151 福間良明『「戦争体験」の戦後史――世代・教養・イデオロギー――』 (抄) 中公新書 2009年03月) 09/04/04搭載)

 
本書は、主としてわだつみ会(日本戦没学生記念会)の個人メンバーの意見をたどりながら、戦争体験について論述したものであるが、ごく一部にベ平連、小田実(敬称すべて略)の意見などについても触れている。そのごく一部を以下に紹介する。
 ベ平連についついての記述には、以下に指摘するように、不正確、というよりは原典の不確かな読み込みによる誤りの記述も含まれており、著者の構想がまず先立って、その論証のために、原点を合わせてしまったことが、こうした誤りを生んだようにも思える。
 例えば、以下に転載した吉川勇一の文を引用した部分では、高橋武智を吉川の言う「若い人びと」に含まれるものとして叙述されているが、これは誤読である。わだつみ会の中での論争では、安田武ら戦中派のメンバーに対し、高橋を「年少世代」として分類し、述べているのは妥当だとしても、それとは違う運動体のベ平連の中で、吉川が「若い世代」への批判として書いている文は、小田実の小説『冷え物』をめぐる議論の中においてであり、ここでくくられている「若い人びと」の中に高橋は全く含まれない。ベ平連の中で言えば。高橋は、むしろ小田・吉川らとともに年長派に含まれるのである。少なくともベ平連に関連した部分では、著者の原典の読み込みの浅さが目立っているようだ。

福間良明『「戦争体験」の戦後史――世代・教養・イデオロギー――』 (抄)  ベ平連と関連した部分の一部

……さらに言えば、戦後派世代の「被害者意識」批判は、必ずしも「加害責任」の問題を掘り下げるものではなかった。当時の年少世代の議論は、戦中派の「被害者意識」を批判しても、「加害責任」を具体的にどうとるのか、戦後補償をどのように行うのかといった点には、ほとんど踏み込んでいなかった。むしろ、年長者に向けた有無を言わさぬ批判の言葉として「被害者意識」が持ち出されていたきらいがあった。
 もっとも、一九八〇年代後半以降になると、高橋武智は、加害責任の問題を戦後補償の問題とも絡めて前景化させるようになった。それは第3章でも述べるように、高橋が上層部を担った当時のわだつみ会の動きとも重なっていた。だが、一九六〇年代後半の時期に高橋ら年少世代が重きを置いていたのは、「加害責任の追及」というよりはむしろ、「被害者意識」を指摘することで、戦中派の発言を無効化することであった。
 若い世代のこうした傾向に関し、べ平連の事務局長だった吉川勇一は、一九七一年に、「若い人びとの批判を聞いていると、『自分も自己批判した上で』という一言をいっただけで、あたかも自分が在日朝鮮人の立場や被差別部落民の立場に立ちえたかのように、他の人びとへの告発や糾弾を開始する (ように思える)傾向」があったことを指摘している(小田実『「べ平連」・回顧録でない回顧』より重引)。
 山田宗睦も、一九八五年の先の座談会のなかで、「加害者という意識がある」戦中派に比べ、「焼跡派、疎開派[焼跡・学童疎開に象徴される終戦前後に少年期を過ごした世代]になると加害者の意識はないわけよ。被害者意識のほうが強くなってくる」と述べている。それも、年少世代の 「被害者意識批判」 の問題性を衝くものであった。……(中略)(本書175〜176ページより)

自己への問い

 小田の認識の背景には、ベトナム戦争の問題もあった。前述のように、小田は鶴見俊輔らとともに、「へ平連」の活動に取り組み、ベトナム反戦運動や脱走アメリカ兵の支援を進めていた。そこでは、アメリカへの批判ばかりではなく、米軍の出撃・兵祐基地としての日本の「加害責任」を問う意図も込められていた。
 だが、小田にとって、それは、過去の日本の姿をも映し出すものであった。小田は、空襲体験を振り返りながら、『「難死」の思想』のなかで、以下のように述べている。……(中略)
…… このように、小田は戦争体験における 「被害」 と 「加害」 の絡み合いに着目し、その延長線上にベトナム反戦運動を位置づけていた。そして、それは、戦場体験を持たない世代が、戦争体験と「加害」の問題を「自己への問い」として捉え返す道筋を示唆するものでもあった。
 だが、それは戦後派世代のなかでは、例外的なものであった。既述のように、高橋武智は小田実や鶴見俊輔らの「べ平連」に加わり、反戦の意志を抱く脱走アメリカ兵の国外逃亡を積極的に支援した。しかし、高橋が主張した「被害者意識批判」は安田武ら戦中派イデオローグの発話を封じる言葉であり、小田の議論のように、状況次第では自らも加害者になり得ることへの恐れを内包したものではなかった。これは、高橋だけではなく、当時の若い世代の多くに共通していた。
 そして、戦中派と戦後派・戦無派の対立は、一九六〇年代末の大学紛争をめぐって、沸点に達する。そこでは、両者の断絶は、もはや修復不能な次元に到達することになる。……
(本書179〜181ページより)

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