「指定管理者制度」のインパクト
2004.01



□1.「指定管理者制度」とは?

地方自治法の一部改正により、公の施設管理を営利企業やNPO 等を含む民間事業者に開放することになった。

これまで公の施設管理は、地方公共団体のコントロールの下で、@地方公共団体が2分の1以上の出資をしている法人(管理のための財団法人や社団法人等)、A土地改良区などの公共団体、B農協、生協、自治体などの公共的団体が「受託管理者」として行ってきたが、 2003 年9月に施行された改正地方自治法では、この「管理委託制度」を廃止し、自治体が指定する機関に管理を代行させる「指定管理者制度」に移行する。

指定管理者の範囲については、特段の制約を設けず、議会の議決を経て指定される。

これによって、例えば、文化施設、福祉施設、スポーツ施設や公営住宅などの管理を株式会社や NPO 等の民間事業者が行うことが可能になり、公の施設が十分に活用され住民にとってより使いやすいものになること、管理費用が低廉となること、市民活動が盛んになることなどが期待されている。

この「指定管理者制度」の方針は、 2003 年3月に閣議決定されたが、この法律改正の狙いは当時の議論等から推察すると「 PFI 事業で建設した施設について、利用料の設定も含めた管理代行を可能にすること」、即ち PFI 事業の推進だったことが伺える。

しかし、9月に改正地方自治法が施行されてからの実態をみると、全国各地で既存の公の施設の管理を含めて民間に代行させる動きが強まっている。

 

 

□2.地方自治体の動き

地方自治体が具体的に「指定管理者制度」を導入するには、まず、改正地方自治法を受けて各自治体ごとの手続き条例を制定する。こうした動きは全国の地方自治体において活発になっており、そうした状況はインターネット等で垣間見ることができる。

政令指定都市においては、横浜市や札幌市などがいち早く「指定管理者の指定手続きに関する条例」を制定しているが、千葉市では、総務部行政管理課での検討段階にとどまっている。

一方、「指定管理者」の公募を既に実施している市町村も少なくない。横浜市は磯子区のコミュニティハウスの指定管理者を募集し、新潟市は歴史博物館の指定管理者を募集しており、また、指定管理者の募集を検討中の自治体も多い。静岡県三島市では、公設の学童保育の施設の指定管理者の募集を前提とした「放課後児童クラブ条例案」を巡って、行政の唐突な提案に対して、もっと市民に説明すべきだという意見も出されている。

自治体が条例を定める場合、行政側が十分な開かれた議論や事前の説明を行わないままに、市民にとっては唐突とも見えるかたちで事が進められることに対して、行政不信につながることを懸念する声もある。「もっと地域住民の意見を反映して管理者を選定できる仕組みをつくって欲しい。」「利用者を含めた評価機関を設置し、管理運営の評価をできるようにして欲しい。」といった意見が市民サイドから出されている。さもないと、市民のための公の施設が、 PFI 事業を推進することが主目的となったり、特定の指定管理者だけが利する施設になりかねないという理由からである。

自治体の公の施設の種類は多岐にわたっており、一つ一つの施設に対して市民に開かれた対応が望まれる。

 

 

□3.公の施設の管理者としての条件

公の施設の民間による管理を可能にする「指定管理者制度」は、市民と行政による今後の自治、新しい公共のあり方について再検討する格好の材料である。

改正地方自治法は 244 条で「公の施設」について、「普通地方公共団体は、住民の福祉を増進する目的をもってその利用に供するための施設(これを公の施設という)を設けるものとする。」「普通公共団体(指定管理者を含む)は、正当な理由がない限り、住民が公の施設を利用することを拒んではならない。」「普通公共団体(指定管理者を含む)は、住民が公の施設を利用することについて、不当な差別的な扱いをしてはならない。」と規定している。

これまでの公の施設は、管理委託制度により、ほとんどを行政が直接管理するか、行政が管理監督する公益法人等によって管理されてきた。まさに、行政が管理していることで「公」を保障していたといえる。行政機関の管理は、「効率が悪い」「サービスが画一的でよくない」「行政の天下りシステムである」「運営が不透明である」という批判があったとしても、よほどの犯罪的不正が明るみに出なければ、行政機関は絶対的に公正であり、だから公の施設も公正に管理されているとされてきた。

しかし、営利企業や NPO 等の民間が管理する「指定管理者制度」では、行政機関や議会が一定のチェック機能は果たすものの、それだけで「公」を保障することはもはや難しいと思われる。

行政が一元的に担ってきた「公」の保障に変わる、市民と行政の合意による具体的な内容をともなった新しい「公」の保障が必要であり、そのために今後の住民自治を基本とした地方自治、新しい公共のあり方について、市民にとってわかりやすい一般的な再定義が必要となる。公の施設の管理でも、管理の形態や内容そのものがどのように「公」を保障することになるかについて検討し、市民と行政が合意する必要がある。

どのような形態および内容で管理を行うことが「公」を保障するかについては、 NPO が公のための存在として社会的に認知されるために自問自答してきたことにつながる。

そうした NPO の経験を踏まえれば、公の施設の管理者は、以下の事柄について最大限の努力ができることが認められるものでなければならないと思われる。

@公益の増進のための適正かつ明確な目標を持っていること。

A公正な管理運営を行い、そのことを十分に情報開示すること。

B地域住民に支持され、協力が得られること。

C不特定多数の企業の協力が得られること。

D地域の公益的活動を行う団体や教育機関と連携できること。

E市民社会における情報共有が必要なことを理解し、情報発信に熱心なこと。

以上は、議論を重ねた上での結論ではない。こうした検討を市民と行政が開かれた場で行い、合意していくこと、それを指定管理者制度の手続き条例の中で「公の施設の管理者」としての条文化していくことが、市民と行政によるこれからの自治、新しい公共というものを確立していく上で重要である。

千葉市においても、他都市の「指定管理者に関する手続き条例」に単純に追従するのではなく、独自のものを市民の意見を十分に反映させながら創って欲しいものである。

こうした作業は、市民と行政の協力による地方自治、地方分権を確立していく上で大きな社会的なインパクトがある。

現在、多くの公の施設が、行政が一元的に「公」を保障することでその外郭団体等によって管理運営されている。評判のよい施設もあるし、そうでない施設もある。行政の管理が適正かどうか、情報を積極的に開示していないので本当のところはなかなかわからない。少なくとも。ほとんどは市民の公正な評価を受けていないし、その評価の尺度そのものが確立されていない。

上記の6つは、公の施設の管理についての評価尺度になりえるかもしれない。それは、現在の多くの公の施設のあり方を問い直すきっかけになる。「指定管理者制度」の手続き条例を制定するとき、その条文の中に「公の施設の管理者」の具体的な条件を示すべきである。

 

(副代表・栗原 裕治)

 

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