坂本氏は、27年のキャリアを持つ、もと刑務官で、広島拘置所総務部長を最後に退職。現在は各地での講演活動、執筆活動を行いながら、死刑廃止や監獄の人権問題などに取り組む活動をしています。この本は、彼の3冊目の著作(1冊は共著)になりますが、小説という形をとって、昭和40年代はじめから平成3〜4年頃までの現代刑務所の文字通り、いままで誰にも書かれなかった側面を描いています。
もと受刑者が書いた本はたくさんありますが、もと刑務官の書いたものは少なく、また刑務所の軍隊的な抑圧が、囚人にだけでなく、刑務所の職員の中にまでどのようなゆがみをもたらしているのかを描いたものは、ほかに類例がないだろうと思います。
死刑執行をクライマックスにした物語の展開もテンポがよく、僕は一気に読んでしまいました。ドストエフスキーの「死の家の記録」でも、刑務所というのは、よくこれだけ多彩な人間やエピソードが生まれる場所だな、と感心しますが、この本でも死刑囚という極限状態で見せる人間のありさまや、語弊はありますが「面白い」エピソードも多く、テーマはシリアスでも、重苦しくない読み物になっています。ぜひ読んでみてください。
<今井恭平>