<週刊金曜日438号(2002.11.29)抜粋>
カレン・オルセン・デ・フィゲーレス
コスタリカと日本を結ぶ平和の使者
1949年に憲法を改正し、常備軍を廃止したコスタリカ。その軍隊の廃止を宣言したフィゲレス大統領の妻であり、平和の輸出に努める力レン・オルセン氏が来日、11月3日に東京都内で対話集会が開かれた。氏を招く実行委員会に関わった小中学生の子どもたちとの対話を紹介する。
通訳:足立力也
まとめ:宮本有紀
Karen Olsen de Figueres
デンマーク系アメリカ人としで生まれる。ニューヨークの大学院で社会学を学んでいるときに、後のコスタリカ大統領ホセ・フィゲレス氏(故人)と出会い、結婚。長年、コスタリカの国会議員を務め、国連大使・在イスラエル大使を歴任する。特に、ニカラグア、エルサルバドル、グアテマラなど、中米紛争の1987年和平合意では特別大使的な平和外交で活躍。87年にアリアス元大統領がノーベル平和賞を受賞したのも、カレン・オルセン氏の平和外交抜きにはありえなかったといわれている。
小迫由衣 カレンさん、ようこそおいでくださいました。私たちはコスタリカのことを勉強したのですが、いろいろと分からないことがあるので、今日直接お聞きしたいと思います。カレンさんのことをもっと知りたいので、自己紹介していただけますか。
カレン 皆様、ようこそおこしくださいました。私は社会学者であり、貧しい地域に入って働いてもいます。いろいろなことをしているのですが、私には12人の孫がいますので、今日は「一人のおばあちゃん」として自己紹介にしたいと思います。
由衣 コスタリカってどんな国だと思いますか。
蕪木嶺介 自然が豊がですてきな国だと思います。
由衣 ではコスタリカに住んでみたい?
嶺介 失礼だけど、そんなに住んでみたくありません。
由衣 (笑)どうして?
嶺介 日本に住み慣れているから。
<コスタリカにあって日本にないもの>
由衣 ではコスタリカにあって日本にないものは何だと思う。
永井美葉 自然が多いことと、子ども選挙があることだと思う。
カレン そうですね。コスタリカには世界中の鳥類の約10%の種類が住んでおり、蝶類やコガネムシも非常に多くの種類があります。全動植物の種類のうち5%がコスタリカに住んでおり、約200の生態系がこの国のなかに入っています。
それから子ども選挙は、大人が選挙するときに、子どもたちもまったく同じように投票し、集計するのです。それ以外にも、学校のなかで年に一回、生徒会、児童会などの選挙が行なわれます。子どもたちが選んだ候補が公約を述べ、選挙運動をします。そして秘密投票で皆が投票箱に票を入れ、それを集計し、当選した子どもを祝福します。子どもたちはこうして民主主義を身につけるのです。
由衣 じゃあ日本にあってコスタリカにないものは。
中川友貴 たくさんの高いビル。
カレン そのとおり。コスタリカの建物は非常に小さいですし、コスタリカの人はだいたい一階建ての家に住んでいます。コスタリカになくて日本にあるものはまだいろいろあります。たとえば何千年もの歴史。コスタリカは181年と若い国です。また、コスタリカには日本のような高い枝術はありません。
徳生葵 カレンさん、日本の印象はどうですか。今回は沖縄に行かれたということで、沖縄のことも含めてお聞かせください。
カレン 日本は希望と平和に満ちた土地だと思います。人々はよく働きますし、年輩の方に対して尊枚の念の深い人たちです。そして子どもたちの教養の高さを感じております。
けれども沖縄では、言葉では言い表せない非常に深い痛みを感じ、全身が震えてしまいました。沖縄、そして広島や長崎の人々が受けた多大なる苦しみを完全に和らげることはできないでしょう。被爆者の方々に対して敬意を表さねばならないと思います。そして国の指導者たちが行なった野蛮で非人間的な行為に関して、私自身が恥じ入るような思いになりました。
桂詩織 カレンさんの手紙や小学校の子どもたちからのビデオレターで、コスタリカの人は自分たちの国が一番よいと考えていることを知りました。それは少し自慢げで、えらそうかなと思ったりして。でもよく考えてみると、それは日本人が自分の国をあまり好きになれなくて、それに対する嫉妬なのかなと恩いました。
カレン 正直に話してくれて非常にうれしく思います。そうやって透明に、はっきりものを言うこと。これも平和の一つだと思います。
自分たちの国を一番よく思うというのは誰でもあることです。それはよいことなのですが、ほかの国も同じようにすばらしいと感じることも必要だと思います。コスタリカは非常によい国だと思いますが、日本も同じようによい国だと思います。
皆さん一人ひとりが特別な存在であるように、それぞれの人が何かすばらしいよいものを持っていることを理解しましょう。
<平和の反対語って何?>
徳生舞 コスタリカに軍隊がなくなったのは内戦のあとだと聞きました。戦争をして手に入れた平和は本当の平和なのでしょうか。
カレン それまでコスタリカでは人々がそれぞれ違った考えを持つことを許されず、自分の意見を述べることもできませんでした。だから農民や知識人が軍隊に反対して集まり、法と民主主義と自由と働く権利を取り戻すために、六週間の市民戦争が起こったのです。平和に生きる権利、これこそが本当の平和です。
牧野水輝 内戦以外に平和を手に入れる方法は本当になかったのですか。
カレン たぶんあったのではないか、いえ、確信を持ってほかの道があったと言いましょう。というのは戦争というのはどうやっても正当化し得ないものだと思うからです。だから、二度と戦争を起こさないために、ホセ・フィゲレス、私の夫が軍隊の廃止を宣言しました。
蕪木柚菜 私たちは平和のために何ができるのでしょうか。
カレン 非常にたくさんのことができると思います。子どもたちはまずよいきょうだいであること、そしてよい友だちであることです。それから他人を見てではなく、自分自身を見て、よい行動をするということ。日本という国に生まれ有ったことに幸福を感じること。自然や動物を保護し、大切にすること。自分たち自身がその将来の所有者であるということに関して意識を高めること。
これらが平和に対してできることです。というのは平和というものは、どういうふうに行動するかという考え方であるからです。
水輝 平和の反対語は何ですか。
カレン 平和に対する言葉というのは非常にたくさんあると思います。平和というのは単に戦争のない状態を意味するのではないからです。挙げるとするならば飢餓、貧困、無知、暴力、残虐性などです。
戦争に勝利者はいない。すべての人が敗者なのです。平和がなければ私たちは生きることができません。動物も植物もなければ平和ではないということです。
由衣 皆ふだん平和とか感じていますか。戦争が身近にあるわけでもないから平和というのはあいまいでよく分からない。だからこういうふうに話し合うこともめったにないと思う。だけどこれで終わりにしないで、ここから一人ひとり自分で考えて、何か自分なりにやることを見つけてほしいと思います。カレンさん、ありがとうございました。
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