無期懲役懲役囚の仮出獄を検察が制限

監獄人権センター事務局
 
 最高検が1998年(平成10年)6月18日に「特に犯情悪質等の無期懲役刑確定者に対する刑の執行指揮及びそれらの者の仮出獄に対する検察官の意見をより適正にする方策について」と題する依命通達を出していたことが、今年1月8日の朝日新聞夕刊により明らかになりました。
 通達の中で最高検次長検事は、検事長に対し、無期懲役刑が確定した事件のうち、「動機や結果が死刑事件に準ずるくらい悪質」などの「マル特無期事件」について、刑務所長・地方更生保護委員会からの意見照会に対し、仮出獄不許可の意見を作成し、事実上の「終身刑」とするよう求めています。記事によれば、「『マル特』に指定されるのは、動機・結果の悪質性のほか『前科・前歴、動機などから、同様の重大事件を再び起こす可能性が特に高い』などと判断した事件。すでに指定されている服役囚もおり、一連のオウム真理教事件の被告も指定候補になっている。具体的には、地検や高検は最高検と協議。指定事件に決まると判決確定直後にまず、刑務所側に『安易に仮釈放を認めるべきではなく、仮釈放申請時は特に慎重に検討してほしい』『(将来)申請する際は、事前に必ず検察官の意見を求めてほしい』と文書で伝え、関連資料を保管する。その後、刑務所や同委員会から仮釈放について意見照会があった際に、こうした経緯や保管資料などを踏まえて地検が意見書を作成する」、ということです。
 これは、検察庁が裁判所の判決を無視して、一片の通達により新たな刑罰(「終身刑」)を創設するもので、罪刑法定主義という刑事司法システムの大原則を踏みにじるものであり、許されるものではありません。
 私たち監獄人権センターはこの問題を引き続き監視していきます。(以下は原文)

取 扱 注 意  
最高検検第887号 
平成10年6月18日

検事長殿
検事正殿

次長検事 堀口勝正

 特に犯情悪質等の無期懲役刑確定者に対する刑の執行指揮及びそれらの者の仮出獄に対する検察官の意見をより適正にする方策について(依命通達)

 凶悪重大事件に対し,刑の執行をも含めて適切に対処することは,法秩序維持の観点から極めて重要であることは言うを待たない。
 ところで,凶悪重大事件を犯して無期懲役刑に処せられた者の仮出獄の運用状況を見ると,昭和40年代及び同50年代においては,その大半が行刑施設内受刑期間18年以内で仮出獄されていたところ,近時,同期間が長期化しつつあるものの,依然として,有期懲役刑の最長期である20年を下回る者が相当数を占めており,また,仮出獄中に再び重大事件を犯す等の事例も散見されるなどの実情が認められ,かような行刑実情に対する国民の関心も高くなりつつあるように思われる。
 もとより,同じ無期懲役刑の判決を受けた者でも個々の事件ごとにその犯情には大きな違いがあり,比較的早期に仮出獄が許されてしかるべき者がいる反面,終身又はそれに近い期間の服役が相当と認められる者もいると考えられ,犯情に即した適正な刑の執行が行われるべきである。そして,そのためには,検察官としても,無期懲役刑受刑者の中でも,特に犯情等が悪質な者については,従来の慣行等にとらわれることなく,相当長期間にわたり服役させることに意を用いた権限行使等をすべきであるので,これらの者に対する刑の執行指揮をより適正に行い,また,仮出獄審査に関する刑務所長・地方更生保護委員会からの意見の照会(以下,「求意見」という。)に対する意見は,より適切で,説得力のあるものとする必要がある。
 このような観点から,今後,下記1記載の対象者に対して刑の執行を指揮し,求意見に対する意見を作成するに当たっては,下記のとおり行うこととしたので,その運用に遺憾のないようにされたい。
 なお,刑の執行は,観念的には,判決の確定と同時に開始されるものであることから,その執行指揮は,確定後,可及的速やかに行われなければならないこと,また,求意見に対する意見の作成は,判決後相当期間経過の後になされるため,担当検事がその時点で問題意識を持ち,しかも関係資料を容易に参照してこれに臨み得るように配意しておく必要があるので,各庁においては,本通達に基づく事務処理方法及び記録の保管等について,特段の配慮・工夫を顔いたい。

(以下不開示)