首長と議会の馴れ合いを断ち切る「議会改革」
〜北海道栗山町議会基本条例と千葉市議会の実態〜

1.日本国憲法と住民自治

地方自治について憲法(92条〜95条)では、その原則を「住民自治」と「団体自治」に置いている。「住民自治」として、自治体は、首長と議員が別々に住民から選挙される「二元代表制」をしいている。首長も議会も自治体の運営に関して住民に対して直接責任を負っている。従って、地方議会に首長の「与党」会派など本来あってはならないことになる。
2000年の地方分権一括法施行以降の地方自治体の責任領域、裁量権の拡大の中で、それまでの国政の下請機関から「主人公としての住民の信託を受け行動する住民意思の代行機関」(注1)としての「団体自治」の充実が求められている。
 一方、首長と議会の多数派、職員労働組合が手を組めば、住民の意思とかけ離れた何でもありの議会運営、行政施策の遂行がまかり通り、その結果、不正がはびこる実態がある。大阪市、岐阜県がその例だし、京都や東京をはじめとするかつての革新自治体の自壊の要因の一つもそこにあったと言われる。各地方議会の多くで議会多数派は首長の「与党」会派が占める。「住民の繁栄なくして自治体労働者の幸せは無い」という言葉はとっくの昔に死語となった。「権力は暴走する」「絶対的権力は絶対的に腐敗する」ことは正論であり、首長や議員がたとえ自分たちが支持した者であろうとも、憲法第99条(憲法尊重擁護の義務)を遵守しているかどうか、有権者(住民)は「信頼ではなく猜疑心」をもって彼らの言動を厳しくチェックしなければならない。それが国民が求められる「不断の努力」(憲法第12条)であり「憲法を自らの権利として行使する」ことに他ならない。

2.千葉市議会の前近代的体質〜市長「与党」会派と議会自治の不在

さて、足もとの千葉市の実態はどうであろうか。
千葉市では、元県議の税金不正免除事件をきっかけに全国で初の直接請求(05年)による滞納税処理事務の外部監査が行われた。その監査結果報告から組織的なデータ改ざんなど不正行為が明るみにでたが、この不正行為への対応をめぐり以下に記す「何でもあり」の問題体質のあることを改めて露呈した。
@ 不正の発生源である市税務部自身による内部調査しか行わず、責任の所在が不明として真相解明の打ち切りを宣言。
 A 議会で、百条委員会や第三者による調査機関の設置提案を市長「与党」を名乗る会派がこれという理由もなく否決。
 B この問題を審議した議会総務委員会への直接請求者の傍聴の要望を「傍聴スペース」「議員の身の安全」を理由に拒否。
 C 直接対話、意見交換による直接請求者への「説明責任」を果すことを首長も議会も拒 
  否
 首長は市民への説明責任より職員との「馴れ合い」を選択し、議会は首長との「蜜月関係」を優先した。ここでは、議会は、住民意思の代行機関として首長を監視・チェックするのではなく、逆に市民の批判を妨げる役割を演じている。議会組織として結果として何もできないのであれば、市民の中から「議会不要論」がでてきても不思議ではない。来年春の一斉地方選挙を控え、去る9月28日に閉会した9月議会では議員定数2議席削減の議案が採択されたが、これは世論の批判を小手先でかわすための単純な一律削減論を根拠としたものであり、議会の存在意義を自ら否定するものに他ならない。

3.議会改革に向けて〜北海道栗山町議会基本条例より

そもそも、肥大化した都市の厖大な行政情報、税金の流れを50〜60名の議員で監視・チェックすることは(いかに専門的かつ総合的素養があっても)なかなか困難なことであろう。議員のボトムアップのための研修の実施、透明性の確保と各分野の専門家や市民も参加しチェックできるシステムの整備とともに、適正な都市規模の観点から域内分権化も検討されるべきであろう。
 今年春に出された第28次地方制度調査会答申では、「議会のあり方」について、地方議会が民意の多様化に対応し市民への説明責任を果す上からも、今後、充実すべき機能として、@政策立案機能、A執行機関に対する監視機能、B住民との直接対話など議会活動への住民参加、などが挙げられている。
 議会改革の具体化の事例として、北海道栗山町における栗山町議会基本条例の制定(06年5月)が話題となっている。詳細は同町のHPを参照いただくとして、上記の3つの機能に分けて抜粋したものを以下に紹介する。

  栗山町議会基本条例 06年5月18日施行
政策立案機能 ・議員研修の充実強化と、広く各分野の専門家、町民各層等との議員研究会の開催
・議会事務局の機能強化と将来的には議会固有職員の広域での共用採用の検討
・議員は政策、条例、意見等の議案の提出を積極的に行なう
監視機能 ・本会議による質疑は一問一答方式。議員質問に対する町長らの反問権。
・町長による政策等の形成過程(7項目)の説明
・町長は予算、決算におけるわかりやすい説明資料を配布
住民対話・参加
説明責任
・町民参加を不断に推進する議会、傍聴意欲を高める措置を講ずる
・議員相互間の自由討議よる合意形成に努め、町民への説明責任を果す
・議会主催の一般会議を設置して、議員と町民が自由に意見交換する
・常任委員会、特別委員会は原則公開とし、参考人制度、公聴会制度を活用し、町民の意見を反映。
・請願及び陳情を町民による政策提言と位置づけ、提案者の意見を聴く機会を設ける
・町民、町民団体、NPO等との意見交換の場を多様に設ける
・政務調査費の公布、公開、報告
・町民、職員にも開かれた議会図書館

4.二元代表制の意味を問う〜まず、議会の実態の告発を

 政治学者の山口二郎氏は「政治腐敗は政党・政治家の問題ではなく中央集権体制を前提とした補助金配分の仕組み、箇所付けや許認可に関する裁量や行政の閉鎖性にその原因がある」(注2)と述べている。人の問題よりも仕組みそのものに問題があるという指摘である。「与党」会派が多数を占める千葉市議会の状況はそう簡単に変わるようには見えない。二元代表制の正確な理解を議員、市民に広げること、住民自治の実現を目指す議員が、告発者として議会の「愚かな実態」を有権者にもっともっと伝え、住民自治の観点から市民の姿勢を問うこと、そして栗山町の議会基本条例のようなシステムの整備に向けて取り組むことが当面考えられる方策であろう。

注1:「分権時代の首長と議会」大森彌・編著 ぎょうせいp.10
注2:公共哲学11「自治から考える公共性」東大出版 p.181

 川本幸立(ボーンセンター運営委員/千葉市納税者・市民の会 副代表)


BACK