1.千葉県NPO活動推進指針骨子の発表
千葉県は、7月22日に「(仮称)千葉県NPO活動推進指針骨子」を発表した。この骨子案は、昨年9月に発足した市民公募委員を含むNPO活動推進懇談会メンバーと県職員が検討作業を続けてきた成果であり、ボーンセンターが実施している「NPOアンケート事業」の中間報告もこの指針骨子を作成するうえでの参考資料となっている。千葉県は、この指針骨子を叩き台として、現在タウンミーティングを県内4ヶ所で実施しており、それら意見を受けて、11月初旬の完成を目指している。こうした指針策定の起草段階からの県民参加は千葉県では初めてであり、全国的にもまだ珍しい試みである。
なお、千葉県は現在、この指針骨子に対するパブリックコメントも募集している。千葉県が発表した指針骨子の全文はA4版ペーパーで14ページあるので、ここで全文を紹介するわけにはいかない。県庁本館2階のパートナーシップオフィス(TEL:043-223-4145)に全文が置いてある他、県環境生活部のホームページ
http://www.pref.chiba.jp/syozoku/b_kenmin/npo/shishin1.html
でも見ることが可能であるが、PDFファイルのため少し面倒である。以下に、指針骨子の概要を多少の私見をまじえて述べてみたい。
2.指針骨子の構成
指針骨子は、冒頭の「はじめに」の部分で簡単に指針の検討経過を解説しているほか、T章「基本的な考え方」、U章「基本的な用語(定義)、V章「指針における基本原則」、W章「指針」と大きく4つの章で構成されている。
T章「基本的な考え方」では、前半で「社会経済状況の変化」というみだしで、(1)行政のあり方の変化、(2)新しい市民社会の台頭、(3)NPOの重要性、(4)NPOの抱える課題、の順で述べられている。全国各地で熱っぽく語られている現代社会におけるNPOの意味・根拠や課題が過不足なく簡潔に整理されている。
このT章の後半は「千葉県の方向性」のみだしで、(1)千葉県の現状と課題、(2)千葉県のNPOの現状と課題、(3)NPO立県の目指すもの、の順で述べられている。ここでは、千葉県が財政再建団体に転落する可能性があるほどの財政の危機的状況にあるという認識が示され、県民の視点にたった県政のあらゆる分野における総点検の必要性、があることが述べられ、県民と県政が、千葉県の歴史や地域特性に根ざして地方自治の基本原則である自己決定・自己責任を貫いていこうという政策指向「千葉立県」の確立を目指すという決意が表明されている。
千葉県のNPOについては、まだまだ規模の小さい団体が多く、運営基盤が脆弱なだけでなく、さまざまな他との協力関係が構築できないために活動全体に厚みがないこと等、また、NPOが社会・行政に充分理解されておらず、的確な情報が把握しきれないことや、行政施策への参加の道筋が明確でないことなどが指摘されている。
そして、この指針を策定する目的について、(1)市民主体の社会的課題解決力の向上を図ること(民間の社会貢献活動の領域を確立し、拡大する。そのために、県、市町村、NPO、企業等の役割を見直し、県との協働や県の支援でできる範囲を明らかにする、(2)行政の事務事業について、NPOとの協働やNPOへの委託等により行政サービスの向上や経費の削減等が見込まれる事務事業については、NPOの力の積極的な活用を図ること、の2つが述べられている。このT章は、指針を策定する理由についてかなり踏み込んだ記述となっているが、指針全体の理念等を示す部分としては少し迫力に欠けるように思われる。
一つには、千葉県の財政が危機的状況にあることがまず述べられ、NPOの役割の重要性が指摘されており、行財政の改善とNPOの発展は不可分であることを読み取ることができるのだから、思いきって「県は小さな効率的な行政機関を目指す」という文言をこの章に入れることができれば、行政の姿勢が強化され、それが県内NPO活動の可能性の明確化につながっていくと思われる。従って、縦割りの障害を超えて、この指針づくりそのものが県のNPO担当部署と行政改革担当部署が協力して実施されることが望ましい。
もう一つは、なぜ千葉県の財政が危機的状況にあるかの反省について述べ、今後の市民セクターの役割をこの章で考察しておくべきであろう。千葉県の経済は、行政セクターと企業セクターが中心になって方向を定めて発展してきたが、その間に負の遺産ともいうべきものも多く蓄積されてきており、現在、それが重くのしかかってきている現実がある。
今後は千葉の文化、自然環境、地域や家族への「思い」や理性等が、千葉県の経済を持続可能な発展のために制御(コントロール)していくことが必要であり、そこへの市民セクターの視点や参加の重要性について記述がこのT章に加われば、やや蛸壺状態に陥っている多くの県内の市民活動が奮い立つきっかけにもなるであろう。こうした記述がないと、T章の最後の「NPO立県千葉がめざすのは、NPOが日本で最も活動しやすい県を実現することにより、市民の視点に立ったより良い地域をつくることにある。それがひいては、全国レベルのNPO施策を先導していくことを期待するものである。」という文章が非常に浮いた印象になってしまう。
U章「基本的な擁護(定義)」では、この指針におけるNPO(NPO法人、ボランティア団体を含む市民活動団体とする)、ボランティア(自発的に、原則的に無報酬で社会活動を行う個人とする)、市民(県民を中心とするあらゆる個人・団体とする)などが定義されている。
V章「指針における基本原則」については、7項目の視点が記述されている。
(1)「市民本位への変換」では、市民の自己決定・自己責任を尊重することや市民の意見の施策への反映や市民のイニシアチブを尊重することが述べられている。
(2)「新しい官民の役割分担の構築」では、NPOの役割やその自主性・独立性を尊重し、新しい役割分担のあり方の構築を重視することが述べられている。
(3)「ワンストップサービスの実現」では、県のNPO担当部署が庁内全体のNPOに関わる事業の情報、更に国・市町村のNPO関連情報を集約し、市民・NPOとの情報の共有できる体制を進めることが述べられている。
(4)「パートナーシップと競争が生まれる環境の構築」では、NPOと行政とのパートナーシッ
プの構築を重視するとともに、NPO同士やNPOと公益法人・企業等との公正な競争を実現できる環境を重視することが述べられている。
(5)「アカウンタビリティ(説明責任)の重視」では、県のNPO施策に関して、立案・決定・実施・評価の各段階においてアカウンタビリティを重視することが述べられている。
(6)「アクションプログラムの目標年次」では、目標年次を平成15年からの3ヵ年とし、アクションプログラムを具体化するための3年間の実施計画を作成し、優先課題や年度ごとの目標を明確にするとともに、年度終了時に第3者機関がその達成度を評価・公表することが述べられている。
(7)「指針の見直し」では、社会環境の変化やNPOの活動状況等を勘案して、指針の見直しを柔軟に行うことが述べられている。
これら7項目は、県はもちろん、むしろNPO活動の現場に近い各市町村に取り上げてもらいたい視点であり、今回の指針づくりが、各市町村の同様の指針づくりに影響を与えることを望みたい。
特に、今回の指針はアクションプログラムが付記されていることが特徴であり、実効性のある実施計画がつくられることが望まれる。
W章「指針」では、8つの指針が示され、それぞれにアクションプログラムが述べられている。
3.指針案の概要
指針1は、「この指針は、NPOによる地域・コミュニティの社会課題解決の力を強化すること目的とする」としている。
アクションプログラムでは、「地域力マップの作成」及び「NPOの事業力を強化する研究会の設置」を掲げている。特に地域力マップの作成は、この指針における目玉ともいえる重要性を持っている。これは、地域力活性化プロジェクトチームをつくり、地域の福祉や環境などに関する基礎データ、それらに対する取り組みの現状、公共施設やサービスの提供の状況などを踏まえ、地域の諸課題や市民ニーズを明確にし、それに取り組む組織・機関の活動の現状とそれぞれの協力関係のあり方、また活動上の障害・課題を明らかにする県内の地域力マップを、市民参加の過程を経て作成するものである。これによってそれぞれの地域・コミュニティの課題が認識され、課題ごとの情報が共有され、県の事業やNPO活動の目標が明確になることが期待できる。
指針2は、「NPOとさまざまな主体との多元的で包括的な関係づくりを促進することで目的達成を図る」としている。
アクションプログラムとしては、「地域力活性化戦略の策定」、「総合的な補助金制度への改編」及び「NPOの全国的なイベントの招聘」を掲げている。
地域力活性化戦略は、地域力マップをもとにつくられ、NPOを含む各主体の役割や協働の領域などが見直されることになる。総合的な補助金制度への改編は、従来の個別補助金を統合して、上記の戦略に基づいて、市町村への統合補助金制度やNPOへの包括的な公募制補助制度をつくるという、大掛かりな計画である。NPOの全国的なイベントの招聘は、県の担当部署というよりも、県内のNPOが独自に、あるいは行政と協力して行えばよいと思われる。
指針3は、「NPOと行政の協働の領域を確立する」としている。
アクションプログラムとしては、「県の事務事業の仕訳」、「NPO等のイニシアチブを生かした県の事業の組み立て」、「協働のルールをつくる」を掲げている。
県の事務事業の仕訳は、NPO担当部署と行政改革担当部署が共同し、県の事務事業を全面的に見直し、行政の独自領域、行政の独自領域だが市民参加が必要な領域、企業・NPO等へのアウトソーシングが可能な領域、NPOとの協働の領域を仕訳するものである。地方分権一括法でも、国の仕事と地方自治体の仕事の仕訳は充分とはいえず、困難が予想されるが、地方分権の完成形は市民分権といわれているように、こうした試みは重要かつ先導的な役割を果たすものと期待できる。
NPOが関係する事業領域については、委託にとどまるのではなく、段階的な委譲を含めた検討も必要になると思われる。NPO等のイニシアチブを生かした県の事業の組み立ては、NPO担当部署及び関係各課が共同して、協働の領域の政策目標と評価の方法を整備して、統合化を進めるもので、NPOに関わる県の事業は、タウンミーティング等をとおして地域課題を共通認識とし、事業を公募して予算に反映させるとしている。協働のルールをつくるは、NPOと県のあり方をその性格ごとに整理し、そこでのパートナーシップの構築についてのマニュアルを作成する。そのマニュアルには、市民参加の規定を盛り込み、市民やNPOの参加が透明なルールで行われるようにする、と述べられているが、この市民参加の手続き整備し、政策の形成段階からの市民参加を保障することが地方自治の根幹であり、市民参加条例や自治基本条例等を視野に入れた検討が望まれる。
指針4は、「指針への取り組みは全庁的に統一した手法で行う」としている。
アクションプログラムとしては、「全庁的取り組みの推進」、「NPO担当部署への情報の一元化」、「NPO活動推進委員会(仮称)の設置の検討」、「職員のNPOに関する認識を深める」を掲げている。全庁的取り組みの推進は、NPO活動推進と県の事務事業全体との整合性をはかることや県のアクションプランその他の計画との調整が必要になる。NPO担当部署への情報の一元化は、NPO関連の情報を一元化して管理できるようにし、市民、NPOや関係部署の相談に応じられるようにすることだが、一元化管理の弊害も予想されることから、中間支援型NPOとの連携等も視野に入れた柔軟な検討が必要となろう。
例えば、「千葉県環境再生計画」は、せっかく市民・NPOとの協働を掲げながら、情報を担当部局が独占し、ほとんど出てこない状況にある。NPO活動推進委員会(仮称)の設置は、市民参加や協働のプロセスが担保されていることを保障する第3者機関であり、地方自治を推進する重要な要素である。この指針の改善提案も、こうした組織の役割となろう。職員のNPOに関する認識を深めるためには、研修や協働事業等の学習・体験の機会を増やしていくことであり、NPO担当部署、職員研修所、NPO等との連携が必要である。
指針5は、「NPOに関しては、県はワンストップサービスを実現する」としている。
アクションプログラムとしては、「参加のプロセスの明確化」、「NPOパートナーシップオフィスの機能強化」、「NPO支援センターの検討」、「出前説明会」を掲げている。参加のプロセスの明確化は、市民やNPOが計画等に参加できることを保障するものであり、指針3の「協働のルールをつくる」と共通したものである。NPOパートナーシップオフィスの機能強化は、現在県庁本館2階に設けられているスペースを指すが、この情報窓口及び相談窓口としての機能を強化することである。NPO支援センターの検討は、市町村のNPO支援センターの設置状況を勘案し、全県的なNPO支援センターのあり方を検討するものであるが、前述のNPOパートナーシップオフィスと市町村のNPO支援センターや民間のNPO支援センターとの連携が検討課題になると思われる。ちなみに、千葉市では、今年10月に「千葉市民活動センター」がオープンする。出前説明会は、出前説明員を置き、適宜小規模のタウンミーティングを行うということである。
指針6は、「市町村との連携により、千葉県のNPO活動をより確実なものとする」としている。
アクションプログラムとしては、「市町村への研修」、「研究会の設置」を掲げている。市町村への研修は、市町村のNPO支援の支援として、研修や連続講座を開催することであり、研究会の設置は、県のNPO担当部署が各市町村の担当と共同で研究会を設置し、NPO活動推進の強化を検討するものだが、各市町村や地元NPOの主体性を保障することが重要であり、今後の市町村担当等をまじえての仕組みづくりの検討が期待される。
指針7は、「NPO法やNPO支援税制の精神が生かされるNPO政策を実施する」としており、アクションプログラムとしては、「情報公開の強化」、「NPO法の運用ルールの透明性の向上」を掲げている。
情報公開の強化では、NPO担当部署は、インターネットにおいてNPO法人の年次報告書等を公開するとともに、どのような形式で情報公開をすべ気化の情報公開基準を作成するとしている。できれば、誰もが千葉県の公益事業活動がわかるように、NPO法人以外の公益法人や県の直轄事業や委託事業の年次報告等、議会等での検討事項なども含めて公開されることが望ましい。NPO法の運用ルールの透明性の向上は、NPO法の認証・運用におけるQ&A集を作成し、ホームページで公開することにより、認証の基準や運用のルールを明確にするとしている。
指針8は、「千葉県のNPO政策により、全国レベルでのNPO政策を先導する」としており、アクションプログラムとしては、「NPOに関する賞の創設の検討」、「千葉NPO白書(仮称)の発行」、「NPO推進自治体会議(仮称)の検討」を掲げている。
NPOに関する賞の創設は、県内と全国を対象に、NPOの最良経営部門、パートナーシップ部門などを設けて年に1度表彰するというものである。個人的には、公開審査等により、参加者全体に役立つような表彰ができればよいが、形式的な表彰ならば必要ないと思う。
千葉NPO白書(仮称)の発行は、NPO立県千葉の進捗を図り、県内及び全国のNPOの最良事例を紹介するために、2年ごとに発行するとしている。NPO有志で編集委員会をつくり実施できれば、発行の意味は大きいと思われる。NPO推進自治体会議(仮称)は、NPO施策に熱心に取り組む自治体の連絡会議であるが、市民・NPO・職員などの誰もが参加できる会議であれば、検討の価値がある。
4.指針骨子の感想
途中の指針骨子の説明で、パブリックコメントらしき意見を少し述べてきたが、最後に今回の指針骨子全体の感想をまとめたい。
指針骨子全体は、体系的にまとまっているし、これまでの行政が踏み込まなかった部分まで踏み込んでおり、よくできていると思う。特に、アクションプログラムで課題を掲げ、誰がいつまでにやるかを明記して、よく整理されている。アクションプログラムのほとんどは、今後の検討が重要になると思うが、ほぼ全てがNPO担当部署(環境生活部県民生活課NPO室)が行うことになっている。アクションプログラムはかなり網羅的に書かれており(パブリックコメントやタウンミーティングでプログラムが増える可能性もある)、今後は優先順位や、NPO担当部署が率先して行うプログラムと後方支援的に行うプログラム等に分けられると思うが、それでもNPO担当部署でできるのかが懸念される。
それは、業務そのものはNPOと協働で進められるものも多いことから、能力的な問題というよりも、県庁内の環境生活部県民生活課NPO室のポジショニングの問題と思われる。今回の指針骨子では全庁的な取り組みが重要であり、知事直属の政策企画部門でなければ難しいように思われる。
もう一つの懸念材料は、前記の懸念とは反するものかもしれないが、NPO担当部署が全てをやり過ぎてしまうという懸念である。市民活動の関連は、なかなか計画どおりにいかない場合も多い。行政がやり過ぎてしまうと、NPOの主体性が失われることにつながっていく(指針骨子にNPOの主体性を尊重すると明記してあっても)。他県では、行政のやり過ぎに批判も出ていることから、全体を把握した柔軟な推進が望まれる。
栗原裕治
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