東京拘置所改築計画の問題
●改築計画の概要
入手した資料によれば、現在明らかになっている東京拘置所の改築計画は次のようなものである。
1 平成8年度から7年間で完成したい。
2 地上10階、地下1階で、中央に管理棟、左右(南北)に2棟の収容棟を作る。
3 収容人員は3000名(現在の人員2100名に都内23区の代用監獄の1日平均収容者数約1000名をプラスした数。従って犯罪傾向に変化がない限り、代用監獄廃止につながる。)
4 房舎は独居を70%に増やしたい。(現在60%)
5 予算 360億円、延8万平方メートル
6 塀(高さ約4.5m)は廃止し、建物の内側の窓側は巡視路とし、外から収容房の格子が見えないようにする。
7 接見室(現在12室)、取調室(現在18室)も増やす予定であるが、数や構造(一部は広い部屋通訳等を含め5〜6人部屋〕にするなど)は未定。
更に新聞報道(産経)では「被告らの護送用に、矯正施設としては全国初のヘリポートを屋上か敷地内に設置することも検討され、遠方からの収監、護送時間の短縮が期待できそう。警備にコンピューター制御のセキュリティーシステムを導入する計画で、慢性的な人手不足が少し緩和されるほか、防災面では、非常用水や食料の備蓄倉庫、自家発電機、雨水などによる浄化水設備も設置する予定」とされている。
この改築計画は被収容者には一切知らされていない。地域住民や弁護士会との協議の場は設けられるようだが、施設内で24時間を過ごす獄中者自身の声は初めから無視されている。高層ビル化に伴い外界との接触(景観や地面に触れる機会)が奪われ、拘禁感が強化されるのではないか? 警備システムの変更は管理の強化をもたらさないか?居房環境は改善されるのか? 懸念されることは多い。私たちは東京拘置所の在監者数名と、参考のためすでに高層化されている名古屋拘置所の在監の方々に情報を伝え意見を聞いてみた。
●名古屋拘置所在監者の意見から
Yさんは18年間にわたり名古屋拘置所(以下「名拘」)在監。旧名拘でも3〜4年過ごされた。旧名拘と比較して次のように報告してくれた。
「旧名拘と比べますと、まず、何と言っても、施設(舎房)の中が清潔で明るくなったことです。房内は旧施設よりも窓が大きくなったこと、房の扉にも縦50センチ余、横25センチ位の窓が付き、更に食器等を出し入れする箇所、これは食器口と呼ばれていますが、この位置も高くなり、その上にも扉の窓と同じ位の窓が付き、通路側との視界が良くなり、旧施設と比べると、閉塞感が改善されて、この面で前より開放感のようなものがあり、ずいぶん精神的な圧迫感が軽減されたと思います。それから食器口の下の部分が通気口となっており夏季は食器口が通気口として10センチ位開放されますので風通しが良くなり、旧施設と比べるとこの点でもうんと楽になりました。とにかく旧施設は夏は全然風が入らなくサウナの中にいるようでしたから。/欠点について言いますと、名古屋拘置所は建物自体、南北に細長く建てられているために、各階の房は通路をはさんで東側と西側にあります。(通路の真ん中は衝立で仕切ってあります)そのため、夏場になりますと、東側の方の房は、朝早くから房内に日が差し込むこと、(寝ている顔のあたりまで)西側の房は、午後になると西日が入って、それぞれその時間帯すごく暑いこと、それから、高層のため冬になると冷たい季節風が建物に真正面に当たるため、西側の房は窓等から隙間風が入り込み、すごく冷えること、運動場も屋上のため、真夏は太陽が真上から照りつけますので、運動場のコンクリートの床が焼け付いて熱いこと、その反面冬場は運動場に日が当たらないこと。(これは設計に問題があります)それから、名拘は都心のため夏季及び暖かい期間は窓を開け放しにしていますが、車の騒音がもろに入って来ますので、騒音に悩まされます。なお、名古屋拘置所には、いつでも冷暖房が出来るよう、各房に冷暖房設備がありますが、予算の問題なのか、他の施設との兼ね合いの問題なのか理由はわかりませんが、これらの設備はまだ一度も使われていません」
名拘の他の方たちからも様々な意見を寄せてもらっている。一人一人環境や処遇の態様に差があるので一般化することは控えるが、例えば、絶対譲れない点として「廊下側の窓は中から自分達で自由に開閉出来るものを設けてもらうべきです」(Mさん)という声がある。「ある程度以上の階になると目隠しフェンスの隙間から外(シャバ)の景色を見ることが出来るのですがとてもいい気分転換になっている」(Kさん)という声がある。逆に「それは本当に僅かなスキ間。見えない人は、変わらないビルの壁とか民家の屋根をスキ間から見るしかない。だから眼は悪くなる一方」(Uさん)という声がある。Yさんの報告と照らしてみたとき、数センチの隙間の有無が在監者の生活に与える身体的、精神的影響の大きさを改めて思わざるを得ない。
●東京拘置所在監者の意見を踏まえて
東京拘置所(以下「東拘」)の在監者からは、当然のこととして、広い窓や、土と触れる運動場の確保が要求されているほかに、房内の整理棚を増やしてほしい、照明を明るくしてほしい、流しを広くしてほしい、といった声が寄せられている。つまり、現在、不自由・不便を感じているということだ。
名拘の場合、僅かな隙間から外界が見えることが慰めになっていた。東拘の改築計画では「窓側は巡視路」となっている。外から中を見せない、ということはつまり中から外は一切見せないという設計ではないか。名拘が建て替えられて14年にもなるという。そのかん一度も被収容者のために使われることのなかった冷暖房施設とはなんなのか? 冷暖房のために密閉度が増し、それが実は一度も使われていないなんて在監者にとって踏んだり蹴ったり以外の何者でもない。
私たちは現在ごく一部の在監者に問い合わせているだけであるが、拘置所側で本格的に在監者の希望を募れば、山ほどの要求が噴出することと思う。「高層化で24時間を文字通り、風景も季節もないコンクリートの箱の中にならないように最大限の配慮がなされなければならないと思うが、現実的には難しいので高層化には反対した方がいい」という端的な意見も受けている。白紙撤回を求めるのはそれこそ「現実的には難しい」かもしれないが、CPRとしては少しでも多くの被収容者の意向が反映されるよう働きかけていきたいと考えている。この記事ではじめて知った獄中者も多いだろう。ぜひ意見をCPRに寄せて頂きたい。