ボーンセンター と フィールドミュージアム事業


  ボーンセンターは、2008年9月に千葉県立中央博物館において、設立10周年記念事業として「千葉の貝塚群を世界遺産に!」と題してシンポジウムを開催した。これは決して単発のイベントではなく、フィールミュージアムの推進を意識した事業である。
2008年12月には、同じ中央博物館でフィールドミュージアムの事業推進を図るためのキックオフフォーラムを開催した。
ボーンセンターとフィールドミュージアムの関わりは2002年から始まっている。今回は、フィールドミュージアムに関連するこれまでの取り組みを振り返ってみたい。

1.2002年の県民提言シンポジウム
ボーンセンターは、2002年度に【千葉県立博物館構想に関する県民提言(以下、県民提言)】事業に取り組んだ。500人アンケート調査と並行して11月に県教育庁を来賓に迎えてシンポジウムを開催し、博物館の役割について県民側から6つの期待を表明したが、6つのうち4つが多少なりともフィールドミュージアムに関連したものであった。
●市民とのネットワーク・協働によって、市民と響きあう博物館。
●地域の文化・科学情報の発信基地となり、地域の文化や自然といった環境と共生し、人も環境も共に育つまちづくりの拠点としての博物館。
●今日とこれからの視点を大切に、市民とともに地域の新しい価値やライフスタイルを創造する社会教育機関としての博物館。
●地域資源を発掘・保全し、これを有効に活用し、そして地域の課題を解決する支援体制が整備された博物館。
2003年3月にまとめた県民提言報告書には、実際に「中央博物館については、フィールドミュージアムとしての【生態園】、現地の博物館としての【海の博物館分館】と展開されてきたが、今後、現地の情報と環境に触れることができるフィールドミュージアムの広がりに期待している」との記述がある。
また、開催されたシンポジウムの記録によると、「千葉県の地域づくりはフィールドミュージアムづくりから始まる。博物館の施設から外に出て、生きた野外の資料を見つめよう。市民によるフィールドミュージアムの発想が、これからの博物館ネットワークの基礎となる。」「市民参加のフィールドミュージアムのスタッフ養成が是非とも必要である。」等の意見が出されている。
更に、このシンポジウムでは、(財)日本自然保護協会の田畑貞寿理事長によって、文化や自然の保護と結びついたフィールドミュージアム(エコミュージアム)の社会的意義、全国的な関心の高まり、各地の取り組みについての報告が行われている。

2.その後の取り組み
ボーンセンターはこの2002年のシンポジウム以降、2003年度に博物館評価尺度を試作・提案、2006年1月に「県民提言から3年後の検証」シンポジウムを開催、同年2月に千葉県中央博物館において博物館と県内NPOとの協働企画展「千葉の干潟展」をプロデュースするなど、県民提言を踏まえた実証的な取り組みを行ってきた。
一方、この間に県の博物館政策も大きく変化した。県立博物館の有料化、県立風土記の丘と県立房総のむらの統合と指定管理者制度の導入、県立上総博物館と県立安房博物館の地元市への移譲、県立大利根博物館と総南博物館の中央博物館分館化など、2002年に県立美術館を含めて10館11施設あった県立博物館は、2009年4月には5館8施設となる。これらは県財政の逼迫が原因であり、こうした状況の中で県立博物館は県民の期待に応えなければならなくなった。
他方で、最近の博物館を取り巻く環境は、県民提言に示された21世紀の博物館への期待と重なり、博物館の価値についての評価ともつながりつつある。
千葉県は、2008年3月に「生物多様性ちば県戦略」を策定し、この戦略を推進するための機関として同年4月に県立中央博物館内に千葉県生物多様性センターを設置した。
生物多様性の保全、再生、持続可能な利活用は、地球温暖化防止と並んで地球規模の環境危機を回避するための人類共通の課題として国際的に注目されており、今後の経済活動、産業構造、まちづくり、ライフスタイル等に大きな影響を及ぼすものと考えられている。
千葉県は、国の生物多様性基本法の制定前に全国に先駆けて生物多様性ローカル戦略を策定した。ローカル戦略が重要なのは、こと多様性に関わる問題だからである。生物多様性をこれ以上劣化させずに持続的な共生と利活用につなげていくためには、地域の多様性、文化の多様性等、様々な多様性を尊重し、配慮していく必要があり、この県戦略の策定及び展開に自然、歴史、文化等の総合博物館である県立中央博物館が深く関わってきたことは当然といえば当然であり、こうした博物館の役割は全国的な傾向ともいえるものである。社会環境の変化は、博物館の外部化や県民参加にも拍車をかけることになる。
ボーンセンターも戦略づくりに絡んで環境づくりタウンミーティング総括大会を開催するなど、県の生物多様性戦略づくりに深く関わってきた。
また、2002年の博物館提言以降、提言の実現に向けて、県立博物館の館長諮問機関である県立博物館協議会の委員、あるいは県立房総のむら指定管理者選考委員などの立場から博物館施策等に意見を述べることを含めて、県立博物館との連携のあり方を模索してきた。今回のフィールドミュージアム事業への取り組みは、その一環である。

3.フィールドミュージアム事業の取り組み
県立中央博物館は、「山の博物館」の設置を模索する中で、君津市の清和県民の森を中心に、小学校の空き教室を活用して「山のフィールドミュージアム」事業を推進し、ノウハウを蓄積してきた。
また、県立博物館を所管する県教育庁文化財課は、3年ほど前から(財)日本自然保護協会の田畑貞寿理事長を会長にフィールドミュージアム事業推進委員会を立ち上げ、千葉県の特性を踏まえたフィールドミュージアムの概念設計について検討する他に、県立関宿城博物館や中央博物館大利根分館等においてフィールドミュージアムモデルの実験を行ってきた。この事業推進委員会には、ボーンセンターも委員として参加し、各博物館の取り組みについての報告を受けるとともに、概念設計や今後の取り組みについて意見を交換してきている。
事業推進委員会で検討された県内フィールドミュージアムのモデルとは、地域特性を活かした【山】【川】【海】のフィールドミュージアムを設定し、フィールドを県民とともに調べ、整備・保全し、社会教育の場として活用するなかで県内フィールドミュージアムのネットワークを展開していこうとするものである。
ボーンセンターは、2002年の県民提言の成果を踏まえ、21世紀の博物館の果たすべき役割として、フィールドミュージアム事業の推進プロセスに県民参加のまちづくりの視点を導入することを強く求めてきた。
里山の保全活動をはじめ、県土利用のあり方、都市のあり方、農地・森林、海、山、湖沼等のあり方、人間と自然のおりあいのつけ方など、産業構造やライフスタイルの変更(チェンジ)を認識したまちづくりのうねりは大きくなってきていると思われる。
博物館主導ではない、県民主導・博物館との協働のフィールドミュージアムづくりの展開が、新たに県民参加のまちづくりを推進する。
2008年12月のフィールドミュージアムづくりキックオフフォーラムに続いて2009年は、県民と博物館のフィールドミュージアム推進のための現地ワークが始まる。その活動も「千葉の貝塚群を世界遺産に!」の取り組みにつなげていきたい。


(副代表 栗原裕治)


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