48. ベトナムとイラクに関しての反戦運動の共通点・相違点は?(2003.02.04掲載)

「旧べ平連運動のページ」様
 初めまして。中学一年の「O」(注:実名でのメールでしたが、ここではイニシアルとします)と申します。社会科で「反戦運動・ベトナムとイラク」というテーマでレポートを書いているのですが、どこに取材に行けば良いのかもわからずメールを送らせていただきました。
 ベトナムとイラクに関しての反戦運動の共通点・相違点を、その時そこにいらっしゃった方はどのようにお考えなのか、また、その違いを生み出す背景には何があると思われるのかということについて、簡単で構いません。ご回答いただけたらと思います。レポート作成の都合上ご回答くださった方のお名前(ページ管理者など個人名でなくても構いません。)を末尾にご記入いただけるとうれしいのですが。(S・O)
送信日時=2003年 2月 3日(金曜)   21:43:10

【お答え】 ご質問の「イラクに関しての反戦運動」というのが、現在、アメリカが準備している大規模な対イラク攻撃に関する反戦運動だと限定して、お答えします。なぜ、こうした断りをするかと言えば、イラクに対しては、湾岸戦争以後も、アメリカやイギリスは、いろいろな理由(たとえば、上空を飛行中の米軍偵察機に対し、地上から探知用の電波、あるいはレーザー光線が放射されたなど、これは攻撃ではありません)をつけて、イラクへの爆撃を繰り返してきているからであり、イラクはこれに応戦していませんから、「戦争」と言えるかどうかは別としても、イラク側に民間人を含む死傷者が出続けています。そして、これに対する批判、反対の運動もこれまで存在してきたからです。しかし、ご質問の「イラクに関しての反戦運動」は、これまでのそういう運動のことは一応除く、と理解します。
 まず、ベトナム戦争は長期に続いた戦争であり、それに対する反対運動も実に長期間のことですから、その間にはいろいろな変化があったわけで、そのどの時期をとるかによって、その特徴にもかなりな相違があります。ベトナム反戦運動がアメリカを含め、各国で大きく展開されるようになるのは、1965年2月、アメリカが北ベトナムに対する大規模な爆撃(当時、それを「北爆」と言いました)が始まって以後のことですが、アメリカによるベトナムに対する攻撃は、それ以前から始まっていたものでした。
 それに対し、イラクに対する戦争は、最初に限定したような意味では、2月中に開始される危険が非常に大きくはなっていますが、まだ始まっておりません。ベトナム反戦運動は、すでに始まっており、長期に続いてきた戦争の途中から、次第に広がり、強力になっていった運動ですが、イラクについては、まだ始まっておらず、これから始められようとする戦争に対して、事前にそれを阻止しようとしている運動であって、これは大きな相違点ですね。もし、世界一の軍事力をもつアメリカのこのイラク攻撃を、反戦運動や世論の力でやめさせ、平和的方法で問題を解決するようにさせられるとしたら、それは世界史に前例のない大きな出来事となるはずです。
 アメリカ政府と軍部は、ベトナム戦争の経験から彼らなりに多くのことを学び、それを、その後の湾岸戦争や現在の対イラク攻撃準備に適用し、ベトナムでの政治的・軍事的失敗を繰り返すまいとしています。しかし、それはマスコミ報道の管理や世論操作の方法、米軍兵士の死傷者を出さないようにする、などといった方法の話で、本当の意味でベトナム戦争の教訓を学んではいません。もしベトナム戦争の教訓を本当に学んだのでしたら、自分だけが正しい、イラクは悪魔の国だ、というような独善的な態度はとれないはずであり、対イラク攻撃も避けるはずだからです。現在の反戦運動の側も、もちろん、ベトナム反戦運動の経験をもっており、その教訓を生かそうとしています。だからこそ、戦争が始まってからではなく、攻撃の準備の段階から、それを何とかやめさせようとしているのです。
 このことを前提として考えると、現在の反戦運動の展開の速さ、規模の大きさは、ベトナム戦争のときとは比べ物にならないほどだと言えるでしょう。まだ始まってもいない戦争に対し、何万、何十万という人びとの参加するデモが各国で行なわれているのですから。
 それに、ベトナム戦争のとき、反戦運動は、最初はアジアの小農業国、ベトナムの人民に対する同情から始まりました。可哀想に、何とかしてあげたいという気持ちです。しかし、戦争の当事国、アメリカを別として、他の国の運動に参加していた人びとは、最初は、自分たちの国や、自分たち自身が実際にはアメリカ政府を支持し、戦争に協力していても、その責任を十分に自覚しているとはいえませんでした。日本の場合など、特にそう言えます。反戦運動がいろいろ展開してゆく中で、自国政府の戦争への関与やその国の人びとも持つはずの責任を徐々に自覚するようになったのです。しかし、現在の運動はそうではありません。アメリカに対する批判と同時に、自国政府がそれに協力することを阻止することを最初から目的の一つに掲げています。たとえば、日本では、対イラク攻撃に反対する運動は、イージス艦の派遣に反対したり、有事法制に反対する運動と結びついて行なわれています。フランスやドイツの政府などと比べて、小泉政権は、この戦争準備に対する明確な態度をまったく示さず、「アメリカや各国の動向をよく見つめて考える」と言うだけです。事実上は、アメリカの攻撃準備を是認し、実際に攻撃が始まった際の協力方法を模索しているだけです。現在の反戦運動はこれに対する強い批判を浴びせています。
 ベトナム反戦運動のときも、さまざまなグループや団体、個人が連合して共同の行動をすることがたびたびありましたが、それを実現するまでにはずいぶん、いろいろな苦労があり、容易ではありませんでした。しかし、今の対イラク攻撃反対の運動では、そのときの経験がありますから、さまざまな団体、グループ、NPOやNGO、個人などが、共同で行動することが比較的容易になっています。インターネットを運動が利用できるようになっていることも大きな違いです。ベトナム戦争のときは、新聞に反戦の意見広告を出そうとすると、その準備や宣伝はほとんど郵便か、電話でのやりとりでする以外になく、実現するまでに数ヵ月間から半年もかかったのですが、今では、インターネット上のメールの連絡などで、半月ぐらいで何千という人びとの賛同が集まり、実現できるようになっています。
 こうしてあげて行くと、相違点はまだいくつでも挙げられますが、マイナスのように見える相違点もあります。労働組合の運動と学生の運動がほとんど存在しなくなっている点です。ベトナム戦争のとき、日本で強い運動を展開した日本労働組合総評議会(「総評」と呼ばれました)は解散し、今、それに見合うような運動体はありません。総評は、1965年10月21日には、ベトナム戦争反対のゼネストまでやった(世界で前例のないことでした)のですが、現在はそういう条件はありません。そのとき以後、日本政府は、なんとかこの「総評」を解体させようとして、国鉄を民営化して「総評」の中心組織の一つ「国鉄労組」などに攻撃を集中するなどしました。高度経済成長の影響もあって、一般民衆が現状維持を望むいわゆる保守化したことも、その背景に大きくあります。また、ベトナム戦争のときは、日本でも、フランス、ドイツなどでも、学生運動が強力に存在し、激しい行動を展開し、それが世論の動向にも影響を与えました。今、若い人びとも運動に次第に参加するようになっているとはいえ、学生運動のような機動力を持った運動が存在していないということは、大きな相違の一つでしょう。ただ、そのプラス、マイナスを単純には比較できないということもあります。ベトナム反戦運動の後期、学生運動や、それを支配しようとしたいわゆる「新左翼党派」(「セクト」などとも呼ばれました)の間で、次第に暴力的傾向が強まり、相互の対立も激化して、殺人まで含む衝突やリンチが行なわれました(「内ゲバ」とも呼ばれました)。そのため、運動にはさまざまな歪みや腐敗も生じました。これが世論を運動から離反させる大きな要因の一つとなりました。今では、「内ゲバ」は絶対に許さない、運動の側の暴力は許さない、という空気が特に市民運動の側には強くあります。非暴力と言えば、実際に攻撃が行なわれそうな場所や人物の近くに出かけて、「人間の盾」となって攻撃を食い止めようとする運動なども現在では生まれています。ベトナム反戦運動の時にはなかったことです。
 答えは「簡単で構いません」と、あなたの質問にはありました。でも、こうしてお答えしてゆこうとすると、まだまだ挙げなければならないと思うことはいくらでも出てきます。あなたの質問も答えも、そう「簡単」とは思わないでください。最初に書きましたように、この比較は、実は、人間の歴史上の大分岐点になるかならぬかといった、大きな問題なのです。宿題のレポートさえ何とか書ければいい、という安易な気持ちではなく、ぜひ、あなたの力で、この問題をさらに考えてみてください。レポートの課題への直接の答えが書いてあるものばかりではありませんが、本質を考える上で参考になりそうな書物を、一番下にいくつか挙げておきます。レポート提出の後でもいいですから、ぜひ読んで、考えてみてください。
 それに、もし、実際にイラクに対する攻撃が始まってしまったら、あなたはどうするのか、どうしたらいいのか、何が出来るし、しなければならないのか、も考えてください。中学生でも出来ることはたくさんあるはずです。ベトナム戦争のとき、中学生による反戦運動も今に比べればずっと活発に、多く存在していました。1967年に私たちの運動を記録した本、鶴見俊輔・開高健・小田実編『平和を呼ぶ声』(番町書房)には、その最初に「小・中学生の声」という章がおかれており、多くの小・中学生の声が載っています。そこから二つの文をご紹介しておきましょう。

僕と同じ彼らが土になっていく

                              高知県高知市能茶山   西川 尊
涙が出てきました。ふるえてきました。
僕は中学生です。
ニキビもでています。オシャレもします。
ガールフレンドもほしい。モンキーもおどります。
            
しかし、僕は忘れてはいません。
僕らと同じ、ニキビのでている彼らが
オシャレな彼らが、何にもしないのに
土に
土になっていくのです。
僕は忘れてはいません。

この百円で必ず買ってください。必ず。世界最大の、そして最小の願いをもった一頁を。 

 (注:「一頁」とは、『ニューヨーク・タイムズ』にベ平連が出そうとしていた1ページの反戦広告の事を指しています。この広告は、1965年11月16日に出されました。)
 

 

現代っ子は戦争など好きでない

                                   東京都文京区  中学二年女生徒

 私は、知恵もなくお金もありませんので、少ないのですが、百円送ります。
 私たちのこの気持がたとえ一人のおとなでも子供でもかまいません、わかってくれたらと思い
ます。
 私たち現代っ子は、戦争が好きだとかということをおとなの人はいいます。「いいえ、それは
ちがいます」と私は、はっきりいいたいと思います。
 現代っ子は、戦争のようなばからしく、また悲惨なものを好むわけがありません。
 国がやってくれないのなら、私たちで平和をかちとる以外方法はないのです。
 平和は自然にできるものではありません。私たちのこの手でつくるものなのです。私はそう信
じます。

 1. 小田実『戦争か、平和か』(大月書店、¥1,300+税)  2. 小田実『「殺すな」と「共生」』(岩波ジュニア新書 ¥650+税)
 3. 前田哲男『ぼくたちの軍隊――武装した日本を考える』(岩波ジュニア新書)
 4. 鎌田慧『生きるための101冊』(岩波ジュニア新書 ¥740+税)
 5. 色川大吉『近代日本の戦争――20世紀の歴史を知るために』(岩波ジュニア新書 ¥740+税)
 6. 辻内鏡人・中条献『キング牧師――人種の平等と人間愛を求めて』(岩波ジュニア新書 ¥780+税) など。

 (回答者:吉川勇一)
   
なお、この件について、他の方がたもOさんへのご返事を書いてくださることを歓迎します。投稿おまちします。

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