第30回 ボーンセンター露天風呂 「自然エネルギーの現実性と地域社会の再構築の必要性」 |
【講師】
柳沢吉則(サポーター会員)
現在、石油の価格は高騰、需給は逼迫し、エネルギーの主役の立場を失う可能性が出てきた。一方、自然エネルギーは技術革新及び量産効果により経済性が向上し、実用に近づいている。
本稿では、まず、自然エネルギー、既存エネルギーの定量的実現性を確認する。次に、自然エネルギーがどのくらいのコスト競争力があるか、電気エネルギーへの変換時点で比較する。さらに自然エネルギーの問題点であるエネルギーの集積の困難さを克服する為の一提案として、地域型エネルギー利用について概説する。
1. 自然エネルギー及び化石燃料の有限性と持続可能性
自然エネルギーはストックが無限であるが、フローは有限、化石燃料、核燃料は無論有限である。まず、自然エネルギーのフローが需要に対する十分性、化石燃料、核燃料の総量を定量的に確認しておく。
2000年における世界での年間1次エネルギー使用量は370兆MJ、2100年には700兆MJに達し、ここからは徐々に増えて800兆MJで定常に達すると予想されている1)。一方、地球上で年間あたり計算した場合、太陽からのエネルギー量は540京MJ、風力のエネルギー量は1.1京MJ、光合成の固定エネルギー量8000兆MJ、水力エネルギー開発可能エネルギー量200MJであり2)、いわゆる自然エネルギーで、次のイノベーションまで人類の必要エネルギーは賄い得る。
原子力(核分裂+核融合)の埋蔵エネルギーは2.7垓MJで3)、数百年のオーダーで枯渇する。
また、地球上で年間あたり植物の埋蔵は80MJ、地球上の化石燃料の蓄積は5.7京MJと推定されており、化石燃料は数十〜数百年のオーダーで枯渇する。よく言われる「石油はあとウン十年」という数字は採算の範囲内で採掘可能である可採埋蔵量を用いており、この数字とは開きがある。
化石燃料は有限ではあるが、現在の使用量、あるいはこれから増加する量を合わせても近日中に枯渇するものではない。しかし、経済性のある化石燃料はかなり近い将来枯渇する。これを逆に言えば、経済性のある化石燃料がなくなった時点で、自然エネルギーの経済性が発生することも意味する。
表1 発電コスト(発電端) |
2. 自然エネルギーの競争力
自然エネルギーの利用について、一例として発電コストで比較する。その他のエネルギー利用コスト比較(運輸部門など)については他稿に譲る。表1に発電所を出るところでのコスト(発電端コスト)について概略の数値を示す。
これまで、石油価格の上限というのは37ドル/バレル、この価格は発電分野において風力発電等に対する価格競争力を失わない上限値であると考えられてきた。しかし今日、この価格を越えた市場価格となっている。(NYWTI,72.66$/バレル,2006年7月19日現在)現在、日本では石油火力発電はマイナーな存在となっている。風力発電には必要なときに必要な発電が出来ないというような問題(負荷変動追随性)等これから克服しなければならない技術上の問題点があり、また、火力発電も設備の償却が終わっていないことから、急激に自然エネルギーに切り替えることは出来ないが、経済的な環境は既に十分整っていると考える。
また、原子力発電との比較であるが、コスト論的には同等と考える。今後、原子炉のスクラップ&ビルドが必要になる2020年頃において、負荷変動追随性が無く、初期投資が大、さらには廃棄物、バックエンドのコストがかさむ原子力が敬遠される可能性は大きく、原子炉が廃棄されるに従い、置き換えとなっていく可能性は高い。
バイオマス、太陽光は高コストであるが、負荷変動追随性があり石油、天然ガス火力発電の代替となり得ること、フローが水力よりも大きく、人類のエネルギー需要を十分賄いうることから重要性は失われない。今後の技術革新が必要である。
3. 地域型エネルギー利用
自然エネルギーの利用におけるコスト上の最大の問題は集積にある。そこで、提案されているのが、自然エネルギーの地域利用である。ここでは電気エネルギーの地域利用について概説する。
電力エネルギーは大きく発電コストと送電コストから構成される。(図1)火力、原子力などは熱機関であるため、高効率の発電を行うために大規模化が必須であり、このため送電も不可欠である。一方、自然エネルギーは資源が分散している分、オンサイトでの発電=地域小型発電所に適しており、同時に送電コストを低減しうる。オンサイト発電では発電端コスト=送電端コストであり、送電コストの分、発電コストが上乗せされてもコスト競争力を持ちうる。今後、技術革新等によりバイオマス発電が20円/KWh以下で発電可能になればコスト競争力も出てくる。かつ、バイオマス発電のような余熱発生のある発電方式のばあい、地域型発電により余熱利用の可能性も開けてくる。
地域での低品位熱(温度が低い温水)の利用施設として銭湯に注目している。また、銭湯は過去、街の賑わいの中心のひとつとしての地位を占めていた時代もあった。これらを複合し、「地域中核・自然エネルギーエネルギー利用型電熱併給銭湯」といったものの設立を手がけてみたいと考えている。
図1 地域型エネルギー利用 |
参考文献
1.電力中央研究所編:次世代エネルギー構想―このままでは資源が枯渇するー,電力新報社(1998).
2.T. G. Spiro他著, 岩田元彦他訳:「地球環境の化学」, 学会出版センター(2000).
3.宮本健郎:「新エネルギー工学入門(太陽,原子力,核融合)」, 培風館(1996).
4.平成14年環境白書他