日本各地での講演を終えて

2002年5月12日

国際反核法律家協会副会長
カルロス・バルガス


このメッセージは、2002年5月に来日された、カルロス・バルガス博士が、コスタリカ訪問団(2002.1.30-2.7)が主催した送別懇親会において、話されたものです。会員の田部千江子さんがテープおこしをされました。

 みなさんが日本について色々な心配をしていることは分かりました。そのことについてコメントする前に、まずはみなさんが色々なコメントを下さったことについて感謝したいと思います。
 私達は同じ世界に住んでいます。そして同じ心配を共有していると思っています。
 私も今回の訪問でエネルギーをいただいたと思っています。

 私は今回の旅の中で様々なすばらしいインプットをもらいました。特に大きなインプットをお話したいと思います。

 大阪に行ったとき、三人の子どもが私と会話をはじめました。10歳ぐらいの子どもたちだったと思います。「コスタリカは人権民主主義と平和を尊重している国なんだ」と話をしました。子どもたちは私に、「コスタリカは軍隊がないのに侵略されるか怖くないのか」というふうに聞きました。私は「全然怖くない。私の国はあなたの国が持っている武器よりももっといいものを持っている。それは軍隊がないということだ。」と答えました。「平和を愛する教育があるから怖くない。そういう教育があるから我々は侵略されるのは怖くないのだよ。」と子どもたちに説明しました。
 そうすると彼らはうれしそうにしていました。

 私は非常に大きなインパクトを受けました。大きなインパクトというのはこの子どもたちの質問です。その質問は両親の心配、両親が私に話していることを私にそのまま聞いたのだと思います。子どもたちというのは家や学校で話したことをそのまま私達に話すものだと思います。つまり軍隊がなければ安全ではないのではないかという考え方が忘れられているのではないかと思います。これは若い世代にとってよくない傾向だと思います。「軍隊がないと侵略されてしまう」という考え方は絶対に正しくないと思います。
 教育というものは学校だけではなく家庭でも行われるものであって、また親から子へだけでなく子から親への教育もあるはずです。今回の日本での滞在で、教育がキーであるという印象を受けました。うまくまとめきれてはいないのですが、日本教育は科学的なトピックに偏っているのではないかと思いました。精神的な問題、価値的な問題について教えていないと思います。
 そして新しい世代は政治や価値や人間としての精神的な問題や表現をする方法を学んでいないと感じました。近隣の人との話し合いをするあるいは交渉をするには自分を表現することが絶対的に必要です。国内でできないのに、国外の近隣の人々と国際的にはできません。近い将来、日本はあるいは太平洋の地域的な機構の中に組み込まれると考えています。経済的な意味では国際的にこれから統合されると考えた方がいいのではないでしょうか。そしてその統合を構成するこれらの国はみな違う価値観を持っています。
 第2次世界大戦で何が起こったかということについてみなさん知っています。それについて忘れさせるという必要があると思います。しかしながら学校教育の大半は自分たちの考え方を示すないしは交渉する方法を全く教えていません。紛争を解決するためには、そのような教育問題を解決することが必要です。今心配しているのは、日本と韓国・北朝鮮・中国のとの特別な関係の点です。これらについて日本がきちんと整理し理解しているとはいえません。

 日本の出生率が非常にさがっているということですが、新しい世代が減っていくことになると思います。来るべき世代と現在の世代は、近隣の人々との交渉ができない状態では国を超えた地域社会の中では、日本は生き残るとは思えません。

 京都に行った時に非常に興味深いことがありました。お寺にいって館主(住職)さんとお話をしました。平和や軍隊の廃止について、そして館主は沖縄の基地について話しました。彼は、日本がアメリカとの関係を解決するためには、日本とアジアの問題を解決することが役に立つといいました。安保の問題について宗教者が話すことに驚きました。また、日本が今やすでに宗教観が薄れたことに危惧を感じました。日本中いろんなところにお寺や神社があるけれども、いまや日本人は仏教徒でもないし神道を信じる人たちでもない。
 人間は何か信じるものを持たなければならないと思います。仏教徒・イスラム教徒・ヒンズー教徒・キリスト教徒の人々はそれぞれの神を信じていて、神様は違うけれども、しかし自分自身の経済や精神の問題以外に、信じるものを持っています。 私達は有限の存在ですが、自分自身以外に信じるものをもつことが必要です。
 しかし日本は世界の他の人々と違ってもは今や信じるべきものを持っていません。何も信じないということは非常に危険です。その状態にないということは問題です。ナショナリズムに走ることになります。40年代に逆戻りすることが可能な状態になってしまいます。とくに新しい世代にとって、信じるものが必要です。

 埼玉から岡谷まで色んな集会に参加しましたが、みんな同じ心配を共有していることが分かりました。今、国会に提出されている新たな法案について非常に心配していましたし、特に9条について新しい考え方が出るのではないかということを大変心配していました。
 しかし、一番大きな問題はどうやって解決したらいいのかが分かっていないことだと思います。彼らを導くリーダーシップがない。リーダーシップを発揮できる人々がいない、あるいは組織がない。彼らを導く人を求めていることが分かりました。彼らの情熱や興味を正しい方向へ導く人が必要です。この「9条の問題についてどのように扱っていいか分からない」ということ、またそういうみなさんの情熱をリードする人がいないということは、結局国会においても我々は成功することができないということになるのではないでしょうか。
 力を結集することを考えないと、みなさんが行ってきたことが全て時間の無駄になってしまいかねません。これらの人々の興味・情熱・可能性を一緒にしていく、ガイドしていくことが非常に重要です。
 国会議員の人にも会いましたが、国会議員の人々もこれをどうしたらいいのかということがわからない感じを受けました。

 9条を変えてもいいんだという人々がいますが、しかし、私は彼らには自覚が足りないと思います。それは、色んな教育によってこういうことが起こってしまったのではないかと思います。
 私は夢を持っています。夢を持っているということが、すばらしいプロジェクトのはじまりです。みなさんで夢を持ち続けている必要があります。そして1,2年かかるか、100年かかるか分かりませんけれども、夢を持ち続けている限り夢を実現することが可能です。あるいは、夢を持ち続けていかなければ何事も成功に導くことはできません。

 この旅の中で多くの人々に会い、多くの人々が新しい法案、そして9条を取り巻く環境に対して怖いと思っているということが分かりました。
 しかし、人々は決してそう言ったわけではないのですが、「アメリカの意図に沿わないことをすればアメリカが怒る。経済が非常に悪くなる。日本はアメリカの軍事的なサポートに頼っていてそれによって非常に安全になっている。その意味で日本はアメリカの子供なのである。」そう思っている印象を受けました。
 しかし、第二次世界大戦でのアメリカと日本のことは過去のことです。こういったことに引きずられているべきではなくて、忘れるべきであります。
 アメリカの軍隊に頼っている現状がありますが、しかし、アメリカの軍隊によって日本が安全だと考える必要はありません。日本の安全です。日本の安全のために一番に必要なことは、日本の自己に対する自信をもつこと。
 それは軍隊はないこと、人権を守っていること、民主主義を守っていること、この3つについての自信です。
 この人権に関する3つの自信をもつことが日本の安全を担っているということを知るべきではないでしょうか。
 92年、93年、94年のいつだか思い出せませんけれども、パナマが軍隊を廃止したいということでコスタリカのサポートを配置したことがありました。パナマはアメリカの軍隊に囲まれていて、沖縄にある全ての軍隊よりずっとたくさんの軍隊がパナマに駐在しております。もしこんなサポートをパナマにしたらどういう風になるとみなさんは思うでしょうか。
 実際、パナマは軍隊を廃止したけど何も起こらなかった。
 パナマの中には、アメリカや南米その他と比較しても、比較にならないくらいまわりにはたくさんの軍隊があります。それでも軍隊を廃止しても、何も起こらなかった。
 どうしてみなさんはアメリカが怒ると思うのでしょうか。日本がアメリカの子供ではなくなってしまうからでしょうか。そういうことではないとは思います。
 5年なのか、10年なのか準備にどれぐらいの時間がかかるか分かりませんけれども、アメリカはアジアを含めた国々からサポートなく自分自身の国を守れるシステムを開発中です。衛星を使って自分達の国を自分で守れるようになります。それによってアジアの地域での日本における演習も必要なくなるわけです。このようにアメリカが日本のサポートがいらなくなる状態にもかかわらず、9条を廃止してしまうならば日本は受難の時を迎えると思います。

 日本が平和主義を希求していくと、アメリカから圧力があるのではないかという疑念についてですが、アメリカからのプレッシャーはあるでしょう。
 例えばコスタリカについても70年から80年にかけてアメリカや中国から非常に大きな圧力がありました。
 レーガン大統領がアメリカのニカラグアへの政策についての問題に関してですが、コスタリカにアメリカの政策をつきつけたことがありました。
 その時、アメリカはコスタリカに対し軍隊を持て、対抗しろというようなこともアメリカは言いました。
 しかし我々はそのような政策はとりえないと言いました。
 色々な方法でアメリカのプレッシャーから逃れるようにしました。1983年には非武装中立宣言を行いました。1987年には中米2カ国で中米平和プランにサインしました。
 アメリカからのプレッシャーは怖くありません。日本が自分の国を愛する、誇りにするという気持ちであれば怖くないと思います。日本を批判しているのではありません。そのような心持ちを持つのは非常に簡単なことだと思います。しかし若い世代は日本人であることを誇りに思えてないのではないでしょうか。ヨーロッパやアメリカには負けられている所があるのでしょうか。

 岡谷のミーティングの一番最後に20人か30人の人が唄をプレゼントしてくれました。「ふるさと」という唄だということでした。非常ににその唄が本当にすばらしかったと思いました。「ふるさと」は日本の古い唄で、昔、学校で教えていた唄なんですよと教えてくれました。
 小さな例ですけれども、日本の教育がルーツを忘れている、根っこを忘れている非常にいい例ではないでしょうか。
 日本の古い唄を日本の教育で教えられなくなる。日本の心を教えなくなると日本人であることは何たることか忘れてしまうと思います。

 京都、大阪に行って3つの寺を見ました。その中で日本の歴史を学びましたが、非常に面白い、誇るべきものであることが分かりました。日本の歴史は非常に豊かであるし、様々な価値観、様々な習慣があり、様々な文化がありました。紛争を解決してきた歴史もあります。
 私が日本の歴史を理解できているかよく分かりませんけれども、やはり子どもたちには、日本を誇るということを教えていかなければならないと思います。
 ふるさとという唄は非常にすばらしかったと思います。この唄をコスタリカに持ち帰ってみんなで聞きたいと思います。この唄は日本のいい精神面、生活をあらわしていると思います。

 すばらしい意見交換を終わるにあたってみなさまに申し上げたいことがあります。
 私はこの旅の中で普遍的な心の気高いすばらしい精神的価値を持った人々に会いました。それらの人々は日本の現在の状況に非常な心配をしておりまして、新しいリーダーシップを待ち望んでいました。それらの人々のリーダーシップをあげられるのはみなさまではないでしょうか。コスタリカにおいてみなさんの学んだこと、経験したことが日本のリーダーシップを求めている人々に対して、非常に重要なことだと思います。みなさんには非常に大きな責任があると思います。私はいつでもみなさまを幸せにするためここに参ります。
 世界中の人々がいまみなさんを必要としている状況だと思います。この時代はみなさんが作る時代だと思います。


資料インデックスページに戻る