“伝建地区”を知っていますか?
10月になって新学期が始まった。もともと登校拒否体質の私は、毎日が気が重い。まして、今年の暑い夏はよく眠れなかったので、その睡眠不足を取り戻したいという思いもあって、朝起きる気がしない。こんな勤務態度で給料がもらえる大学教員と言う職業に感謝しつつ。
学期が始まると授業の準備だ。年中行事は、スライドの重要伝統的建造物群のリストなどを更新すること。私の専門は都市計画だが、なかでも伝統的町並みの保存は十八番中の十八番となっている(自分で思っているだけ)。だから、授業の最初の方でとりあげる町並み保存のデータは完璧でないといけない。
ところで、国が選定した重要伝統的建造物群の数がいくつになったかご存じですか。まあ、インターネットを叩けばすぐわかることですが、87地区です。実は、ここ数年にものすごい勢いで増えている。2003年62地区、2004年66地区、2005年73地区、2006年79地区、2007年80地区、2008年83地区、2009年86地区という具合。かつては、文化庁は厳選主義であったが、積極選定へ姿勢を転じた模様。この頃選定される地区は聞いたこともない地区ばかりなのだが、この勢いは歓迎したい。少なくとも賑やかな都市以外では、伝建地区アレルギーはかなり解消された。今や、まちづくりに欠かせないアイテムとなりつつあるのである。
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香取市佐原地区
(小野川沿いの商家の町並み)
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伝建地区というと、多くの人は建築が不自由な地区とお思いになるだろう。確かに、特定された歴史的な建物は、原則として修理が義務づけられ、その他の建物も高さ、壁面の位置、デザインに、都市計画法や建築基準法による一般規制よりはるかに強い制限が課せられる。代わりに補助金が支出されるものの、立場によっては「建築不自由」の世界に足を踏み入れることになる。しかし、詳細なことで知られるドイツだけでなく、アメリカを含めた建築の一般的なルールは、実は伝建地区のレベルに限りなく近い。逆に言えば、日本の建築ルールはあまりにもおおざっぱなのである。だから私なぞは、日本中が伝建地区になればよいと思っている。
さて、授業の準備では、県別に伝建地区の数をカウントする。これがなかなか面倒な作業なのだが、かなりのバラツキがあり、歴史的環境への地域別の対応が一目で分かる。一番多いのは京都府の7地区。続いて長野、岐阜の5地区。対するゼロは、宮城県、山形県、栃木県、東京都、神奈川県、静岡県、愛知県、熊本県の8都県。これらの県に歴史的町並みがないわけではないのだから、これは各県と市町村の姿勢の問題だろう。ちなみに我が千葉県は佐原の1カ所。平均を下回る。
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