○高度地区見直しの背景
近年千葉市においても、住宅を主体とする地域に高層建築物の計画が増え、住環境への不安から地域の問題となることが多く、行政への相談や陳情など地域の住環境保全への対策が強く求められている。現在の高度地区による高さ制限は、北側隣地境界線からの距離に応じて建築物の高さの限度を斜線状に定めており上限が定められていないため、大規模な敷地においては、高層建築物が建築可能となっている。(尚、
第一種及び第二種低層住居専用地域では高さの限度が10mに定められている。)このような状況を踏まえ、加えて高さの上限値を定めることを千葉市は検討している。既に全国で約130都市が、政令市では19市中11市が制限している。県内でも平成21年に船橋市が制限している。
○検討の経緯と検討案
千葉市は、平成22年9月1日「都市計画高度地区の見直し検討」案を公表(市のホームページPDFデータ )し、パブコメ等を行った。寄せられた意見の概要は平成22年11月30日公表された。次いで平成23年12月1日に再度、「修正見直し検討案」が公表(市のホームページPDFデータ 容量:1.40MB)
され、今年の2月3日にパブコメ等による「意見」が公表されている。
当初の検討案は
1、最高高さ制限を導入:最高高さ制限値は、国道14号(幕張本郷−村田町)等を境に本市を2つに分け、
内陸部を20m、臨海部を31mとする。
2、最高高さ制限を導入する区域:第一種及び第二種中高層住居専用地域、第一種及び第二種住居地域、住居地域、準住居地域の5つの地域のうち、容積率が200%で建蔽率が60%の地域とする。
3、高さ制限を緩和する特例措置
@ 地区計画による特例 、A 公益上必要な施設への特例を設ける。そしてB 最高高さ制限を超える既存建築物の扱いでは、高度地区を変更した時、すでに制限を超える建築物及び建設中の建築物は対象とせず、建替えをする時に制限を適用する。
ただし、周辺の住環境への配慮がされ、より良い街並みを形成する建替え計画については緩和する。また、大規模の修繕、大規模の模様替え、建築物の用途の変更は対象とせず、増築については、増築する部分のみ制限を適用する。
当初の検討案に対して、マンション建替え、団地再生の障害になるとの意見が出され、修正検討案では、市は良好な居住環境の維持も、マンションの再生も重要であり、両立させる必要があるとして、敷地面積5,000u以上等の一定の条件を満たすマンションの建替えには絶対高さ制限を課さないとしている。この修正も含めた修正検討案に対して、市民、マンション管理組合、不動産関係業界等から多数の様々意見が出され、市議会においても議論が行われている。
○論点整理
1,絶対高さ制限は更なる財産権の侵害である。かたや高層建物は周辺の財産権の侵害。良い住環境をつくることが資産価値を高める。
2,不動産建設・取引の減少になる等地域経済の発展を阻害する。かたや高層建築、高層マンションの建設がまちの活性化につながるという考えは古い。
3,まちの発展・まちの環境
条件に適うところは容積率等を上げて、高層住宅が建てられるようにし、結果広くて安い住宅が供給される。マンションの高さ規制は、かえって建蔽率一杯の建物建設になり環境が悪くなる。また階数を稼ごうと階高の低い建物が建つ怖れもある。さらには極端な低価格建売住宅へのシフトを加速する。かたや少子高齢化の加速により高層マンション需要が減退する。また新築を建てた分、古い建物の空家が増え、魅力のない町になる。中古一戸建て空家住宅に居住誘導すべきである。地域の住環境の保全こそが大事である。
4,マンション再生政策との両立
市の情報によると、最高高さ制限の対象地域内のマンションは約1,060棟(5万戸)で、そのうち約300棟(2万7千戸)は最高高さ制限を超えている。敷地面積5000m2以下の分譲マンションは約340棟(1万5千戸)で、そのうち約120棟(8千戸)は最高高さ制限を超えている。
建替えは増床方式をとらないと事業が成立しない。高さ制限を強化するべきではなく、容積率を緩和すべき。また緩和条件の「敷地面積5,000u以上」の根拠がわからない。5,000u未満敷地にも適用するべきである。かたや緩和条件導入は制度が骨抜きになる。緩和条件を設けるべきではない。
5,線引きは、地区の状況に合わせてもっと細かくすべきでる。また公共団体において計画的に整備された地域においても適用するのはおかしい。
6,今後の検討課題とされた商業系、工業系の用途にも適用拡大すべきである。適用外の他用途地域への建設ラッシュが起きる恐れがある。環境保全を地区計画で対処することは現実的ではない。
7,最高高さ区分に15m等の制限も加えるべきである。
8,手続き・スケジュール
駆け込み着工を防ぐべく、早く制定すべき。かたや時間をかけて充分な検討すべきである。絶対高さ制限等を導入した先行事例の中には、「最高高さ制限を超える既存建築物」となる建物の所有者に対する周知と説明が不十分だった為、改正された後で市民からクレームが出て、結局市と市民とで「対策協議会」を設置せざるを得なくなった事例がある。
2月13日、市に聞いた時点では「慎重に検討中」としかいえない、今後の手順・スケジュールについては未定とのことであった。一般的には本件は都市計画法に基づき、都市計画審議会の審議、議決を経て市長が決定することになる。
○まとめ
本件は私権の制限を生じ、資産価値にも影響しかねない問題である。また分譲マンション等において建替え更新が難しくなることも考えられる。一方、良好な住環境をつくっていく為には、大幅な緩和措置を講ずることは本制度の目的を骨抜きにする危険性もある。この矛盾をどう具体的に解決をしていくかが本制度の成否を決めることになる。両立を図るため全国の市町村においても様々知恵と工夫を行っており、十分な検討、措置をすべきである。そして「まちと住い」をどうしていくのかは、市民の考え次第である。
以上
家永尚志(サポーター会員)
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