「県とNPOとの協働事業提案制度」についての考察


目次 1.はじめに

 2006年度(今年度)の「県とNPOとの協働事業提案」の2次審査選考結果が公表された。
 ボーンセンターは2005年度に「県立博物館における県民と専門家による『千葉の干潟展』開催事業(県立中央博物館等との協働事業)」を提案し、現在この事業に取り組んでいる。今年度は「NPOの就業環境に関する実態調査及びその課題解決についての研究事業(経済政策課等との協働事業)」、また、NPO法人セレガと共同で「大規模団地における空き店舗を活用した地域ぐるみの子ども育て事業(県民生活課との協働事業)」の2つを提案し、2次審査で前者は不採択、後者は採択となった。8月23日に県庁議会棟で行われたこの2次審査公表会の意見交換の場で、不採択になった団体からその理由に納得できないという抗議があり、その抗議に同調する参加者のヒソヒソ話も聞こえて、会場の雰囲気が一気に悪くなった。その現場に居合わせたことが、あらためて「県とNPOの提案募集事業制度」について考えるきっかけになった。
 以下は、選考委員長から発表された選考委員会の総評であるが、なんとなくスッキリしない難しい選考であったことがわかる。
協働事業の選考委員は7名で、そのうちの2名は本年度から公募で選任された。審査は、提案された申請書を、公表されている5つの審査基準(@課題の把握の的確さ、A協働の効果、B県民参加、C広域性、D県との協働による実現可能性)に基づき各委員が採点を行い、その後、8月4日に開催された各団体からの公開プレゼンテーションを踏まえ、採点内容を修正し、8月7日の審査会にこの修正結果を持ち寄って、1件ごとに議論し、合議により選考委員会として第2次審査通過事業を決定した。なお、委員によって点数に高め、低めがあり、ベースが異なるので、採点表は最終的に破棄された。あくまでも、合議の結果が選考委員会の審査結果である。今回の審査の特長は、多数決が多く、4対3で決まるものが多かった。選考委員会は合議体なので、審査経過において意見が一致しなかったものでも、本日公表されたものが選考委員会としての審査結果である。(中略) 協働事業は、単なる補助事業ではない。協働事業は、NPO側、県側双方にとって相乗効果が得られることが必要であるが、提案内容から協働の意義が読み取りにくいものが多かったので、県庁の施策にからめてどう進めるのか、是非検討をしていただきたい。
  千葉県NPO活動推進課によると、NPOとの協働を全庁的に推進するための仕組みとして「ちばパートナーシップ市場」の事業があり、この事業は核となる「県とNPOとの協働事業提案制度」と「県とNPOとの意見交換会」で構成されている。これからの地域活動や自治体運営にとって、様々な主体の「協働」は重要なコンセプトと考えられ、県はこの制度を来年度も継続の予定である。 この千葉県の協働事業提案制度は少々わかりにくく、これまで深く考えずにこの制度を活用してきたボーンセンターにとっても「協働」についての振り返りが必要と思われる。住民参加のまちづくりを活動の目的にしているボーンセンターの「協働事業」に対する向き合い方についても考えてみたい。  この協働事業提案制度が少々わかりにくい原因については、主に以下の3点が考えられる。
(1)千葉県のNPOを対象にした公募事業の仕組みが毎年変わってきたこと。
(2)関係者の中で「協働」の本質が十分に共通理解になっていないこと。
(3)「協働」を推進する現行システムに無理があること。

.「ちばパートナーシップ市場」の経緯と概要 

 NPO推進課が所管する千葉県のNPOを対象にした公募事業は、2002年度のスタート時から仕組みが少しずつ変化してきた。
■千葉県のNPOを対象にした公募事業は、2002〜2004年度の「NPO活動提案募集事業」から委託額上限300万円で始まった。ボーンセンターは2003年度に「新世紀において千葉の博物館が生み出すべき価値の検討と評価尺度づくり」、2004年度に「優良な地域通貨・LETSの導入普及促進事業」で提案が採択されている。この事業は、最初の2004年度は応募件数54件(採択4件)であったが、NPO法人数が急増する中で応募件数は逆に減少し、2003年度の応募件数は25件(採択7件)、2004年度は11件(採択5件)となっている。また、事業の特色はNPOのアイデアコンペ的な色合いが強く、当該年度の事業を公開審査によって決定し実施するものであった。
■NPOの一方的な提案でなく、行政とNPOが一体となって事業を推進する協働の概念がクローズアップされるようになり、NPO活動推進課は2003年度に全庁的な県とNPOとの連携・協働を推進するための「千葉県パートナーシップマニュアル」を作成するとともに、協働事業提案制度を実施するようになる。2003年度は、NPOから33件の事業提案があり、その中から審査によってモデル事業として4事業が採択され、それらは2004年度に実施された。
■現行の「ちばパートナーシップ市場」の仕組みは、2004年度から導入され、「県とNPOとの意見交換会」「協働事業提案」「事業ごとの県とNPOとの意見交換」「審査(書面と公開プレゼン)」「県とNPOとの協議」「協働事業候補の決定」「予算要求」「協働事業の実施」という流れが出来上がった。最初の「県とNPOとの意見交換会」は、県とNPOが課題を持ち寄って協働事業の可能性について意見交換する場であり、2004年度は5回、2005年度は2回実施されている。2005年度の提案件数は28件で、そのうち11件が採択され(2005年度は当該年度コースがあり、5件は当該年度コースとして採択され2005年度中に実施された)、当該年度コースが廃止となった今年度の提案件数は12件で、そのうち6件が2次審査をパスしているが、現時点では協働事業候補の決定までには至っていない。なお、公開審査は廃止され、審査結果の公表の際に意見交換を行う仕組みになっている。

.「県とNPOとの協働事業提案制度」の検討課題

 現行の協働事業提案制度には、以下の検討課題があると考えられる。
■千葉県のNPOを対象にした公募事業の仕組みは、2002年度の「NPO活動提案募集事業」から今年度まで変更を重ねており、何故どのように変わってきたのか、応募者にとまどいがみられる。特に、県の推進しようとしている「協働事業」の本質が十分に理解されておらず、提案内容の多くが当初の「NPO活動提案募集事業」の頃と大差ない内容になっているように思われる。
■「協働」とは複数の主体が目的や戦略を共有し、協力して社会に働きかける作業である。県とNPOが相互の信頼関係を構築しながら「協働事業」を企画するには、それなりの時間が必要であり、日ごろの交流がない担当課室とNPOには「ちばパートナーシップ市場」の流れの中で「県とNPOとの意見交換会」から「協働事業提案」までの時間は短すぎ、十分に練られた提案になりにくい。時間がないだけに斬新かつ大胆な提案は排除される可能性が高いように思われる。
■提案事業の担当課室によって、「協働」への理解や取組姿勢にばらつきが大きいことから、偏った事業分野での協働事業が多く採択されがちである。県も全庁的な取組の中で「千葉県パートナーシップマニュアル」を策定し、「ちばパートナーシップ市場」においても担当課室との連絡・調整に務めているが、課題は解消しきれていないと思われる。
■NPO活動推進課が「NPO活動推進委員会」を設置しており、この組織が千葉県のNPO活動施策に与える影響力は大きいと思われる。この推進委員会は、有識者、NPO、企業、市町村行政の関係者及び公募委員からなる推進委員で構成されているが、推進委員と担当職員がNPOについて相互に学び、情報を交換する場になってきた。そこで協働事業を推進するために、多くの団体が推進委員として関われるように、推進委員の基準を明確化して、他方で任期を2年程度に制限するなど、流動化を更に促進すべきと思われる。
■「協働事業提案」の内容がよければそれが予算化される仕組みだが、県の行財政改革が逼迫している現在、NPO活動推進課として可能と考えている全体予算枠の目安があるのではないか。NPO活動推進課の意図とは違うかもしれないが、提案者には企画をシェイプアップして協働事業を増やそうとする推進力よりも、企画をふるいにかけて一定の予算内に収めようとする抑制力が強く働いているように感じられ、次の行動や翌年度の再提出につながっていかないように思われる。
■「協働事業提案」の選考は、ふるいにかけようとすると非常に難しい。以前の公開審査は、審査員それぞれがどのような視点でそれぞれの提案事業を評価しているかがよくわかり、その意味では明快であり現在よりも全体的にわかりやすい選考であった。今回の2次審査公表会の意見交換では、一部のNPOから選考委員の勉強不足や専門知識のなさを指摘する声があったが、選考委員を責めるのは酷な話で、提案の内容が様々な分野や専門に広がっているため、限られた数の選考委員が全てを理解するのは実際には無理と思われる。公開審査を廃止した理由も、担当課室の見解や審議に時間をかける必要性があるためと理解できる。選考委員は、NPO活動や行政との協働について見識を持っているということで選ばれているわけで、多少の偏った考え方があったとしても、その為に7名の選考委員が合議する意味がある。個人的な資質を槍玉に挙げられたら、選考委員を引き受ける人がいなくなってしまう。ただ、今回の総評で述べられているように、採点表を最終的に破棄し、採択不採択を選考委員会での多数決で決め、しかも4対3の微妙な票差が多かったということに選考の難しさが現れている。こうなると採択不採択の差は、委員が違えば違う結果が出ていたかもしれず、運不運の差であったかもしれないし、結果は選考委員の企画内容以外でのバランス感覚が微妙な決め手になったかもしれない。不採択となった提案者にはスッキリしない感覚が残ったと思われる。



4.「県とNPOとの協働事業提案制度」の改善案

 県とNPOとの協働事業は、千葉県の全庁的な取り組みということにとどまらず、千葉県という広域地方自治体の運営に県民・NPOが参加していくという社会的な課題であり、市町村自治体の重要なモデルに位置づけられる事業であると思われる。
 当面の「県とNPOとの協働事業提案制度」には、関係者の次の共通認識が必要であろう。
(1)県とNPOが目的や戦略を共有し、協力して事業に取り組むという「協働事業」の本質やその効果等についての理解。
(2)「協働」には当事者間の相互理解や信頼関係の構築が必要であり、真の協働には合意のための時間がかかることへの理解。
(3)「協働事業提案」をふるいにかけるのではなく、「協働事業」を前向きに育てていく視点とプログラム(再チャレンジの機会を含めて間口は広く、出口は厳しく)。
(4)「協働事業提案」の選考過程におけるわかりやすさと透明性。

 「県とNPOとの協働事業提案制度」の仕組みについては、NPO活動推進課でこれまで様々な視点から検討されてきたであろうし、行政の仕組みや行政やNPOの意識を変えていくには解決しなければならない課題は多いと思われる。しかし、「ちばパートナーシップ市場」の流れを踏まえて、下記のような改善案を提案したい。
■「県とNPOとの意見交換会」は、年に3〜4回、定期的に開催する。意見交換のテーマは、これまで同様に県の課室とNPOの双方が持ち寄るものとする。
■「協働事業提案」は1次提案と2次提案の2段階とし、NPOからの1次提案は事業の目的、事業内容、協働したい課室を明記するA−4版用紙一枚程度の簡単なものとし、予算や人員体制等の計画は求めない。1次提案は10月から12月の間に募集する。
■1月に応募要件を満たしている1次提案の審査会を公開で行う。この審査会は事業提案の選考の場ではなく、協働事業のマッチングの場と位置づけ、事業提案ごとに公開プレゼンテーションの後に審査員が評価とアドバイスを行う。審査員は、有識者、NPO、行政職員で構成し、NPO活動推進課が指名する。また、NPOに協働したい相手として指名された課室も協働の条件や要望についてコメントする。提案件数が多ければ、公開審査は時間がかかるので、その場合は「県とNPOとの協働事業提案週間」にするなどの方策を検討する。
■公開審査後の1ヶ月の間に、提案者であるNPOと指名された課室が協働事業の2次提案を行うか否かを協議し、2次提案を行う場合はNPO活動推進課に2次提案候補者として登録する。協議の不調又は期限内に登録がなければ、1次提案は消滅する。また、2者の合意があればあえて登録は行わず、「協働事業提案制度」から離れて2者で協働事業を推進することをNPO活動推進課に届出てもよい。NPO活動推進課は、2者の協議のための機会を斡旋するなどの必要な便宜を図る。
■2次提案候補者に登録した2者は、協議を重ね、共同で2次提案の書類をNPO活動推進課に提出する。2次提案の書類は、事業計画や事業予算、NPOの団体概要や実績等の詳細に示すものとし、募集期間は6月頃とする。2者が合意できる事業提案ができなければ途中で登録を取り下げ、または2次提案の提出を辞退することができる。
■2次提案の審査は公開し、提出書面と公開プレゼンテーションで次年度の協働事業候補の選考を行う。
 審査委員は有識者、NPO、行政職員で構成し、NPO活動推進課が指名し、NPO活動推進課があらかじめ公表する基準で点数評価を行い、採点理由を説明する。採択された事業は、NPO活動推進課が予算要求を行う。提案事業の中には、早急に実施することでより大きな効果が期待できる事業が想定されることから、当該年度事業の予算枠があってもよいと思われる。また、NPO活動推進課の基準で採択されなかった提案事業であっても、必要な協働事業として県の課室とNPOが協議・合意したものであれば、それぞれの県の課室の判断で、予算要求する場合があってもよいと思われる。「県とNPOとの協働事業提案制度」は、提案事業をふるいにかける制度ではなく、必要な協働事業を一つでも多く推進することを推進する仕組みと考えるからである。

5.まとめ
 

 現在、千葉県自治研修センターでは中期目標の研修ビジョンを策定中で、ボーンセンターは研修諮問委員を委嘱されている。この研修ビジョンの中で、自治体運営への市民参加に対する行政職員の意識改革や 能力アップが大きなテーマの一つとなっており、「協働の推進」はキィワードになっている。 また、千葉県が設置している経済活性化推進会議の委員もボーンセンターは委嘱されているが、ここでも産学官民連携(これまでの産学官連携にNPO・市民が加わって産学官民連携という言い回しになっている)が大きなテーマであり、ここでも「協働の推進」がキィーワードになっている。
 しかし、協働というのはなかなか難しい。関係するもの同士の相互のメリットが連携の前提条件だが、協働は、単純に関係するもの同士の相互のメリットだけでなく、社会にとってメリットある目的や戦略を共有し、協力して社会に働きかける行為を指し、究極のパートナーシップとも言われている。 パートナーシップには、相互理解や信頼関係が不可欠だが、その関係が閉鎖的になると外からは癒着とみられるようになる。仲良しクラブ的な気の置けない関係は、当事者にとって楽であるが、そこでの緊張関係が希薄になると第三者に対して排他的になりやすい。当事者は意識しなくても、パートナーシップと癒着は紙一重である。
 ボーンセンターは、これまでに一定の緊張関係を維持しつつ、時間をかけて千葉県の博物館行政との対話を進め、相互理解や信頼関係を構築してきた。現在は、NPO推進課の「協働事業提案制度」を活用しなくても、博物館行政を所管する部署に直接協働事業を提案できる関係ができているように思われる。
 こうした関係はある意味で必要な関係であり、県内の様々なNPOが県行政に直接協働事業の提案ができるようになることが、「自治体運営への市民参加」を推進する上で不可欠であると思われる。そこで「県とNPOとの協働事業提案制度」が、これからの県とNPOとの相互理解や信頼構築のきっかけをつくり、協働事業が増え、それが市町村に波及することが期待される。
 一方で、ボーンセンターと博物館行政との関係は、常に一定の緊張関係を維持しながら、情報公開や関係者への呼びかけなど外に向かって開かれ、協力して社会に働きかける段階になってきている。ボーンセンターの目指す「市民参加のまちづくり」を推進するために、協働関係については慎重に、また忌憚のない対話ができる関係を維持していく必要がある。
 NPO活動推進課が設置した「NPO活動推進委員会」は、ある意味で県が提案した協働事業であり、県のNPO行政の「意思決定機関」のようにとみなされている。県はこの委員会を公開し、委員の一部を公募するなど、閉鎖性を排除するような手だてを講じてきた。しかし、一定の緊張関係を維持しているつもりの当事者は気づきにくいであろうが、他のNPOには仲良しクラブ的な一部のNPO業界組織と見られはじめている。「NPO活動推進委員会」の役割は重要であるが、NPO政策を立案する立法者と事業提案する行政者と選考等にかかわる司法者の役割をNPO活動推進委員が持ち回りで果たしているようなところがあり、NPO立県を更に推進するために、また、多様な県とNPOとの協働を推進するために、組織のあり方を検討する時期に来ているであろうことを最後に指摘しておきたい。

 

 

(副代表 栗原裕治

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