41  憂鬱な中間選挙(現地時間 2006年10月29日 15:51発 日本時間 30日 08:51受信)

 ちょっと日本の友人にメールを書きます。なにしろ、みんな憂うつな気分だからね。
 Depressedという日本語は、元気のない, 意気消沈した, 憂うつな、ということらしいけど、ちょっと違うかなあ。なんか押しつぶされているような感じがある。
 中間選挙まで一週間もなくて、もし世論調査がただしいとすると、共和党は負ける。民主党の勝利で、下院も上院も民主党が多数派になる。それで、どうなの?
 日本の新聞にも報道されているとおり、世論調査によればブッシュの人気は地に落ちている。共和党候補は選挙のためにブッシュに距離を置いているとのことで、前回の中間選挙でブッシュが共和党候補に応援によばれた回数の半分も、今回は呼ばれていない。そのかわりローラ・ブッシュ夫人が、たくさん呼ばれているそうだ。
 一般の気分としては、イラクから早く撤兵したほうがいい、あんなところでアメリカ兵を死なせる必要はない、イラクが内戦になるって?関係ない、アメリカがイラクに派兵した責任?そんなこと言っている場合ですか、という感じで、そして北朝鮮に関しては、ほとんど関心がない。民主党が勝ったら、いよいよ撤兵の方向に世論は向いて、ブッシュは勝つまでやるのだ、イラク軍がアメリカの代わりをつとめられるようになるまで残るのだ、と言いながら、撤兵のスケジュールを作るでしょう。するとイラクは、本当の殺し合いで、つまりブッシュは最悪の政権だった。
 私は民主党に投票するけど、それがイラクをもっと殺し合いに導く、だけどアメリカ軍がいてももっと殺し合いになる、というわけで、我が家族と友人たちは、みんな憂うつな気分で、投票場に行って民主党に投票する。
 北朝鮮の指導者も誤算です。ブッシュが対応するわけないでしょ。アメリカと北朝鮮はどこかで秘密交渉はしているだろうけど、ブッシュはいまの方針を変えないよ。制裁はずっと続く。北朝鮮がどうなったってアメリカはいいのだから。韓国と中国が困る。どこかの時点で、中国と韓国はアメリカの方針とは一線を引くかもしれない。北朝鮮がアメリカに譲歩する可能性はないだろう。中国と韓国をせっつくだろうが。
 このごろ面白かったのは、一週間続いたダイアン・ソイヤーのABCテレビのピョンヤン・リポートだけど、彼女がピョンヤンで道を歩いている大学生の女性に、どうしてアメリカはあなたがたの敵だと考えているの、と聞くと、朝鮮戦争のときにたくさんのコリアンを殺したから、と言う。そこでダイアンが、でもそれはずいぶんと昔のことね、と言うと、アメリカの制裁で食料もなく、アメリカはすべての悪です、というので、ダイアンが、なんでアメリカはそんなことをすると思うの、と聞く。それは、アメリカが私たちの国を恐れているからです、と答えた。実にうまく聞き出していた。しかしダイアンは、アメリカ人の多くは、北朝鮮を恐れるどころか、その場所さえしらないのよ、と彼女には教えなかった。
 別の通行中の中年女性に、アメリカについて何かいい点は思いつかない?と聞いて、まったくなし、すべてが悪い、という答えを聞いて、でもアメリカにはたくさんの食料があり、医療品があり、富があるけど、と言うと、おばさんは、富なんて関係ないのです、私たちは私たちの国を愛しています、と言う。
 ピョンヤンの高校の教室で、生徒のひとりが北朝鮮の賛美をして、ひとつの文化、ひとつの人種、ひとつの思想をしかないことを誇らしく語る瞬間、それでは金髪をどう思う(ダイアンは金髪)、と聞いて、教室の生徒たちから、それはよくない、コリアンの伝統ではない、黒が一番だ、という答えを引き出す。それらをぜんぶ、ニコニコしながら引き出すのがよろしい。彼女はCBS、ABCのリポーターになるまえは、ウォーターゲート時代のニクソンの広報のスタッフだったのです。
 ブッシュの一元主義と北朝鮮の一元主義、いい勝負だよ。ニクソンのホワイトハウス広報スタッフが、いいジャーナリストだというのは、話として出来すぎているけど、私は彼女はいいと思う。彼女は、ローラ・ブッシュにも、副大統領にも長いインタビューをしているけど、これは見ていない。きっとニコニコして寄りそっているのだろう。鉄仮面のニコニコなのです。しかしそうは見えない、そこがすごい。

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