「博物館の側から、なぜ現代社会の中で博物館が必要なのか、
世の中の役に立っていることを主張すべき」
地方自治体が厳しい財政状況にある中、博物館は「冬の時代」にあります。一方、有権者多数派の意識に忠実と言われる橋下徹氏は学術・文化行政のコストカットを「目玉」の一つとしています。全国レベルで文化行政の意義を改めて問い直す時期にあります。
3月18日、千葉県立中央博物館一階講堂で、当センター主催のシンポジウム「生物多様性保全シンクタンクと博物館〜行財政改革から10年、博物館「冬の時代」を打開するために」が約100名の参加で開催されました。
千葉県では2002年からの行財政改革により、中央博物館(分館海を含む)の当初予算の削減割合は、県全体の8%減、教育庁全体の2%減を大きく上回る20%減(10年度)、内人件費を除けば35%減であり、自然誌系専門職員は50名(06年度)→43名(10年度)となりました。このままでは次の世代に引き継ぐことすら困難であることは目に見えています。詳細の報告書は追加調査結果や新たな提言とともに今年中に公表する予定です。今回は三重県立博物館長の布谷知夫さんの記念講演「県民と響きあう博物館とは〜博物館のシンクタンク機能を活用して」からいくつかを紹介させていただきます。
●「博物館いらない」を公約に当選した知事を説得
滋賀県立琵琶湖博物館を定年退職した布谷さんは三重県立博物館の新館建設のため館長として招へいされましたが、昨年4月、三重県では「博物館はいらない」を公約に掲げた知事が当選しました。布谷さんは知事のマニフェストを研究し、講演内容を検討した結果、知事が公約したことを実現するためにも博物館の充実が不可欠であると考えました。そして、知事に対して、博物館の5つの意義(@博物館は過去と現在、そして未来をつなぐ場である、A博物館しかできない学びがある、B自主的な学びは、人のネットワークを生み出す、C地域についての学びは、地域社会を活発にする、D成熟した時代は、博物館を求める)を説き、昨年の6月には知事から現在の博物館計画を継続するというお墨付きをもらったそうです。その際、知事との協議の結果出した新館の5つの役割・位置づけとは、@県民にとって精神的なバックボーンとなる三重県のアイデンティティを保存、継承する、A博物館は未来への投資である、B博物館は人が育つ場である、C新しい豊かさのモデルを作る、D産業振興や観光のために、というものでした。
●県総合計画に博物館から「逆提案」
千葉県で2年前に策定された総合計画には「生物多様性」保全の姿勢は乏しく、肝心の博物館はほとんど策定には関与しなかったものと思われます。さて、布谷さんは、琵琶湖博物館時代、滋賀県の総合計画づくりで、県から声がかからず、これはほっておけないということで館内に勉強チームを作って博物館の持つ総合的機能を生かした県の将来像に対する逆提案をして、相当程度反映させたことを話してくれました。また県庁から派遣されてくる技師と学芸員が議論し考えたことを、技師が県にもどって政策に反映させてきたこともなども報告されました。
こうした取り組みの根底に、布谷さんが考えるあるべき博物館の姿=「来館者や利用者を教育する場ではなく、博物館と利用者とが双方向に情報を往来させる場所であるということと、必要な情報は地域のくらしの中にあるので、本当に大切にすべきは地域そのものであり博物館という場所ではない」(「博物館の現状と評価の課題」『施策としての博物館の実践的評価』雄山閣)という理念を感じさせます。布谷さんは「博物館の側から、なぜ現代の社会の中で、博物館が必要なのか、博物館が世の中の役に立っているということを主張すべきだと思う」と語ります。
博物館の持つ総合的な機能を生かし切れていない千葉県の行政構造の改革と博物館からの強烈な自己主張が不可欠であることを改めて感じた講演でした。
(事務局長 川本幸立 )