157 鶴見俊輔/上坂冬子「対論 異色昭和史」(抄)  PHP研究所(PHP新書) 2009年05月 09/05/09掲載)

鶴見 (前略)……そうこうするうちに、とんでもないことが起きたんだよね。
上坂 何が起きたんですか?

 アメリカはべ平連をどう見ていたか

鶴見 CIAが目をつけた。
上坂 べ平連に?
鶴見
 そう。急激に伸びていることに脅威を感じたんだろうね。彼らはアメリカ好みの日本の大学教授をいっぱい知っていて、いろんな情報を集めてレポートを作っていた。最後は向こうの学者がまとめたらしいけど、CIAが拠りどころにしたこの論文を、べ平連の事務局長だった吉川勇一が手に入れてくれたんです。この文書は、以来、ずっと私のファイルに入っています。これまでに使ったことがないけれど、私が死ぬ前に誰かが使うと面白い。そこに、べ平連の伸びは小田の力ではないと書いてある。
上坂 
見るところは見てるじゃありませんか。
鶴見 黒幕がいて、その人物は初代満鉄総裁・後藤新平の孫である。戦争が終わった時、満鉄に隠し金があった。それを基金にしてべ平連を支えていると。ヘンに辻榛が合うでしょう(笑)。
上坂 初代総裁の後藤が隠し金を持っていたなんて、下賎な想像ねぇ。
鶴見 CIAの考えそうなことですよ。で、この黒幕は右翼の大物とかかわりがあるという。つまり頭山満だね。その頭山満と組んでいた杉山茂丸という人物がいて、黒幕は杉山がブレーンをしていた後藤新平の孫であり、杉山の息子の伝記まで書いているという。『夢野久作』という私の本のことです(笑)。
上坂 筋書きとしては、よくできた話ですね (笑)。
鶴見 CIAの文書に実際に書いてあるんだよ。
上坂 面白いですね。でも何かしら根拠はあるでしょう。一人ででっち上げるにしては、辻複が合いすぎています。吉川勇一さんはどうやって手に入れたんだろう。
鶴見 そこはまだ聞いてない。
上坂 そんな大事なことをなぜ聞いてないの?
鶴見 細かいことに神経を回す気はないもの。私は大まかなんだよ。
上坂 CIAの想像力もたいしたものですが、一般にはべ平連というと小田さんと吉川さんが有名で、黒幕のはずの鶴見さんはあまり表に出てきませんね。高畠さんも、ほとんど出てこない。
鶴見 高畠通敏の発想がなければべ平連もなかったのにね。
上坂 そうねえ。鬼はそんなことは全然知らなかったわ。でも、あれは当時、旬だった小田実さんの存在もあって、世論の注目を集めたところがありますね。鶴見プロデユサーの功績大というところ。
鶴見 だからまぐれなの。
上坂 というよりも、鶴見プロデューサーの勘じゃないですか。
鶴見 不良少年だったからへンな勘は働くんです。
上坂 考えてみるとアメリカがベトナムを攻めたからって、日本人があれほど躍起になって反対することはないと思ったし、革新系の人たちがこぞってべ平連を応援したわけでもなかったけど、鶴見さんはなぜあんなにのめり込んだんですか?
鶴見 それは私はアメリカによって作られた人間だったからですよ。アメリカの大学しか行っていないし日本は小学校だけで成績もどりから六番。私は一種のアメリカ人です。
上坂 なるほど。                               〜
鶴見 だから、アメリカがああなった時に、本当のアメリカのよさも知っている者としては、ベトナム戦争は偽物のアメリカのやり方だと感じたんです。つまり、私にとっては、アメリカ魂があるがゆえのべ平連だった。
上坂 ご自分がよきアメリカを知っているアメリカ人だったという説明は、納得できます。だから命懸けで批判したという論法は実によくわかる。
……(後略)

(本書189〜192ページより)

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