受刑者処遇法施行規則の概要と問題点

海渡 雄一(監獄人権センター事務局長)

はじめに
 5月24日から受刑者処遇法が施行された。5月23日付の官報で受刑者処遇法施行規則(法務省令)ほかの細則が公表された。取り急ぎ、十分な検討はできていないが、規則の概要と問題点を速報することとする。
 累進処遇制度が廃止されることは確定していたが、その後の処遇体制は、法律上は優遇制度を設けることだけが示されていて、どのような処遇の変化があるのかは施行規則を見なければわからず、どのような制度が作られるか注目されてきた。  入所時検査に指静脈のデジタル画像採取が新設された。国民全体の指静脈採取の突破口となる危惧を感ずる(10条)。

  個別的処遇
 今後の処遇の特徴は個別処遇である。個人別に作られる処遇計画と言うべき「処遇要領」は「開始時指導」終了までに定めることとされた(35条)。この要領は「矯正処遇の進展状況その他の事情を考慮して必要があると認めるとき」には変更される(35条)。「開始時指導」「釈放前指導」の期間は原則として2週間(36,37条)とされた。

警備度による制限区分
 「受刑者の生活及び行動に対する制限」に関する1〜4種の「制限区分」を設けることとされた(40条)。この制限区分は開始時指導の終了時に決定することとされている。「受刑者の処遇は、その者の資質及び環境に応じ、その自覚に訴え、改善更生の意欲の喚起及び社会生活に適応する能力の育成を図ることを旨として行うものとする。」(受刑者処遇法14条)とされるが、この目的を達成する見込みを評価して区分することとされている。そして、この区分は見込みの評価によって適当であると認めたときは定期的に、又は随時変更できることとされている。
 このように、これからの処遇の基本は要警備度による第1種〜第4種の「制限区分」が基本となる。これは、ヨーロッパ各国における警備度による分類に基本的に転換することを意味している。これまでのような再犯の可能性と刑期の長短による刑務所の種別分けという処遇の基本体制まで変わるのかどうかは、判然としないが、いずれにしても大変化であることは間違いない。
 制限区分による処遇の違いは、居室の開放度と行動の自由度にある(41条)。
  • 第1種は「収容を確保するため通常必要とされる設備又は措置の全部又は一部を設けず、又は講じない室を指定する」
  • 第2種と第3種は、適当と認めるときに限り、第1種と同様の居室を指定できる。
  • 第1種と第2種の処遇場所は主として居室棟外で行い、施設外で行うこともできる。
  • 第3種の処遇場所は主として居室棟外。
  • 第4種の処遇場所は、特に必要がある場合以外は居室棟内。
 開放的施設での処遇は第1種のみとされた(42条)。
 この制限区分の内、原則は3種であり、4種は昼夜間独居区分に対応するものと思われる。1種は開放施設である。問題は2種であり、2種に指定されれれば、外部通勤や電話通信などの対象となりうる。2種の指定を積極的に行えば、行刑の現実はかなり変貌を遂げることとなるだろう。

半年ごとの受刑態度評価による優遇区分
 この「制限区分」とは別個に反則行為の有無による第1類〜第5類の「優遇区分」の二本立ての処遇体制となった。すなわち、6か月以上刑の執行を受けた受刑者について受刑態度の評価を基準に1〜5類の「優遇区分」を設けることとされた(45条)。
  • 1年を4〜9月と10月〜3月に分けて「評価期間」とし、この期間における受刑態度を基準に次期の優遇区分を決める。ボーナス査定のような制度である。
  • 6か月刑の執行を受けて評価期間の途中から最初の優遇区分を決める際には、それまでに懲罰を科されたことがある者は第5類からスタートし、それ以外の者は第3類からスタートするが懲罰を受けると第5類に変更になる。期間の途中であっても、懲罰を受けると優遇区分を変更できることとされている。
     優遇区分による違いは、室内装飾品、嗜好品、娯楽品、自弁物品、面会回数、面会時間、発信回数である(46条)。
  • 第1類は、室内装飾品の貸与、月1回以上の嗜好品の支給、寝具・衣類・室内装飾品・サンダル・娯楽品(現在のところCDプレーヤーが想定されているようである)の自弁許可、月1回以上の飲食物の自弁許可、月2回以上の嗜好品の自弁許可、面会時間が他の2倍、面会回数が月7回以上、発信回数が月10通以上。
  • 第2類は、室内装飾品・サンダルの自弁許可、月2回以上の嗜好品の自弁許可、面会回数が月5回以上、発信回数が月7通以上。
  • 第3類は、室内装飾品・サンダルの自弁許可、月1回以上の嗜好品の自弁許可、面会回数が月3回以上、発信回数が月5回以上。
  • 第4類は、発信回数が月5回以上。
(優遇措置のない第5類も、法92条により面会回数は月2回以上、法97条により発信回数は月4回以上が保障されている。)

二本立て区分はどう展開するのか
 このように、制限区分はかなり長期に及ぶ拘禁度合いについての評価であり、優遇区分は短期的な受刑態度に応じて半年ごとに見直される。この二つの区分を組み合わせて行われる処遇が実際にどのように展開するかは全く予断を許さないと言うほかない。コンセプトは悪くないが、やり方次第では非常に抑圧的な制度ともなりうる。しばらくの間は、試行錯誤が続くであろうが、幅広い法と規則運用の実態に関する情報をセンターに寄せて欲しい。

外部交通・書籍新聞
 外部交通についての最大の変化は友人知人の面会と信書が解禁されることである。
 面会・信書が予想される相手について予め受刑者にかなり詳細に届け出させ、証明書類を要求している。面会者にも詳しい申出をさせ、証明書類を要求している(60,61条)。しかし、法務省の立案担当者の説明では、仮に事前に届け出のない面会者が来ても、機械的に断るのではなく、その場で審査した上で許否を決めるとされている。
 面会時間が原則30分以上とされたものの混雑時には最低5分にまで短縮できるとされたことは残念である(66条)。まさに実態の追認である。面会設備を拡充し、早急に原則30分を確保するべきである。
 休日面会は規定上実施可能となっている(64条)。そのことは進歩ではあるが、一律に全国で実施されるメドはなく、休日面会の実施を義務づけてもいない。余裕のある施設から徐々に実現していくこととなろう。
 電話による通信をできる者は開放的処遇に限定される可能性が高いと見られていたが、制限区分2種以上の者、釈放直前の者も対象とされた(72条)。平均的受刑者は当初3種に指定されるものと考えられるが、2種となれば、開放処遇を受けていなくても、電話利用の道が開かれることとなった。徐々に範囲を拡大していく方針と聞いているが、2種の指定状況にもよるが、今後の拡大を求めたい。
 外国語による図書・面会・信書に関する翻訳料・通訳料の負担を課す場合が広範なものになる可能性が危惧されていたが、実際には抑制的に規定された。すなわち、外国語書籍等の翻訳料については、「国語を読解する能力を有しない者」「点字によらなければ書籍等を閲覧できない者」は特別の事情がない限り負担させないこととされた。その他の者は「閲覧の目的及び受刑者の負担能力に照らしてその者に負担させることが相当と認められるときに限り」負担させることができるとされ、負担させる場合はかなり限定された(26条)。面会と信書についても、外交官や親族、重要用務処理者は負担させないこととされ、その他の場合も、「受刑者の負担能力に照らしてその者に負担させることが相当と認められる特別の事情があるときに限り」負担させることができるとしている(73条)。
 購入できる新聞紙の制限(27条)については、普通紙につき「刑事施設の長が指定する二紙以上の新聞紙のうち、受刑者が選択する一紙以上の新聞紙に制限することにより行うことができる」とされ、普通紙以外の日刊紙(スポーツ新聞)についても同じで、「一月以上の継続的な購入に制限」できることとされた。購入の場合、法49条により普通紙の掲示は従来どおり行うことが前提となっている。

  外出外泊・外部通勤
 外部通勤作業の条件(51条)は1)開放的施設で処遇を受けていること、2)制限区分が第2種以上、3)仮釈放が決まっていることとされている。
 外出・外泊の条件(59条)は1)開放的施設で処遇を受けていること、2)制限区分が第1種、3)仮釈放の許可が決定していることとされている。
 外出外泊の要件は非常に限定されている。しかし、外部通勤は第2種で実施できることとされており、運用によってはかなり拡大可能である。まずは試験的な実施にならざるを得ないと言うところだろうが、将来の発展に期待したい。

衛生・医療
 運動時間は土曜、日曜、祝日と運動会の日を除いて「1日30分以上、かつ、できる限り長時間」(20条)保障された。現実には設備に余裕のあるところは45分くらい保障できそうであるとの説明も聞いている。入浴日に運動がない等という制約はなくなった。
 定期健康診断に血圧、尿淡白、赤血球数、コレステロール、血糖値、心電図などが加わり、かなり一般的な医療に近くなったが、医師が必要でないと認めたときは省略できることとされており、実際の運用がどうなるか要注意である(23条)。
 指名医による診療について「刑事施設の長が指定する医療器具及び医療設備以外のものを使用してはならないこと」との条項がある(24条)。指名医が診療において必要と考える当該施設外の医療器具及び医療設備を利用できないとすれば、指名医の診療を許す意味がない。少なくとも、医師の希望を聞いた上で医療器具などを指定すべきで、診療の準備のための話し合いを行うべきことを規定するべきである。
 「受刑者と診療のため必要な範囲を明らかに逸脱した会話をしてはならないこと」という規定がなされている(24条)。受刑者と医師との信頼関係を築くことを困難にする可能性があり、削除されるべきである。

差入・領置
 差入れ申出書に差入れ者の生年月日、電話番号も記載させ、証明書の提示を求められるようになった(14条)。
 保管私物の保管方法(15条)については、「刑事施設の長が指定する居室内又は居室外の棚、容器その他の保管設備に保管させる」とされた。居室外に保管させる場合は、平日に1日1回以上私物を出し入れする機会を与えるとされた。廊下などにロッカーなどを並べるようなこととなるようである。保管私物の保管限度量と領置限度量の制限から除外されるもの(16条)として、「受刑者が当事者である係属中の裁判所の事件に関する記録その他の書類又はその写し」(民事訴訟を含む趣旨である)「眼鏡その他の補正器具」が掲げられている。これは、我々が強く求めていた訴訟資料の除外を認めたものであり、一歩前進ではあるが、訴訟用の書籍や資料などは含まれておらず、十分とはいえない。訴訟資料だけでなく、訴訟関連の書籍、資料を除外することを求めたい。

処遇の具体的な内容
 薬物依存者と暴力団員以外で矯正処遇としての改善指導を受けるべき者(58条)として、身体生命を侵害する罪で受刑中の者で、被害関係者に対する謝罪の意識が低い者、性犯罪の原因となる「認知の偏り又は自己統制力の不足」がある者、交通事犯の受刑者で交通安全に関する意識が低い者、「職場における人間関係に適応するのに必要な心構え及び行動様式が身についていない」者が掲げられている。このような教育的処遇のコースが各刑務所で設けられることとなるであろう。

刑事施設視察委員会
 刑事施設視察委員会の手続(4条)は定足数を過半数と定めており、その他の議事手続は視察委員会自身が決めることとされており、自律的運営が認められている。視察委員会に対する情報提供項目は6条に定められている。かなり広範な事項が報告されることとなった。

懲罰
 閉居罰の執行方法(75条)については、刑務所長が支障ないと認めるときは単独室以外で執行できるとされた。具体的にどのような形を想定しているのか不明である。「閉居罰を科されている受刑者を謹慎させるため必要な限度でその生活及び行動を制限できる。」とされている(75条)。行刑改革会議提言において、懲罰の内容は、「非人間的であり、現在の社会通念に照らして著しく合理性を欠くものであってはならず」とされていた。省令案はこれまでの一定の姿勢の強制を求めるなどの、問題を指摘された懲罰の実態を温存するものとなりかねない。生活と行動の制限は謹慎させるため必要最小限度にとどめるべきである。閉居罰中の運動は週1日以上(76条)とされ、閉居罰中でも週一日の運動は認められた。また、弁解の方法として書面の提出や補佐職員が弁解を録取する方法も認められた(79条)。

死亡
 受刑者の死亡の場合には、刑事施設の長は検視した上で、「変死または変死の疑いがあると認めるとき」検察官及び警察官たる司法警察員に通報するとされた(82条)。実質的に検察官に通報するかどうかは刑事施設の長の判断に委ねられることとなった。この点は、「刑事施設の長は,受刑者が死亡したときは検視をし,その結果,明らかに病死であると認めた場合を除いて,検察官及び警察官たる司法警察員に通報する。」と修正するべきである。  我々は、本来受刑者が死亡した場合,全件について検察官による検視を行うべきことを求めてきた。そして,検察官による検視に当たって法医学者の補助を求め,その意見を聴取した上で,司法解剖の必要性について判断するという方法を提案してきた。
 このような見解は行刑改革会議の提言とはならなかったものの,「一般の場合に比べ,その死因を明らかにし,その死に不審なところがないかを適切に判断する必要性が高い」「外部機関の目に触れる機会を増やすことにより,その死因について疑念を生じさせないようにすることが肝要である。」としており,この提言は医師が医療を継続していた疾病によって亡くなった場合などを除いて,検視を求めているものと評価できる。
 刑事施設の長という全くの法医学的判断の素人に,変死かどうかの判断を委ねることは適当でなく,その施設の医師が継続してきた医療の延長上の死亡の場合を除いて,検察官による検視を行うことを定めることは,行刑改革会議の提言の趣旨であったと考えられる。この部分の規則は上記のように修正することを強く求める。