もしこの詩集のベトナム詩人の105篇の中で、1950年代頃までのすでに書かれていた50篇をアメリカの指導者たちが読んでいたら、アメリカは1964年にトンキン湾事件をでっち上げて、ベトナムに50万人以上の兵士を送り、北爆を開始しただろうか。それらを読んでいたら、ベトナムは2000年以上にわたり、独立自由を国是として決して負けない国であることを知っただろう。冒頭の詩篇は十世紀の頃から語り継がれてきた伝説と化した、侵略者に決して屈しないベトナムの民衆の魂を体現したものだ。私たち日本だけでなく世界中の人びとは、なぜベトナム人にはこれほど揺らぎのない独立・自由の精神が備わっていたのか、その秘密を知りたいと願っていた。そんなベトナムの精神の秘密は、この詩集を読めば、私たち一人ひとりに、105篇の回答が語りかけてくるだろう。
175人の詩人たちと翻訳者の力を合わせてこのような詩集が出来たことは、ベトナムと日本の国交樹立40周年に相応しい価値ある仕事になったと思う。この詩集がアジアだけでなく全世界で読み継がれていくことを心から願っている。最後に私はこの詩集を今も苦しんでいる枯葉剤被害者たちとベトナム平和を願う多くの人びとに捧げたいと思う。
(解説・鈴木比佐雄)