日本政府、受刑者の人権状況報告書を提出
事務局 永井 迅
日本政府による「市民的及び政治的権利に関する国際規約第40条1(b)に基づく第4回報告」がまとめられた。「死刑制度・死刑囚処遇」や「代用監獄」の部分については別途諸団体からも問題点が指摘されることと思われるので、ここでは受刑者の処遇について取り上げる。第10条の「矯正施設における処遇状況」という項目である。
- 冒頭、「我が国の行刑は、受刑者の矯正及び社会復帰を目的としている」と明言し、再犯率の低下傾向をその成果として掲げている。しかし、出所後5年以内の再収用者の割合が45.3%、3年以内の場合で38.0%という数字がそんなに誇れるものとはいえないだろう。
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「刑務作業は一般の民間企業とほぼ同様の作業時間、作業環境、作業方法等で実施」されているのに、1ヶ月平均3,500円程度でしかない作業賞与金のことには触れていない。「作業時間中、雑談を禁止されるが、これも作業上の安全を確保するために必要な措置である」というが、視線をずらしただけで叱責される現状が「安全のために必要な措置」だとはとても思えない。民間企業でこんな作業環境では誰もいつかないだろう。報告では「刑務作業が過酷な条件のもとで行われているものではないことは、所定の作業に服する義務のない禁固刑を言い渡された受刑者の90%が自らの希望で懲役受刑者と同様の作業を行っていることからも明らかである」と言っているのだが、逆に、禁固刑でありながら90%もの人が他になんら収入を得る術がないなかで、又はあまりの無聊を慰めるために(作業をしなければ昼夜間独居ということになる!)事実上懲役囚たることを強いられているのではないか。
また、職業訓練も活発に行われているように描かれているが、「訓練適格者の減少に加え、施設間における種目や開設時期の重複などにより、いわゆる職業訓練生の取り合いが行われている」のが『矯正の現状』(法務省矯正局)も認める実態である。受刑者が希望して受けられるシステムにはなっていないのである。
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生活指導や教育的活動に関しての記述はいずれも抽象的である。例えば釈放前指導について「内容を一層充実させ、全国的に統一した基準で行うこととした」とあるが、その基準の内容は記されていない。満期の出獄者にはほとんどなんの指導も行われていないのが現状である。施設内で「中学校卒業程度認定試験を受けることもできる」とあるが実際に受けた人数等も不明である。
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衣食住の生活環境についても、なんの問題もないかのような簡略な報告になっている。しかし、私たちが最近聞いた話だけでも、「寝具がほとんど取り替えられることがなく不快だった」という出獄者がいたし、「カロリー制限のためとはいうけれど食事の量が減っておなかがすいてたまらない」という未決の人からの声もある。「炊場の出身者数人が、キャベツの芯や白菜の芯、魚の骨までカロリー計算に含まれていると言っていました」という情報もあるのだ。
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保健衛生・医療の問題については、まず、「詐病」が疑われるために、病状を伝えるのもままならない実態を抜きにしては語れないことだ。さらに外部の病院への移送を希望してもまず認められることはなく、歯科などで自費治療を行う場合も健康保険が使えないこと、医療刑務所のほうが環境・処遇とも劣悪な場合があることなど、問題は多い。
国連最低基準規則が「毎日少なくとも1時間」と求めている運動について明らかに違反する実態がありながら「入浴日以外には最大限の保障がされている」と言いつくろっている。
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規律・秩序の項目では、身体検査(「多くの場合、下着を着けさせたまま視認する」と、裸体検診はしていないように書いてある。府中刑務所を出てきたばかりの人にたずねたら「もちろん全裸ですよ。どこのことを言ってるんでしょうかねえ」と不思議がっていた)と昼夜間独居拘禁(協調性のない受刑者が他の受刑者から危害を受けるのを防止するためなどと述べている)の2項目が記されているだけで、皮手錠まで使った懲罰の実態、軍隊式行進などに見られる過剰な規律の強制等は不問にされている。
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国際的に非難の声が高い「代用監獄」の項目では細かく記されている、居室内での動作、面会・文通、新聞・図書の閲読、自費購入品目等についても刑務所・拘置所についての場合では報告されていない。
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こんな話を聞いた。中庭の花壇に四季折々の草花が植えられていた。しかし、行進の途中に眺めようものならたちまち脇見で懲罰の対象になる。「そんなことなら植えなくてもいいじゃないか」と言ったら看守いわく「これは、刑務所参観者のためのものだ」と。政府報告はまさに「参観者のための花壇」にのみ眼を向けさせようとする姿勢に貫かれているといえよう。