会報・第7号(2005.11.16発行)
<目 次>
●総会報告
ジゼルさん講演概要
竹村卓さん講演概要
●新年会のご案内
●投稿募集
●あとがき
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総会報告
本年9月19日にコスタリカ平和の会第4回総会が開催されました。当日は、のべ30名を超える方が参加され、コスタリカ出身の表ジゼルさんの講演、竹村卓教授の講演に熱心に耳を傾けていらっしゃいました。懇親会でもたくさんの質問が飛び出し、コスタリカに対する関心の高さを感じました。
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ジゼルさん講演概要
【はじめに】
教育や政治について、日本とコスタリカの違いを40分ほど話をした後、意見を交換したい。
私は国際協力事業団(JICA)で働く日本人男性と知り合って結婚し、日本に来てからすでに22年になる。夫の勤務に伴いパナマに3年、ペルーに4年滞在したこともある。息子が4人いる。
伊藤千尋さんに2005年1月に初めて会い、共同代表をされているコスタリカ平和の会を知ってうれしかったが、会員に一人もコスタリカ人がいないのには驚いた。
私は日本については大学で聞いた知識しかなかった。大学卒業後はソーシャルワーカーとして働いていた。社会現象として日本を勉強してきた。日本は21世紀的な技術を持つたった1つの国として認識していた。新幹線、マンションなど。貧乏人がいない。ただ、同じお湯を使うお風呂にみんなが入るのには驚いた。母親から聞いたのは、日本人は神様を信じないから腹切りや神風をする、命を大切にしないので電車に飛び込むと。だから日本人と結婚をするというと母親が反対をした。それにもかかわらず、日本に来てしまった。
【驚きの連続だった日本での生活】
日本に来てびっくりしたのはお風呂。コスタリカは、朝6時頃のシャワーで一日が始まる。それなのに日本だと、夜寝る前にお風呂に入る。また、お風呂の使い方が分からず、からっぽの風呂桶(バスタブ)の中で着替え、シャワーのホースに脱いだ衣類をかけていた。来日したのは10月の終わりころだったのでこのやり方は寒かった。夫は事前にお風呂のことは話さなかったので、結局、お風呂にはいるのに1年間くらいかかった。東京では大雪が降った年でもあり、自分にとっての初めての寒さで、雪を見たのも初めてのことだった。
夫との日本での新居には、ソファーセット、リビングセット、ダイニングセットなど、住居にあるべきはずの家具は何にもなかった。食べるときの食卓が1つあった。いわゆるちゃぶ台。クッションに座って食事をしていた。食後、ちゃぶ台をしまって布団を敷いて寝る。コスタリカの母親に「床で食べて、床で寝る」という手紙を書いたら、母親からは娘が相当に苦労していると思って「そんな生活をせずに帰ってきなさい」と返事が来た。しかし、自分で経験して自分で判断して、プレッシャーは感じずに楽しく生活をしてきた。
一番辛かったのは家の中では靴を脱ぐこと。コスタリカ人は頭から足先までセットでおしゃれする。せっかくハイヒールを履いても、出先の玄関で靴を脱ぐと台無しになるので、どういう風にしておしゃれをすればいいのか分からなくなった。おしゃれしても、靴を脱いだ瞬間にジーパンとTシャツと変わらない感じになってしまう。私は子育ての時期にもきちんとおしゃれをした。しかし、友達から楽な格好で子育てをするようアドバイスをもらったので、そのとおりの格好でコスタリカに帰ったら、母親は「あなた、(おしゃれもできないくらい)そんな苦労しているの!早く帰ってきなさい」といわれた。その当時、コスタリカではネイルアートは盛んだったので、私はマニキュアもしていた。しかし、日本人でマニキュアをしている人はほとんどいなかったので、夫から「お願いだから、マニキュアをしないで」といわれた。
【子どもの教育で感じたこと】
子どもが学校に行くようになってから、日本社会に対して疑問が出てきた。日本では自分で行かせたい学校に行かせることができない、どうして学校が他人で決められなければならないのか。コスタリカでは、学校は指定されていないので、すぐそばの学校に行かせるか、バスで一時間の所に行かせるかは親が選べる。
自分の子どものクラスで、授業中に先生からチョークを投げつけられた生徒があった。それを見ていたうちの子どもは、自分が投げられたことはなかったが「先生が怖い」と言ったので、校長先生にクラス替えをお願いしたが聴き入られなかった。先生と子どもには相性があるので、クラス替えができる方がよいと思う。また、コスタリカでは、先生も自分の希望地の学校で仕事ができるので、先生が近所のコミュニティの一員になって、すぐに先生の評判が立つから、良い先生になるように努力するようになる。
日本では教育委員会やPTAなどで縛り付けられている。また、先生は「従来通りで行こう」という意識が強い。コスタリカでは学校運営を行政でしない代わりに、校長先生の責任でいろいろやっている。コスタリカ人は考えることが好きだからうまく運営していると言えるだろう。日本人は、親たちが懇談会(クラス親睦会)をして先生に対する不満が出されても、親はみんなで「よろしくお願いします」と先生にいうだけ。しかし、自分は先生に率直に意見を言い、質問もした。みんなは私に対して「あなた、すごい。よく言えましたね。」と後でいうだけ。私は、「じゃあ、どうしてあなたが言わなかったの?」と返事した。先生に言わないで先生が変わることは出来ないと思うのに。
文部省は子どもに対して教育しなければならないのに、それをしていないように思える。たとえば、人前ではキスをしたり抱き合ったりすることは禁じているのに、ポルノ雑誌が電車内で氾濫しているし、その雑誌を平気で人前で見ている。コスタリカでは、ポルノは子どもから隔離している。コスタリカの夫婦は子どもの前でもキスをしているし、性についての話をしている。子供がどこから生まれるかもきちんと教えている。
【家族生活の中で感じたこと】
日本では一般的な話はするが、深い話はしないように感じられる。たとえば「今日は暑いですね」と言われて、私はなんと答えればいいのかわからなかった。また、「あら、お出かけですか?」という近所の人から聞かれて、いつもきちんと、どこへ行くとかいつ帰ってくるとか事情を説明していた。しかし、同じ問をしたら、近所の人からは「ええ、ちょっと」という言葉で済まされた。この呼びかけは、単なる挨拶だとは最初分からなかった。そういえば、相手は私の返事をあまり真剣に聞いていなかったなように思える。
コスタリカには、子どものプライバシーはあるが、子ども部屋に鍵をつけるようなことはしない。子どもがどのような本を読んでいるか、どのようなテレビを見ているかを親は知っている。子どもが持っている世界を親がきちんと把握している。しかし、日本だとそうではない。
日本だと、家族で過ごす時間が少ない。日曜日には、父親が疲れてテレビをずっと見ている姿しかない。家族で出かける場所がなく、どこも人がいっぱいであり、みんなが同じ所に行くので疲れるだけ。コスタリカでは三食はすべて家族で食べ、テレビも家族で一緒に見て、番組を見ながら会話をする。日常生活で会話が多く、意見が違っても話し合い、その会話を楽しむ。子どもが大きくなっても一緒に出かけるのが通常である。コスタリカの父親というものは、息子が15歳になるのを楽しみしている。その理由は、サッカーを一緒に見に行けるから。
私には男の子が4人いる。日本では男の子は父親を嫌っている。いつも勉強しろと言うから。日本だと、子どもが何か言うと父親は「何も知らないくせに」といって意見を聞かない。子どもと父親が会話をしないのが、コスタリカ人の私はとてもショックだった。日本では、母親と一緒だとマザコンだと言われるし、父親と一緒にいるとダサイといわれる。私は子どもからはスパルタ教育と言われている。うちでは門限が決められている。数年前に、お尻までズボンをおろしてはくことがはやったが、それを夫・父親は許さなかった。子どもたちは大学生になって、ようやく父親のことをある程度は理解できるようになった。父親がいないときに、「子ども4人の面倒を見る(生活を支えている)というのはすごいことだ」と言っていた。
【意見を言わない日本人】
政治について、日本人は誰も何も言わない。私すらも夫がだれを支持しているのかは分からない。コスタリカでは政治が日常生活に入っており、子どもでも政治の話をする。もちろん、政治のことを子どもが十分知っているわけではないが、子どもは「笑顔が好きだから」「旗がすきだから」という理由だけでも政治の話に加わる。コスタリカでは、かつては家族で支持する政党が一緒だったが、現在は、家族でも支持する政党が違ってきている。みんなが選挙には積極的に参加する。子どもたちが投票所に案内したりする。一般の人もボランティアとして投票所に送り迎えしたりする。コスタリカでは、支持する政党に投票してもらうため、一日中選挙ボランティアとして働いていたりする。
日本では、会議の時などには自分の意見を言わないのが普通らしい。かつて、橋本龍太郎政権のとき、日本人の友人に対して、「だれを応援しているのですか」と尋ねた。しかし、友人は「ええ、まあね」と言って、答えなかった。親しいのに信頼されていないようで、たいへんショックだった。その話を夫にして、夫にも同様の質問をしたところ、夫も「ええ、まあね」と曖昧な返事だった。自分が日本で投票できたら、政治家の話に耳を傾けたはず。「どのような国にする」と言っているかを重視するべきである。だめだということばかりでなく、どうしてだめなのか、今後どのようにするのかを話してもらいたい。
自分の意見を出し合って行くことが大事であり、平和のためには、まず会話をする必要がある。紛争を解決するためには、まずは会話が重要である。日本では話し合いが大事といいながら、「まあ、このへんで」というところで終わっているように感じられる。「コスタリカは不安定な地域なのに、どうして平和が保てるのですか?」と言われるが、まず「どうして争う必要があるか」を話し合うことが先ではないか。
【日本人のすばらしさ】
日本人は、グループで行動できることがすばらしい。また、日本政府は、日本人がどれくらいどこに住んでいるかを把握している。回覧板とか公民館の使い方とか、情報を共有するシステムはすばらしい。コスタリカではそうではない。コスタリカ大使館は日本にいるコスタリカ人を把握していないだろう。
コスタリカでは、雪が降っても誰も雪かきをしない。自分は平気だからと考えるから。日本だと、すぐにみんなで雪かきをする。最初の大雪を経験したとき、どうして、近所での雪かきに自分は呼ばれなかったのだろうと不思議に思ったが、夫に尋ねたら、「みんな自分でやっているんだ。みんなで決めてやっているんじゃない」との返事だった。コスタリカでは、みんなでやれと言われるとかえって不安になる。
○質疑応答
<質問>コスタリカには以前軍隊があったと聞いている。どうしてなくしたのか。
<答え>内戦がきっかけである。お金持ちが政治を握ってきたが、若い人がアメリカなどで勉強をしてきて「お金を持つ人がどうして政治を握るのか?」という疑問が生じ、自分たちで戦うことを決めた。しかし、同じ家族でも意見が異なって殺し殺されるという経験をし、失ったことも大きかった。あんな残酷なことはもう嫌だという気持ちが強かった。全然知らない人同士での殺し合いであればまだ忘れられるかも知れないが、兄弟、親子で殺し合ったので、傷が多すぎた。そこで、軍隊を作らないという憲法を決め、軍隊の数だけ先生を作ろうというスローガンを掲げた。コスタリカでは、どこに行っても小学校や中学校がある。中学の5年間が終わってから、大学に行く。お金がない人は中学校卒業後に働くが、仕事をしながら大学に行きたい人もいるので、法律で週に4時間大学に行けるようにしている。
<質問>日本は残念ながら、間違った方向に行っているようにみえる。日本はどのように見えるか。
<答え>軍隊はないと言いつつ自衛隊があるというのは、日本独特の考えだと思う。私から見れば、自衛隊も軍隊も一緒で、いつかは戦争をしようと考えているのだろう。「日本には軍隊があるか」と問われたら、「軍隊を持っている」と私は答える。中国や北朝鮮のことを考えているのか。お金を持っている方が強いのは当然なのに。最終的にはアメリカが決めてしまっており、日本人は自分の考えを強く主張しない。日本人は「これいいですね」とだけ言って、「これちょうだい」とは言わない。私だったら、アメリカに対して強い意見を言う。
<質問>コスタリカでは子どもも政治に関心があり、政治家をずっと見つめていくことを続けているのか。
<答え>コスタリカ人は現実的な考え方を持っている。みんなと一緒だと変わらないが、みんなよりも少し上のことを言えば変わる。大統領が最悪でも、「もう二度と選ばないからいいや」と思っている。コスタリカでは12年間同じ政党が政権についていることはないから。コスタリカ人は政治家が自分のポケットに何も入れない(賄賂を全く受け取らない)ということは信じていないが、ポケットに入れても、国民のために何をしてくれるのか、また、してくれたのかという点を見ている。
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竹村卓教授(富山大学)講演概要
経済の「グローバル化」と言うことは、アニメの例からも分かる。例えば、ドラゴンボールはフランスでも放映されていて、暴力シーンが問題となっている。一方、ポケットモンスターは、もともと海外輸出仕様となっており、画面に出てくる背景の看板には日本語が無く、ゲームキャラクターグッズなども併せて、総合的に海外市場進出戦略を組んでいる。ポケットモンスターは、海外市場指向という点で、日本のアニメでは際立っている。
現在言われている経済の「グローバル化」は、いわゆる新自由主義経済である。サッチャーやレーガンなどが行って来た、市場競争原理の導入による「小さな政府」を目指す経済政策である。規制緩和、企業と富裕層の減税、福祉・教育などの支出削減、外国資本の導入などを柱としている。今日では、この新自由主義経済政策は失敗だったということは、ラテンアメリカでも西ヨーロッパや北欧でも、すでに実証済みであるのに、日本政府はこの失敗済みの政策を進めようとしている。現在コスタリカは経済の「グローバル化」に直面している。1980年代までは、「大きな政府」が、いわば大資本として機能してきた。コスタリカには、他に大きな産業がないことから、電力や銀行を国有化して原資として、教育や福祉に配分してきた。しかし、最近は、これが変わってきた。
2005年に入ってからの石油価格上昇は、コスタリカのような非産油発展途上国に与えるマイナスの影響が大きい。ガソリン代が値上がりし、抑制措置をとっているが止まらず、タクシー代なども含めて、物価を押し上げている。一方、サンホセの中心部に車を乗り入れては行けない、という規制も最近導入されたので、少しは排ガスの悪影響が減っているかも知れない。また、10月からは、比較的低所得層が多く住むパバスからサンホセの中心部まで、サバナという公園を通る線路を活用して、一人100コロンでコミュニティ鉄道を始めることが決まり、10年ぶりに鉄道が復活する予定である。さらに、自動車の代わりにバイクやバスなどの利用が増えている。コスタリカは、化石燃料に依存しないとすでに宣言しているが、原油価格高騰の今が、化石燃料依存から脱却する良いチャンスかも知れない。このように経済の「グローバル化」には、マイナス面もあればプラス面もある。
コスタリカの情勢は、2002年から2004年の2年間で大きく変わった。大規模なショッピングセンターが出来たり、モータリゼーションがますます進んでいたりしていた。2004年8月と10月に訪問したが、わずか2か月の間でも変化が大きい。「グローバル化」の影響は、加速度的、不可逆的であるかのように見える。その中で、コスタリカでは、経済的に勝ち組と負け組がはっきりしてきて、固定化されてきている。国連の定める貧困ライン(1日1ドル)以下で生活する世帯が、過去1年間で4万世帯増えて21万世帯となっている。全世帯数中貧困ライン以下の世帯の割合は、2003年の18.5%から05年半ばに21.5%に増え、国連機関の推計では、2005年末に25%にあがるだろうと言われている。教育費・社会保障費のカット、医療への競争原理の導入が進められる反面、外貨準備高が過去最高の24億ドルとなっている。このお金はどこに使われているのだろうか?日本では、米国の短期国債にかなり回っているのだが。(注:日本政府と中国政府が米国の短期国債を大量に保有し、日本の円と中国の人民元が、米ドル、つまり世界経済を支えているのが現状である。米中関係も金融面から見れば、相互依存の状態にある。)
米国と中米五ヵ国およびドミニカ共和国との間で、2004年に署名された中米自由貿易協定(CAFTA)を批准するか、どうか、現地では大問題である。自由貿易協定は、ヒト・モノ・カネの移動の自由を定めたものである。モノの面では、農産物輸入について中米諸国に有利(=米国に不利)となっているため、米国では大統領選挙のあった2004年中には、連邦議会に提案されず、2005年7月になって、ようやく批准された。
ヒトの移動、つまり労働力の移動については、100万人ともいわれる難民、特に隣国ニカラグアからの経済難民の問題がある。難民と犯罪の関係では、軽い犯罪はニカラグア人、重い犯罪はコロンビア人といわれており、それを聞いたコロンビア人が怒った、という話がある。ヒトの移動の自由を公式に認めていない現在でも、大量の難民と治安悪化の問題がある。この上、ヒトの移動の自由を認める自由貿易協定(CAFTA)には、コスタリカ国内で反対の声が大きい。コスタリカでは最近新しい入国管理法によって、入国審査を磁気カードなどで厳しくした。この新入管法は、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)からクレームをつけられた。これまでは誉められてばかりいたコスタリカにとっては珍しい事である。しかし、コスタリカはこのクレームを突っぱねた。それほどヒトの移動には神経質になっているのだ。
カネの移動の自由とは、資本移動の自由、つまり外資導入の自由化である。ここ数年、コスタリカでは電力電信電話公社(ICE)の民営化が大きな問題となっている。公的事業の民営化と外資導入には、大規模なストライキが起こるなど、反対の声が依然として大きい。自由貿易協定(CAFTA)は、2005年9月19日現在、まだコスタリカ国会に提出されていない。2004年10月の中米現地の観測では、ニカラグアが先ずCAFTAを批准すると見なされていたが、ホンジュラスが先に批准した。ニカラグア国会はCAFTAへの賛否投票を延期し続けている。コスタリカの経済界など、自由貿易推進派も実は確たる展望を持っていない。2004年10月に開かれたシンポジウムでの前貿易大臣の話にも、農業など国内弱小産業保護の必要は語られていたが、具体策は何も示されていなかった。「グローバル化」に乗り遅れるのは嫌だが、そうは言っても有効な対策がない。そこで国民の間にCAFTAには抵抗が強いのである。
最近の大統領候補世論調査では、アリアス元大統領(国民解放党=PLN)の支持率は47%、ソリース候補(市民行動党=PAC)17%、ゲバラ候補(自由運動党=ML)10%となっている。他の調査では、アリアス支持は30%台後半だが、アリアス元大統領が次期大統領の最有力候補であることには違いない。問題は、アリアスが自由貿易協定賛成の上自由主義経済政策をとる、と見なされている点にある。アリアスが中米和平に熱心だったのは、大量の難民流入による経済と治安の悪化が背景にあった。アリアス自身、中米和平工作は、コスタリカへの投資を呼び込むためでもあった、と認めている。エコノミスト出身のアリアスは、経済重視の人であり、反発する人も少なくない。ちなみに国会議員選挙については、国民解放党(PLN)支持は28%、現与党のキリスト教社会連合党(PUSC)7%、PAC6%、ML5%。
コスタリカの政界では、お金のことはお互いに言いっこ無しでやって来た。「脛に傷」持つ同士が多かったからである。2004年に、外国企業から不正献金を受け取ったロドリーゲス前大統領やカルデロン元大統領(共にPUSC)が逮捕起訴された。PLNのホセ・マリア・フィゲーレス元大統領も疑惑をもたれ、国会の証人喚問に出てこない。彼はジュネーブで中東和平について活動をしている。2004年8月までは帰国して、隣国パナマのトレホス大統領就任式には出席していた(トレホス氏はコスタリカで10数年亡命生活を送っていたことがあり、その間面倒を見ていたのがフィゲーレス・ファミリー、特にカレンさんだった)。お金の面では、アリアスについても実は突っつきどころはある。日本の宗教団体からアリアス財団に援助をしてもらっている。このままでは若者が選挙に関心を持たなくなる。政界スキャンダルには、国会議員経験があるバルガス博士も、「心が痛い」と顔を曇らせていた。また、コスタリカ大学の比較憲法専攻の教授は、「民主政治正当性の危機だ」憂慮していた。とはいえ、政治腐敗といっても、選挙買収などはない。
現在最高選挙裁判所(TSE)に登録されている政党は52もあり、過去最多となっている。コスタリカでは、大統領選挙にあわせて国会議員や地方政党も一緒に選挙を行う。立候補するためには、政党を結成する必要がある。コスタリカ史上初めて、女性解放を掲げるフェミニズム党ができたが、TSEから登録をいったん拒否された。党員がすべて女性だけだったから、平等原則に反するというのだ。現在は男性党員を入れて、登録が認められた。こういうところが、いかにもコスタリカらしい。これからは、韓国のように、コスタリカでもインターネットを利用して政治に参加する「ネチズン」が登場して政治を変えて行くか注目される。
韓国のノ・ムヒョン大統領が2005年の9月、経済使節団と共にコスタリカを訪問している。韓国は、一旦IMFの管理下に置かれた後、経済を再生した。コスタリカは韓国のこの経験に注目している。現大統領パチェコは日本も訪問しており、中米各国と日本が国交を結んで70年だったので、大きなイベントをする予定だったが、総選挙でぶっ飛んだ。国交のない中国とも、バランスをとってつきあっているコスタリカの多面的な外交の成果として、カルデロン記念病院が火事になったとき、台湾が真っ先に医療機器など寄付をしてきた。技術援助などで日本から来ている人は多く、政府開発援助(ODA)の無償供与は行われていないが、中米では、日本が米国を抜き、最大の援助国家となっている。人間の安全保障や省エネルギー、環境保護など、日本が協力できる面は多い。
2005年7月、スペインの副首相がコスタリカを訪問しようとしたが、コスタリカの国会に一度は拒否された。副首相の搭乗機がスペイン空軍所属だったためである。もちろん、戦闘用の軍用機ではなかった。スペイン国王が直にコスタリカ大統領に連絡を取って了解を得た。これはコスタリカ2003年3月に米国のイラク戦争を支持したことが影響した過剰反応であると見られる。(注:大統領の2004年イラク戦争支持に、憲法法廷が違憲裁定を下し、支持が撤回されたのはご承知の通り)。「羹(あつもの)に懲りて、膾(なます)を吹く」ような話であるが、この程度のことでも、コスタリカは敏感に反応している。平和憲法を持つ国は、これくらい慎重に行動してもちょうど良い。現在日本では、憲法改正論者の野党第一党党首が、衆議院憲法調査会において、集団的自衛権と個別的自衛権とを区別しない、と国際法の常識を無視した発言をしている。それと比べれば、コスタリカはまだまだ信頼できる国だと思う。
○質疑応答
<質問>大統領は一度なってしまうともう二度となれなかったのではないか? 変わったのか?
<答え>憲法法廷が2003年3月に憲法違反だと裁定した。今では通算2期8年を限度とした。アリアスはそれで候補者となっている。同じ党なのに、モンヘ元大統領が非合法だと文句を言って、PLN党員のままで、他党の候補者を応援している。PLNの元大統領候補コラーレスも新党を立ち上げている。大統領の終身再選禁止は、1969年にホセ・フィゲーレスの方から言い出したことであり、政治的妥協の産物でもあった。今はアリアスに何かあったら、本当に候補者がいなくなると、コスタリカ外務省関係者は心配している。現政権は、過半数の閣僚が最初の1年で交代しており、現在も内閣に留まっているのは外務大臣ぐらい。こちらも「そして誰もいなくなる」様相だ。2006年2月の大統領選挙で、アリアスが当選する可能性は高い。ただ、アリアスも63歳と若くはなく、その経済政策に反対する人は多い。投票に行かないという人が30%台後半にもなり、来年2月の投票率が心配である。
<質問>化石燃料に依存しないということの宣言について。
<答え>現在のパチェ−コ大統領が、ヨハネスブルグ環境サミットに際して、化石燃料に依存しないという宣言をしている。基本的に、水力・地熱・風力発電をエネルギー源とする。日本の大手自動車メーカーも、風力発電の巨大プラントを輸出しようとしている。
<質問>アリアスはもともと自由化論者ということだが、論説はないか?
<答え>スペイン語であれば存在する。今回の選挙用にマニュフェストも出ているはずだ。アリアスは、その平和主義でも有名だが、経済政策でも有名である。アリアスだけは大統領にさせないという拒否反応も一部にはある。しかし、外交に関しては手腕があるし、人脈もある。イラク戦争支持についても、政府批判の発言をしている。現在は、小型武器規制についても積極的に活動を行い、日本とも協力している。アリアスの平和外交と経済政策とのどちらに重きを置いて判断するか、国民も悩ましいのではないか。
アリアスは、自由主義経済・市場原理主義ではない。自由化論者であっても、元来混合経済体制を重視する社会民主主義者である。1980年代のニカラグア内戦でコスタリカ経済が悪化し、IMFや世界銀行など国際金融機関の圧力で、小さな政府路線をとらざるを得なくなった。経済のマクロ指標は改善するが、要は不採算部門を切り捨てただけである。マクロ指標の改善が生活の向上につながらないのは、どこの国も抱えている問題である。コスタリカでも貧困世帯は増えているのに、外貨準備高はあがっている。これまでは均等に富を配分してきたのに、現在は難しくなっている。経済自由化を進めるにしても、抵抗する力が強いので、少しずつということだろう。今までは国際金融機関の指示も、適当にサボタージュして、情勢が変わるのを待つ、という方式をコスタリカは取ってきた。私はこれをPura Vida方式と呼んでいるが、今後も通用するのか注目している。
中米自由貿易協定(CAFTA)については、必ず成立するということではないと考える。先に批准した周りの国の様子も見ながら、プラス面が大きければ批准することもあるだろう。
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新年会のご案内
2006年1月14日午後6時から、毎年恒例の新年会を行います。場所は、日本料理・コスタリカ料理で知られるお店「二葉」(ふたば)です。皆さん、ぜひご参加ください。
<「二葉」連絡先>
TEL 03−3731−5846
「京急蒲田駅」より徒歩10分
東京都大田区南蒲田2−3−11
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投稿募集!
来年2月頭には、4年に1度の「コスタリカ国政選挙」が実施されます。大統領や国会議員などが選出されるこの選挙は、子どもたちを含めた国民全員が、活発に政治論議をする中で行われます。思えば、わたしたち「コスタリカ平和の会」も4年前のこの国政選挙を見学にいったのがきっかけで結成されました。今回は、残念ながら、当会としてはツアーを組んでおりません。この選挙を見学に行かれる!という方は、ぜひその情報を当会までお知らせ下さい。
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あとがき
10月30日に、自民党「新憲法草案」が発表されました。「自衛隊」を「自衛軍」に変質・強化し、交戦権の放棄、戦力の放棄をうたった9条2項をばっさり削除しており、平和憲法の本質を変えてしまう内容となっています。また「公益」「公の秩序」といったもので容易に国民の権利・自由を制約できるような仕掛けもほどこされています。あらためて現憲法について学びなおし、改憲案のどこに問題があるか考えてみませんか?そのとき、きっとコスタリカの非武装平和主義がちょうどよい比較対象になるはずです。当会でも憲法についての学習会を開催していく予定です
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