600.いいだももさんの葬儀。2011/04/28掲載)

 3月31日に逝去したいいだももさん(本欄のNo.596参照)の葬儀が近親の方によって行なわれました。そのご報告が、夫人の飯田玲子さんから送られました。以下にその一部をご紹介いたします。

 ……夫いいだもも、去る三月三十一日木曜日、午後三時三十七分、老衰のため永眠いたしました。
 いいだは、一昨年、食事が摂れなくなりましてから入退院をくり返し、そのたび、もういちどの再起を願って努力をしてまいりました。
 昨年の十一月の骨折による手術後のリハビリも努力を重ねまして一時は歩けるようにまでなりましたが、その後、急速に体力が衰え、医者の見立て通り、「‥‥蝋燭が自分のエネルギーを使い果たすように……亡くなりました。
 緑色のエコ棺のなかに、後年読むことの出来なかったたくさんのミニコミ誌を詰め、孫たちの手で摘みました勿忘草・つばき・水仙など、折からの庭の春の草花で周囲を埋め、息子たちからの贈り物の派手なマフラーを首に巻き、いいだにしては、第一級の礼装で旅立ちました。
 火葬は、親友の中村稔さんお立会いの上、少数の近親者のみにて行いました。
 遺骨は、赤い布で包み、みなさまから贈られましたたくさんのお花と、弔電やお手紙、雑誌などで、その周りをにぎやかに囲みました。
 悲しい涙は、いつの間にか温かい涙となって、わたしどもの内側から、温めてくれているように思えます。
 少々、身勝手な葬り方かもしれませんが、どうぞ、いいだへの友情によりましてご寛恕賜りますよう、お願い申し上げ、ここにご報告をさせていただきます。
 ありがとうございました。

        なお、納棺のときに、1950年の頃にいいだももさんが作った詩2編が朗読されました。以下の通りです。

フローラ すみれ
                  いいだ もも

ゆうぐれ――野の果てでまたたきするのは・・・
白い吐息のように走り去るのは・・・だれ?
遠いお母さんのすみれ色? 夕咲きのフローラ?
それとも――おきわすれられた黙りがちのかれ?

ああ!野の果て、ひきさかれ、記憶の森をこえ
地中海のオルゴールがしずかにしずかにきしる
鳴らしているのは・・・かれ? 果てから果てへ
緑の水の上、おきわすれられたまま ひびいている

ひびいているよ、お母さん! 文明のゆうぐれにあれは
ひとりで鳴っているのかしら? それとも・・・それとも
黙りがちのかれが・・・ぼくの知らないぼくが・・・

遠い吐息 フローラ すみれ、まばたきしたのは?
目をみひらいた子守唄のように歌っているあれは
ぼくの知らぬぼくの奏でるオルゴールなのかしら?!

久遠の微笑
                 いいだ もも

仏陀の微笑は 久遠に刻まれた黒い金の鏨の跡
虫となり、貝となり、魚となり・・・
大樹のもと、仏陀はしずかに目をつぶる
いく億光年、光はななめから ななめによぎる

仏陀の手にひとつの小さな石――
白い銀の朝明け、生きとし生ける者よりもはやく
緑の水を小さくとじこめた一握の石――
宇宙の底、仏陀の掌にしずかに眠る

だが耳をすませ、いく・・おく・・光・・年・・・
大魚となり、夜光虫となり、地に潜むものとなり・・・
海は満ち、月は満ち、やがて夥しく満ちてくる宇宙

耳をすませ、手に石はころころと鳴る
彫りふかい微笑の掌の上、かすかに波打つ
久遠の仏陀よ! 宇宙はいま凹める手の上に満ちた

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