□ 事業報告(事業協力) 
○ 2006年度全国都市再生モデル調査事業報告
大規模団地の地域活性化方策モデル調査事業−ハイタウン塩浜(市川市)−

1.事業の背景
ハイタウン塩浜団地は市川市塩浜4-2に立地し、2005年7月1日現在の常住人口は6,394人(世帯数2,902)、賃貸住宅1,411戸、分譲住宅1,176戸。隣接して332戸の市営住宅がある。昭和50年代に旧日本住宅公団が供給した団地で、大都市近郊のマンモス団地に共通した課題を抱えている。即ち建物の老朽化と一緒に住民の少子高齢化や独居老人の増加が進行。若い家族世代の減少による活力の低下、住民の自治活動離れが進み、子どもや高齢者の安全性についての不安も増している。象徴的なのが空き家・空き店舗の増加で、地域コミュニティの再構築、横断的な福祉対策、地域活力の回復などの取り組みが必要になっている。
 本事業は、内閣府の2006年度全国都市再生モデル調査事業で、応募した<NPO法人ニュースタート事務局>からの要請を受けて、ボーンセンターもこの事業に協力することになった。モデル調査事業は、その事業成果が類似の課題を抱えた他地域において応用できることが目的になっている。他に<NPO法人まちづくりNPOセレガ>がこの事業に加わり、このNPO法人3団体で事務局を構成した。
事業全体の企画と進行のシナリオはNPO法人3団体が協議して描いき、協力者や協力団体の交渉も、3団体が手分けした。他に、ボーンセンターは主に住民意見交換会をコーディネートする役割を受け持った。
ボーンセンターはこの4月から、千葉市の長沼コミュニティセンターで株式会社と連携して指定管理者となったが、こうした複数の団体がそれぞれの強みを発揮できるジョイントベンチャー方式は、ネットワークを重視するNPO法人の間で今後増えていくと予想される。したがって、本事業への参加は、中間支援組織であるボーンセンターにとって実証研究の意味を持つものである。

2.事業概要と経過


本事業は、@住民意向調査、A住民意見交換会(ハイタウン塩浜・空き店舗を活用した福祉づくり準備会を創設)、B社会実験調査の3つの柱で構成した。まず、2005年6月から当該団地に関する情報を市川市や都市機構(旧日本住宅公団)等から収集し、現地の視察を行なうことから本事業が始まった。
@住民意識調査
 a.住民アンケート
   2005年10月31日〜11月12日に実施。団地住民が考える地域の課題やニーズ、自治活動への参加意識、空き店舗対策の必要性や具体的内容等についてアンケートを実施。全戸にポスティングし、郵送で回収。回答者数は368人(12.3%)。
 b.住民ヒアリング
  2005年12月10日に地域交流イベントと称してフリーマーケットや餅つきを実施、当該団地の買い物広場に多数の住民を集めた。前述のアンケート結果を公表し、主に空き店舗活用の意向について聞き取り調査。回答者数41人。
 c.地域の好きな場所・嫌いな場所マップづくり
  前述の地域交流イベントの開催時間に団地住民を対象に実施。団地内とその周辺の好きな場所・嫌いな場所を地図に書き込んでもらい、その理由について聞き取り調査を行った。回答者数は70人(回答者の半数は子ども)。
 d.社会実験ヒアリング
   空き店舗を利用して開設した地域交流を目的とした社会実験施設「なかよしの森」とその前面の買い物広場で2006年3月11日に実施。「なかよしの森」についての感想や意見、事業継続の手立て等についての聞き取り調査。回答者数23名。

A住民意見交換会(ハイタウン塩浜・空き店舗を活用した福祉づくり準備会)
 a.第1回意見交換会
   2005年8月26日にNPO法人ニュースタート事務局行徳センターで開催。団地住民、市川市、都市機構など13名が参加。本事業の目的、内容等について事務局が説明し、その後に意見交換。
 b.第2回意見交換会
   2005年10月14日にハイタウン塩浜の住民集会所で実施。団地住民、市川市、千葉県、都市機構など23名が参加。本事業の内容と予定、本事業終了後の構想について意見交換。
 c.第3回意見交換会
   2005年12月10日にハイタウン塩浜の住民集会所で実施。団地住民、千葉県など15名が参加。アンケート調査結果をもとに地域の活性化方策について意見交換。
 d.第4回意見交換会
   2006年1月15日にハイタウン塩浜の住民集会所で開催。子どもたちを含む団地住民15名が参加。第一回ワークショップ「空き店舗を活用して何ができるか」を実施。子どもの居場所、高齢者の居場所等の提案があり、子どもグループの皆が交流できる場所の発表が注目された。
 e.第5回意見交換会
   2006年1月28日にハイタウン塩浜の住民集会所で開催。子どもたちを含む団地住民、千葉県など19名が参加。第二回ワークショップ「できることをどのようにすすめるか」を実施。空き店舗を活用しての社会実験は子どもと高齢者が交流できる場所づくりに決定した、レイアウトと施設名「なかよしの森」が決定。子どもや高齢者も利用するだけでなく施設管理に加わることになった。
 f.第6回意見交換会
   2006年2月26日に完成した空き店舗を活用した社会実験施設「なかよしの森」で開催。子どもたちを含む団地住民14名が参加。「なかよしの森」の利用状況をもとに、施設の運営上の問題点の整理し、その後に意見交換。
 g.第7回意見交換会
   2006年3月5日に社会実験施設「なかよしの森」で開催。子どもたちを含む団地住民18名が参加。「なかよしの森」の必要性を確認。参加者全員が施設の継続を望んだことから、次年度以降の開設方法、内容の見直し。運営体制等について課題を整理し、その後に意見交換。

B社会実験調査
  2006年2月19日〜3月11日の22日間、当該団地の空き店舗を活用して社会実験施設「なかよしの森」を開設した。実施内容は複合で、子どもの居場所(遊び、学び、交流、体験)、高齢者交流サロン(憩い、相談)、住民交流スペース(地域住民の交流、歓談)とした。
期間中の午前10時〜午後7時、記名した利用者の延べ人数は子ども中心に1,083人(成人243人、子ども840人)に達し、毎日平均50名の利用があった。
  団地住民の交流、支え合いを醸成する団地内の賑わいづくり方策としての成果が確認できた。


「なかよしの森」看板

空き店舗「なかよしの森」

 

 

3.確認された課題と対応方策
 社会実験調査終了後の3月25日、社会実験施設「なかよしの森」の再開を望む団地住民有志と本事業全般を振り返り、「なかよしの森」を団地のコミュニティ再生・活性化事業と位置づけて団地住民が主体的に管理運営していくためにどのような課題があるか話し合い、その対応方策についても意見交換した。
@確認された課題
 a.団地内にNPO活動に対しての理解不足や不信感、その一方で過度の依頼感や期待感が根強くあるため、団地住民の参加や連携が促進しにくい。
 b.賃貸、分譲、市営等の居住者ごとに生活や地域との関係についての考え方が異なるために、団地住民間の関係性が乏しく、参加者や協力者が限定されてしまう傾向がある。
 c.団地住民に地域力の衰退や安全面についての不安感が根強くあるものの、自治活動や地域福祉活動への若い世代の参加が乏しい。自治会(市営を含めて4自治会)等の地縁組織の役割の不明確さなどにより、団地住民が自主的に地域活動に参加しにくい環境が醸成されてしまっている。
 d.空き店舗の現在の賃借料、スケルトンからの自主改修のやり方では、地域福祉を目的とした団地住民事業の継続的な運営は難しいという考え方が根強くある。

A必要な方策
 a.団地住民の起業
   既存の行政施策や自治活動では不十分な団地住民のための事業・サービスを補完するために、今後は団地住民の起業、NPOづくりなどが必要になる。
 b.新たな支援体制づくり
団地住民組織と既存NPOの連携、あるいは地縁組織、地方自治体、関係機関との協働や調整を基にした新たな支援体制づくりが必要になる。
 c.行政等の柔軟な対応
   地域福祉、地域自治の活動は、制度上社会福祉協議会や自治会等の地縁組織が担うこととなっており、地域住民やNPOの自主的な活動については、前例・事例等がないとの理由から、行政の支援や連携を期待しにくい状況がある。既存の制度や計画の枠組みや位置づけを見直すような行政側の柔軟な対応や改善が必要になる。
 d.空き店舗等活用についての特例措置の導入
   団地内の空き店舗、空き部屋などの遊休施設を地域資源として住民組織やNPOが有効活用していくには、施設の維持管理の利点や社会貢献の見地から、高熱水道料等を除き無償で賃貸するなど、特に財政面において脆弱な活動主体を支援する供給側の特例措置が必要になる。

B団地再生・活性化の方向
  当該団地のような他と区切られた特定地域では、少子高齢化や都市化傾向による若い世代の流出等による影響を受けやすく、コミュニティの不活性化、地域の閉鎖性や自治能力等の低下が進み、地域全体の衰退が更に進行することが懸念される。
 このような状況を改善するには、直接必要な住民サービスを拡充していくことも大切であるが、そうした一方的なサービス提供だけではなく、今回のモデル調査事業で確認されたような団地住民の日常的な交流、支え合いを醸成させていく機会や場所といった装置づくりが必要になる。
 当該団地内のいくつかの遊休施設を活用し、団地住民、NPO、行政等が協力して団地の活性化を促す拠点及びその運営を支える方策や支援制度等を整備し、更にそれら拠点が有機的にネットワーク化されることが重要である。
 加えて、団地内に雇用機会を創造し、NPO等からの若者の参加や団地内定住化を促進するなど、活動や地域のソーシャルミックス化を図り、世代の偏り、地域活動のマンネリ化を改善していくことも地域活性化にとって必要と考えられる。

 

4.今後のハイタウン塩浜
  本調査は、既に3月末日で終了している。本調査は、当該団地に何を残せたか、最後に4月以降の団地住民の取り組みについて報告しておきたい。
  社会実験施設「なかよしの森」は、そこを活用した団地住民の記憶に残り、新たな住民活動が始まっている。短期間であったが、具体的な空き店舗活用の印象は、それまでのどのような説明よりも効果が大きかったようである。ひょっとしたら自分たちで運営できるかもしれない、運営できるようにしなければいけない、と考える団地住民の輪が少しずつ広がりつつある。
  任意の住民組織ではあるが、「ハイタウン塩浜の空き店舗を活用する会」が誕生し、「なかよしの森」を利用した子どもたちもチラシ配りを手伝っている。あまり無理はしないで、交流イベントなどを実施しながら、 賛同者を増やしていく計画を立てている。
  「ハイタウン塩浜の空き店舗を活用する会」が目標とする空き店舗活用の視点、事業内容、運営体制は、本調査の結果を踏まえ、以下のようになっている。
@空き店舗活用の視点
 a.子どもが安心して遊び、学び、また異年齢・多世代の人たちと交流できる場とする。
 b.地域の人たちがさまざまな形で交流し、支えあい、潤いを実感できる場所とする。
 c.高齢者が気軽に立ち寄り、地域とのつながりを持てる場所とする。
 d.雇用を創出できる場とする。
 e.行政や地域情報の配信及び相談窓口の設置など、団地住民の身近な生活をサポートする場とする。
 f.若者が充実感や責任感を持って活動に参加できる場とする。
 g.団地住民を中心とした組織を発足させ、一体的に事業の推進が図れる場とする。
 h.事業の安定、継続、改善を掲げ、団地住民、地縁組織、行政、関係機関、NPO等の支援団体などとのつながりを大切にした開かれた場とする。

A空き店舗を活用した事業内容
 a.子どもの居場所
  ○子どものための遊びと学びのスペースの提供/○子どもショップの開設(文具、玩具交換等)/○子どもと大人の協働イベントの開催/○子どものための故郷づくり(地域福祉活動拠点)
 b.地域コミュニティ
  ○高齢者サロンの開設/○趣味や学習(カルチャー機能)のスペースの提供/○子育て家族交換会の開催/○外国籍住民交流会の開催/○異年齢・多世代が集う懇親会の開催
 c.自治活動の支援
  ○自治会、老人会、子ども会等の催事の支援/○安全パトロール等の支援/○消防、避難訓練等の支援
 d.コミュニティビジネス
  ○地域生活お手伝いネット事業の展開*/○子どもの学習指導/○生涯学習教室、交流ツアー等の企画・運営/○手づくり製品、リサイクル品の販売や第三世界ショップの運営/廉価な喫茶店
*地域生活お手伝いネット事業……買い物、ゴミ出し、郵便物、書類出し代行、家具の移動、清掃、簡単な修繕、引越し、不用品の回収、高齢者や子どもの付き添い及び移送など日常生活の様々なサービスを有料で提供する事業。

B今後の推進方策と運営体制
 a.運営委員会
   団地住民が主体となって運営委員会を設立し、会則を作成して空き店舗の利活用、管理及び運営を実施していく。運営委員会の設立に当たっては、団地住民、地縁組織、地元商店会他、多様な主体に事業についての説明や啓発活動、参加協力や援助等の呼びかけを行うとともに、運営委員会メンバーが中心となって運営上必要な協議や地域への情報提供を実施する。
 b.行政や関係機関への働きかけ
   推進しようとする事業の団地住民の賛同者・協力者を増やし、地元自治体には、地域のゴミの減量化や地域福祉等の社会貢献活動を評価してもらい、対価を受ける仕組みを提案していく。都市機構や国に対して空き店舗の賃借料等に関する優遇措置を働きかけるとともに、企業のCSR事業との連携についても働きかける。
 c.事業経費
   事業経費は、団地住民を核とした個人・団体からの寄付、賛助、利用料金、参加費、有料サービスの収益、外部の助成金等で充当する。当面は会費等による住民参加に大きく期待できないことから、地域生活お手伝いネット事業等のコミュニティビジネスの優先的な導入、フリーマーケット等のイベント事業への参加促進を図り、収益を運営委員会活動の経費に充てるようにする。
 


 
 

店舗前広場・ドームイベント

住民との会議風景(店舗内)

5.終わりに
運営委員会すなわち任意の推進組織の名称は「ハイタウン塩浜の空き店舗を活用する会」に決まった。団地住民が主体的に会則を検討し、役員も選出された。ファミリー会員の仕組みができたことから、小学校4・5年の子どもたちも立派な運営委員会のメンバーになっている。10名前後の会員からのスタートだったが、既に趣旨に賛同して協力を申し出る新会員が少しずつ増えている。その中には元自治会長や市議会議員などの顔も見られる。
 この事業の成功は、ひとえに団地住民の盛り上がりにかかっている。運営委員会は団地の行事にも積極的に参加する計画を練るなど、あまり無理をしないで、ゆっくりとできるところから活動を広げていく予定でいる。多世代にわたる団地住民の大きな連携ができていけば、少しずつ目標に近づくことができる。
 主体は団地住民であっても、協力者の存在は重要だ。運営委員会は和洋女子大学などの地元市川市の大学にも協力を要請している。高齢者福祉やフリーマーケットなどの専門的なノウハウを持ったNPOとの連携も検討している。モデル調査事業の事務局を担ったボーンセンターを含むNPO3団体も、運営委員会の要請があればいつでも支援するつもりで、運営委員会にオブザーバーとして参加している。
                          (副代表 栗原祐治)

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