被収容者の「自殺」をめぐって
5月26日CPRセミナーへ参加を!

監獄人権センター事務局


あいつぐ自殺

(1) 今年(2001年)2月23日に福岡拘置所で死刑判決を受け控訴中だった被収容者が急性薬物中毒で自殺した。本人からの不眠の訴えに与えていた睡眠薬を溜めておいて大量服薬したとされる。「夜勤の職員が就寝直前に薬を渡し、口に含んだことを確認、さらに飲みこませた後にも舌を上げて確認していたという。/同拘置所ではN被告が長期間にわたって、錠剤の一部を飲み込んだ後、吐き出してため込み、22日から23日にかけて大量に飲んで自殺したとみている。…同日夜会見した同拘置所の広渡学総務部長は『薬剤の飲み込みと身体検査の確認が不十分だった』と管理ミスを認めた。また、佐々木英俊所長は『同種の事故が起きないよう、薬剤の管理体制を点検し、薬剤の投与方法も含め、必要な防止策を講じる』とのコメントを出した。」(毎日新聞)。

(2) 窃盗事件で3月9日に懲役2年の判決を受け、同13日から横浜刑務所相模原拘置支所に入所していた男性(27)が、3月17日午前10時20分ごろ、個室内の高さ約1メートル20センチのタオル掛けに私物のタオルを結び、首をかけて足を前に投げ出す形でぐったりしていた。職員が発見し、市内の病院に運んだが、3月21日に死亡した。4月13日に判明した。「江口秋一支所長は『1人の命が失われる結果となったことは残念だ。改善できることがあれば改善し、再発防止を期したい』と話している。」(毎日新聞)。

(3) 知人と口論となり刃物で切りつけたとして殺人未遂罪で起訴され、3月1日から大阪拘置所に勾留されていた男性被告(52)が、3月11日午前3時10分ごろ、独居室の高さ約60センチの洗面台の蛇口に自分のタオルをくくりつけて首をつってぐったりしているのを職員が発見、駆け付けた医師が心臓マッサージなどをしたが死亡した(共同通信は既に死亡していたと報道)。死因は窒息死。15分前に職員が見回った際には異常はなかったという。3月14日判明した。同拘置所によると、『大阪拘置所の北代哲也総務部長は「管理に不備はなかったが、このようなことが二度と起きないよう監視態勢を徹底したい」と話している。』(毎日新聞)。

自殺事故と当局の対応への疑問

 福岡拘置所の事故直後から、全国で、投薬の扱いが更に厳重になった。「東京拘置所ではこれまで飲み薬は看守が管理して『目の前で飲んでみせる』ということをやらせていました。が、今月(3月)になって『薬を水に溶かしてから飲め』と言い出しました。従来通りいきなり口に入れるのは『飲ませない』と投薬そのものを拒否しています…」(東京拘置所在監者からの手紙より)。
 相模原拘置支所は、最近新設された、房の窓が外に面しておらず、巡視路が房を囲む、きわめて密閉性の高い構造の施設である。新たに建て替えられる東京拘置所は、相模原拘置支所の房の構造をモデルにしている。こうした房の構造が被収容者の精神衛生に影響しなかっただろうか。このケースでは、自殺事故から1ヶ月近くなんの発表もなされなかったことも大きな問題である。大阪拘置所のケースでは事故発生後、3日後に発覚している。また、報道自体、被収容者発見時に死亡していたか否かといった重要な部分で齟齬がある。

管理強化を「対策」にしてはならない

 「自殺」「逃亡」「暴動」は拘禁施設においてあってはならないこととされている。それを未然に防ぐための様々な管理システムが、「日本的行刑」の実体的な内容なのだろう。私達には瑣末で無意味に思える様々な規制も、施設の当局者に言わせれば、そのひとつひとつに理由があるらしい。紹介すると誰もが笑う雑居房での「囲碁・将棋観戦禁止」の規制も、実際に観戦者が口をはさんで喧嘩になったことがあったのだろう。問題が起こるたびに規制の増改築を重ねた結果、今となっては理由も定かでないような奇妙な規則の体系が被拘禁者の生活を縛っている。そのうち、誰も理由を知らぬまま、「薬は水に溶かしてから飲むこと」という規制も一人歩きしていきそうだ。
 そんな管理強化を「対策」とされてはたまらない。拘禁施設の立場として「自殺」「逃亡」「暴動」はあってはならない、というのはわからないでもない。しかし、そもそも、あってはならない「犯罪」が起こされるからこそ、刑事施設が存在するのではないか。あってはならない、と言っても、避けようもなく生じる事態がある。すべての問題を内部的に管理・規制の強化で対応しようとするのは、被収容者の人権状況をより悪化させるだけではなく、ただでさえ過剰収容状態で疲弊している現場の刑務官の労働条件をさらに強化するだけのことではないか。

第三者機関による調査は不可欠

 東京三弁護士会によるヨーロッパの刑事施設の視察報告を聴く機会があった。開放刑務所では頻繁に逃亡事件が発生するそうだ。それでも、刑務所長は「全国的な平均に比べればまだここは少ない。逃亡者が年間40人以内であれば施設の責任は問われないし世論も騒がない」と平然としていたという。コスト・パフォーマンスというのだろうか、開放的な処遇を導入する限り、その程度の問題は起こるが、弊害よりも意義のほうが大きい、と割り切っているようだ。こうした「割り切り」を支えているものの一つが、事故が生じた場合に行われる、様々な第三者機関による施設への立ち入り調査であろう。大きなものではヨーロッパ拷問防止委員会(CPT)、小さいものでは国内の様々なNGOによって行われる調査が、真相究明に大きな役割を担っているという。
 数年前、イギリス視察から帰った海渡弁護士が見せてくれた現地のNGOのパンフレットで「インクエスト」というグループがあることを知った。「被拘禁者の死亡事件を調査する」という説明があって、そのときは、なんてマニアックなことをやっているんだろう、と思ったものだ。ヨーロッパの刑事施設の状況を聞いて、改めて、そういうNGOが必要な理由がわかったような気がした。「自殺」や「逃亡」は被収容者に一定の「人権」を認める限り起こってしまうだろう。その際、その「自殺」とされるものが、本当に自殺なのか、施設当局に問題はなかったのか、を第三者機関がチェックすることは非常に重要なことだ。以前イギリス・ブリクストン刑務所所長(当時)のアンドリュー・コイル氏は、「塀の中をできる限り市民に公開するのは、被収容者の人権状況を改善するためだけでなく、市民の疑念を晴らすことによって私たち刑務官が誇りを持って働けるようにするためでもあるのです」と言っていた。被収容者の人権を日常的に守ることと、第三者機関による調査の意義は、「被収容者の自殺」として突出するケースにおいて端的に結びつくのだ。

5月26日のセミナーにご参加を

 CPRセミナーでは、現在、龍谷大学の法学部教授で、今年までイギリス・ブリストル大学で客員教授をつとめた福島至さんをお招きして、「刑務所内での人権NGOの活動・イギリス」というテーマで、「インクエスト」を中心としたイギリスのNGOの活動を報告していただきます。来る5月26日(土)午後2時から(午後1時半からCPR総会)、東京の「早稲田奉仕園50人ホール」(電話03-3205-5411)です。ぜひ多くのみなさんのご参加をお願いします。
(文責:永井・末広)