無関心、無感動へ微風
東京 地下広場に今も「怒り」の声
かつて、東京・新宿駅西口地下広場では、詰め掛けた人々がフォークを歌ってベトナム戦争などへの反戦を訴えた。それから三十五年。自衛隊イラク派遣や憲法改正論議など、戦後の転換点を迎えているが、抗議の声や運動は高まりを見せていない。日本人は、政治・社会情勢に怒りや不満を感じなくなってしまったのたろうか。
評論家の荷宮和子さんは、著書「若者はなぜ怒らなくなったのか」(中公新書ラクレ)で主に若者の言動を分析し、日本は「決まっちゃったことはしょうがない」と考える人間が多数を占める社会になった、と指摘。「理不尽を我慢して損をするのは自分だと自覚してほしい」と、もっと怒りや反対の意思表示をしようと呼び掛ける。
大木晴子さん(五五)は一九六九年当時、新宿で「フォークゲリラ」と呼ばれる活動を始めた一人だ。五、六人の集まりが数千人規模に膨れ上がり、広場の各所で
議論の輪が生まれた。「誰もが政治に関心を持ち、帰りの電車の中でまで議論している、そんなエネルギーがあった」と振り返る。
二〇〇一年九月の同時多発テロ後、米国はアフガニスタンを爆撃。イラク戦争も始まる。危機感を抱いた大木さんは、開戦直前の昨年二月から、毎週土曜日、再び地下広場に立ち始めた。
演説や歌は禁止されているため、反戦のメッセージを書いたプラカードを持ってたたずむ。賛同者も増え、毎回二十人ほどの人が一緒に立つようになった。しかし、大多数の通行人は足早に通り過ぎて行く。「気持ちにゆとりが無いのか、無関心、無感動になっている。昔のように反対意見の人とも語り合おうとする様子がないのが怖い」と、大木さんには映る。
こんな行動は、傍らを行く大勢の人に「物好きな人」と思われるだけだろうか。ヒップホップなどの音楽を大音量でかけ、踊りながら東京・渋谷を歩く「サウンドデモ」の企画者の一人、小田マサノリさん(三八)は「デモで世界は変わらないと言われるが、街の風景や空気は変わり、それを見た人の世界の見方を変えることはできる。抵抗しても無駄、という考え方に抵抗したい」と言う。
大木さんも希望を持っている。プラカードを見詰める人や、声を掛けていく人がいる。大木さんのホームページへのアクセスもー万人を超えた。地下広場を埋め尽くした人の数より多い。「皆どこかに自分と同じ気持ちがあるのでは。声を上げるのは今からでも遅くはない」と感じている。(写真説明)参加者の顔触れは毎週変わるが、大木晴子さんは、欠かさず立ち続けている=東京・新宿
(『福島民報』2004年3月27日)