〔研究レポート〕
これからのコミュニティセンターと市民管理(後編)

今回の研究レポートは、「これからのコミュニティセンターと市民管理」の続きです。
指定管理者の導入は、市民参加・市民自治に大きな影響があると考えられますが、千葉市では今のところ千葉市行政と市民との十分な対話は行われていません。千葉市は、委託管理制度で管理されている公の施設については、2006年4月1日から指定管理者制度へ移行するとの方針を打ち出しています。この方針からすれば、2005年の9月議会で、公の施設の設置条例を改正し、年末までに指定管理者を選定、2006年の2〜3月議会で指定管理者と予算を議決するスケジュールになると思われます。
指定管理者制度の導入には、いろいろ課題があります。

・「公の施設」の運営への利用者・住民の参加、住民監査請求など住民によるチェックシステムが確立していないこと。
・指定管理者が行う管理業務に係る出納関連は監査を行うことができるとされているが、管理業務そのものは監査の対象になっていないこと。
・指定管理者が管理を通じて得た個人情報の保護についても制度上の義務付けがないので、各自治体での独自の条例化や指定管理者との協定への通則的な明文化が必要と思われること。
・指定管理者には、毎年度終了後に事業報告書(管理業務の実施状況、利用状況、料金収入実績など)の提出が義務付けられているが、議会への報告や住民への情報公開の義務はないこと。
・兼業禁止規定が適用されない。設置者(首長)や議員、その親族が経営する民間等事業者が排除されないので、腐敗・不正の温床になる可能性が危倶されること。
・出資法人などに引き続き「公の施設」を管理させるために、条例等によって入り口部分で民間企業や市民団体を排除することが懸念されること。選定の基準等についても不当に高い障壁を設けることが懸念され、パブリックコメント等の基準作りの段階からの市民参加が必要と思われること。

委託管理制度から指定管理者制度への転換は、現在の「公の施設」と委託管理者(千葉市が出資している財団や社団)の評価・改善のチャンスでもあり、そのための市民と行政の適切な情報共有が必要と思われます。
しかし、千葉市の方針では、検討に残された時間はほぼ半年しかありません。既に、新設のサッカー場、アイススケート場、斎場については、指定管理者の募集が行われましたから、この2〜3月議会で民間企業の指定管理者が決定することでしょう。
指定管理者制度の導入は、行政事業のアウトソーシング化が始まったことを意味していますが、それが市民にとってよい方向に向かうのか否か、予断を許さない状況にあります。将来的には公立の小・中学校にまで指定管理者制度が導入される可能性があります。
千葉市のコミュニティセンターは千葉市が直営で管理している施設ですから、必ずしも指定管理者制度の導入を検討しなければならない施設ではありません。2006年以降に指定管理者制度の導入を決めてもよい施設です。しかし、現在は予算措置が厳しくなっている施設であることも確かであり、市民サービスの向上も含めて指定管理者制度の導入について検討が必要になっています。
以上のことを念頭に置きながら、今回の研究レポート後半を読んでいただければ幸いです。

2. コミュニティセンターの可能性
今回の調査者3名で、「新しいコミュニティセンター像」と「コミュニティセンターと指定管理者制度」について意見交換を行い、それぞれの論点を整理した。
「新しいコミュニティセンター像」については、「更に開かれた利用・活用」、「ネットワーク化の推進」、「市民管理・市民運営」、「管理者の条件」の4つに整理した。
また、「コミュニティセンターと指定管理者制度」については、「指定管理者のイメージ」、「運営委員会の構成と役割」、「コミュニティセンターの事業領域」の3つに整理した。
これら論点については、NPO法人千葉まちづくりサポートセンター内の市民研究所政策研究会において更に検討を行い、下記のようにまとめた。

(1)新しいコミュニティセンター像
千葉市のコミュニティセンターは、高齢者の居場所及び地域サークル活動の拠点として一定の役割を果たしている。しかし、子育て支援や生涯学習についての十分な対応ができていないように、コミュニティセンターという名称から想定される事業範囲からすれば、実際に行われている事業はかなり限定的である。
現代は、地方分権・地域自治への変革期といわれ、これまで行政サービスといわれてきた領域においても、市民が担えるサービス提供は市民自らが担い、また、市民が地域の課題解決に自ら取り組むような事業機会が増えている。そこで、これからのコミュニティセンターは、市民が行政サービスを一方的に享受する場所でなく、地域住民が主体的・自発的に公益活動を行うための地域拠点としての役割について検討すべきと思われる。
千葉市総合計画に示されているように、市民参加はこれからの千葉市の大きな課題である。市民参加は、千葉市行政の政策形成段階をはじめ、高齢者福祉・障害者福祉・児童福祉などの健康・福祉分野の公益活動、自然環境保全や公園づくり・公園管理などの環境分野の公益活動、生き生きとした暮らしやすい街の再生・創造に向けてのまちづくり分野の公益活動、地域安全活動、国際交流活動、文化・スポーツ振興活動、生涯学習活動など、既に多岐にわたっている。
市民参加の推進はいずれの市町村でも現在及び今後の大きな課題であるが、行政による市民サービスの一環として市民参加を推進するわけではない。それによって実現される住民の尊厳、人権、福祉の質や内容か地方自治体にとって重要であり、その質や内容をよりよくするために自治体運営への市民参加が必要になっていると理解すべきであろう。
市民参加で最初に重要なのは、政策形成段階での合意形成であり、そのために市民と行政、市民同士の日常的な情報共有や対話機会の増加が不可欠といわれている。これからのコミュニティセンターは、地域の課題解決に向けて、情報を得たり、対話をしたり、具体的に地域住民の合意形成を進展させる重要な場所の一つにもなりえる。それゆえにコミュニティセンターの再生・整備は、これからの自治体の社会資本整備でもある。
改正地方自治法が11月に施行され、市町村は条例によって一定の範囲で地域自治区を定めることができるようにもなっている。
●更に開かれた利用・活用
繰り返しになるが、現在の千葉市のコミュニティセンターは、千葉市行政が一方的に市民向けサービスを実施する場であり、そのサービスの内容は、主に高齢者が個人利用できる居場所とレクリェーション・趣味系のサークルが利用できる部屋の提供となっている。
決められた利用規則を遵守すれば、市民はコミュニティセンターでサークル活動を行えるし、高齢者はシルバー手帳を提示すれば静養室等の個人利用ができる。このように、市民が同じ条件でコミュニティセンターを利用できるという公平性は守られているように見えるが、細かな部分を見ていくと遠距離の住民には利用しにくいなど、限られた施設数という制約もあって必ずしも公平といえない面もある。
また、特定の高齢者やサークルが利用しているなど、コミュニティセンターの利用者は偏っているようでもある。これだけ市民活動が盛んになっているにもかかわらず、通年開館になっても利用する個人や団体はそれほど増えていないし、若い人や新しい人の参入が少なく、歴史のあるサークルでは会員の高齢化も進んでいる。また、同じ人がいくつもの異なったサークルをつくっている場合もある。
それには、いくつかの理由が考えられる。
まず、コミュニティセンターでのサークル活動に参加しなくても、市民のレクリェーションや趣味の欲求を満足させる機会が社会に増えたことが考えられる。千葉市に最初のコミュニティセンターがつくられてから既に25年以上が経過している。また、インターネットや携帯電話などの新しいコミュニケーションツールの発展・普及は、サークル活動に参加しなくても、手軽にコミュニケーションの欲求を満たしてくれるようになっている。
他方、少人数で効率的に管理しようとするコミュニティセンターの厳格な管理志向がある。施設管理者の目の届かないところには鍵がかけられ、テーブルや椅子を撤去するなど、利用しにくくしている。こうした状況は施設全体の雰囲気に反映してしまう。いわゆる「役所の施設は固い、冷たい、融通がきかない」といったイメージである。顧客サービスの就業者の教育機会も少なく、管理ありきで民間サービス業のような利用者本意の意識が希薄な職員・アルバイトもいるので、現場の裁量もばらつきがあり、不快な経験をしたという利用者もいる。
長年にわたって施設に慣れ親しみ、施設管理者と一定の関係をつくっている利用者にはあたりまえのことでも、新しく利用しようとする人にはそうした雰囲気が障害になっている。コミュニティのための市民に開かれた施設としては、それを単純に無料の公共施設だからいたしかたないとするのではなく、民営化を含めてシステム全体を見直す必要がある。
更に、コミュニティセンターの新たな利用者や利用方法などの掘り起しがほとんど行われていない。開設当初は、施設の利用を促進するための呼びかけや企画事業も行われていたようだが、サークル活動が定着するにしたがって、そうした利用の掘り起こしはなくなったようだ。コミュニティセンターの年間予算に、新しい事業を行うゆとりがなくなったことも原因とされている。実際の各部屋の利用状況をみると、サークルに人気のある多目的ホールのような部屋もあれば、以前ほど使われなくなっているような部屋もある。
現在のコミュニティセンターはコミュニティの拠点として、もっと地域住民に開かれた利・活用をしてもよいのではないだろうか。行政が一方的に市民サービスを提供するのではなく、行政と市民が協力して市民サービスの担い手となり、かつ地域の課題に取組む市民参加が必要な社会になっていくといわれている。
コミュニティセンターに求められている子育て支援や生涯学習への取組みも、千葉市行政だけで担わなければならない課題と考えるのではなく、もっと広く、市民を含む自治体全体の課題、あるいは地域コミュニティの課題と理解されるべきである。公設の地域住民の活動場所が整備されていけば、子育て支援や生涯学習等を含む地域の様々な課題に取り組む市民の自発的な活動が生まれるようになり、コミュニティの自立と相互扶助が促進され、コミュニティ全体が活性化すると考えられる。
各コミュニティセンターで行われているサークル活動も静養室に集まる高齢者も、コミュニティの重要な資源と理解すべきであろう。コミュニティセンターが地域住民に一層開かれた施設になることで、こうした地域の人的資源の活かし活かされる関係がつくられることになるであろう。
このような考え方に対して、いろいろな地域の活動が入り込むほどのゆとり空間は今のコミュニティセンターにはないし、混乱を招くという意見も出そうだが、従来の活動と新しい活動の棲み分けや融合なども、時間調整等によるデッドスペースの有効活用、更には他の公設施設とのネットワークの推進などにより十分に可能と思われる。
●ネットワーク化の推進
千葉市のコミュニティセンターでは、建物の構造上の問題もあるが、管理者本位の効率的で管理しやすいシステムそのものが閉鎖的なスペースや利用しにくい空間をつくる原因になっている。これについては、更に詳しい検証が必要だが、他の公設施設についても同様の検証を行うことが必要であろう。
現在の公設施設には、コミュニティセンター以外にも十分に利・活用されていないスペースや時間帯、あるいは重複する設備や機能など、無駄がかなりあることが予想される。公設施設は入館者や利用者の数だけで評価されるべきではないが、このような無駄を減らすことで、より多くの市民が利・活用できる施設に変わっていく可能性がある。
施設の管理方法が施設を利・活用する人を選別するのではなく、施設を利・活用したい人のニーズに合わせて管理方法を変えていくことができれば、より生かされる施設、多くの人に必要な施設になると思われるが、これを単独の施設だけで考えるのでなく、関連する施設が相互に補完しあえるような大きなネットワークの中で具体化できるのであれば、その効果は更に大きなものになる。
ここでのネットワークの効用とは、人、物、情報等の交換・交流を通して住民に役立つ新しい価値をつくり出されること、すなわち資源の有効活用と理解されるが、主に次の2つの視点からネットワークの効用について検討していく必要があろう。
一つは、多様な専門性・特殊性を有する公設施設(場合によっては民間施設も含めて)が相互にネットワークされることによって、それぞれの専門性や特殊性が生かされ、トータルとしてよりよい市民サービスや新しい市民サービスが提供できるようになること。もう一つは、それぞれの施設にある十分に活用されていない資源や未利用資源がネットワークによって相互に活かされるようになり、住民の利・活用がより容易になることである。
千葉市には利用目的が異なる公設施設が多数ある。しかし、会議や研修が可能な部屋、展示・情報スペースなど、施設の一つひとつの要素を見ていくと同じようなものが多く、それらが現在の千葉市民全体の利・活用を想定した場合に過剰なのか不足なのかはよくわからないが、市民が様々な地域の活動に関わるといった市民参加や生涯学習が活発になるこれからの地域社会を想定すれば、過剰ということはないと思われる。実際に、市民活動団体には、身近に思うように使える公設施設が少ないという声が根強くある。
千葉市のコミュニティセンターが、高齢者の居場所及びレクリェーションや趣味のサークル活動の場所という現在の主要な役割を越えて、名前のとおり地域コミュニティにおける住民の様々な活動や取組みのセンター(中核拠点)として有効に機能していくためには、施設間のネットワークの構築は重要であろう。
現在のコミュニティセンターと他施設とのネットワークの状況をみても、複合施設内の施設間で多少の連携が認められるものの、あとは資機材等の貸し借りが時々行われる程度である。
こうした公設施設の間でネットワークが構築しにくい原因として、管理している行政組織の縦割りが指摘されている。ほとんどの公設施設は、国の縦割りの補助金等によってつくられており、それぞれの施設が補助金の趣旨等を踏まえて条例や規則を制定し、細かく利用目的や利用方法を制限している。しかし、こうした国等が定めた補助金の趣旨やそれにともなう制約は、地方公共団体が自らの行政上の諸課題に対処するために決めたものではないことから、常に地域の実情に適格にフィットしているわけではなく、むしろそれが地域内でのネットワークの構築を阻む大きな一因になっていると考えられる。また、一度決められた条例や規則は、時代の流れとともに環境が変化してもなかなか見直しが行われない要因にもなっている。
地方分権・地域主権の進展は、まだまだこれから藪を切り開いていくような段階であろうが、例えば、こうした公設施設間のネットワークを阻む原因となっている広い意味での国の規制については、千葉市行政及び千葉市民がネットワーク構築の必要性についての理解を共有し、協力して構造改革特区の提案、更には特区申請につとめるなど、積極的に取り組む必要があると思われる。
●市民管理・市民運営
千葉市のコミュニティセンターの管理・運営は、これまで千葉市行政が直轄で行ってきたが、限られた予算や人員体制で施設全体を有効に活用しきれない、あるいは利用者の高齢化や固定化の傾向がみられるなどの限界もみえている。
そこで、一定の管理・運営を市民に任せることによって、新しい市民サービスの提供が期待できる。例えば、幼児室などの管理・運営を地域の子育てグループに任すことで、雨天の日に子どもを公園等で遊ばせることができない母親が利用できるようになるかもしれないし、母親同士の対話の機会が増えることなども期待できる。また、調理室などの管理・運営に地域の課題解決に取り組む市民が参加することで、地域内での高齢者福祉サービスの広がりなどが期待できる。市民がコミュニティセンターの管理・運営に参加することで生まれるであろう地域に密着した新しいサービスの増加は、自治体の存立基盤である住民の福祉の向上、住民が生き生きと安心して暮らせるために一つ一つが重要な意味をもっている。
一方で、市民管理・市民運営の問題は、現在のコミュニティが崩壊して相互扶助の仕組みが希薄になってしまった大都市の課題、あるいは千葉市の総合計画に示されている今後の自治体運営への市民参加の課題といった、もっと大きな文脈で検討していく必要もあるだろう。
コミュニティがコミュニティらしさを持っていた時代に、コミュニティの住民は自らの共有財産を協力して管理し利・活用していたという。例えば、ある集落では裏山を共同で管理し、住民の責任で、住民同士が相談して利用方法を決め、利・活用していた。そして、そうした仕組みがコミュニティを育む重要な要因になっていたようである。
住民が利・活用している地域の公設施設というものは、ある意味でそこで暮らす住民の共有財産とも考えられるわけで、現代の社会に昔のコミュニティの理屈が同じように当てはまるとは限らないので慎重に検証を行う必要があるが、地域住民と千葉市行政はこうした新たな視点から地域の公設施設の管理・運営のあり方を見直していくべきであろう。コミュニティセンターは、地域住民による管理・運営がもっとも必要な、かつできそうな公設施設の一つと思われる。
現在の千葉市のコミュニティセンターには運営委員会があるが、主体的かつ自発的にコミュニティセンターの管理・運営に責任を持つ組織にはなっていない。施設管理者と地域住民の橋渡しや施設管理者に意見を述べるなど、一定の役割を果たしていると思われるが、調査を行う時間や予算や権限もなく、実態はどちらかといえば補助的な組織として位置づけられている。運営委員も公募委員ではなくて宛て職になっており、高齢化も進んでいるなど、市民が参加しているといっても、その実効性が定かでない仕組みになっている。
しかし、運営委員会は、その実効性を保証することで、今後の開かれたコミュニティセンターの管理・運営にとって重要な組織になると思われる。
コミュニティセンターのような様々な価値観を持った住民が利・活用する施設において、全ての利用者が満足することは理想であり、その理想は追求すべきであるが、その実現は難しいと言わざるをえない。そこで、運営委員会は、全ての利用者・関係者がせめて納得できるということを目指して、様々な立場から自分の意見を述べることができる社会的責任を自覚した市民によって構成されるべきである。
●管理者の条件
千葉市のコミュニティセンターの管理・運営に住民が主体的に参加していく、あるいは住民が主導的に管理・運営を行えるようにしていくには、これまで千葉市行政が一元的に担ってきた「公」の保障に変わる市民が一緒に担う新しい「公」の保障について市民と千葉市行政が合意する必要がある。公の施設の管理代行を民間に広げる指定管理者制度の導入も、単純に行政の仕事をアウトソーシングするというわけにはいかないであろう。
そのために今後の住民自治を基本とした新しい公共のあり方について市民にとってわかりやすい再定義が必要と思われる。したがって、できれば千葉市において自治基本条例やまちづくり基本条例といったものが制定されることが望ましい。そうした一般的な上位の規範というものがまずあって、コミュニティセンターの民間の管理・運営をどのようにすれば「公」を保障することになるのか、市民と行政が合意することが手続き的には理想といえるであろう。
しかし、千葉市の市民参加への取組みが始まったばかりであり、まだ千葉市に自治基本条例やまちづくり基本条例のような独自の十分な規範がない状況であったとしても、一般的に市民の公益増進活動にとって必要とされることがらを暫定的に規範とするのであれば、コミュニティセンターの管理者の条件は概ね以下のようになると思われる。

@ 公益の増進のための適正かつ明確な目標を持っている管理者であること。
A 公正な管理運営を行い、そのことを十分に情報開示することができる管理者であること。
B 地域住民に支持され、納得や協力が得られる管理者であること。
C 不特定多数の営利企業にも理解され、協力が得られる管理者であること。
D 地域の公益的活動を行う団体や教育機関等と連携できる管理者であること。
E 市民社会における情報共有が必要なことを理解し、情報発信に熱心な管理者であること。

コミュニティセンターがその名前の通り、真にコミュニティの貴重な共有財産として重要な役割を担っていくには、これまでコミュニティセンターを利・活用してきた高齢者やサークルだけが活用する場所としてだけではなく、地域の課題に取り組む様々な市民活動の拠点としての役割が必要になる。こうした複合的な役割は、住民が生き生きと安心して暮らせる「まち」やコミュニティを育むための明確な目標を持った管理者でなければ担うことができない。
また、周囲が納得できる公正な管理運営を保証するものは、結局は十分かつ適正な情報開示であり、わかりやすい事業報告や事業収支報告によって理解を得る方法を知っている管理者が必要である。
そして、その活動が地域住民に支持され、納得や協力が得られることで、施設は発展していくものであり、地域住民との対話や活動の機会をとおして市民ニーズを把握するなど、関係づくりに熱心な管理者が必要である。千葉市の財政状況が厳しいことから、コミュニティセンターの管理・運営については、これから利用者の受益者負担(有料化)についての検討も必要になると思われるが、そうしたことについても地域住民に納得し協力してもらえる対応ができる管理者が求められる。
また、特定の企業と結びつくのではなく、不特定多数の企業との関係づくりも必要である。コミュニティセンターは営利を目的として管理運営されるわけではないが、企業の社会貢献活動との連携も地域活動には必要であり、管理者にとっては経済感覚やコスト意識も重要である。
更に、これからの公設施設の管理者は、地域の公益活動を行う団体や教育機関等他の公的施設との連携ができなければ有効なネットワークを構築することができず、利・活用者の期待に応えることができないであろう。
そして、情報共有と対話が重要であるという市民社会の本質を十分に理解し、情報発信に熱心な管理者でなければ、新しいコミュニティセンターを安定的に維持させることはできないと思われる。

(2)コミュニティセンターと指定管理者制度
これからのコミュニティセンターは、指定管理者制度の導入による地域住民による管理・運営が相応しい。
要するに、この施設を単純に行政の一方的な市民サービスのため場所と考えるのか、行政と地域住民が協力して育む地域自治の拠点と位置づけるかによって、指定管理者制度を導入の方針は大きく異なることになると思われる。
これまでのように行政の市民サービスのための施設と考えるのであれば、サービスの質の向上及び経費節減の効率的な運営という視点で指定管理者制度の適正な運用について検討し、指定管理者を選定すればよい。しかし、現在のコミュニティセンターの管理・運営の状況には限界も見えはじめており、こうしたやり方では問題を先送りするに等しい。一方、市民参加型社会を推進するために、コミュニティセンターの改革や再生の道を考えるのであれば、新しいコミュニティセンターのあり方、その管理・運営及び指定管理者の基準づくりの段階からの市民参加による開かれた政策形成が望まれる。
●指定管理者のイメージ
千葉市のコミュニティセンターの指定管理者を考えるとき、それぞれのコミュニティセンターにおいて別々の指定管理者を想定するのか、あるいは、全てのコミュニティセンターを一括して一つの指定管理者を想定するのかの問題がある。この選択については、指定管理者が責任主体として管理能力を問われることは当然であるが、市民参加による新しい公共やこれからの地域自治を想定したとき、指定管理者には地域や地域住民の実情をよく知り、公正で開かれた施設づくりがしっかりできる能力が必要であることに配慮すべきであろう。
きわめて純粋な住民によるコミュニティセンターの管理については、管理能力が未知数という懸念も出てくるであろう。しかし、コミュニティセンターの現状維持を最低ラインに置いて、そこからの上積みを考えていくのであれば、基本的な管理マニュアルは現在直営で管理しているし行政が持っており、十分にそれらの引継ぎは可能と思われる。指定管理者は団体であることが条件だが、具体的な管理の担い手としては、今後の高齢化社会の進展の中で有能かつ経験豊富な退職者が地域に相当数ストックされることが予想される。実際に団塊世代といわれる層が定年を迎える2007年については、2007年問題といわれる社会的な課題が指摘されている。
これまでに市民が公設施設の管理・運営を担う機会がなかったことから、コミュニティセンターの管理・運営を担える市民組織については、当面は実績のあるNPO等の力を借りながら、地域のなかで担える市民組織を育てていく必要があるかもしれない。
千葉市のコミュニティセンターの個々の事業については、市民組織も経験をつんできていることから、それぞれを担うことができる地域の団体はあると思われるし、民間企業や行政機関を退職し、施設の管理・運営の経験をもった地域の人材の掘り起こしも可能であろう。重要なのは個々の市民の力を活用できるコーディネーターの力量であり、そうした人材の発掘・育成が今後の地域の課題の一つと思われる。
新しいコミュニティセンターにとって重要なのは、むしろ主体的・自律的な運営委員会の存在であろう。これからのコミュニティセンターにどの程度のサービスの上積みが可能かどうかは、指定管理者自身の能力もさることながら、運営委員会の資質によるところが大きい。このことは、現状の行政主導の管理・運営とは異なっている。運営委員会は、地域住民がコミュニティセンターの運営に参加できる重要な窓口であり、対等な緊張関係を保ちながら、指定管理者と一緒に藪を切り開く気概を持ってコミュニティセンターの運営を担う存在であることが望まれる。 そうした運営委員会のスタンスを考えれば、運営委員会そのものが指定管理者になることも想定できる。地域の課題を把握し、地域の関係性を知っている地域住民が運営委員会をまず構成し、業務遂行ができる職員を雇用して事務局を置くという方法で指定管理者になることの意味は十分にある。しかし、最初から管理・運営能力が高い運営委員会が構成されるとは限らないので、この方法はあまり現実的でない。また、指定管理者を外部から監査できる十分な仕組みも必要になるであろう。むしろ指定管理者を選定する条件の中に監査機能を持った運営委員会の設置を盛り込むことのほうが現実的であろう。
こうした運営委員会の意見を尊重し、地域住民と一緒に開かれた管理・運営を行うことができる指定管理者については、指定管理者選定の際の基準を明確にし、更に千葉市と指定管理者の間で協定を結び、それら全ての内容を分かりやすく公表すべきである。
●運営委員会の構成と役割
運営委員は、宛て職ではなく地域住民を中心に定員の半数以上の公募委員を確保すべきであろう。場合によっては、指定管理者と運営委員会が検討して、専門的なアドバイザーを置く必要があるかもしれない。
運営委員の定数は原則15人程度として、コミュニティセンターごとに多少の増減があってもよい。運営委員会が検討すべきコミュニティセンターが関われそうな地域の課題は複数存在し、また、運営委員会はコミュニティセンターの直接の運営主体である指定管理者に提案し、その実績の評価を行う役割があるので、場合によっては検討小委員会やプロジェクトチームの設置も予想される。運営委員会にはかなり活発な活動が要求されることになると思われるので、各運営委員には、それらに十分に対応できる知見や情熱が求められる。
しかし、知見の部分については、住民それぞれが固有の専門性を持っていると考えられることから、「人の話をよく聞くこと」や「100%の自分の満足を求めず、100%の納得を求める」といった、よく言われる合意形成の作法をわきまえている人が運営委員であれば、足りないところを運営委員同士で補い合い、専門家にアドバイスを頼むことなども可能である。したがって、情熱があり、作法をわきまえていれば、地域住民の誰でも運営委員になれるチャンスがある。
任期は2年とし再任を認めるとして、運営委員にはそれなりの責任も要求されることから報酬についてもその公表を前提に考慮する必要がある。
●コミュニティセンターの事業領域
千葉市のコミュニティセンターの事業領域については、高齢者の居場所の提供、サークル活動の場の提供、子育て支援、生涯学習といったこれまでのコミュニティセンターの事業の他に、地域の課題を解決するための住民活動の拠点という項目を加えるべきである。現在、千葉市内全域の市民活動の拠点として「千葉市民活動センター」があるが、コミュニティセンターが市民活動の地区拠点として機能することで、文字通りそれぞれのコミュニティの実質的なセンターになりえる。
また、それぞれのコミュニティセンターでは。これら事業を支援するための情報提供、各種相談、講座開催等の事業を行う必要がある。
これら事業は、行政サービスとして提供されるのではなく、地域住民自らが行政と協力して主体的にサービスの担い手となることが必要であるが、しかし、それゆえにコミュニティセンターは地域自治の拠点となりえる。これからのコミュニティセンターでは、高齢者もサークルも、利用者を地域の有効な人財(人材という言葉は人間を材料のように見ているような気がするので敢えて人財という造語を使用する)と考えて、互いに活かし活かされる関係をつくるべきであろう。
こうした関係及びコミュニティの環境は、コミュニティセンターだけでつくることができるわけではない。学校、公民館、保健センター、文化施設、スポーツ施設など、地域住民の財産でもあるその他のコミュニティ施設とのネットワークが構築されてできあがっていく。地域住民が主役のコミュニティ施設ネットワークでは、地域の様々な活動が生まれる。人と人との関係も生まれる。のんびりと過ごすこともできれば、仲間と共通の趣味を楽しむこともできる。安心して子育てができ、高齢者も生き生きと暮らせる。
施設の管理は指定管理者の役割であるが、一つ一つの事業は地域住民によって自発的に実施され、指定管理者はそれらをサポートする。現在のサークル活動も活動自体はサークルがその責任において自発的に実施されているので矛盾しない。高齢者の居場所は個人利用に関するサービスであるが、これらサービスの質の向上についても地域住民が地域の課題として取り組めるようにする。コミュニティセンターは、地域助け合い、まちづくり、環境保全、地域安全など、いろいろな活動の拠点となりえるし、地域の将来に必要な政策について提案する市民提言活動も可能であろう。
最後に、コミュニティセンターに限らないが、公設施設の事業評価は重要である。指定管理者は事業を内部評価し、監査役の承認を得て、その情報を運営委員会が再評価する。もちろん指定管理者制度では、指定管理者が千葉市行政に決算や事業報告書を提出し、それが評価される仕組みになっている。それら2つの評価は一般に公表され、コミュニティセンターの利用者も評価に参加できることが望まれる。
(副代表・栗原 裕治)

 



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