市民自治は適正に推進されているか?
−千葉市民活動支援センターの指定管理制度導入の問題点−

 千葉市(担当:市民自治推進課)は、2014年4月から千葉市民活動支援センター(ちば市民活力創造プラザ)の管理・運営に関して、現在の委託事業から指定管理者制度に移行することを決定し、10月31日に公募説明会が実施された。募集期間は既に終了し、年内12月末までには、指定管理者候補が決定する予定だ。
私の手元に説明会の資料(千葉市民活動支援センター設置管理条例、千葉市民活動支援センターの管理に関する基本協定書(案)、千葉市民活動支援センター指定管理者募集要項、千葉市民活動支援センター管理運営の基準)及び説明会における質疑応答について千葉市が作成し公表した表がある。それらの内容は、かなりの部分で重複している。
現在、日本各地に公設の市民活動支援センターが設置されているので、これら支援センターの状況等を勘案しながら、千葉市民活動支援センターの指定管理者制度導入の問題点について考えてみたい。

1.問題点1‥指定管理者委託料は適正か?
 最初から委託料の額を問題にするのは、千葉市の指定管理者募集要項で示された指定管理者が行う業務の範囲、指定管理者が配慮しなければならない千葉市の規定、そして千葉市が設定した指定管理者委託金の上限額の関係の中に、千葉市の市民活動支援の姿勢が見てとれるからである。
公募説明会で示された千葉市の指定管理者委託金の上限額は、3年間で51,057,000円(8%の消費税を含む)。1年間の委託料は、約1700万円ということになる。今年支払われる予定の千葉市民活動支援センターの委託料の総額からすれば、2割ほど増えているようだが、来年度の指定管理者の仕事量や責任は、現在よりもかなり増すことになるので、この増加分は当然といえるであろう。問題なのは、そもそもの千葉市の委託料の上限額設定が、千葉市が求める指定管理者の技量や業務の範囲を前提にした場合、適正であるかということである。例えば、施設管理ということで、千葉市のコミュニティセンターの指定管理者委託金と比較して、上限額が妥当なのか、ということなのである。
 全国の公設の市民活動支援の経費を比較すると、年間1千万円前後から7〜8千万円クラスまで大きなバラつきが見られる。7〜8千万円のところは、全国的なネットワークをキープしながら、市民公益活動の調査研究や人材育成の研修を行ったり、専門家派遣を含む相談事業等も充実していて、そこには自治体としての積極的な姿勢が現れている。一方、最低限の施設管理を行っている一般的な市町村等が設立した市民活動支援センターの経費は、年間1千万円前後が多い。単純には比較できないが、千葉市の政令指定都市としての人口規模を考えれば、年間1700万円は、最低限の施設管理経費に位置づけられるであろう。
 その一方で、千葉市が示している指定管理者委託料が含まれる業務の範囲は多岐にわたっている。これらを列挙すると、

(1) 施設管理業務(施設貸出業務、使用の届出・許可に係る業務、市からの事業実 施受 託業務、その他の業務)
(2) 設置管理条例第2条に掲げる事業に実施に係る業務(市民公益活動のための施 設の 提供に関すること、市民公益活動に関する情報の収集及び提供に関する こと、市民 公益活動を行うもの相互の間及び市民公益活動を行うものと関 係機関のとの間の交 流及び連携の促進に関すること、市民公益活動の相談に 関すること、その他センターの設置目的を達するために必要な事業)
(3) 維持管理業務(保守管理業務【1件につき60万円以下の修繕を含む】、清掃業 務、 設備機器管理業務、備品管理業務、消耗品の管理業務、その他の業務)
(4) 経営管理業務(事業計画書等の作成業務、事業報告書等の作成業務、事業評価 業務、 関係機関との連絡調整業務、指定期間終了後の引継業務、その他の業務)

 以上は、市民活動支援センターにとって必要最低限の業務であり、同じように施設管理を行う千葉市のコミュニティセンターと比較しても、かなりの質と量を伴うものといえる。
 一方で(1)〜(4)の業務には重複するようなものも列挙されているが、はっきり明文化されていない業務も多い。例えば、(2)の中に「市民公益活動に関する情報の収集及び提供に関すること」とあるが、情報を収集して提供するためには、情報を分析整理する必要があるし、現在のような情報社会では、ホームページやメルマガ等の整備も必要になるであろう。そういうものも含めて、(1)〜(4)の業務全ての末尾に(その他の業務、その他センターの設置目的を達するために必要な事業)という言葉が並んでいる。指定管理者が、利用者が満足するサービス提供に一所懸命になればなるほど、その他で括られた業務が増えていく構造になっている。
ボーンセンターは、10月31日の公募説明会に参加し、千葉市に年間約1700万円の上限額を設定するのであれば、積算根拠を示すように要請した。その要請に対して千葉市市民自治推進課は、持ち帰って検討すると回答。その後に公表された説明会の問答表では、質問「指定管理委託料の積算根拠を明示できないか」、後日回答分「指定管理委託料をどのように使用するかは、提案事項であり、積算根拠の明示は行わない」と示した。限度額を千葉市が1年間で約1700万円にしたという文脈を知らずに問答表だけみれば、もっともらしい回答になっているが、よくよく考えれば、はぐらかしであり、まともな回答になっていない。市民自治推進課には反論して欲しいのだが、ボーンセンターは、千葉市には想定した業務のコスト計算に基づく明確な積算根拠はなく、参考程度のものはあるのだろうが、まず予算ありきだったのではないか、と考えている。もっと積算根拠について調査や市民との対話を含めて、検討すべきであったと考えている。
 市民活動支援センターの業務に関する積算根拠はなかなかやっかいかつ複雑な問題であることは理解している。市民自治推進課としても今回初めて指定管理者の公募を行ったわけで、この貴重なきっかけを問題解決の糸口として大切に引き継いで欲しいものである。 例えば、公募説明会には、NPO法人だけでなく、民間企業も参加していた。その中に指定管理者に名乗りを上げる企業があれば、その内容をチェックして優れていれば採択すればよい。実際に来年度に指定管理者がどのように業務をこなすか、利用者満足度や千葉市としての満足度を検証すれば、1700万円の一定の評価ができるはずである。もし民間企業に門戸を開いたにもかかわらず、民間企業がどこも公募しないのであれば、上限額に問題ないとは言えないであろう。

2.問題点2‥千葉市自らが格差社会を拡大することへの懸念
 ボーンセンターは、民間の営利企業が市民活動支援センターの指定管理者になった事例を知らない。市民活動支援センターの適切な管理・運営には、専門的な知識や経験が必要と考えているし、実際に、千葉市の募集要項をみると、高度な専門性や経験に期待し、研修の機会を設けることなどを含めてセンター職員の一定のレベルを求めている。 そうした専門性が期待されているにも関わらず、公設の市民活動支援センターでは、行政直営の施設と指定管理者の施設では、仕事の内容に大きな差がないものの、常勤職員の年収(給与)格差が2倍程度あるといわれている。直営施設の常勤職員の平均年収は約400万円、指定管理者や委託事業者の常勤職員の平均年収が約200万円という調査データがある。内閣府や日本NPOセンターの調査でも似たような傾向が示されている。 千葉市の指定管理者委託金では、上限の約1700万円で契約できたとしても、常勤職員の年収は、他の市民活動支援センターの前例をみても200万円以下になると思われる。 千葉市が作成した市民活動支援センターの管理運営の基準によると、開館時間は、午前9時から午後6時までの9時間だが、準備や片付けの時間を考慮すれば、実質10時間になると考えられる。しかも、利用者の希望があれば、午後9時まで会議室の使用を認めなければならず、人が張り付かねばならない。休館日は12月29日から1月3日までの年間6日間である。1日に充当できる経費は、5万円に遠く満たないことになる。 人件費支出については、前出の千葉市が定めた(1)〜(4)の業務を勘案すれば、そのうちの半分程度がぎりぎりのラインと思われる。千葉市は体裁だけ考えて、最初からどこかで指定管理者がどこからか補助金を得ること、ボランティアが指定管理者をサポートすること、自主事業の利益を充当することなどを期待しているのではないだろうか。 ひどい職場環境であっても、それでも、全国の公設の市民活動支援センターには、無理を承知で管理者に名乗りを上げるNPO法人がいる。それは千葉市においても例外ではないと思われる。NPOは、委託金を得ることよりも市民活動を盛んにするというミッションを優先させるからこそ名乗りを上げるのである。「誰かが名乗りをあげないと、所属する自治体の市民活動施策が後退することを恐れる」という本音が管理者からは聞こえてくる。
 しかし、無理なものは無理、厳しいものは厳しいのである。常勤職員の平均年収200万円がそれを示しているし、パートを含む他の就業者にとっては、職場として不安定で、最低賃金に近い条件でサービス残業等に追われている。キャリアを積みたい若者や有償のボランティアと割り切っている人は一定期間頑張れるようだが、待遇面での従業者満足度が低いので、ミッションに対して強い思いを持続させないと続かない。また、福利厚生的な費用の捻出も十分ではなく、ほとんどの従業者にスキルアップさせる余裕が指定管理者にない。これでは人材も育たない。ブラック企業という言葉があるが、それと変わらない残酷物語が描けるような職場条件なのである。 千葉市がコストダウンのために市場化に取り組んでいることは理解できるが、こうした実態に目を瞑るような施策は、人権への配慮が足りないといわざるをえない。千葉市自らがブラック企業もどきの管理者を生み出すことなどがあってはならないのではないのか。 千葉市の正規職員の中に、市民活動支援センターの常勤職員(常勤職員の多くはセンター長のような責任者)と同じような年収200万円の職員がいるとは思えない。 こうした実態を千葉市がしっかり見据え、把握し、対処しようとしないのであれば、それは千葉市職員の特権意識の現われと考えざるを得ない。職員個人が意識していなくても、組織ぐるみで特権的な先行観念が支配しているように見えてくる。市民自治を推進しようとする課にまでそうした先行観念があるとすれば、新しい社会的価値を生み出すための強固な信頼関係を行政と市民の間に築くことは難しく、千葉市が唱える市民自治推進が単なるリップサービス、あるいは議会対応用アリバイづくりの絵空事と見られても仕方がないのではないか。市民自治にとって行政職員の特権意識は邪魔になる。市民自治推進課には、市民活動センターの職場環境のような人権に絡む問題に、庁内で真っ先に声をあげる課であって欲しいものである。

3.問題3‥千葉市が一方的に協定書を策定する
 10月31日の公募説明会では、「千葉市民活動支援センターの管理に関する基本協定書(案)」が示された。(案)と書かれているので、次のような質問をしてみた。 「この協定書の案は、案なのだから指定管理者との間で文言をチェックして、加筆修正するものなのか」と。回答は、「既に決定していることなので書き換えは認められない」とのこと。案と言うのは体裁で、案ではないことがわかった。 この協定書の内容は、行政が一方的に、行政の視点で(あるいは論理で)、指定管理者を縛るものであり、実際には指示書あるいは命令書と言えるものである。内容全体の中で行政の役割や責任といった行政を縛る記述はほとんどみられない。少なくとも協定書と言うからには、行政の役割や責任の範囲も明確に記述されるべきであろう。 行政は、「市民と行政の協働は対等な関係」と言い、「市民自治は尊重される」と言うが、ほとんどそれは建前にすぎないことを感じる。行政の組織ぐるみの先行的な特権意識の中では、行政は基本的に常に市民の上にいる。内容的には指示書あるいは命令書、これを協定書と称し、表面を取り繕っているだけである。
外交でもそうだが、協定と言うからには、対等な二者の間に一方的な指示や命令は考えられない。千葉市は市民に無茶を言われては困ると考えているかもしれないが、それこそが特権意識である。相互に立場を理解し、細部にわたって目的が共有されていれば、丁寧に交渉することで双方が納得できる建設的な協定書をつくることは可能であろう。逆に、とことん対話して、それでも相互理解と目的の共有ができなければ、協定を結ばなければよい。協定書は、一方的に相手を納得させるものではなく、相互に納得するものであろう。 行政と市民が協力・協働して公共を担う時代となり、千葉市は市民自治推進課をつくった。行政も市民も先行観念を払拭するには困難も伴うが、そういうものを変えていかないと新たな価値を生み出すことはできない。 既に、市民と行政が交渉しながら協定書を作成することで自治を推進している自治体もある。千葉市の市民自治も行政と市民の先行観念を打ち破ることの意味に配慮しながら推進して欲しいものである。
(市民研究所:栗原裕治)

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