コミュニティ自治とNPO共同事務所 2002.12



1.地方分権とコミュニティ自治

地方分権とは、中央政府の行政上の権力や権限を地方に移していくことで、地方分権の受け皿は都道府県や市町村と一般的に考えられている。しかし、これは国と地方自治体との関係という行政セクターの中での考え方であり、市民セクターや市民主権といった社会全般を視野に入れて考えるときは、もっと柔軟に市民主体のコミュニティ単位の自治、およびコミュニティ自治への分権について考えていく必要がある。コミュニティ自治の受け皿は、一人一人の任意の市民であり、NPO法人等の市民団体ということができる。

報道が少ないので知らない人が多いが、現在、NPO法人税制の改革が国会審議の一つになっている。昨年10月に認定NPO制度(国税庁が認定したNPO法人への寄付者の税金を控除するなどの税制優遇措置)ができたが、1年を経て認定されたNPO法人の数はわずか全国で9団体(NPO法人全体の約0.1%)であり、あまりにもNPO法人の実態に即していない認定要件の敷居の高さに批判が集中している。

NPO法人の事業は、支出規模が小さいものであれば有志が少しずつ資金を出し合っての自主事業が可能であるが、支出規模が大きい事業では資金を集めることが難しく、それができるNPO法人は限られている。そこでNPO法人は、どうしても身近な市町村などの行政の資金に頼る傾向があり、行政の外部委託事業等はここ数年、確実に増加傾向にある。

しかし、ひとたび行政の金(税金)となったものを利用するとなると、外部委託事業等の事業者決定のプロセスや事業結果等を公開していく仕組みが整備されていたとしても、市民活動・市民事業の自発性や主体性が侵害される危惧は充分にあるわけで、NPO法人が主体的に事業を行うために幅広く資金を調達できる仕組みはどうしても必要である。それが認定NPO法を制定・改革の趣旨であることは間違いない。

国や地方自治体にはできない公共事業や社会サービス、そして政策提案等の主体としてのNPOの必要性・重要性は、国際社会においても地域社会においても増している。それは、NPOが国や地方自治体よりも市民の身近に位置し、それぞれのミッション(使命)に対して自由な発想や活動ができる組織のはずだからである。コミュニティ自治の担い手は、任意の市民であるということができる。認定NPO法がどのようになっていくのか、注目していきたい。

ところが、同様な構造が、国と地方自治体との関係の中にある。日本の地方自治は3割自治とよくいわれる。地方自治体は一度国の歳入となった国のお金(国税)で多くの事業を行っている。国のお金で行う事業は、地方自治体の自発性や主体性が侵害される危惧が充分にあるわけで、時には不当に地方の利益よりも国の面子等が優先されるだけでなく、地域住民の声よりも現場から離れた国の意向が反映されることになる。こうした構造が変わらなければ、本当の意味での分権はありえない。現在の税制度が公平かということは別にして、地方自治体が公共事業や社会サービス事業を地元のために効果的に行える仕組みでないことについては、様々な指摘がある。

国の意向が、特定の政党や政治家に献金する一部の団体や個人の意向によってゆがめられることにでもなれば、地方は取り返しのつかないような傷を負うことがあり、こうした事件は決して珍しいことではなくなっている。地域住民は、環境汚染等によって生活上の安全(セキュリティ)さえも脅かされかねないのである。政治に対する信頼がなくなっている社会ともいえる。

国が行政セクター内部の範囲で地方分権の受け皿を考える場合、市町村単位の地方自治体の強化がまず必要と考え、広域市町村の合併が推進されているわけだが、この範囲で地方分権がとどまっているのでは、市民と行政の関係は大きく変わっていかないし、市民生活の閉塞感も改善されないと思われる。やはり、真の地方分権の受け皿としてのコミュニティ自治の強化が重要であろう。

なぜ、国がNPO法をつくり、千葉県がNPO活動推進指針をつくる必要があるのか。市民の自助努力はもちろんだが、なぜ、行政セクターや産業セクターを含めて社会全体が市民セクターの育成を考えなければならない時代になったのか。地方分権を切り口としてもう一度、私たちの社会の仕組み、更には国と個人の関係について市民一人一人が考えていく必要があると思われる。

2.コミュニティ自治におけるNPOの役割と特徴

コミュニティ自治を確立していくには、市民一人一人が自分の暮らすコミュニティに関心を持ち、コミュニティをよくしていくための様々な活動に、自らの意志で参加することが理想かもしれないが、まず、任意で参加する市民を増やしていくことが必要であろう。

自分のできるところからボランティア活動やNPOの活動に参加する市民は確実に増えており、水平的には、環境、福祉、まちづくり、文化活動、子育て支援など、様々な分野に広がりを見せているし、垂直的には、同じ分野において政策提案や計画づくりを行う団体、設計を得意とする団体、具体的なサービス事業を展開する団体が見られるようになってきた。コミュニティ事業を行う市民団体が増え、一方で、NPO支援に関連する施策やNPOの中間支援組織ができていくなど、コミュニティ自治の基盤が整ってきている。そこで、私見ではあるが、コミュニティ自治におけるNPOの役割や特徴について整理してみることにしたい。

現在は、産業社会から市民社会への移行期ともいわれている。そこで、現代社会の閉塞感、産業社会の限界が見えている点について少しだけ考えてみよう。

民間の一般企業は、普通は利潤を目的としており、競争に打ち勝つために相手を出し抜く必要もあり、最近はライバル企業だけでなく、不正表示等で消費者さえも平気で欺く企業がある。自社の効率を上昇させるために、社会全体の効率を無視したり、法の目をかいくぐり、社会的に負の遺産をばら撒いて平気な企業があたりまえのようにある。

効率的に自分の事業を有利にしていくために、かなりの企業に巨大化志向がある。さすがに市場が成熟化してきたことから、大量生産・大量消費の考え方が見なおされつつあったり、一部の不採算部門の仕事をアウトソーシングする企業も増えているが、採算さえ見合うならば、製造業が流通や小売りまで支配したいと考える傾向が止まったわけではない。自分の土俵を広げることが効率的と考えるからである。利潤追求を目的化してしまった企業にとって、それはあたりまえといえばあたりまえの話である。資源は有限であり、社会の効率化は一方で必要なことである。しかし、自分の土俵を拡大して、効率的に運用しようとする試みは、手抜きや社会的責任の放棄につながる場合がある。

多くの建設会社は、施工だけでなく設計を行うようになり、やがて都市計画づくりや建物管理までを行うようになっていく。そうしたプロセスは、経済成長の時代は当然のことであった。しかし、一方で施工に有利な設計、それを有利にするための都市計画というように、企業が競争を勝ち抜くために、本来相互にチェックしなければならないはずの査定が甘くなったり、社会のため、人間のためという建設事業の本質は、競争に勝ち抜いての企業利益のために、微妙に歪められていったと思われる。そうした影響は、市民の生活や地域経済にも大きな影響を及ぼしている。

ご存知のように、行政セクターは、不正があれば当然それを評価したであろうが、行政セクターによって悪い情報が公表されることはあまりなかったし、むしろそれを指導する口実での外郭団体の増加やそこや企業への天下りの疑惑、政官業の癒着疑惑などを増大させてしまった。

一例を示したに過ぎないが、そうした産業社会、あるいは行政セクターと産業セクターの限界が顕在化する中で、市民社会への移行が必要とされ、市民セクターやNPO等の成長が必要な事態になっている。市民セクターは、行政セクターや産業セクターをしっかりした根拠に基づいて評価したり、政策的な提案を行う能力を高めるとともに、行政セクターや産業セクターができないコミュニティの社会サービスの担い手として期待されているわけである。

そうしたNPO等の市民団体の特徴は、非営利かつ社会的な存在であることを条件に、自らの目的や役割が明確なことである。そして、目的や役割を達成してしまえば、あるいは達成できないことが明白になれば、その団体は解散すればよい。だから団体規模は、目的や役割を遂行する上で適性であればよく、ネットワークを重視していけば、自己の組織拡大を目的とする必要がない……、必要がないというよりも、組織拡大に対して慎重であるべきであろう。市民団体は、利潤を追求しないことから、ネットワークを通して組織の外の市民、及び別の市民団体に必要な協力を求めることが容易に可能で、作業のアウトソーシングが容易な場合が多いといえよう。

NPO等の市民団体は、自らの目的と役割、更に活動状況をオープンにすることによって社会的信頼を獲得しなければならない。というよりも、そうすることによって社会的信頼を獲得し、目的や役割を達成できる。そのために、利潤ではなく自らの社会的な目的を達成するために効率的・効果的であるべきで、本来は余計なことをする必要がない。NPO法は目的以外の収益事業を条件付で認めているが、これは他の意向に影響されない自主財源を得るための手段であり、NPOの本質ではないのである。

市民セクターの中での必要性が高まれば、その必要性に応じた新しい事業やそれを行うNPOが生まれることが理想である。同じ団体が、都市計画、設計、施工、建物管理の全ての事業を行うようなことまでする必要はなく、NPO等の市民団体は、相互にチェックできるそれぞれに強みを持った団体の組み合わせによって大きな事業をしていけばよいと思われるのである。市民とのネットワークや行政とのネットワークも重要であるが、水平的にも垂直的にも異なった事業を行う団体のネットワークこそが市民セクターの生命線であろう。

そのためには、様々なNPO等の市民団体が、地域性や専門分野の技術力等において特色や強みを持つ必要があるが、一方で、多くの団体の財政基盤は弱く、支援を必要を訴えるNPOは多い。支援を必要としないというNPOがないわけではないが、それはごく少数であり、代表や会員の自宅等を事務所にしている団体が非常に多かったり、家賃の安い不便な場所に事務所を設けている団体が多い。また、特に立ち上げ期の支援は特に必要との声が大きい。市民セクターを育成しようという風は、大きなエネルギーをもった強い風になりつつあるとはいえ、これが現在のボーンセンターを含む市民セクターの現実でもある。

3.NPO共同事務所とは?

そこで、市民セクターの成長のためには、いろいろな基盤整備が必要であり、今回は全国で次々に開設されているNPOの共同事務所というものにスポットをあてたいと考え、調べていたのであるが、どうやらだいぶ寄り道をしてしまったようである。

NPO共同事務所については、NPO法人まちづくり情報センターかながわ(通称:アリスセンター)のたあとる通信7号(2002年7月31日発行)に「NPOのオフィスシェアリング」という特集が掲載されている。その中に国内各地のNPO共同事務所のことが記事になっており、いくつかを紹介することとしたい。

なお、アリスセンターは、2002年2月、横浜みなとみらい21地区にある商業施設「横浜ワールドポーターズ」の中に他のNPOと共同で「NPOスクエア」を開設し、入居している。
広島市には、「ひろしまNPOセンター共同事務所」がある。広島駅から市電で10分、徒歩5分ほどの官庁街の5階建てビル、その2階の200uのスペースを広島市が施設提供し、NPO法人ひろしまNPOセンター(電話082-511-3180)が管理している。

この共同事務所の開設までの経過は、2001年に広島市が市民活動拠点を支援する事業を計画して施設管理を行う管理団体を公募し、NPO法人ひろしまNPOセンターが選ばれた。この団体は管理団体に決定後、入居団体を公募し15団体の応募の中から公開審査によって8団体の入居を決定した。多分野からの選出を方針とし、福祉、社会教育、災害救援、国際協力などの団体を選定している。

1フロアに管理団体と入居団体がパーティションで区切って同居しており、利用料は1坪4,900円と市価よりも安い。共益費が約5,000円、コピー機の利用料は、それぞれの団体がカードを持って自己管理している。
契約は管理団体が一括して広島市と行っていが、予算の関係から1年ごとの更新となっている。3年を目処に巣立っていくことを入居団体と約束している。

大阪市には、「大阪NPOプラザ(ONP)」がある。JR大阪環状線野田駅から徒歩10分、以前は大阪府の府税税務所だった地上3階地下1階建て建物(土地1724u、述べ床面積1956u)を大阪府が施設提供し、社会福祉法人大阪ボランティア協会NPO推進センター(電話06-6465-8390)が管理している。

2002年4月の開設までの経緯は、2001年5月に大阪府が管理団体を公募し、2団体から大阪ボランティア協会が選ばれ、6月に覚書を交わしている。この団体は府と協議しながら管理・運営計画を作成、建物の管理方法は管理団体の活動の自主性を確保するため、委託ではなく建物の貸与ということで定期賃貸借契約を結び、5000万円を大阪府から補助金として受け、そのまま家賃として府に戻すかたちをとるようにした。

ランニングコストは、ONPを利用する団体からの家賃収入や有料会議室の貸出収入などだが、100%を初年度からカバーできないので、別に900万円の補助を運営補助金を大阪府から受けている。

入居団体との契約は、管理団体が一括して行っており、フロアーをパーティションで区切る机方式(1階)と部屋方式(2階)の2種類で貸している。3階は、会議室やホールとして利用できる。2階は13団体の応募の中からYMCAなどを含むNPO中間支援型の7団体が入居。家賃は42uのスペースが水道光熱費等を含んで78,000円と市価の3分の2程度。1階は、大阪ボランティア協会が行う受付スペース、情報交流スペース(図書コーナー)、作業スペースの他に、NPOインキュベーションブースがある。このブースはパーティションで区切られ、机が1つずつ置かれ、NPO法人7団体、任意団体10団体が月額16,000円水道光熱費等込みで入居(3年以内が条件)している。

名古屋市には、「NPOプラザなごや」がある。名古屋駅から徒歩10分、オフィス街の中の4階建のビルの半分(半分は企業が入居)を市民フォーラム21・NPOセンターの会員が施設提供し、市民フォーラム21・NPOセンター(電話052-586-1154)が管理している。会員が持ちビルを格安で提供し、1998年12月から開設準備が始まり、事業計画の策定やビルの内装などを市民が協力して行い、翌年5月に全国初のNPO共同事務所兼NPOサポート施設が誕生した。

管理団体が管理している床面積は1〜4階までの500u弱(間口が5.5m、奥行き22.5mと細長い)で、1階には障害者団体が運営する喫茶室と管理団体の事務所や市民が利用できる作業スペースや情報コーナーなどがある。2階は事務室のほかに小規模NPOのインキュベートオフィスがあって机20卓が置かれ、3階は2つの事務室、4階は事務室と会議室になっている。入居者にとってIT環境が良いのが特徴となっている。

入居者との契約は管理団体が一括して行っているが、入居資格はNPOであることのみで、27団体が入居している。賃料は、事務室が水道光熱費込みで一坪あたり月額約3000円、インキュベートオフィスの机は月額5000円で、市価よりかなり安い価格である。

東京都多摩市には、多摩市教育総務部教育総務課が管理者である「西永山複合施設」がある。京王相模原線永山駅から徒歩15分で、廃校となった西永山中学校の校舎を改装し、8つの市民団体が入居している。開設は2001年5月で、廃校の有効利用として話題になった。入居資格は、多摩NPOセンター、シルバー人材センター、在宅介護支援センターなど、多摩市の委託事業を行うことができる市民団体で、委託事業を落札するとこの校舎に入居できる仕組みのようである。利用料、家賃、光熱費などは無料で、廃校の暫定利用使用として地域に必要のある利用方法という位置付けで設置しており、学校施設のために料金を取ることができないが、市民団体としてはその分委託料が安くなっていると考えている。

以上、4つの事例を示したが、全国で様々なNPO共同事務所が誕生していることがわかる。NPO共同事務所を設置したところでは、NPOのネットワークが強化され、新しい市民事業が立ちあがっているようだ。千葉市内にも有効利用を図りたいスペースは相当あるし、交通の便利の良いスペースの家賃もかなり下落しており、NPO共同事務所の設置を検討する余地は広がっていると思われる。

副代表・栗原 裕治

 

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