166 池澤夏樹
『.沖縄の闘い 一歩離れて』(インタビュー「池澤夏樹さん、長編『カデナ』刊行) (抄)(朝日新聞 2009年1110日号) (09/11/11掲載)『朝日新聞』2009年11月10日号の「文化」欄に池澤夏樹さんへのインタビュー記事が掲載された。かなりの長さの記事だが、以下では、その中の1968年時代と「ベ平連」に関連した部分のみの紹介。話し手は都築和人さん。
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作家、池澤夏樹さんがベトナム戦争下の沖縄を舞台にした長編小説『カデナ』(新潮社)を刊行した。94年から10年間、沖縄で暮らした池澤さんは「移住者としての僕だから書ける話があるはずだと思った」という。(都築和人)……
(中略)
……68年は、アメリカでキング牧師が暗殺され、「プラハの春」のチェコスロバキアにはソ連軍が侵攻した。日本の学生運動は激しさをいよいよ増していた。「リベラルな盛り上がりが頂点に達した年。僕の世界観を形成する上でベトナム戦争の影響は大きかった。嘉手納からの北爆の時期を調べると68年だった。ベトナム戦争中の嘉手納、主役はB52で書けると思った」。この年、23歳の池澤さん自身は「自分に思想というものがあるとしたら、どうやって形を与えたらよいかわからずにオロオロしていた。デモにも行かず、旗もふらず、ただ、人のやるのを見ていた」という。
ベトナム戦争時を描きながらも、登場人物たちは太平洋戦争の傷跡を深く残している。それは、沖縄の現代史そのものでもある。
「米軍基地を抱え込んでいる沖縄があり、あの戦争で捨て石にされた沖縄がある。沖縄は被害者の島です。当然、それを組み込まなければ沖縄を書いたことにならない。そんなに意識していなかったが沖縄が書かせたんですね」
池澤さんは、沖縄の知念村(現南城市)に在住中、村が米軍高官に子供たちへの講演をさせる話を聞いて、「一村民として」抗議をしている。
「僕はどうしようもなく反戦的反軍的なんですね。いかに彼ら、戦争に加担する勢力の鼻を明かしてやるかを考えている。最近、僕は『べ平連』だと言っています。40年遅れてきた『べ平連』」
小説の4人のスパイ行為は、素人の行為であって、どこかユーモラスでもある。
「戦争の歴史を背景にしているとはいえ、真ん中にどんと据えてしまうと、怨念と糾弾の小説になってしまう。実際には軽くはないが、もう少し軽いものの中に埋め込んでおきたかった。大きくて強い組織に、小さくて弱いものがどう立ち向かえるか。徒手空拳ながらやれることがある。それも歯を食いしばらずに」……(以下略)
(『朝日新聞』2009年11月10日号)