過剰拘禁問題について

(1)過剰拘禁問題の現状
 2001年8月末現在、全国189の刑務所と拘置所(支所を含む)に収容されている人は約6万4,800人。定員約6万4,400人に対する収容率は100.6%となった。深刻なのが女子刑務所で、全国6施設の収容率は120%を超えた。初犯の受刑者が入所するA級刑務所も平均113%と高い割合になっている。刑務官などの職員定数はほぼ横ばい状態。現場の刑務官の負担は確実に大きくなっているという。
 収容者の自殺も増加傾向にあり、98〜2000年には毎年約10人が自殺。未遂は年間100件以上で、警備上大きな課題になっている。
 最近10年間の年間収容率(年末における収容定員に対する収容人員の比率)は、1993年(平成5年)以降は一貫して増加し、去年(2000年)は定員64,194人に対し収容人員61,242人ととなり収容率は95.4%に達していた。また、実刑が確定し、新たに刑務所に入る新入受刑者数も92年以降徐々に増加し、2000年は約2万7,500人に増えた。受刑者は35年ぶりに定員を超え、1999年までは年間5%以下だった受刑者の増加率も2000年は10%と急増した。

(2)背景・原因
 過剰拘禁問題の背景について、法務省幹部は「凶悪犯罪の増加、薬物犯罪の重罰化に加え、被害者に配慮して、判決の量刑が重くなったことも影響しているのではないか」と分析。また、2000年平均では4.7%と過去最高水準となった失業率と、増加する新入受刑者数の関係についても、「失業者が単純に犯罪に走るわけではなく、受刑者数が景気動向と連動しているだけだが、初犯受刑者や女性が多いことから、犯罪に手を染めなかった層が景気後退や失業に苦しみ、受刑者になったとも考えられる。厳密な解析は難しいし、あくまで指針の一つだ。」とする。
 無期懲役囚の仮釈放も難しくなってきている。無期懲役が確定し、2000年仮釈放となった受刑者の平均服役期間は21年2ヶ月だった。2000年までの10年間で、無期懲役受刑者は増加する一方、仮釈放までの期間も平均で3年余り長期化しているという。これはあくまでも「無期懲役で仮釈放された人の平均服役期間」で、残りの「無期懲役で仮釈放されない受刑者」の服役期間を算入すればより長期にわたるはずで、単純に「無期懲役刑はXX年で仮釈放される」というわけではない。法務省矯正局は「凶悪事件の増加と被害者保護を底流とした厳罰化の傾向」と説明。同省保護局も「被害者の声は『社会の感情』の一つとして反映される。以前より被害者に目配りされていることは確かだろう」と認める。

(3)法務省の対応
 矯正局では、栃木刑務所、千葉刑務所、大阪刑務所等について新たに収容棟を増築するとともに、一部の刑務所では定員6人の10畳前後の雑居房に7〜8人を、3畳ほどの独居房に二段ベッドを搬入して2人収容したり、教室や集会室を一時的に舎房に改修し、空き地に舎房を増築するなどの応急措置を取ってきた。また、刑が確定した後も受刑者を一時的に拘置所に留め置く例も報告されている。
 法務省では来年度以降、行刑施設での自殺や逃亡を防ぐため、独居房の窓部分に赤外線センサーをつけることを決めた。来年度にまず、規模の大きい拘置所、拘置支所6カ所で実施し、効果を見ながら範囲を拡大するという。
 法務省によると、行刑施設内の自殺は首をつるケースがほとんどで、刑務官が巡回する合間に、シーツなどを窓の外の鉄格子に結びつける方法が多い。そこで、一定時間を超えて窓のそばにいるとセンサーが感知し、警報やランプなどで刑務官に知らせるしくみをとることにした。法務省が拘置所などに動体センサー導入を決めた背景には、収容者数の急激な増加という事情がある。
 法務省は、2001年度補正予算として、刑務所と少年院58施設での収容能力を約2,000人分増やす施設増築費用、刑務官や少年院教官ら260人(今年実績124人)の増員費用、被収容者の食糧・被服等の基本的生活関連経費、2005年に建て替え工事が完了予定の東京拘置所の整備の前倒し等で、計百数十億円を財務省に要望。法務省は、今回の補正予算が認められれば、約4.1%収容定員が増えるとみている。

(4)コメント
 第一に、法務省の言うとおり被収容者増加の原因が「凶悪犯罪・薬物犯罪・厳罰化」であるなら、主に検察庁内部で従来の事件処理の方針に何らかの重大な方針転換があったはずである。法務省はこうした内部の資料、過剰収容の原因についての検討結果等を公開し、きちんと説明すべきである。
 第二に、収容定員の増加(2000名程度)では、実際の増加分(5000名)の一部にすぎず、より抜本的に被拘禁者数を減らす対策が必要だ。つまり、(人権問題として、だけでなく)犯罪対策としても、刑罰として、即、拘禁する、ということで良いのかどうか、再検討すべき時に来ている。
 残念ながら、現状では法務省の社会復帰処遇が成功しているとは言い難い。例えば、出所年から6年間に限っても再入率(再犯率)は微増傾向にあり、1995年(平成7年)に出所した受刑者21,371人のうち、2000年(平成12年)末までに再び服役することとなった者は、10,500人、全体の49.1%にものぼる。また、法務省法務総合研究所が1999年〜2000年に、全国41カ所の刑務所でアンケートを実施し、751人から回答を得てまとめた報告書によれば、「離脱教育」にもかかわらず、刑務所に入所している暴力団組員の46%が「出所したら組に戻るか」という質問には「戻りたい」と回答。報告書は「社会復帰には元組員を支える社会環境の整備が大切だ」と指摘しているという。こうした現状をふまえ、在宅起訴や保釈を活用して未決段階での拘禁を減らす、社会奉仕命令や中間的処遇(外部通勤など)の導入により非拘禁化をはかる、刑確定者との外部交通を親族・弁護士以外にも広く認め、社会復帰に役立つよう刑務作業の内容と賞与金の額を見直す、NGOなども含む外部の専門家による社会復帰プログラム(リストラティブ・ジャスティスなど)を積極的に導入する、などが求められている。
 第三に、職員の過酷な労働条件を考慮すれば、一定数の職員の増員はもちろん必要だが、現状では刑務官は不必要な様々な服務(例えば、手紙・書籍の検閲、接見への立会い等)に従事している。これらを合理的な内容に見直すだけでかなりの人員を他のより建設的な業務へ振り替えられるはずである。いったん増やした施設や職員(公務員)は簡単には減らせない。長期的に見れば、むしろ「収容定員があるから収容する」というような事態が生じる危険性もあるのではないか。
 日本の刑事政策は、アメリカ合衆国に見られるような際限のない収容定員の増加(施設・職員の増加)に突き進むのか、USA以外に見られるような「非拘禁化(拘禁の代替策)」を主な内容とする刑罰内容自体の改革に進むのか、という大きな転換点にあると言える。CPRとしては建設的な刑罰改革を求めて法務省に働きかけを続けていきたい。



外国人被収容者は1999年末に比べ、332人しか増加していない。

平成12年における新受刑者の人員は前年に比べ3,002人(12.3%)増加して27,498人となっており、男性が26,030人(94.7%)、女性が1,468人(5.3%)である。

5,000人の増加分のうち1,400人は薬物
初入受刑者が2,258人増加
薬物半は確かに増えているかも新入のうち覚醒剤取締法1,375人増加(12年6,000人、13年7,375人)

11年と12年
殺人 528人 558人 差は30人
強盗 490人 543人 差は53人
強盗致死傷 474人 607人 差は133人
強盗強姦同致死 43人 66人 差は23人
強姦・同致死傷 494人 502人 差は8人
放火 282人 307人 差は25人
「凶悪犯」とされる殺人、強盗、強盗致死傷、強姦・同致死傷、強盗強姦同致死、放火を罪名とする新受刑者の増加人員を合計しても272名にしかならない。