夏、近くに住む信用組合事務員宮田早苗さ ん(当時19)を殺し土中に埋めたとして殺人、死体遺棄罪などに問われ、「えん罪」 を訴えている茨城県生まれ、無職小野悦男被告(49)に対する第88回公判が17 日、千葉地裁松戸支部(丹野益男裁判長)で開かれた。弁護側の最終弁論が行われ、 初公判以来、刑事事件の第1審としては異例の11年に及ぶ長期裁判がようやく結審 した。判決は夏ごろの見通し。
 前回公判で検察側は「被告の自白は動かし難い」として無期懲役を求刑した。これ に対し弁護側は弁論で「自白は強制、誘導、拷問によるもので信用性はない。別件逮 捕後の半年に及ぶ長期拘置は違法であり、被告人は無実」と反論した。  さらに、真犯人でない被告の自白は拷問、誘導によっているため、供述内容が変転 しており、不自然、矛盾した点が多く、信用性のかけらもない。自白を裏付ける物証 についても、発見された宮田さんの衣類は捜査本部で偽造した疑いが強く、被告の自 白を誘導したのは明らか、と断じた。
 宮田さん事件は、49年6月から8月にかけて松戸市馬橋で起きた3件の女性殺人 事件の1つ。小野被告は、これら事件を含め当時、東京、埼玉などで起きていた類似 事件の犯人との嫌疑がかけられ、千葉県警の捜査本部は9月に窃盗の疑いで別件逮捕 した小野被告を重要容疑者として追及。報道機関も、いわゆる「首都圏連続殺人事件」 の犯人逮捕として連日のように取り上げた。
 しかし、捜査は長引き、12月になって宮田さん殺害容疑で再逮捕したものの、物 証に乏しく起訴は見送られた。翌年3月、公安事件の救援活動を行っていた救援連絡 センターが小野被告の支援に乗り出して私選弁護団が選任された直後の3月12日、 千葉地検はようやく起訴に踏み切った。別件窃盗事件の判決の2日前だった。他の事 件は未解決に終わっている。
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◆000003 (T860902E03--01)

えん罪の叫びどう裁く 12年前の松戸OL殺人、4日地裁判決

86.09.02 夕刊 3頁 らうんじ 写図有 (全4395字)
 弁護側「物証ねつ造の疑い」 検察側「自白に基づき発見」
 千葉県松戸市馬橋の宅地造成地で49年7月、近くに住む信用組合事務員宮田早苗 さん(当時19)を乱暴して殺し、土に埋めた、などとして殺人、死体遺棄罪などに 問われた茨城県生まれ、無職小野悦男被告(50)に対する判決公判が4日午後1時 から、千葉地裁松戸支部(丹野益男裁判長)で開かれる。宮田さん事件は、同じ年の 7月から8月にかけて東京、埼玉、千葉で起きたいわゆる「首都圏連続女性殺人事件」 のひとつ。「同一犯人」説が渦巻く異様な雰囲気の中で逮捕され、結局、一連の事件 のなかで「宮田さん殺し」だけを問われた小野被告だったが、11年間に及ぶ公判で は一貫して同事件について無罪を主張。「拷問で自白を強要された」とえん罪を訴え 続けた。弁護側も自白の任意性、信用性を最大の争点とし、「物証の発見などの捜査 経過に重大な疑問がある」と、検察側と鋭く対立してきた。刑事事件の1審としては 異例の長期裁判は、その訴えをどう裁くのだろうか――。(日高敏景記者)
 連続7件の殺人 同一犯説で捜査 うち1件で起訴
 ○49年夏
 群馬県内で8人の女性が殺害された「大久保清事件」(46年)の記憶がまだ新し い49年夏。東京のベッドタウンとして、急速に宅地化が進んでいた千葉県松戸市で、 3件の婦女暴行殺人事件が発生した。7月10日、国鉄馬橋駅西口近くのアパートが 放火され、焼け跡から、小学校教諭小沼雅子さん(当時21)の他殺体が発見された。 8月8日には、ひと月余り行方不明になっていた宮田早苗さん、その2日後の8月1 0日には、近くに住む主婦高橋ハルさん(同30)の死体が、それぞれ同駅西口前に 広がる宅地造成地の土中から見つかった。3つの現場は、半径500メートルの地域 に集まっていた。
 一方、馬橋での3件と相前後して、東京、埼玉でも類似した事件が続発した。7月 には東京都葛飾区四つ木の料理店で、48歳と58歳の女性店員が殺されて店に放火 され、埼玉県草加市氷川町のアパートでも、22歳の女子店員が殺人放火の被害者に なった。さらに翌8月、東京都足立区と埼玉県志木市でやはりアパート暮らしのOL が被害者の殺人、放火事件が連続した(これらの事件のうち、四つ木事件はその後、 犯人が逮捕、起訴された。他は未解決)。
 わずか2カ月の間に起きた女性ばかり7件8人の殺人事件は、首都圏住民に異様な 緊張をもたらした。特に3件が集中した馬橋地区の住民たちは、「不安で眠れない」 などと訴え、早期解決を求める声が警察に集中した。新聞、テレビなどのマスコミ各 社は、一連の事件を「首都圏連続女性殺人事件」と名付け、連日のように報道した。 7件のうち6件が、犯人の血液型は「O」型と推定され、手口が似ているケースもあ ったことから、「同一犯人」との見方も強まり、警察庁もいくつかの事件について同 一犯人説に立ち、関係都県の警察の捜査指揮に乗り出した。
 ○182日目の起訴
 小野被告が千葉県警松戸署の捜査本部に逮捕されたのは、その年の9月12日。直 接の容疑は「馬橋地区のマンションから、カラーテレビなどを盗んだ」というものだ ったが、捜査本部のねらいは当初から、一連の殺人事件にあった、とみられた。同本 部は、同月30日、小野被告を同じ馬橋のアパート2階で6月に起きた婦女暴行事件 で再逮捕。以後、この再逮捕容疑との関連から、アパート2階での殺人放火である 「小沼さん事件」に重点を置いた取り調べが続いた。
 ところが、11月に入ると、調べの焦点は突然、「宮田さん殺し」に移った。「物 証の出る事件の方がよいのではないか、という判断からだった」。当時の捜査幹部は のちになって、公判廷でこう証言した。11月22日、宮田さん殺しについて最初の 自白。12月初めには、小野被告が犯行後に捨てたとされる宮田さんの雨ガサ、定期 入れなど「物証」の相次ぐ発見。そして同月9日の宮田さん殺人容疑による再々逮捕 ――事件は一気に「解決」とみられた。しかし、殺人での拘置期限が切れる同月31 日、千葉地検松戸支部が下した結論は「処分保留」。「決め手となる物証に乏しい」 というのが、その理由だった。
 こうした地検の慎重な姿勢を、その後、大きく方向転換させたのは、年が変わった 50年2月になって、現場近くの下水溝から発見されたスカートなど多数の衣類だっ た。衣類はビニール製の雨用ズボンに包まれた格好で見つかり、このズボンは小野被 告がやはり現場近くの工事中のマンションから盗み出した、とされた。3月12日、 地検松戸支部は小野被告を殺人、死体遺棄罪で起訴。別件の窃盗容疑による最初の逮 捕から、実に182日目だった。
 ○公判88回
 計88回に及んだ公判で、最も激しく争われたのが、小野被告の捜査段階の「自白」 だった。なかでも、検察側が「自白内容の信用性を担保する重要証拠」と位置付ける カサ、衣類などの「物証」の発見経過をめぐる応酬は激しく、多数の警察官や当時の 担当検事が次々と証言台に立った。
 「衣類などはいずれも被告が自分から進んで書いた図面などに基づいて、初めて発 見できた」――こう主張する検察側に対し、弁護側は、地検がいったん「処分保留」 にした異例の捜査経過も踏まえ、次のような疑問を投げかけた。
 (1)最初の雨ガサの発見場所は、宮田さんの死体発見場所から200メートル余 りで、事件直後の捜索で容易に発見できるところに放置されていたのに、事件発覚か ら100日余りもあとになって「自白によって見つかった」とするのは余りに不自然 だ(2)定期入れや財布の発見場所である川の土手も、カサと同様に、当初から徹底 的な捜索が展開されていた(3)衣類投棄の自白は「草地に埋めた」「紙袋を逆さに して捨てた」「ストッキングでしばって」など、方法や場所に関して著しく変遷して いる。しかも、被告と犯行との結びつきを決定的に強めるはずの「雨用ズボン」につ いての自白調書は、衣類発見から1週間もたって、初めて作成されている――などだ。  「捜査官があらかじめ発見していたか、ねつ造した物証を被告の自白に無理やり押 し付けた」とする主張であり、この立場から、弁護側は自白の信用性ばかりでなく、 その任意性も「違法な別件逮捕による長期拘置のもと、捜査官が強制、誘導した」と 全面的に否定してきた。このため、4日の判決では、これらの「物証」を裁判所がど う評価するかが、大きなポイントになりそうだ。
 ○報道が根拠なしに先走る 批判する救援会
 小野被告の無罪主張を法廷の外から支えてきたのが、起訴直前に結成された「小野 悦男さん救援会」(事務局、東京都杉並区、山際永三事務局代表)。同会は小野被告 への差し入れや面会、弁護団への調査協力などを重ねる一方、事件をめぐる報道のあ り方についても批判活動を行ってきた。
 同会は、当時の一連の報道について、「7件8人の殺人事件を、確実な根拠もなく、 『首都圏連続女性殺人事件』と名づけ、『同一犯の連続犯行』と印象付けるセンセー ショナリズムに陥った」「別件逮捕の3日後から、『連続殺人容疑者』として、小野 被告を実名で報道した」などを指摘。「小野さんの事件はマスコミの事件報道に反省 を迫っているはず」としている。
 ●起訴事実
 小野被告は、49年7月3日午後10時半ごろ、千葉県松戸市の国鉄常磐線馬橋駅 西口の宅地造成地で、帰宅途中の宮田さんを暗がりで待ち伏せ、刃物を突きつけて脅 しながら、建築中のマンションに連れ込んで暴行。その後、「送って行く」と外に出 たが、宮田さんが助けを求めてかけ出したため、腕で首を絞め、さらにスカートのつ りヒモを首にまきつけ、窒息死させた。殺害後、衣服をはぎとったうえ、造成地に死 体を埋めた。(小野被告は別件の窃盗、婦女暴行などでも起訴されているが省略)
 ●裁判の主な争点
 【自白】
 ◇検察側
 被告は自ら申し出て、調書の作成や録音に応じた。自供内容の変転は、ひねくれて したたか、虚偽を織り交ぜる被告の特異性格によるもの。犯行の大筋では一貫してい る
 ◆弁護側
 線香でいぶす、房の窓を開けて風邪をひかせるなどの拷問を加えたほか、空腹の被 告に食物提供の約束をして自白を導いた。供述の変遷は不自然で、秘密の暴露もない
 【物証】
 ◇検察側
 宮田さんの所持品は、被告が自ら言い出し指示した場所から見つかった。衣類に被 告のと類似する体毛も付着しており、犯行を裏付ける物証は十分にある
 ◆弁護側
 衣類などの発見経過は不自然・不合理で、自白前に発見されていた可能性が強く、 証拠ねつ造の疑いもある。付着体毛が被告のものと類似するという鑑定は信用できな い
 【アリバイ】
 ◇検察側
 アリバイ主張は、具体性がなく極めてあいまい。犯行否認調書の中ですら、事件当 夜に馬橋駅周辺にいたことを認めている。アリバイ証人は家族3人だけで、信用でき ない
 ◆弁護側
 事件当夜は、足立区の姉の家に泊まった。事件翌日の夜に馬橋の本屋に盗みに入っ たが、犯人なら危険を承知で殺人現場に再び行くはずがない
 ●事件と裁判の経過
 <49年>
 7.3 宮田早苗さん、行方不明に。
 8.8 松戸市馬橋の造成地の土中から宮田さんの遺体が発見される。(このころ、 千葉、東京、埼玉各都県で女性殺人事件相次ぐ)
 9.12 松戸署、小野被告を窃盗の疑いで逮捕。
 9.30 同署、小野被告を婦女暴行の疑いで再逮捕、印西署に移送。以後翌年3 月12日まで単独拘置され、殺人事件についての調べが続く。
 10.2 千葉地検松戸支部、小野被告を窃盗罪で起訴。
 10.21 同支部、小野被告を婦女暴行罪で起訴。
 12.1 松戸市馬橋の造成地のどぶから宮田さんの雨ガサ発見される。
 12.4 同市馬橋の新坂川土手から宮田さんの定期券入れとがま口が発見される。
 12.5 千葉地裁松戸支部で別件の初公判開かれる。小野被告は窃盗、婦女暴行 を大筋で認める。
 12.9 松戸署、宮田さん殺しの容疑者として小野被告を逮捕。
 12.31 地検松戸支部、宮田さん殺しでの小野被告の起訴を見送り、処分保留 とする。
 <50年>
 1.21 松戸市馬橋の下水溝から宮田さんのものと思われるスカートのつりひも 発見される。
 2.10 同じ下水溝から宮田さんのものと思われる衣類や靴が詰め込まれた雨用 ズボンが発見される。
 3.12 地検松戸支部、小野被告を宮田さん殺しで起訴。
 3.13 地裁松戸支部、進行中の公判と殺人事件の公判との併合を決定。
 6.6 第3回公判で、検察側が殺人事件について冒頭陳述。小野被告は殺人事件 の起訴事実を否認。
 <61年>
 1.20 第87回公判で、検察側、無期懲役を求刑。
 3.17 第88回公判で弁護側、えん罪として無罪を訴える。
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◆000004 (T860904E15--03)

松戸OL殺人、小野被告に無期懲役 千葉地裁支部判決

86.09.04 夕刊 15頁 1社 写図有 (全1475字)
 千葉県松戸市馬橋の宅地造成地で49年7月、近くに住む信用組合事務員宮田早苗 さん(当時19)を乱暴して殺し、土に埋めた、などとして殺人、死体遺棄罪などに 問われていた茨城県生まれ、無職小野悦男被告(50)に対する判決公判が、事件発 生以来12年ぶりに4日午後1時から千葉地裁松戸支部で開かれた。丹野益男裁判長 は「犯行を認めた被告の自白は信用できる」などとし、全面的に有罪の認定をしたう え、小野被告に求刑通り無期懲役を言い渡した。被告、弁護側は判決を不服とし、控 訴するとしている。
 判決は、「殺人についてはえん罪」とする弁護側の主張をほぼ全面的に退ける形と なった。最大の争点だった小野被告の捜査段階の自白については一部を除いて任意性 を認めたうえで、「犯行の大筋で一貫性がある」などと信用性も認めた。
 また、弁護側が「発見経過が不自然」と指摘していた宮田さんの衣類などの物的証 拠については、「被告の自白にもとづいて見つかっており、自白内容の信用性を支え るもの」と判断。「事件当夜は親類宅にいた」というアリバイ主張に対しては「認め られない」と退けた。
 判決の認定事実によると、小野被告は49年7月3日午後10時半ごろ、松戸市馬 橋の宅地造成地で、帰宅途中の宮田さんに刃物を突きつけて脅し、建設中のマンショ ンに連れ込んで乱暴。その後一緒に外に出たが、宮田さんが助けを求めてかけ出した ため、腕で首を絞めるなどして殺し、衣服をはぎとったうえ、死体を土の中に埋めた (殺人、死体遺棄)。
 また、小野被告は49年6月、松戸市馬橋のマンションからカラーテレビ、ネック レスなど50余万円相当を、また同所の書店から計約1万円相当の本29冊を、それ ぞれ盗み出した(窃盗)ほか、同じ馬橋地区のアパート2階の女性の部屋に忍び込み、 刃物でおどしたうえ、乱暴をした(婦女暴行、住居侵入)。
 この事件は、同じ年の7月から8月にかけて起きたいわゆる「首都圏連続女性殺人 事件」のひとつとして騒がれた。小野被告は別件の窃盗などで逮捕されたあとに「宮 田さん殺し」を自白したが、殺人事件の起訴はいったん見送られ、別事件での逮捕か ら半年後になってようやく殺人、死体遺棄罪で追起訴される、という異例な経過をた どった。
 このため、公判では、小野被告の捜査段階の自白の任意性、信用性が争われ、被告 ・弁護側は、(1)自白は、違法な別件逮捕と長期拘置のもと、捜査官に強制、誘導 された(2)「自白を裏付ける」とされた衣類などの物的証拠の発見経緯に不自然な 点が多く、ねつ造された疑いもある、と主張。「宮田さん事件」については全面無罪 を主張していた。
 ○「不当だ」と怒る支援者
 「被告人を無期懲役に処する」。丹野益男裁判長のやや低い声が廷内に響いた。 「どうしてだっ」。傍聴席のあちこちから声があがる。薄いブルーのワイシャツにグ レーのズボン姿の小野被告は、じっと前を向いたまま。丹野裁判長は声をあげる傍聴 人を「黙りなさい」とたしなめた後、判決理由を述べ始めた。弁護団は裁判官席をに らみつけたまま。検察側は、身を乗り出して聞き入っていた。
 午後1時3分すぎ、「有罪」の報が伝えられ始めると、裁判所向かい側の、松戸中 央公園の木陰で涼をとりながら成り行きを見守っていた「小野悦男さん救援会」のメ ンバーたちは、「えー、えー」「間違いないの」と、一瞬静まり返った。
 同1時7分すぎ、法廷から戻ってきた救援会の代表の1人、長谷川健三郎さん(5 2)は支援者30人を前に「とんでもない不当判決。これからも闘いを続けていく」 と声を荒らげた。
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◆000005 (T860907M22--11)

小野被告が控訴 松戸の女性殺人

86.09.07 朝刊 22頁 2社 写図無 (全243字)
 千葉県松戸市で49年7月、近くに住む信用組合事務員宮田早苗さん(当時19) を乱暴、殺害して埋めた、などとして殺人、死体遺棄罪に問われ、千葉地裁松戸支部 で4日、求刑通りの無期懲役判決を受けた茨城県生まれ、無職小野悦男被告(50) は、6日までに東京高裁に控訴した。
 小野被告の弁護を担当してきた野崎研二弁護士(46)ら3人の弁護団は、「自白 とそれによって発見された物証との関連についての判断は重大な誤り。事実誤認の判 決だ」とし、自白の任意性、信用性を最大の争点として今後も争っていく構え。
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◆000006 (T910409M29--02)

自白の信用性どう判断 松戸の女性殺人 証言台1991(記写縦横)

91.04.09 朝刊 29頁 社会 写図有 (全2118字)
千葉県松戸市で1974年7月、信用組合の女性事務員(当時19)が殺された事件 の犯人とされ、1審で無期懲役刑を宣告された小野悦男被告(54)に対する控訴審 が結審した。事件発生の前後2カ月間に、首都圏で8人の女性が殺害されていたため、 逮捕当時、「首都圏連続女性殺人、全面解決か」とも報じられた。が、起訴されたの は1件だけ。しかも被告は公判で無実を訴え続け、犯罪報道のあり方をめぐっても論 議を呼んだ。判決は今月23日。起訴から16年を経て、東京高裁は最大の争点であ る自白の信用性をどう判断するか、結論は有罪か、無罪か。

 ○心証
 1月29日、東京高裁刑事720号法廷。被告人質問の最後に竪山真一裁判長が問 いかけた。
 裁判長 仮に将来、出所することができたら、どうしようと思いますか。
 被告 どんな仕事でも一生懸命やるつもりです。
 裁判長 まじめに生活していくということですね。
 被告 はい。
 刑事裁判で裁判官が被告の心情をただすことは、珍しいことではない。しかし、社 会復帰にストレートに触れたこの言葉は何を意味するのか。
 竪山裁判長は、東京地裁の裁判長当時、やはり自白の信用性が争われた「総監公舎 爆破未遂事件」を担当、5被告全員を無罪とした経歴を持つ。先月も、捜査段階の供 述だけが検察側の支えだった東京・赤羽の放火事件で、1審の有罪判決を破棄するな ど、調書の内容を吟味する目には定評のある裁判官だ。

 ○秘密の暴露
 事件は捜査、公判を通じ異例な経過をたどった。
 小野被告は74年9月12日、千葉県警に逮捕された。松戸市内のマンションから テレビを盗んだ容疑で、同月末には婦女暴行の疑いで再逮捕された。
 警察は連続殺人との関連を追及し、11月22日、被告はうち1件の女性事務員殺 しを自白。犯行現場近くから被害者のカサや定期券入れなどが見つかったのを受けて、 12月9日に殺人容疑で再々逮捕した。が、千葉地検松戸支部の結論は「処分保留― 釈放」。「決め手となる物証に乏しい」という理由だった。
 警察側は、カサや定期券入れは、自白で初めて捨てた場所がわかり、発見できたと していた。「犯人しか知りえない秘密を明かした」ことになり、事件と被告とを結び つける決定的証拠になるはずだ。
 弁護側は法廷で「捜査員がすでに見つけていたのを偽装したもので、うその自白を 誘導していたことを歴然と物語る」と主張した。

 ○違法証拠
 小野被告の拘置は、別件の窃盗と婦女暴行の補充捜査を名目に、その後も続いた。 翌年1月から2月にかけて、被害者の寸断されたスカートや下着が見つかり、「被害 者の衣類のボタンについていた毛髪は、被告のものと類似している」との鑑定結果も 示された。
 これら「証拠」を前に、検察側は3月12日に被告を殺人と死体遺棄罪で起訴した。 最初の逮捕から182日目だった。
 1審の審理だけで11年。千葉地裁松戸支部は86年9月4日、カサや衣類を「自 白の信用性を支える物証」と評価し、被告に無期懲役を言い渡した。
 が、判決は処分保留後の取り調べは違法として75年1月以降の自白調書を排除。 起訴の決め手になった「毛髪」も、「被害者の衣類に着いていたものか信用できない」 とした。

 ○洗い直し
 控訴審になって、「日石・土田邸爆破事件」などで無罪判決を獲得した丸山輝久、 石田省三郎の両弁護士が新たに弁護団に加わり、自白の内容や証拠類を再度、綿密に 洗い直した。
 その結果、いくつか不自然な点が浮かび上がった。
 殺害方法について1審判決は、スカートのつりひもを首に巻いて絞めたと認定した。 しかし、つりひもは70センチほど。この長さで法医鑑定の結果通り、「二重巻きに して絞め上げる」ことが果たして可能なのか。しかも自白調書は、鑑定が出るまでは 一貫して「腕で絞めた」となっていた。
 また、控訴審で採用された鑑定から、被害者の衣類は「相当強い力で意図的に引き 裂かれた」ことが判明した。だが調書には、引き裂いたことをうかがわせる供述は一 切ない。

 ○上申書
 2月26日、再び720号法廷。最終弁論で検察側は、「供述に一部不自然な点が あるのは、ものごとを虚実織りまぜて語る被告の特異な性格による」と控訴棄却を主 張。弁護側は被告の上申書を提出した。
 「中2中退だったので、事件当時は漢字はほとんど読めなかったり書けなかったの です。(調書の)内容もよく理解出来ないことが多かったので、(略)友人に国語辞 典や、本を差入してもらって一生懸命に勉強したのです。今は新聞、週刊誌、本も読 めるようになったので、今度外に出たら社会生活にやく立つと思っています」(一部 抜粋)
 逮捕当時、38歳。被告の髪は白く変わっている。

 ●300件超す新聞報道
窃盗容疑による逮捕から殺人罪で起訴されるまでの半年間、小野被告に関する新聞報 道は、支援者らの調べで、地元だけで朝日新聞を含め8紙、三百数十件にのぼった。
 ほとんどの記事が被告を「連続女性殺人事件」の犯人と決めつけた。「小野女性殺 人8件認める」の見出しの下に、首都圏の未解決の女性殺人事件10件を一覧表にし て、うち小野被告が「自供」した事件を白ヌキで報じた新聞もあった。
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◆000007 (T910422E14--19)

自白の任意性が最大の争点に 松戸のOL殺人、あす判決

91.04.22 夕刊 14頁 2社 写図無 (全313字)
千葉県松戸市の宅地造成地で1974年7月、近くに住む信用組合職員宮田早苗さん (当時19)を乱暴して殺し、土中に埋めたとして、殺人や死体遺棄などの罪に問わ れている小野悦男被告(54)に対する控訴審判決が、23日午前10時から東京高 裁刑事12部(竪山真一裁判長)で言い渡される。
 小野被告は74年9月に別件の窃盗容疑で千葉県警に逮捕された後、当時、首都圏 で相次いで起きていた「連続女性殺人事件」との関連について調べを受けた。翌年3 月に宮田さん殺害で起訴されるまで、警察の留置場を使った取り調べは182日間に 及んだ。
 裁判では、犯行と被告とを結びつける唯一の直接証拠である捜査段階の自白の、任 意性と信用性が最大の争点になっている。
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◆000008 (T910423E01--02)

松戸OL殺人事件の小野被告に逆転無罪 自白の任意性否定 東京高裁

91.04.23 夕刊 1頁 1総 写図有 (全1817字)
千葉県松戸市馬橋の宅地造成地から1974年(昭和49年)8月、近くに住む信用 組合職員宮田早苗さん(当時19)の遺体が見つかった事件をめぐり、殺人、死体遺 棄などの罪に問われた茨城県生まれ、無職小野悦男被告(54)に対する控訴審で、 東京高裁の竪山真一裁判長は23日午前、無期懲役とした1審判決を破棄、改めて無 罪とする逆転判決を言い渡した。判決理由で竪山裁判長は、唯一の直接証拠とされた 自白調書について、「捜査当局は被告を代用監獄である警察留置場に拘置し、自白を 強要しており、任意性は認められない」として証拠能力を否定。信用性についても 「供述は不自然、不合理で、物証の発見も真犯人のみが知りうる『秘密の暴露』とは 評価できない」と述べ、当時の捜査のあり方を厳しく批判した。小野被告は別件の窃 盗罪などでも起訴されており、竪山裁判長はこれらについては有罪と認定、懲役6年 を宣告した。しかし、拘置日数のうち量刑相当分を刑期に算入したため、小野被告は 閉廷後、約16年半ぶりに釈放された。

 この事件は、74年6月から8月にかけて、首都圏で8人の女性が相次いで殺害さ れた「連続女性殺人事件」のひとつとされ、捜査当局は窃盗容疑で逮捕した小野被告 との関連を追及。マスコミ各社も当時、ほとんどの事件に被告が関与していたかのよ うに報道した。唯一起訴された宮田さん事件をも無罪としたこの日の判決は、事件報 道のあり方にも反省を迫るものとなった。
 小野被告と宮田さん殺害とを結びつける直接証拠は、捜査段階での自白調書しかな く、(1)その調書は警察の違法な取り調べによるものか(2)調書には真犯人でな ければわからない事実が述べられているか、などが争われた。
 殺人罪などで起訴されるまで、小野被告の拘置は、千葉県警印西署の代用監獄など で182日間に及び、うち終盤の71日間の自白調書は、すでに1審の千葉地裁松戸 支部が「違法な取り調べで得られた」として証拠から排除していた。
 高裁判決はまず、それに先立つ72日間の取り調べについて検討。この間、(1) 捜査員が看守を兼務しており、拘置業務が捜査に不当に利用された(2)拘置中の被 告は精神的にも肉体的にも厳しい状態に追い込まれており、反省に基づいた真実を語 る自白を得ることが可能だったか大いに疑問がある(3)自白は取り調べのつど変転 し、一貫性がない――などの点を指摘、自白が任意になされたものとはいえないと結 論づけた。
 この中で、竪山裁判長は、代用監獄について「自白の強要が行われる危険の多い制 度であり、その運用には慎重な配慮が必要で、犯罪捜査と拘置業務は独立の立場で適 正に行われることが不可欠」とする異例の見解を示した。
 続いて判決は、自白調書の信用性にも言及。「自白には不自然な点が多く、何度も 変転しているのは取調官の誘導による結果とみるのが素直」と述べた。
 小野被告の自白により順次、見つかったとされる傘など被害者の持ち物の発見経緯 についても、捨て場所を指示したことを裏付ける供述調書がないうえ、発見時に被告 が現場に立ち会っていない点などをあげ、「捜査官の偽装とまでは断定できないが、 理解しがたい不明朗な事実が多すぎる」とし、捜査のあり方に疑問を投げかけた。

 <松戸OL殺人事件>74年8月、行方不明になっていた宮田早苗さんの全裸死体 が、松戸市馬橋の造成地で見つかった。当時、同地区では他に2件の女性殺人事件が 起きていたため、千葉県警は松戸署に合同捜査本部を設置、同一犯人との見方で捜査 を開始した。同年9月12日、小野被告を別件の窃盗容疑で逮捕、同30日には婦女 暴行容疑で再逮捕し、身柄を印西署に移して一連の殺人事件について取り調べた。
 被告は11月22日になって、宮田さん殺害を自供。12月上旬に犯行現場近くか ら、宮田さんの傘や定期券入れなどが発見された。県警は殺人の疑いで再々逮捕した が、千葉地検松戸支部は同月31日、物証に乏しいと判断、「処分保留―釈放」とし た。
 しかし、県警はその後も別件の補充捜査を名目に拘置を続けた。翌年1月から2月 にかけて、被害者の寸断されたスカートや下着が被告の自白によって見つかったとさ れ、そこに付着していた毛髪も、被告のものと類似しているとの鑑定結果が示された ため、検察当局は3月12日に殺人と死体遺棄罪で起訴。11年の審理を経て、千葉 地裁松戸支部は86年9月、無期懲役を言い渡した。
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◆000009 (T910423E03--01)

代用監獄の問題点、鮮明に 松戸OL殺人逆転無罪判決<解説>

91.04.23 夕刊 3頁 らうんじ 写図無 (全1097字)
23日の「松戸OL殺人事件」控訴審判決で東京高裁は、小野悦男被告に対する取り 調べの違法性を指摘し、自白は捜査官の誘導によるもので虚偽、と断じた。政府は先 月、これまで2度廃案になっている拘禁2法改正案を今国会に提出し、警察留置場を 拘置所代わりに使う姿勢を変えていないが、判決は代用監獄制度の抱える問題点を浮 き彫りにしており、同法案の審議にも影響を与えそうだ。

 拘置が必要な被疑者は、中立的な立場で身柄を管理する施設(拘置所)に収容する、 という原則が国際法曹委員会や国際刑法学会などで確認されている。しかし、日本の 監獄法は「警察署内の留置場を監獄に代用できる」と定め、警察は逮捕した被疑者の 大半をここに拘置し取り調べている。
 小野被告の場合も同様で、別件の窃盗容疑で逮捕されてから殺人罪で起訴されるま で182日間のほとんどを、千葉県警印西署の留置場で過ごした。同署は改築直後で 他に拘置中の被疑者はおらず、また看守が配置されていなかったために捜査本部員が これを兼ね、被告を24時間態勢で監視し続けた。
 この間、被害者のいはいや遺体の写真を取調室に持ち込み、線香をたいて被告を追 及していたことが、1審判決によって認定されている。
 検察側は公判になって、留置場内での小野被告の動静を「看守」が分刻みで記録し た書類を提出した。取り調べが厳正に行われたことを立証するのが目的だったが、記 録には逆に、空腹や寒さを繰り返し訴え、孤独な留置場内で精神的に疲労していく被 告の姿が詳細に記されていた。
 公判で弁護側は、こうした証拠をもとに拘置、取り調べの不当性を強調した。また、 検察側主張では被害者の傘の捨て場所が自白で初めてわかったとされているのに、そ の自白よりも前に警察が被害者の友人に現場立ち会いを求めているなど、調書の全体 に見られる不自然さを指摘した。
 「真実解明に向けて自白は重要な要素であり、捜査全体の便宜のために代用監獄は 必要」と捜査当局は主張する。しかし、免田、財田川、松山、島田各事件の死刑再審 など、過去のえん罪事件のほとんどはこの代用監獄での拘置、取り調べから生まれて おり、国連の人権委員会や差別防止小委員会からも「経済大国における人権侵害」と の批判を浴びて久しい。
 それゆえに、司法には自白の厳密な検証と裏付けが求められているといえる。 東京高裁判決は、このことの重要性を明確に示し、同時に、当初は警察の捜査に疑問 を抱きながら結局は起訴した検察当局、さらに自白の不自然さについて「被告の特異 な性格による」と片付け、有罪の結論を導いた1審裁判所の認定のずさんさを、改め て浮き立たせる形ともなった。
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◆000010 (T910423E18--03)

問われる事件報道 松戸OL殺人逆転無罪

91.04.23 夕刊 18頁 2社 写図無 (全1485字)
74年9月12日の窃盗容疑による逮捕から、翌年3月に殺人罪などで起訴されるま で、小野悦男さんについての新聞報道は「小野悦男さん救援会」の調べで、8紙三百 数十件(千葉県域分)にのぼった。ほとんどの記事が「首都圏連続女性殺人事件」の 犯人と決めつけたもので、23日の東京高裁での無罪判決後、弁護団は「犯罪報道」 のあり方を厳しく批判するコメントを改めて発表した。

 ◆前歴
 小野さんの実名が初めて新聞に掲載されたのは、別件逮捕から間もない9月中旬だ った。各紙とも、小野さんには婦女暴行や放火の前歴があり、首都圏で未解決になっ ている女性殺害事件のいくつかについて「容疑はきわめて強い」などと報じた。しか し、放火などの前歴はないことが、後に判明した。また、他の未解決事件との関連も 立件されなかった。

 ◆犯行一覧表
 10月から11月にかけて、報道される「容疑」は日を追って増えていった。
 ある全国紙は11月13日付で、10件(被害者12人)の殺人事件を一覧表にし、 うち7件を「警察が小野の犯行と断定した事件」とした。この中には、既に別人が指 名手配されていた事件や、同紙が3カ月前に「血液型が違うので犯人は別」と報じた ものまで含まれていた。「殺人を犯した後にわざと微罪の窃盗で逮捕され、刑務所に 逃げ込むのが、小野の習い覚えた手口」などという記事を掲載した新聞もあった。

 ◆「殺人鬼」
 小野さんが宮田早苗さん殺害の容疑で再々逮捕された12月上旬と、衣類がみつか った翌年2月、報道はピークに達し、「殺人鬼」などの見出しもついた。
 一方で、75年3月に「救援会」が結成されてからは、長期拘置に対する疑問や、 拘置所で小野さんに面会した記者が書いた無実の訴えなどが一部の新聞に掲載される ようになった。

 ◆公開質問状
 小野さんは結局、宮田さん事件で起訴されただけだった。しかし、多くのマスコミ は、捜査がこの1件を立件しただけで終結したことを報道せず、うやむやのうちに幕 を引いた。
 1審判決直前の86年8月、救援会は被疑者の人権や取材のあり方などをめぐり、 新聞、通信、テレビ各社に公開質問状を出した。救援会は「誠意ある内容の回答は、 いまだに示されていない」としている。
   ◇
 朝日新聞も74年9月以降、小野さんと「連続殺人」との関連を指摘する記事を度 々掲載、同年11月15日付の朝刊社会面では「小野は以前服役中に、同房者に『出 所したら婦女暴行をし、放火して証拠をなくす』と漏らしていた」と報じた。
 その後の捜査当局の調べで、以前に網走刑務所で小野さんと同房だったと自称する 男が、謝礼欲しさに警察に供述した作り話だったことがわかったが、訂正や、この事 実を伝える記事は掲載しなかった。
 「物証」とされた傘が発見された翌日の12月2日には「宮田さん事件は解決。他 の女性殺人事件についても、自供を突破口に、一気に全面解決に持ち込む」と報道し、 取り調べた警察官の人柄をたたえる内容の記事を載せた。
 救援会の公開質問状に対しては、1審判決後の86年9月に文書で、一部の記事に 事実誤認があり、続報に配慮を欠いたことを認めて遺憾の意を表明。「問題点を謙虚 に見直し、同じ轍(てつ)を踏まないよう最善の努力を続ける」と回答している。

 ●木村卓而・東京本社社会部長の話
 当時の報道には反省すべき点があり、遺憾に思っています。この事件などをきっか けに、朝日新聞社では一昨年以降「事件報道小委員会」を設け、事件記事の書き方か ら取材の基本姿勢に至るまでの検討を続けており、人権を尊重した事件報道を目指し て改革に努めております。
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◆000011 (T910423E19--02)

17年間長かった 小野さん、涙をぬぐう 松戸OL殺人逆転無罪判決

91.04.23 夕刊 19頁 1社 写図有 (全1671字)
「17年間がとても苦しかった。本当のことがわかってもらえて、うれしい」――2 3日、松戸OL殺人事件の控訴審で逆転無罪判決を得、釈放された小野悦男さん(5 4)は、別件逮捕以来の長い日々を振り返った。「今は、病気のおふくろの車いすを 押してやりたい」。できなかった親孝行を、と語る小野さんの髪は薄く、白いものが 目立った。1人の人間が失った時間。無罪を宣した東京高裁は、「自白偏重」、代用 監獄の問題点を改めて強く指摘したが、容易に変わらない日本の捜査の実態。小野さ んと同様に覚えのない犯行を「自白」させられる人が今後も出ないと言い切れるだろ うか。無罪判決で、事件報道のあり方も重い自省を迫られている。

 釈放後、小野悦男さんは東京高裁内の司法記者会で会見、「とてもいい裁判だった。 17年間、とても苦しい思いをしたので、無罪を聞いた時、とてもうれしかった。支 援の人や弁護士さんが一生懸命やってくれたおかげです」と話した。
 多くの報道陣にどきまぎしたような表情で、喜びを語る声も小さく、聞き取りにく い。長い拘置生活ですっかり青白くなった顔。
 「社会に出たら、まっさきに、病気で2年前から歩けなくなっているおふくろの車 いすを押してやりたい。そして自分も、弱ってしまった足腰を鍛え直し、一生懸命働 きたいと思います」
 判決が代用監獄での取り調べの違法性を厳しく指摘した点に質問が及ぶと、「警察 にいじめられて自白を取られたことを、裁判長にわかっていただけた。警察は二度と こうしたことをやらないで欲しい」と答えた。
 小野さんは16年半余の拘置生活について「やっぱり失ったものは多かった。だけ ど、一生懸命勉強したり、支援者の人とも知りあえたので得ることもあった」と述べ た。
 また、「連続女性殺人事件」の犯人のように報道したマスコミに対しては、「警察 のいうことを一方的に書かないで、よく確かめて真実を書いてほしい」と話した。
 小野さんは会見を終えて、弁護団や支援者約10人と一緒に東京地裁の玄関を出た。 待ち構えていた知人らに右手をあげて笑顔でこたえ、何度も頭を下げた。
 これに先立つ、東京高裁720号法廷。「殺人、死体遺棄については無罪」。竪山 真一裁判長が低い声で主文を読み上げた瞬間、傍聴席から拍手が起こった。「拍手は やめて下さい」と廷吏が制したが、傍聴席に入り切れなかった支援者から廊下でまた 拍手と歓声が起きた。
 判決言い渡し前、竪山裁判長が名前を尋ねた。「小野悦男です」。背筋と指をぴん と伸ばした小野さんが小さい声で答えた。白っぽい背広、サンダルばき。逮捕時に公 表された写真にはなかったしわが目立ち、髪にも白さが目立つ。
 「取り調べは強制的、脅迫的で、誘導もあった」。判決理由の朗読が進むにつれ、 小野さんは少しずつうつむき、ときおりハンカチで涙をぬぐった。
 判決言い渡し後、竪山裁判長は「逮捕されてから16年余りもこう留されていろい ろ苦労したと思う。一般社会に出ればとまどうこともあるだろうが、1日も早く慣れ て普通の生活をしてほしい」と言葉をかけた。小野さんは「ありがとうございます」 と小声で一言。傍聴席を振り向いて頭を下げると、最前列で聴き入っていた、島田事 件で再審無罪となった赤堀政夫さんが「小野、がんばれ」と叫んだ。

 ○代用監獄は早く廃止を 弁護団コメント
 弁護団は閉廷後、次のようなコメントを発表した。
 「無罪判決を契機に、マスコミ関係者には改めて犯罪報道のあり方を見直してもら いたい。この事件は代用監獄が虚偽自白を生む温床になっていることを明確に示した。 代用監獄はすみやかに廃止されなければならない。また、この日の判決まで16年も かかったことは刑事裁判のあり方に大きな問題を提起している」

 ○川口猛千葉県警捜査1課長の話
 判決文を読んでいないので詳しいコメントは差し控えたい。ただ、本件は物証に乏 しい難事件で、警察としても全力を挙げて捜査を行い被疑者を逮捕したものであり、 第1審においては有罪判決が下されていただけに、今回の判決については非常に残念 だ。
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◆000012 (T910424M02--01)

犯罪報道で一層自戒したい(論説)

91.04.24 朝刊 2頁 2総 写図無 (全1370字)
17年前の夏、首都圏で若い女性が乱暴され、殺される事件が相次いで発生し、連続 殺人事件だと騒がれたことがある。その犯人ではないかと疑われ、別件逮捕を重ねた 長期の取り調べのあと、千葉県松戸市で起きた1件について殺人罪などで起訴されて いた小野悦男被告に対し、東京高裁が逆転無罪の判決を言い渡した。
 被告と犯行を結びつける唯一の証拠は捜査段階の自白だったが、裁判長は「任意に されたものではない疑いがある」と証拠能力を否定したうえ「変転がはなはだしく、 捜査の進展に伴って誘導された結果とみるのが素直」などと信用性も否定した。
 自白に基づいて発見したとされた被害者の持ち物などについても「発見の経緯に理 解しがたい不明朗な事実が多すぎる」と疑問を投げかけ、当時の捜査を厳しく批判し ている。証拠上犯人と認められないというにとどまらず、捜査の違法を正面から指弾 した判決であり、千葉県警など当時の捜査関係者は深刻な反省を迫られよう。
 とりわけ注目すべきは、被告を長期にわたって寂しい新設の警察の留置場に留め、 捜査員を看守にして言動を記録していた点などをとらえ「代用監獄に身柄を拘束して 自白を強要した」と判断したことだ。
 警察の留置場を拘置所代わりにつかう代用監獄については、密室での取り調べを生 み、冤罪(えんざい)の温床になっているとしてしばしば問題になってきた。政府は その代用監獄を「認知」する拘禁2法案を今国会に再々提出しているが、改めて問題 点が鋭く突きつけられた形である。
 判決は特に触れていないが、今回の事件が投げかけたもう1つの問題は、犯罪報道 のありかたである。
 新聞を中心としたマスコミは、この事件の発生段階から「首都圏連続女性殺人事件」 と騒ぎ、捜査段階での報道はさらに過熱した。別件で逮捕された小野被告を当初から 犯人と決めつけるような記事が各紙にあふれた。虚実とりまぜたスクープ合戦がそれ に拍車をかけた。
 1つひとつの事件の十分な関連性もないのに、そのほとんどを小野被告の犯行とし て一覧表にした新聞もあったし、「殺人鬼」と書いたところもあった。私たち朝日新 聞についても少なからず誤報や行き過ぎた表現があった。小野被告の人権を侵害する 結果となったことを、率直に反省しなければならない。
 ちょっとした捜査情報に飛びついて、十分な裏付けや吟味なしに記事にする。それ がひとり歩きして、捜査側もさらに思い込みを強める。マスコミの相乗作用でそれが 増幅される――一連の記事を点検すると、こうした犯罪報道の悪い側面が集中的に表 れた事例でもあったようだ。
 思い込み捜査によるリストアップ。別件での逮捕。代用監獄。長期にわたる取り調 べ。自白の強要。今回の事件には、冤罪事件に共通する構造があった。途中で殺人容 疑の処分が保留されたり、何カ月も起訴できないなどは異常なことだ。記者たちが厳 しいチェックの目を向けていれば、捜査に疑問を抱き、警察側の姿勢をただす契機と もなっていたのではないだろうか。
 死刑囚再審を始めとする冤罪事件報道の経験を重ねる中で、朝日新聞社は人権の立 場から犯罪報道の問題点を見直し、様々な改善を進めてきた。
 しかし、報道が冤罪づくりに加担しかねない危うさはまだまだ私たちにつきまとっ ている。この事件を貴重な教訓として、一層自戒しなければならない。
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◆000013 (T910425M30--14)

「拘禁2法案阻止を」 東京で集会

91.04.25 朝刊 30頁 2社 写図無 (全222字)
政府が今国会に提出している代用監獄制度の存続を盛り込んだ「拘禁2法案」に反対 する集会が24日夜、東京・九段で開かれ、約500人が参加した。
 主催者を代表してあいさつに立った日本弁護士連合会の中坊公平会長は、「松戸O L殺人事件」の被告・小野悦男さんに逆転無罪を言い渡した23日の東京高裁判決に 触れ、「警察の留置場を拘置所代わりに使う代用監獄の中で、いかにして自白が強制 され、冤罪が生み出されていくのか、その恐ろしさを端的に示している」と語った。
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◆000014 (T910429M17--04)

再審請求へ壁、死刑囚の待遇(声)

91.04.29 朝刊 17頁 声 写図無 (全543字)
東京都 安倍治夫(弁護士 71歳)
 獄中で17年間も無実を叫んでいた小野悦男さんが、東京高裁の逆転無罪判決でや っと日の目を見た。マスコミの虚報、自白の強要、外界との隔絶という三重苦にもめ げず、冤罪を晴らした小野さんの忍耐と、自白偏重の弊風に鉄槌(てっつい)を下し た裁判所の明断に拍手を送りたい。
 その同じ監獄の中に、昭和41年、清水市の一家4人強殺事件で死刑が確定した袴 田巌さんのように、自白を強要されて25年間、むなしく無実を叫んでいる死刑囚も いる。面会に行って驚いたことに、弁護人に選任された私でさえも自由な接見は許さ れない。一般面会室で監視人つきで一問一答を書き取られ、30分で打ち切りとなっ た。弁護人の秘密交通権などカタなしである。
 差し入れになった免田栄さんの獄中日記や救ける会の機関紙などは、要点を墨で塗 りつぶされていたという。死刑確定囚は、もう被告人でないから、面会や差し入れは 一般既決囚なみにという理論だ。しかし、死刑囚も再審を請求するときは、弁護人を 立て準被告人の地位を得て国と対等に争えるはずだ。
 死刑囚は手足をもがれたカニのように、獄中でおとなしく死を待てというのなら、 憲法も法律もデュープロセス(適正手続き)もなく、徳川時代の牢獄(ろうごく)と 同じではないか。
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◆000015 (T910502M17--06)

犯罪報道への深い反省評価(声)

91.05.02 朝刊 17頁 声 写図無 (全585字)
ジャカルタ 浅野健一(通信社記者 42歳)
 千葉県松戸市のOL殺人事件の被告だった小野悦男さんが、東京高裁で無罪判決を 受けた判決要旨を読み、胸がすっとした。小野さんは国際電話で「いろいろつらかっ たけど、正しい判決が出てよかった」と私に話した。
 私は事件当時、通信社の千葉支局でこの事件を追った。代用監獄を悪用した捜査の 違法性は3年目の記者にも分かった。しかし、小野さんの言い分は全く聞けず、捜査 の問題点を書ける雰囲気ではなかった。別件の逮捕から半年後に初めて、小野さんの 無実の主張が弁護人らによって記者クラブに伝えられた。
 その反省から私は労組の研究誌に犯罪報道の変革を求めた論文を書いた。小野さん と面会、文通を重ねる一方、仲間の記者や救援会の人たちと一緒に「人権と報道・連 絡会」を作り、犯罪報道の在り方を考えた。
 朝日新聞は4月23日付夕刊で、当時の紙面の問題点を明らかにし、救援会がかつ て出した質問に対する自らの回答経過まで載せて、深い反省を示した。多くの新聞が 社説で犯罪報道の問題点を指摘した。画期的なことだと思う。
 新聞の犯罪報道は、ここ数年、いい方向に変わっている。中でも被疑者の呼び捨て 廃止に続く、朝日新聞による連行写真の原則不掲載(権力犯罪を除く)は一般事件の 匿名原則導入につながる改革と思う。小野さんの17年の苦労にこたえ犯罪報道の大 転換をめざしたい。
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◆000016 (T910504M17--03)

犯罪報道の反省を評価 奥平康弘(私の紙面批評)

91.05.04 朝刊 17頁 声 写図有 (全0字)
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◆000017 (T910507E19--05)

松戸OL殺人事件、検察側が上告断念 起訴後16年余、無罪確定

91.05.07 夕刊 19頁 1社 写図無 (全484字)
1974年に起きた「松戸OL殺人事件」で殺人罪などに問われた小野悦男さん(5 4)に無罪を言い渡した先月23日の東京高裁判決に対し、東京高検は上告期限の7 日、上告しないことを決めた。これで殺人罪での起訴から16年2カ月ぶりに、無罪 が確定する。
 同高検は上告断念の理由について、「自白調書の任意性まで否定されたまま確定さ せていいか、などの意見があり、慎重に検討を重ねたが、適法な上告理由を見いだせ なかった」としている。
 東京高裁の竪山真一裁判長は、唯一の直接証拠とされた捜査段階の自白調書につい て、「捜査当局は被告を代用監獄である警察の留置場に長期拘置して自白を強要して おり、任意性は認められない」として証拠能力を否定。そのうえで信用性も退け、無 期懲役とした1審判決を破棄して、無罪を言い渡した。

 小野悦男さんの弁護団の話 検察側が上告しなかったことは、極めて当然のことだ。 警察・検察の責任の所在を明らかにし、これを機会に代用監獄の廃止や自白偏重の裁 判の見直しの議論が高まることを望む。マスコミ関係者にも小野さんへの謝罪を行う など、名誉回復のための措置をとるよう求める。
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◆000018 (T910516M15--08)

小野さんにおわび、報道を反省(読者と新聞 編集局から)

91.05.16 朝刊 15頁 声 写図無 (全851字)
千葉県松戸市で1974年に起きたOL殺人事件で、殺人罪などで起訴された小野悦 男さん(54)の無罪が、検察の上告断念によりこのほど確定しました。朝日新聞社 では、東京高裁の逆転無罪判決を報じた4月24日付朝刊社会面で、小野さんをめぐ る報道について反省の意を表しましたが、事件当時の報道を振り返り、改めてここで 小野さんにおわびします。
 17年前のその夏、東京、千葉、埼玉で、若い女性が殺害される事件が相次ぎまし た。地域が限られ、犯行手口が似ていることなどから、同一犯ではないか、との疑い が強まりました。
 そうしたなかで同年9月、小野さんが盗みの疑いで千葉県警に逮捕されます。一連 の殺人事件との関連を追及するための、別件逮捕でした。さらに、婦女暴行の容疑で 再逮捕されます。松戸のOL殺害の容疑で起訴されたのは翌年3月、別件逮捕から半 年後という異例の捜査でした。
 この間、マスコミは「首都圏連続女性殺人事件」と名付け、小野さんに疑いをかけ た報道を重ねました。
 朝日新聞も、一連の事件と小野さんとの関連を指摘する記事を再々掲載しました。 74年11月15日付朝刊社会面では、小野さんが以前服役中に、「出所したら婦女 暴行をし、放火して証拠をなくする」と話していた、という記事を載せました。その 後、小野さんと同房だったと自称する男が、謝礼欲しさに警察に作り話をした、と分 かりましたが、この事実を伝え、訂正する記事は載せませんでした。
 代用監獄での長期間の拘置など、高裁判決でも指摘されたように、問題の多い捜査 でしたが、そうした点には触れずじまいでした。
 この事件などの反省から、朝日新聞社では事件報道の見直しを始め、記事の書き方 を改めたり、事件担当記者の研修会を開くなどして来ました。
 さらに、一昨年「事件報道小委員会」を設け、被疑者の呼び捨てを廃止し、被疑者 の連行写真の掲載も極力抑えるなどの改革をしました。引き続き、見出しの改革など にも取り組んでいます。
 この事件を教訓に、今後、より人権を尊重した報道に努めます。
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◆000019 (T910516E22--07)

松戸OL殺人で無罪の小野悦男さん、刑事補償請求の総額3650万円

91.05.16 夕刊 22頁 2社 写図無 (全185字)
1974年に起きた「松戸OL殺人事件」の被告とされ、先月23日に東京高裁刑事 12部から無罪判決を言い渡され確定した小野悦男さん(54)は16日午前、同部 に対し、総額約3650万円の刑事補償などを請求した。未決拘置期間6068日の うち別件で有罪となった6年を差し引いた3871日が対象になる、と主張。刑事補 償法が定める1日当たり最高額の9400円を支払うよう求めている。
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◆000020 (T910524M30--10)

小野悦男さんらが代用監獄を批判 自らの体験もとに 東京で集会

91.05.24 朝刊 30頁 2社 写図無 (全281字)
16年から35年余りの獄中生活の末、無罪判決を受けた3人の元被告が、23日午 後、東京都内の集会で「自白を強要し、冤罪の温床となっている代用監獄制度」を口 々に批判した。
 千葉県松戸市の女性殺人事件で逆転無罪となった小野悦男さん(54)、熊本の一 家4人殺傷事件で再審無罪となった免田栄さん(65)、静岡県島田市の幼女殺人事 件で同じく再審無罪の赤堀政夫さん(62)。日比谷公園で開かれた部落解放同盟な ど主催の「狭山事件」の再審要求集会に招かれた3人は、獄中体験を特別報告。
 小野さんは「看守と取調官が同じ人物で、食事を減らされたり、寝させてもらえな かった」と話した。
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◆000021 (T910525M17--03)

考えさせられる犯罪報道 阪本和子(私の紙面批評)

91.05.25 朝刊 17頁 声 写図有 (全0字)
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◆000022 (T910712MCB1-12)

代用監獄廃止を訴え市民集会 23日に県弁護士会 千葉

91.07.12 朝刊 千葉版 写図無 (全379字)
警察の留置場を代用監獄として認めている監獄法の強化につながるとして、刑事施設 法案、留置施設法案のいわゆる拘禁2法案に反対している県弁護士会は23日、千葉 市文化センターのホールで「日本にしかない代用監獄を廃止しよう―松戸OL殺人事 件から考える市民集会」を開く。
 集会では、松戸OL殺人事件の元被告で、今年4月に東京高裁で逆転無罪の判決を 受けた小野悦男さんが「私はこうして自白させられた」と題し、自らの体験を語る。 アムネスティ・インタナショナル日本支部長イーデス・ハンソンさんの講演もある。 県弁護士会は今年4月の同法案の通常国会提出直後に、抗議声明を発表している。  県弁護士会は今年4月の同法案の通常国会提出直後に、抗議声明を発表している。 拘禁2法案対策本部長の高橋勲弁護士は「小野さんの無罪判決を機会に、代用監獄の 問題点を改めて訴えていきたい」と話している。
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◆000023 (T910918MIG1-06)

犯罪報道の犯罪考える 元被告の小野悦男さん招き きょう水戸で

91.09.18 朝刊 茨城版 写図無 (全432字)
「犯罪報道の犯罪―『首都圏連続殺人事件』を考えるつどい」(人権と報道・水戸フ ォーラム主催、水戸弁護士会後援)が18日(水)午後6時から、水戸市の県労働福 祉会館で、元被告の小野悦男さんと、「小野悦男さん救援会」代表の山際永三さんを 招いて開かれる。
 小野さんは17年前の1974年9月12日、窃盗容疑で逮捕され、さらに婦女暴 行容疑で再逮捕、その後首都圏で連続して起きた女性殺人事件の1つで再々逮捕され、 殺人罪で起訴されたが、今年4月、東京高裁で逆転無罪をかちとった。
 小野さんは代用監獄では自白を強要され、一部マスコミには「殺人鬼」と書き立て られるなど、誤報や報道の行き過ぎの被害を受けている。判決後朝日新聞も「おわび」 を掲載した。
 主催者は「当日は小野さん、山際さんにマスコミの虚報、警察の見込み捜査、代用 監獄などの問題点について話してもらい、参加者と活発な意見を交換したい」と話し ている。問い合わせは茨城大学人文学部・飯塚研究室(0292―26―1621) まで。
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◆000024 (T911226M26--01)

雑煮 小野悦男さん 今年の5人:2(それから)

91.12.26 朝刊 26頁 2社 写図有 (全926字)
海風が冷たい。横浜港に近い神奈川県警本部の新築工事現場で、小野悦男はビルに張 るみかげ石を運ぶ。50キロの石板を1人で持つ。
 「(警察の仕事は)やりたくないのですが……」。奇妙な巡り合わせに苦笑する。  1974年、千葉県松戸市で起きたOL殺人事件にからんで逮捕された。1審は無 期懲役。今年4月、控訴審で殺人が無罪になり確定した。
 その瞬間、「わからなくなった」という。期待はしていたが、すぐにうれしさが襲 ってこない。判決理由をきいているうちに涙がにじんだ。
 社会に戻って8カ月がたつ。切符を持ったまま駅の自動改札機を抜けようとして、 機械にとおせんぼされた。居酒屋や競馬場に、女の子がいっぱいで驚いた。「カツど んやラーメンが高くなって」。17年間の移り変わりに驚くばかりだ。
 白米だけのご飯を体が受けつけず、3カ月間はわざわざ麦をまぜて食べた。弱った 足腰を鍛えようと石張り職人の助手になったが、ひざが痛み、ふくらはぎが2倍には れあがった。
 事件当時、首都圏で女性殺人が相次いでいた。逮捕後、他の事件も追及され、マス コミは「殺人鬼」「女の敵」と報道した。
 「うらんでも仕方がないでしょ。もうとりかえしはつかないし」。できるだけ振り 返らないようにしているのだという。
 今はとにかく、生活を安定させたい。6畳1間のアパートを東京都足立区に借りた。 励まし続けてくれた88歳の母と妹が近くの都営住宅に住む。1万1000円の日当 から6000円を貯金している。
 仕事の合間に月2回ほど、代用監獄や、人権と報道を問う集会に招かれて出かける。 新聞は出勤途中に買って読み、テレビのニュースもよく見る。どうしても事件に目が いく。よく確かめて報道しているのか気になる。
 「自由」の生活にだいぶなれた。それでも夜中にふっと目覚め、拘置所にいる錯覚 に襲われる。窓に鉄格子がない。それを確かめて、本当にほっとする。
 いやなことばかりの17年間で、得がたい財産を手にした。支援者という友人がで きたことだ。
 独房の新年。配られるもちは冷めて固い。昔から、雑煮を作るのが得意だった。こ の正月、自宅に「友人たち」を招き、雑煮で感謝をしようと思っている。
        (敬称略)
 (上治信悟)
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◆000025 (S920626E11--10)

事件報道(偏西風) 【西部】

92.06.26 夕刊 11頁 1社 写図無 (全605字)
 司法担当デスクになってまもなく1カ月になる。10年前に福岡で警察と裁判所を 回って以来、久しぶりに事件や犯罪と向き合うことになった。
 10年前のスクラップ帳を繰ってみた。「交通保険金詐欺で逮捕」という自分の書 いた記事はこうなっている。「福岡県警交通指導課と福岡東署は10日、相手の車に わざと自分の車を接触させ、保険金約8000万円をだまし取っていた○○を詐欺の 疑いで逮捕した」。当時はこれがごく一般的な書き方だった。
 今なら、まず氏名を呼び捨てにせず○○容疑者とする。「約8000万円をだまし 取っていた○○」と断定するのもよくない。あくまで容疑なのだから、「約8000 万円をだまし取っていたとして」とし、警察の見方であることを示す表現にすべきだ ろう。
 朝日新聞が刑事事件の被疑者を呼び捨てにするのをやめて2年半になる。  昨年、東京高裁は千葉県松戸市のOL殺人事件で起訴された小野悦男さんに無罪判 決を言い渡し、検察側の上告断念で、16年ぶりに無罪が確定した。
 事件当時、激しい報道合戦が繰り広げられた。首都圏で女性殺害事件が相次いでい たことから、小野さんを「連続女性殺人事件の犯人」と決めつけた記事が紙面にあふ れた。
 被疑者の呼び捨てをやめたのは、そうした事件報道のあり方に対する反省からだっ た。被疑者の人権に配慮しつつ、犯罪の背景や社会的影響については積極的に問題提 起できる事件報道を心がけたい。
 (池見哲司)
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◆000027 (T960427M35--02)

小野悦男容疑者を逮捕 幼稚園女児のわいせつ目的誘拐容疑などで

96.04.27 朝刊 35頁 1社 写図無 (全1105字)
 東京都内の幼稚園女児(五つ)をわいせつ目的で誘拐して殺そうとしたとして、警 視庁捜査一課などは二十六日、茨城県出身で、東京都に住む清掃作業員小野悦男容疑 者(五九)を殺人未遂とわいせつ目的誘拐などの疑いで逮捕した。同容疑者は容疑を 否認しているという。

 調べでは、小野容疑者は四月二十一日午後四時四十分ごろ、都内の公園で遊んでい た女児に「もっといい公園に連れて行ってあげるから自転車に乗りなさい」と声をか けて自転車に乗せ、別の公園まで連れて行き、女児の口をふさいだり、首を絞めるな どした疑い。
 女児は同日午後九時ごろ、公園近くの路上に倒れているところを通行人が見つけ、 救急車で近くの大学病院の救命救急センターに運ばれた。一時、失神して意識を失っ たほか、長時間、外にいたため体が冷え切っており、危険な状況だった。幼児は現在 も病院で酸素吸入を受けているが、意識は回復し生命に別条はないという。
 事件の発生の届けを受けた警視庁は、捜査一課を中心に聞き込み捜査などをした結 果、女児が連れ去られる時、いっしょに遊んでいた子供が、小野容疑者の顔を見てい たことや、同容疑者が女児を自転車に乗せて走っているところを、同容疑者の顔をよ く知る住民が見ていたことなどから、逮捕に踏み切った。
 同容疑者は調べに対し、「全然知らないことなので、何も言えません。逮捕される 理由はない」と話し、調書への署名、押印も拒否しているという。
 幼児が発見された公園は、現在、造成工事中で、大型重機が置かれていることから、 道路から死角になる場所もある。
  ◇
 小野悦男容疑者は一九七四年八月、千葉県松戸市で信用組合の女性職員(当時一九) が殺されていた事件で、同年九月、別件の窃盗容疑で逮捕され、翌年三月になって殺 人と死体遺棄罪などで起訴された。
 逮捕後はいったん自供をしたものの、起訴後は一貫して犯行を否認。八六年九月、 一審の千葉地裁松戸支部は無期懲役を言い渡した。しかし、二審の東京高裁は九一年 四月、唯一の直接証拠とされた自白調書の証拠能力を否定、一審判決を破棄し、窃盗 罪などは有罪としたものの、殺人、死体遺棄、強姦(ごうかん)罪には無罪を言い渡 した。検察側は上告せず、無罪が確定した。
 小野容疑者は、無罪判決で約十六年半ぶりに釈放された後、代用監獄制度と自白偏 重捜査を批判する集会にたびたび出席し、経験を語るなどしていた。
 事件発生時、首都圏ではほかに七人の女性が相次いで殺害された事件が発生。新聞 各紙は「容疑はきわめて高い」などと小野容疑者と関連づけた報道をした。無罪確定 後、各紙はおわび記事を掲載。事件報道の在り方を見直すきっかけの一つとなった。
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◆000028 (T960427M35--08)

小野悦男容疑者の遺留体液、DNA一致 足立の死体遺棄で警視庁調べ

96.04.27 朝刊 35頁 1社 写図無 (全686字)
 今年一月、東京都足立区内で首のない女性の焼死体が見つかった死体遺棄事件で、 遺留品についていた体液のDNA(デオキシリボ核酸)が、警視庁捜査一課などに逮 捕された小野悦男容疑者のDNAと一致したことが、捜査一課の調べてわかった。同 課はこの事件についても同容疑者とのかかわりを調べる。
 捜査一課によると、足立区東六月町の駐車場で一月九日、首を切断された女性の焼 死体が見つかった。現場から五十メートルほど離れた公園にふとんが残されており、 血液と体液が混じってついていた。調べたところ、血液は女性のDNAと一致、体液 は同容疑者のたんのDNAと一致した。
 捜査一課は、ふとんは女性の遺体を運ぶ際に使われたとみている。ふとんは、九二 年十月、警視庁が同容疑者の自宅を窃盗未遂事件で家宅捜索した際、室内にあったも のと同じ柄だった。
 遺体は、一月六日夜から七日未明にかけて焼かれたとみられ、現場には焼却に使っ たとみられる木片や、木片についていたとみられる曲がったくぎなどが残っていた。 遺体は焼かれた後、首だけがのこぎりのような物で切断されていた。女性は三十歳か ら五十五歳ぐらいとみられ、焼け跡から「トレーナーパジャマ」と呼ばれる中国製の 衣服の一部が見付かっている。

 <DNA鑑定法>
 遺伝子の本体であるDNA(デオキシリボ核酸)の構造が、個人によって異なるこ とから、血液、体液、髪の毛などを使って、個人を識別する方法。日本では一九九二 年ごろから、刑事裁判の証拠として採用されるようになったが、福岡高裁は昨年、大 分市で起きた女子短大生殺害事件で、DNA鑑定の信用性を否定する判断を示してい る。
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◆000029 (T960502E15--03)

裏庭から頭骨・ノコギリ 女児殺人未遂で逮捕の小野容疑者宅 東京

96.05.02 夕刊 15頁 1社 写図有 (全818字)
 東京都内の公園で幼稚園女児を誘い出し、首を絞めるなどしたとして、足立区一ツ 家二丁目、清掃作業員小野悦男容疑者(五九)を殺人未遂などの容疑で調べている警 視庁綾瀬署の特捜本部は二日午前、同容疑者の自宅裏の庭の土の中から、布に包まれ た頭がい骨とノコギリを発見した。特捜本部は、一月に同区内で女性の首無し焼死体 が見つかった事件についても同容疑者との関連を調べるため、死体遺棄容疑であらた に捜索令状をとり、同日朝から土を掘り返すなどしていた。
 首無し焼死体の事件では、現場近くで発見された布団に、焼死体の女性の血液と小 野容疑者の体液が付着していたことが、DNA鑑定の結果で明らかになっている。特 捜本部は頭がい骨が焼死体のものかどうかなど詳しく調べる。
 調べでは、頭がい骨は小野容疑者が住む団地の一階の部屋のベランダ側にある庭の 深さ約三十センチの土中から、布に包まれた状態で見つかった。焼け焦げたようなに おいがして頭髪はなく、一見しただけでは性別もわからないという。近くには折りた たみ式のノコギリも埋めてあった。庭は同容疑者が、野菜などをつくるのに使ってい たという。
 特捜本部は、小野容疑者を女児に対する殺人未遂などの容疑で逮捕後、自宅室内を 同容疑で家宅捜索していた。同時に周囲を聞き込み捜査すると、同容疑者が庭を頻繁 に耕すなどしていたことが近所の住民の話などからわかった。警察犬を使って庭を調 べたところ、激しくほえるなど反応したため、二日朝から捜索を始めた。
 女性の焼死体は同区東六月町の駐車場で、今年一月九日に見つかった。首の切断面 などの状況から、遺体を焼却後、ノコギリのような刃物で首を切り落としたとみられ る。通行人の目撃証言などから、焼かれたのは一月六日夜から七日未明にかけてとさ れる。
 【写真説明】  布に包まれた頭がい骨などが発見された、小野容疑者自宅裏の捜索現場(シートの 下)=2日午前11時、東京都足立区一ツ家2丁目で、本社ヘリから
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◆000030 (T960508E01--02)

小野悦男容疑者、女児殺人未遂認める 上申書「騒がれ首絞めた」

96.05.08 夕刊 1頁 1総 写図無 (全1291字)
 東京都内の公園から、幼稚園女児(五つ)をわいせつ目的で誘拐して殺そうとした として殺人未遂などの疑いで逮捕された足立区の清掃作業員小野悦男容疑者(五九) が、容疑事実をほぼ認める上申書を警視庁綾瀬署特捜本部に提出していることが八日、 明らかになった。同容疑者は「女の子にいたずらした後、手で首を絞めた」などと接 見した弁護士に話しているという。こうした供述の一部は調書にもなっている。また 同容疑者は、今年一月に足立区内で首のない女性の焼死体が見つかった事件について も、関与を認める話をしているといい、弁護士側は近くこの事件についても、特捜本 部に上申書を提出させる方針だ。

 弁護士側によると、同容疑者は「幼い子供にいたずらしたことを反省してる」とし て、女児を誘いだしていたずらした後、首を絞めたことを認めた。ただ逮捕容疑の一 部については「いたずらしただけで乱暴はしていない」などと否認しているという。
 いたずらした時の状況について「騒がれたので首を絞め、口を押さえたら息が止ま ったようなので、あわてて胸を押すと息を吹き返した。女の子が発見されやすいよう に、人通りの多い所に移した。だれかが女の子を見つけたのを確認してから、現場を 離れた」などと話した。同容疑者は三日に、こうした容疑事実を認めた内容の上申書 を特捜本部に提出している。
 同容疑者は逮捕直後の調べに対して「全然知らないことなので、何も言えません。 逮捕される理由はありません」などと容疑を否認し、調書への署名、押印も拒否して いた。
 同容疑者は今月十七日まで、女児に対する殺人未遂などの容疑で拘置される。特捜 本部は別件の取り調べにならないよう、首なし焼死体の事件については取り調べてい ないが、同容疑者は接見の際に、弁護士側に関与を認める話をしているという。
 首なし焼死体事件について、同容疑者は「女性とは昨年九月ごろから同居していた が、今年一月五日にいざこざになり口論の末、頭を物で殴ったら血が出た」と話し、 その翌日、遺体を同区東六月町内の空き地に運んで焼却したことを認めている。遺体 といっしょに焼くのに使ったゴミ類は、リヤカーで運んだ、という。
 また「遺体を焼いたのは、骨を家族に届けるため」などとし、「全身を焼却するこ とができなかったため、頭の部分をのこぎりで切断した。頭は自宅裏の庭に埋めて腐 らせ、骨にして家族に届けるつもりだった」と話しているという。
 この女性は茨城県出身の四十一歳で車で家出をしており、足立区の公園で知り合っ たと、同容疑者は弁護士に説明しているという。
 特捜本部の調べで、首なし焼死体の現場近くで見つかった布団に血液と体液が混ざ った状態で付着、DNA鑑定の結果、血液は女性のものと、体液は同容疑者のものと それぞれ一致していることが明らかになっている。同容疑者は布団についても「自分 のものだ」と弁護士に話しているという。
 今月二日、同容疑者の自宅裏の庭から、布に包まれた頭がい骨とのこぎりが見つか っており、特捜本部は頭がい骨が焼死体のものかどうか調べるとともに、女性の身元 が供述通りかどうか、確認を急いでいる。
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◆000031 (T960509M31--02)

贖罪したい 弁護士、小野容疑者の心情を公表 女児殺人未遂事件など

96.05.09 朝刊 31頁 1社 写図有 (全1200字)
 女児殺人未遂などで逮捕された小野悦男容疑者(五九)の弁護人の野崎研二弁護士 は八日夜、東京・霞が関の東京地裁内の記者クラブで会見し、小野容疑者が容疑を大 筋で認めるに至った心情などについて記したコメントを発表した。小野容疑者は、 「事実をすべて供述し、厳罰を受けて贖罪(しょくざい)するしかない」などと同弁 護士に話しているという。弁護人が起訴前に被疑者との接見や供述内容を会見で明か すのは異例のことで、約一時間の会見の間、野崎弁護士の表情には、会見にいたるま での苦悩と葛藤(かっとう)がにじんでいた。

 冒頭、野崎弁護士は「事件の重大性と小野容疑者のこれまでの経緯を考え、供述の 状況を起訴前でもある程度、お話ししなければならないと思った」として、同容疑者 と話し合って了解を得たうえで、記者会見したことを明らかにした。逮捕後、早い段 階で接見した野崎弁護士に事実を話しており、いつ公にするかで迷っていたという。
 幼女の事件については「幼児の無警戒心につけこみ、人権、人格をふみにじった凶 悪非道なもので、鬼畜にも劣る行為。被害者と家族に回復不能な苦痛と苦悩を与えた ことは小野容疑者も深く悟っていることだ」とコメントの中でふれた。
 遺体を焼却したり、首を切ったりした事件についても、「今後、積極的に事実を認 め、せめてもの償いをしたい」としているという。
 「なぜ逮捕直後、否認していたのに、認めようという気持ちになったのか」という 問いに、野崎弁護士は「逃れたいという自己保身の気持ちがなかったとは言えない。 以前、無罪になった時から自分を支援してきた人たちに対する気兼ねもあった」と小 野容疑者の気持ちを紹介した。
 一九九一年四月に小野容疑者が無罪になった「松戸OL事件」について、同弁護士 は「一事不再理の原則からすれば問題にならないが、首なし焼死体事件と同種の事件 である以上、質問せざるをえないと思い、尋ねた」という。これに対し小野容疑者は 「本当に犯人ではない。無実だ」と答えたという。
 この事件について同弁護士は、刑事訴訟法における適正手続きや自白調書の証拠能 力について正しい方向付けをしただけでなく犯罪報道にも一石を投じたとしたうえで、 「その当事者が極悪犯罪を犯したとすれば、悪影響と関係者の迷惑ははかり知れず、 弁護人だった私としても残念でたまりません」とコメントの中で述べている。
 野崎弁護士は接見の中で、「今回の事件をきっかけに以前、無罪になった事件につ いて人が推測したり批判したりするのを抑えることはできない。世間でとやかく言わ れてもしかたない」という趣旨の話を小野容疑者と二人でしたという。一方で、「無 罪になった事件の根本的な意義まで否定するような論議や結論づけはご遠慮いただき たい」とした。
 【写真説明】  小野悦男容疑者の上申書提出について記者会見する野崎研二弁護士=8日午後7時 30分、司法記者クラブで
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◆000032 (T960509M31--05)

首なし事件も認め、上申書を提出 女児殺人未遂事件の小野悦男容疑者

96.05.09 朝刊 31頁 1社 写図無 (全153字)
 東京都内の公園から、幼稚園女児(五つ)をわいせつ目的で誘拐して殺そうとした として、殺人未遂などの疑いで逮捕された足立区の清掃作業員小野悦男容疑者(五九) が、今年一月に足立区内で首のない女性の焼死体が見つかった事件についても殺害を 認め、警視庁綾瀬署特捜本部に上申書を提出していたことが八日、明らかになった。
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◆000033 (T960511M31--03)

東京・足立の首なし死体は茨城出身の41歳女性 DNA型鑑定で確認

96.05.11 朝刊 31頁 1社 写図無 (全392字)
 東京都足立区東六月町の駐車場で今年一月に見つかった首無しの焼死体は、茨城県 行方郡出身の女性(四一)であることが十日、この女性の母親や親族の血液をもとに したDNA型鑑定で確認された。警視庁綾瀬署特捜本部の調べで、近くに落ちていた 布団から女性の血液と、女児に対する殺人未遂などの容疑で逮捕された小野悦男容疑 者(五九)の体液が付着していたことがわかっており、事件に巻き込まれた経緯を調 べている。
 この女性は行方郡内の中学校を卒業した後、神奈川県内の企業に就職した。一九九 一年三月から九三年十二月まで、足立区の現場近くのアパートに住み、いったん故郷 に帰ったあと、再び上京していたらしい。
 焼死体は今年一月九日に見つかった。首の切断面などの状況から、遺体を焼いた後、 ノコギリのような刃物で切り落とされたと見られる。通行人の目撃証言などから、焼 かれたのは一月六日夜から七日未明にかけてとされる。
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◆000034 (T960518M35--07)

小野悦男容疑者を東京地裁に起訴 女児誘拐・殺人未遂など4つの罪

96.05.18 朝刊 35頁 1社 写図無 (全576字)
 東京地検は十七日、東京都内の公園から幼稚園女児(五つ)をわいせつ目的で誘拐 して殺そうとしたとして、東京都足立区の清掃作業員小野悦男容疑者(五九)をわい せつ目的誘拐、殺人未遂など四つの罪で東京地裁に起訴した。
 起訴状によると、小野容疑者は四月二十一日午後四時四十分ごろ、都内の公園で遊 んでいた女児に「別の公園さ行こう」などと話しかけ、自分の自転車に乗せて近くの 別の公園にわいせつ目的で連れ出した。同容疑者はその後、女児をさらに別の公園に 連れ出し、女児の首を絞めるなどしたうえで暴行しようとし、全治二十五日のけがを させた、とされる。
 小野容疑者はこの事件で四月二十六日に逮捕されたが、直後の調べに対しては「全 然知らないことなので、何も言えません。逮捕される理由はありません」などと容疑 を否認、調書への署名と押印も拒否していた。ところが、今月三日、一転して容疑事 実をほぼ認める上申書を警視庁綾瀬署特捜本部に提出。接見した弁護士に対しても 「騒がれたので首を絞め、口を押さえたら息が止まったようなので、あわてて胸を押 すと息を吹き返した。女の子が発見されやすいように、人通りの多い所に移した。だ れかが女の子を見つけたのを確認して現場を離れた」と話すなど、異例の経緯をたど った。地検によると、同容疑者はこれまでの調べに対しても、ほぼ同じ内容の供述を しているという。
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