130 瀬戸内寂聴「小田実さんとの仲」(『東京新聞』2007年5月2日夕刊 文化欄「あしたの夢」)(2007/05/03記載)

 『東京新聞』文化欄に月1回掲載されている瀬戸内寂聴さんの「あしたの夢」という随想欄の5月2日号に「小田実さんとの仲」と題する文が掲載された。ここでは、女性から見える小田実さんの印象について、瀬戸内さんの目での紹介が、エピソードを交えつつ書かれたあとで、最後に、小田実さんがガンに侵されたことにふれ、「私は絶句して、泣いていた。」と結んでいる。以下には、その冒頭のごく一部と、最後の一部をご紹介する。

瀬戸内寂聴・あしたの夢 「小田実さんとの仲」

 小田実さんとの交友は旧い。小田さんが『何でも見てやろう』のベストセラーをだしたころ、もうお友だちの一人だった。今でも鮮明に覚えているのは、私が東京・御茶ノ水の駅から駿河台の坂を下りていったら、下の方から小田さんが上がってくるのに、ばったり出逢った。
 坂を上がってくる若き日の小田さんがとてもいきいきと魅力的だったことも忘れていない。べ平連の運動で代表者として華々しく活躍しているころは小田さんの周りは若い知的な女性たちが群れ集っていて、時代の思想的ヒーローのように見えた。……

……小田実から突然、長いファクスが届いた。体調の悪い中、フィリピンで起きている民衆の弾圧を告発する「恒久民族民衆法廷」の判事の一人としてオランダのハーグに出かけたり、古代ギリシャの民主主義と自由を裏から享見た植民都市を訪ねてトルコに出かけたりしていた小田さんが、がんの宣告を受けたという。私はあわてて電話をいれた。
 「もう手遅れと医者はいうんや、もっと生きたいよう、死にとうないわ。寂聴さん、元気になるお経あげてや」
 声は明るく冗談めいていた。私は絶句して、泣いていた。

   (せとうち・じゃくちょう=作家)

 なお、ここで触れられている「長いファクス」とは、小田さんが、最近知人に送った手紙のことで、それは、本ホームページの「ニュース」欄 No.469 に全文掲載した。

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