その1 情報提供の必要不可欠性
市民や、行政等から「まちづくり」における「市民参加」の必要性が云われて、数十年になる。昨今、市民アンケートや、市民懇話会の実施、パブリックコメント制度、公共事業実施に係るPI(パブリックインポルブメント)の実施、行政が開催する各種委員会、審議会への市民委員の公募、更にはまちづくり条例、市民参加条例、自治基本条例の制定等、様々な動きが見られるようになってきた。
しかし、実効性のある市民参加が実現していないとの評価もある。それは市民側からは現状は市民の意見を聞き置くということに留まっていて、実際の政策に反映されないという不満であり、行政側からはいろんな仕組みを用意しても市民の参加が少ない、一部の人の声になってしまうという困惑である。また議会制度との関係においても市民参加の考え方が整理されていないと云う声もある。現在は試行錯誤の時なのかも知れず、筆者も上記の根本問題に答えるだけの見識は持っていないが、最近関わった事例を通して若干の意見を述べたい。
結論を言えば、市民参加において、また地方自治更には国政において、市民に対して徹底的な情報提供を行政が行う必要があることだけは基本条件であると思う。具体的な問題に直面して、行政に対して情報開示を求めても欲しい情報はなかなか得られず、その関心が徒労に終わることが多い。一方行政側が都市マスタープランの説明会を実施して、集まる市民が少ないと嘆いていたが、市民が直面する課題に適切に応えていないで、市の都合で開催する説明会に集まらないと云ってもそれは自業自得である。
筆者が傍聴人等として参加した2つの事例をもとに検討してみたい。概要は表の通りである。その1として今回は情報提供の重要性について述べたい。「千葉都市モノレール事業の見直し検討」(以下「モノレール」という)は相当の情報が公開され有効であった事例である
「千葉中央第6地区市街地再開発事業」(以下「中央第6」という)は現行の制度的制約?により充分な情報公開がなく有効な理解が得られなかった事例である。
「モノレール」では委員とほぼ同じく、コンサルタントが調査・検討した詳細の資料が傍聴人にも配布された。従って、コンサルタントの説明及び委員間の議論が良く理解でき、「モノレール」をどうすべきかを一市民として判断するに足る情報が得られた。一方「中央第6」では都市計画法に基づいた?市民説明会に参加したが、概要資料の配布と且つ都市計画決定に係る部分の説明しかなかった。都市計画決定事項は中央第六地区の@第一種市街地再開発事業及びA地区計画についてであり、この事業の採算性に係る情報が分からないと適否を判断できなので質問したが、組合事業に係ること故「説明は差し控えたい」の一点張りであった。またこの都市計画決定に係る都市計画審議会を傍聴したが、概要の資料はその場で貸与されるだけで、終了後は返却させられた。しかし審議会では委員から事業採算に係る質問が出され、市当局から説明がなされた(一市民の質問には答えず、委員の質問には答えるという理屈が私には理解できないが)。この情報を加えてこの事業における保留床の単価を算定してみると、市が取得する床(行政サービス施設用)の単価は、特定業務代行者が取得する1、2階の商業床の2倍強の単価という、常識では考えられない評価であった。様々な情報が提供されれば市民側にもそれぞれの専門家がおり、その目で見ればおかしなことの発見も含めて、適切な論点整理もでき、他の市民の方々に問題提起もできるのである。そのことによって「税金の使われ方について」市民側も関心を高め、克つ建設的且つ適切な判断ができるのである。
その2 既存制度の評価
前報のその1「情報提供の必要不可欠性」に続いて、筆者が傍聴人等として参加した2つの事例(「千葉都市モノレール事業の見直し検討」(以下「モノレール」という)と、「千葉中央第6地区市街地再開発事業」(以下「中央第6」という))をもとに市民参加の面から既存制度の評価・検討をしてみたい。概要は表を参照されたい。
1、既存制度の活用が第一歩
1)意見書提出
・「モノレール」では公聴会が開かれ、筆者も意見書を提出した。この意見書はホームページ上に一言一句のものが公表された。
・「中央第6」では、都市計画の縦覧に対応して意見書を筆者は提出した。この意見書は
都市計画審議会において取り上げられ、意見書に対する市側の見解が示された。意見書そのものの公開はされなかったが、都市計画審議会の議事録の中に相当含まれている。
2)委員会・審議会傍聴
・資料の配付とパワーポインターによる詳細な説明、及び委員からの質問、委員間の議論が活発になされて、「モノレール」の検討委員会は傍聴して、問題点、論点が良く解った。
・「中央第6」の都市計画審議会では、市当局からの説明が中心で、委員による突っ込んだ質問や、議論はされなかったので内容的には甚だ不満が残った。しかし委員からの質問により、市民説明会では得られなかった事業採算計画の情報が得られた。
3)情報収集
・一般的には、市政だより、県民だよりで事案がわかる。まずは市のホームページで相当の情報が入手できる。ついで担当課に問い合わせるとそれなりに応えてくれる。しかし窓口を訪れないと得られない情報も多いのが負担である。
・「モノレール」ではホームページ上に、検討委員会での配付資料が公開され、また議事録が要約せずに一言一句公開されて、詳細な情報が得られた。
・「中央第6」では市民説明会で簡単な資料しか配布されず、事業採算の情報を提供するよう求めたが得られなかった。都市計画審議会の傍聴に際しても簡単な資料が貸与され終了後回収された。また議事録はHP上に公開されていなく、市政情報室に閲覧に行かなくてはならない。今後は都市計画審議会等の議事録はホームページ上で見られるようにすべきである。
4)意見
・意見もe−メールで発信でき、手間をあまり賭けなくても済むようになってきた。その扱いはわからないが、意見募集していなくても担当部署にメールで意見を投稿することもできる。また公式に位置づけられている「首長への手紙」を出すという手立てもある。
●基本構想(総合計画)策定への参加の重要性
抽象的な表現で策定されることが多いので往々にして看過しがちであるが地方自治法に基づく基本構想(総合計画)が極論すれば全ての政策の根幹であり、その後の基本計画、実施計画の大本になる。参加した2つの事例を通じて痛切に思うことは、これに市民の要求を反映させていくことが極めて重要であるということである。
2、市民の参加を促す手立て
情報提供が極めて重要であることは前報のその1で述べた。
1)委員会等の傍聴のし易さ
・「モノレール」では平日の夜、千葉駅のすぐ近くのホールで開催され、県民の傍聴を促す配慮が感じられた。
・「中央第6」では、市民説明会は平日の昼間と夜の2回実施されたが、都市計画審議会は、委員の都合上か平日の昼の開催であった。従って仕事を持っている人にはなかなか傍聴し難い。
2)委員会等を傍聴する誘因
・「モノレール」では委員間の活発な議論がなされ、臨場感があって問題の論点等の理解が得やすかった。委員と同様の資料が配付され、パワーポインターを使った詳細且つ分かり易い説明がなされた。机も用意されメモも取り易かった。次の委員会も傍聴しようと思わせる設営であった。
・「中央第6」の都市計画審議会では、市当局の説明とそれに対する委員質問に終始し、委員の意見や議論がほとんどなかった。簡単な概要資料が貸与されるだけであった。しかも机も無く、早めに会場を訪れても委員が着席するまで室外で待機させられた。従って再び傍聴しようという気にはならなかった。
3)PRの工夫
・「モノレール」では県民便りで大きく扱われ、しかも内容が充実したホームページで広報。またメディアにも多く取り上げられた。
・「中央第6」では、市政便りで見逃しそうな小さな記事しか掲載されず、縦覧(2週間<平日>、役所で)に対応して簡単な開催の知らせがホームページに載っただけであった。
4)意見募集・意見書
・「モノレール」では、意見を常時受け付けし、寄せられた意見を整理してホームページ上に整理して公表。また意見書は公聴会に合わせて募集。委員会に報告された。
・「中央第6」では、制度上有限期間での意見書募集。公聴会は実施されなかった。都市計画審議会で意見書に対する市の説明がなされた。
●市民が直面した問題に十分に応えていくことが第一
一方的な要求ばかりで無理難題が多く、また無責任な市民が多いと思うこともあるかも知れないが、なかには成る程というものもあるのである。クレームは市民の要求を把握し、行政サービスを改善していく絶好の機会でもある。市民自らが発した事柄に行政が然るべき対応をしないと、市民は不信感や、消耗感を持ち、行政側から発した市民参加の呼びかけに応じなくなるであろう。
また上述のように既存制度の市民参加において、現状は甚だ市民参加の誘因条件が御粗末である。制度、慣例に拘泥することなく参加を促す可能な限りの創意工夫が必要であろう。
3、制度上の問題
1)公共事業の見直しの場合(「モノレール」の場合)
「モノレール」は「特別委員会方式」による事業の見直しであった。その為かあらゆる側面からの検討が加えられ、市民側も事業の問題点、改善対策等トータルに問題構造が理解できた。よって適切な意見陳述が可能となったといえる。
2)新規公共事業の場合(「中央第6」の場合)
「中央第6」事業遂行の是非については、総合計画、5カ年計画で措定済みとのことで、市民説明会では求めても説明もされないし、都市計画審議会でも検討の対象外である。
しかし総合計画、5カ年計画では市政全般に係るビジョン・計画故に、当該公共事業の詳細は情報提供はなされていない。従って事業の是非を判断する情報がないままに総合計画・5カ年計画は決定されてしまう。一方事業が具体化する段階では、縦割り行政で、事業のコンセプト部分は企画部門、狭義の都市計画道路、用途設定変更、地区計画等は都市計画部門、再開発事業の組合設立認可関係は都市再開発部門と細切れにされ、都市計画決定に係る市民説明会、都市計画審議会では事業内容の妥当性、事業採算性については、取り扱いの対象外故、「説明は控えさせて頂く」の一点張りである。従って当該事業についての全体的な情報提供はなされないし、どこでどう立案され、決定されていっているのか市民からはよく分からないし、知ろうとしても徒労に終わる。このような現状は明らかにおかしい。制度を改革しなければならないと思う。
4、結語
行政は、市民参加の問題も含めて市民の期待に応えるサービスをし、自ら自己変革をして無駄をなくしていく不断の努力をしていく必要がある。加えて地方自治体として主体的に制度改革を進めていくことが求められている。住民参加条例、まちづくり条例、自治基本条例の制定の動きはその現れであろう。
(サポーター会員 家永尚志)
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