SAVE”国際会議再び
Black-faced spoonbill(くろつらへらさぎ)は、主に台湾のチク地区の干潟に生息している絶滅危惧種の野鳥である。しかし、5,6年前に工業開発計画のために「くろつらへらさぎ」のいる干潟が埋めたてられることになった。自然保全のために、台湾大学やカリフォルニア大学バークレー校の研究者たちや地元の専門家・行政・住民たちが立ちあがり、“SAVE”をおこしたのが丁度5年前のこと。“SAVE”とは、Spoonbill
Action Voluntary Echoの頭文字の略語であるが、もちろん、「くろつらへらさぎ」を守り助ける意味が託されていることはいうまでもない。
1999年6月、千葉大学で“SAVE”国際シンポジウムが開かれた。千葉での“SAVE”はSanbanze Action
Voluntary Echoを意味している。そのシンポでは、台湾・米国・日本の3カ国の干潟や湿地の保全・育成のあり方についての意見交換が行われた。その時、台湾出身でカリフォルニア大学の大学院生の若きJeff
Houさんは、「くろつらへらさぎ」と干潟を守り育む活動について報告をした。日本からは、東京大学の磯部雅彦先生をはじめパネラーたちは三番瀬の保全と育みの課題と方向について語りあった。
それから3年。Jeff Houさん(現在ワシントン大学助教授)はヨハネスブルグでの国連主催の世界環境サミットで“SAVE”Internationalの活動を報告した足で、日本に立ち寄り、過日(9月13日)、千葉大学の以前と同じ会議室でのボーンセンター主催のフォーラムに出席していただいた。
グリーン・インダストリーとグリーン・ツーリズム
3年の間に、台湾の市民活動は目覚ましい前進をとげたことがHouさんの報告で明らかとなった。何と、工業開発による干潟破壊にストップをかけ、守り育むことになった!しかし、開発から保全に単純にかわったわけではない。干潟の景観ののびやかさと、「くろつらへらさぎ」が生きつづける環境の育みの価値に人々が気づいてもらうための積極的なグリーン・インダストリーとグリーン・ツーリズムの起業により、漁業者や地元の人々の職を新たにつくったのだ。
そこでは、グリーン・インダストリーとグリーン・ツーリズムは見事に結合した。漁師たちが「くろつらへらさぎ」のくらしぶりや干潟の生きものの不思議さについて語り、よそからやってきた観光客にストーリー・テラーとなり、そのことをビジネスにしていった。そこにやってくるツーリストの群は、干潟とそれにつづく“Salt
Mountain”(塩の山)の新しい塩ミュージアムを楽しみ、水の文化の多様性にふれる機会をもつことになった。新しい状況の中で、漁業をグリーン・インダストリーの方向に変え、干潟と周辺環境をグリーン・ツーリズムの対象にすることにより、野鳥の保護と干潟独自の柔らかい場所の風景をかけがえのない国民みんなの財産として守り育んでいくやり方はスバラシイ!
次いで、千葉大学の倉阪秀史助教授(法経学部総合政策学科)が、県の主催する「三番瀬円卓会議」の現状と課題を具体的かつ系統的に明示された。さらに、宇野求教授(工学部都市環境システム学科)は、東京湾の海岸線の江戸時代の景観は柔らかい生活・生産空間であったのに対し、現代のそれは、環境をひきさく固い産業・異物空間であることをヴィジュアルに示し、これからのあり方の方向について語られた。
短い時間ではあったが、この3氏の報告と会場とのやりとりの中で筆者は、台湾の経験を通して、三番瀬のこれからのあり方に大きな示唆がえられたと感じ、最後にまとめにかえてそれを発話した。
これからの三番瀬のあり方への提言
この日の討論全体がほのめかすこれからの三番瀬のあり方への提言は、次の8つのキーワードであった。
1、Enhancing urban ecological rebirth:エコロジカルな都市の再生を促す----三番瀬のこれからのあり方を考える上で、多様な具体的方策をこうずる上で、常に「何のため?」という基本的なコンセプトを明確にしておく必要がある。それは「エコロジカルな都市再生」である。この時のエコロジカルは、生態的、社会的、精神的エコロジーの広がりの中で考えたい。このことが最も肝要である。
2、Nurturing eco-industry, tourism and economic viability:エコ産業、エコツーリズム、及び地域経済の活性化---漁業を始めとする地域産業を内から元気にする仕組みを考える。
3、Verifying future's influences by intellectual action:専門的活動による未来への影響の検証---研究者、専門家たちが、科学的に予測・検証することによって状況を変える客観的基盤を明らかにしうる。
4、Intervening citizen's participation and recreation:市民参加とレクリエーション活動への介入---一般市民及び、子どもたちが干潟の存在そのものをもっと知り、日常・非日常にわたって多様な遊びと学びの体験ができる機会をふやす。
5、Sustaining natural and social resources:自然資源と社会資源を持続的に発展させる---干潟の自然とその価値を守り育むために、地域の多様な人的資源を発掘し育んでいく活動を重視する。
6、Involving trans-NGO and transnational coalition:NGО間、及び国際的な連帯へのまきこみ---市民活動グループ間の対立をこえる対話と協働の関係を促すとともに、国際的な交流・協働の関係を育んでいく
7、Opening collaborative sence:協働の心をひらく---異なった価値観をもつ主体・グループ間で相手を否定することなく、1+1が2にも3にも4にもなる協働のマインドをふくらませることに留意する。
8、Noting holistic appraoch:全体的なプローチを大切にする---「モノ・カネ・セイド」的発想や、個別機能的とらえ方をこえて、「ヒト・クラシ・イノチ」ありきの発想を大切にするとともに自然と人工、保全と開発、市民と行政、漁業利用と市民利用などを二項対立的にとらえることなく、包括的にとらえる。
以上8つのキーワードの頭文字を束ねてつないでみると“ENVISION(ビジョンづくり)”となった。三番瀬のこれからのあり方のビジョンをどのように描くかが、今、議論されているところであるが、この日の内容は真に創造的なビジョンの大切な内実が浮かびあがってきた。
延藤安弘
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