「米大統領に勝った」コスタリカ大学生との対話集会
日時:2006年6月17日(土)午後2時から
場所:明治大学研究棟第2会議室
東京都千代田区神田駿河台1−1
ロベルト・サモラさんはコスタリカ大学で法律を学んでいますが、ピースボートの活動を行うために来日されています。彼は、アメリカのイラク戦争を支持したコスタリカ大統領の施策を憲法違反であるとして訴え、ほぼ全面的に勝訴となりました。その話を中心に対話集会を行いました。
サモラさんは翌日にカナダに出発するにもかかわらず、貴重な時間を割いて出席下さいました。その高邁な精神には敬服いたします。
サモラさんを中央にして、向かって左側はコーディネーターの伊藤千尋さん、右側は通訳の星野弥生さん。
出席者からは次々に質問や意見が出されて、予定した話題をこなすことが出来ませんでした。そこで、7月の夏期合宿にサモラさんを招待して、続きの話を伺うことになりました。
質疑応答の中で示された、いくつかの発言を下記します。
●コスタリカ大統領がイラク戦争を支持することを打ち出したのは、コスタリカ憲法に明白に違反していることは間違いないことであり、コスタリカの市民が裏切られたという思いが非常に強く、大規模なデモが行われた。新聞の世論調査では、96%の市民が戦争に反対し、99%が戦争支持に反対した。
●私は法学部の学生だったので、何回も友達と何かしなければという話をした。コスタリカ大統領を憲法違反で訴えたのは、法的な手段しか残された道はなかったと感じたからである。当時は5年制大学の3年次が始まったばかりであり、法律の勉強はあまり進んではいなかったが、早急に訴訟を起こさなくてはならなかったので、2週間で訴状を書き上げた。
●私のほかに、弁護士会と護民官が訴訟を起こしている。デモをして戦争への支持に反対だと示しても、それだけだと変わることなく終わってしまうので、法的な訴えができることを知っている人々は訴えたのだろう。
●2004年9月に判決が出た。この判決は、イラク戦争支持は無効であるということと、アメリカ中心の有志連合のリストから削除するための手続きをとれというものである。
●みんなが戦争支持に反対をしており、道理に反して政策だから、裁判に勝って当たり前である。しかし、このような戦争支持が起きたのは初めてであり、歴史的に大事件だったので、訴えている内容(中立宣言違反や国際人権規約違反など)について、裁判所の判断がもっと踏み込んでもらいたかった。私が裁判官ならば、このような形式的な判決は書かない。
●年間に1万2千件もの憲法訴訟があるのは、簡単に憲法違反の訴訟が起こせるからだ。コスタリカの憲法48条に、だれでも憲法上の権利が侵害された場合には訴えることができるという条文がある。自分で文章が書けるなら、5歳や6歳でも最高裁判所に訴えられる。外国人も可能である。法律的な手続の知識はいらない。トイレットペーパーにかいても,ナプキンペーパーにかいてもいい。ビールのラベルに書いてもってきた人もいたという。
●小学校の生徒が行った裁判の例として、学校の脇にどぶ川が露出しているので、ぜひふたをして欲しいと、自分たちで裁判所に行って訴えた。教育権を侵害しているとして訴えたのである。このように訴えるということは,中米では一般的なこと。
●コスタリカでは、学校でも家庭でも近所の間でも友達同士でも教え会い、社会総体として、上記の権利があるということ、さらに権利を主張していくことを共有している。権利というものは体の一部であり、例えば、ぶたれたりすると訴えるよ、ということがよく言われている。
●憲法で保障されているのは基本的な権利。自分の基本的な権利が侵害されたらすぐに回復しなければ生きていけないから、すぐに訴えて回復する必要がある。だから、憲法裁判所に訴え、1か月から2か月で回復すると言うことになっている。憲法で保障する基本的な権利とその他の権利とは区別される。
●裁判所の決定は尊重しなければならない。それを守らなければ何らかの制裁がある。学校のどぶ川の場合、もし行政がちゃんとしなければ、子どもたちはフラストレーションがたまって非行に走るかも知れない。イラク戦争支持の判決についても、180年の歴史に汚点を残すことになるので、すぐに外務省は対応しなければならない。
●大統領選挙では、最初の頃はアリアスが圧勝すると言われたが、最終的には接戦となった。中米とアメリカを一緒にした自由貿易のなかに入るかどうかというのが争点となったからである。アリアスは賛成派だがソリスは反対派。自由貿易協定に入ってしまうと、他の国と同じく経済が悪くなる。
●自由貿易と自由貿易協定は異なる。自分は本当に自由で公正な貿易には賛成だが、今回の自由貿易協定には反対。「自由貿易協定」とは、アメリカ経済に中米が従属するというもの。反対する人にも2種類あって、1つは自由貿易自体に反対するものであり、もう1つは自由貿易は賛成だが今回の自由貿易協定には反対という人である。アリアスに投票した人には老人が多く、ノーベル平和賞を取ったことで、アリアス様がおっしゃるのであるから自由貿易がいいのだと信じてしまった。
●南米では、これまでの政権が親米政権で経済的にがたがたになったので、南米はほとんど反米政権となっているという大きな流れがある。これがコスタリカの大統領選挙に影響を与えている。しかし、人々の多くは中南米で起こっていることについてよく知らない。アメリカとの自由貿易協定を結んでいないのはコスタリカだけである。多くの人々が知ったならば、ソリスが勝っただけでなく,棄権率も減っただろう。アリアスは、自由貿易協定を結べば生活も豊かになると宣伝したので、それを国民が信じてしまった。イラク戦争のことで国民をだましたブッシュと一緒である。
●アメリカはさんざん他国を裏切ってきた。しかし,それでもアメリカという友達をもっていると考えていることは私には理解できない。日本にとって危険なことはアメリカの基地があることであり、アメリカが日本に攻撃をかけようとしたら簡単にできる。
●日本とコスタリカの類似性は平和憲法をもっていること。違いはコスタリカよりも日本のほうが、より実質的な平和憲法をもっていること。コスタリカでは平和の権利が国民の一部になっている。
●アリアスは、自由貿易制度をとるのであれば武器の自由貿易を認めないわけにはいかないと述べている。アリアスは20年前に武器の輸出入を禁じるべきだと言ってノーベル平和賞を受賞した人なのに,そのような人がいまは反対のことを言っている。このような条約を認めようとしているのは全くの裏切り行為であり、重大な罪である。
●コスタリカの警察の装備は非常に古くさい。弾丸を補充するお金はないので、弾丸を無駄に打つなと言われている。
●コスタリカが世界一安全な国でいられたのは、アメリカと仲が良かったからではなく、軍隊が無かったからである。武器が無く軍隊が無いことは、どの国にとっても脅威ではないから、どの国からも攻撃を受け無かった。例えば、車いすを利用しているお年寄りに対して誰も攻撃をしないことと同じ。
●憲法に保障された思想の自由というものがあるのだから、同じ社会に右も左も中道もいるのが健全であると考えている。コスタリカの選挙では、共産党もおおっぴらに出てくる。大学には共産主義者もいっぱいいる。アメリカはさまざまな規制があったがために、民主党や共和党とまっぷたつに分かれ、グレイの部分がなくなった。経済的な意味での奴隷制が現れているのがアメリカではないか。
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