千葉県の生物多様性戦略づくり(1)
<地球の危機、人類の危機>


地球上の生物種がものすごいスピードで絶滅しており、それは、土地の急速な改変や化学物質の使用など、人間活動の拡大が原因と云われている。人類は、いつまで地球上に存続できるのか。確かな根拠があるわけではないが、5〜10世代、ほぼ200年後には人類が絶滅危惧種になっていると感じている人はかなりいる。
集中豪雨や大型台風の発生など、最近の気象の異常性を感じている人は多い。外房の漁師は、船から魚が詰まった箱を陸揚げするときに、10年前は箱を持ち上げていたが、今は下ろすような感じだと、海面上昇を指摘する。これについては、外房一帯の地盤沈下を指摘する意見もあり、簡単に結論が出そうにない。
食品での農薬や防腐剤、住宅の防黴剤などの化学物質の使用によって、アトピーなどのアレルギーを訴える大人や子どもが増加している。こうした化学物質は食や呼吸を通して動物に蓄積され人間の体内に蓄積される。産院で「母乳を飲ませないほうがよい」と注意される母親がいる。環境ホルモンの影響が疑われるような、発達障害の新生児が1割程度にまで増えているという報告もある。遺伝子レベルの異常なども見つかり、子どもを生みづらい状況が拡大している。
化学物質の使用については、急性・亜急性の毒性については厳しい基準があるが、慢性毒性についての規制は甘い。慢性毒性の場合は、一つ一つの毒性は低レベルでも、複合した場合の因果関係が証明しにくいので規制が難しい。千葉県では、今でもラジコン機による農薬散布が行われ、大気、土壌、水、人間を含む生物が汚染され、間接的・直接的に生物多様性を劣化させ、健康被害も出ている。化学物質による生物多様性の劣化は、農業のあり方や就労の問題と深く結びついている。
人間による外来生物の持込や遺伝子組み換え生物の開発が、地域の生態系を攪乱し、生物多様性を劣化させることもあり、工業系の大量の ゴミの投棄が土壌や水系を汚染し、生物多様性を劣化させている。
都市化などの土地開発や大規模道路の延伸が緑や生態系を縮小・分断し、地域の生物多様性を劣化させている。コンクリートで固められた護岸や水路は、水生生物の棲家を消失させ、生物多様性を劣化させている。コンクリートで固められた都市の平均気温は、5℃ほど高くなっていると云われ、こうしたヒートアイランド現象は、クーラーの使用など、温暖化防止のための省エネルギー政策に逆行している。最近は、人間が時間をかけて自然との共生関係を築いてきた里山等の生活・文化が見直され、そうしたライフスタイルに憧れる人も増えている。
地球上の生物は、生命誕生から現在まで、温暖期、氷河期など様々な危機を乗り越えてきた。そうした環境適合を生物の進化とするなら、その間に絶滅した種は数え切れないほど多い。逆に、生物に多様性があったから、地球上から生物が根絶されることはなかったと云える。
地球の温暖期、氷河期というのは、現代の時間間隔で云えば、かなり緩やかな環境変化である。近年の人間生活が環境に与える負荷は、まさに急激かつ強烈であり、緩やかな環境変化に比べて、1000倍以上のスピードで絶滅種を増やしていると云われている。生物の多様性、「地球上の命の賑わいと繋がり」が劣化している。

1992年の国際会議(リオ・サミット)では、政府代表、国会議員、新聞記者、NGO等が集まり、気候変動と生物多様性の危機が確認され、草の根的なローカルな取り組みを含めて各国が協力してこれら問題に取り組む必要性が強調された。その後、日本は温暖化と生物多様性の国際条約を批准したが、経済か、それとも環境か、の狭間で各国の足並みは揃わず、事態は悪化の一途をたどってきた。
既に手遅れといった意見も聞かれるなか、この問題が再びクローズアップされ、ようやく日本政府の取り組みが少しずつ見える形になってきた。日本で開催される2008年の洞爺湖サミット、2010年のCOP10愛知大会での成果も期待されている。

環境省は、生物多様性国家戦略の今年度中の改定を予定している。この国家戦略は国全体の方向性についてのものであり、どうしても地域の視点は軽く扱われる。
千葉県には千葉県、市町村等の地域においても、現場に即した戦略が必要であり、千葉県では今年度中に「生物多様性ちば県戦略」を策定することになった。
この戦略は、二つの流れで検討されている。一つは、昨年秋に発足した専門家委員会による戦略提案である。専門家委員は、生態学者や生態系管理の専門家によって構成されているが、傍聴者の発言も尊重されるなど、開かれた雰囲気で議事が進行した。今年1月からは、県民3名がオブザーバー委員として委員会に参加している。この専門家委員会の提案は、7月末までに案が固まり、現在最終調整中である。
もう一つの流れは、県民が中心の戦略提案であり、昨年末の県内20箇所の生物多様性タウンミーティングの延長線上に5月に「ちば生物多様性県民会議実行委員会」が発足し、現在県内30箇所で生物多様性の保全・再生・持続可能な活用に関する様々なテーマの戦略づくりグループ会議が行われ、これまでに全体会議も2回開催されている。
この「ちば生物多様性県民会議実行委員会」の戦略提案の期限は9月初旬に設定されており、専門家委員会と県民会議の2つの提案は、一本化されて知事に提案されることになっている。
この「生物多様性ちば県戦略」づくりには、堂本知事も力を入れており、実行委員会の打ち合わせに参加するだけでなく、県民会議の全体会、多くの戦略づくりグループ会議に出席し、最初から最後まで、熱心に話を聞いている。
千葉県も、自然保護課、環境政策課、企画調整課、県立博物館などが県民会議の戦略提案づくりに協力するほかに、県民会議と連携して、県民にこうした動きを周知するための企画や国際会議の開催などを計画している。
来年3月には、幕張メッセでグレインイーグルス閣僚級対話が予定されており、地球温暖化の問題を中心に地球環境問題が検討される。この時期に国際NGO会議を開催し、千葉県の姿勢を全国に発信する計画を策定中であり、来年の洞爺湖G8会議や2010年に愛知県で行われるCOP10(生物多様性会議)で国際NGOフォーラムを計画しているNGOグループと連携している。

県民会議が提案しようとしている戦略は、主に3つある。
一つ目は、これ以上緑や生物多様性を劣化させないこと。これには、これまでの土地利用計画の見直しや土地利用制限制度なども含まれる。
二つ目は、化学物質の使用を管理し、削減や廃止を推進すること。
三つ目は、県民、NPO、企業、行政が協働して生物多様性の保全、再生、持続的活用を推進していくための独立した研究及び情報拠点を(仮称)生物多様性研究・情報センターを立ち上げ、県内の生物多様性推進ネットワークをつくること。これについては、環境税の導入なども視野に入れている。
戦略の詳しい内容については、現在検討作業中であり、次回に解説したい。

       

(副代表 栗原裕治)


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