フローラ すみれ
いいだ もも
ゆうぐれ――野の果てでまたたきするのは・・・
白い吐息のように走り去るのは・・・だれ?
遠いお母さんのすみれ色? 夕咲きのフローラ?
それとも――おきわすれられた黙りがちのかれ?
ああ!野の果て、ひきさかれ、記憶の森をこえ
地中海のオルゴールがしずかにしずかにきしる
鳴らしているのは・・・かれ? 果てから果てへ
緑の水の上、おきわすれられたまま ひびいている
ひびいているよ、お母さん! 文明のゆうぐれにあれは
ひとりで鳴っているのかしら? それとも・・・それとも
黙りがちのかれが・・・ぼくの知らないぼくが・・・
遠い吐息 フローラ すみれ、まばたきしたのは?
目をみひらいた子守唄のように歌っているあれは
ぼくの知らぬぼくの奏でるオルゴールなのかしら?! |
久遠の微笑
いいだ もも
仏陀の微笑は 久遠に刻まれた黒い金の鏨の跡
虫となり、貝となり、魚となり・・・
大樹のもと、仏陀はしずかに目をつぶる
いく億光年、光はななめから ななめによぎる
仏陀の手にひとつの小さな石――
白い銀の朝明け、生きとし生ける者よりもはやく
緑の水を小さくとじこめた一握の石――
宇宙の底、仏陀の掌にしずかに眠る
だが耳をすませ、いく・・おく・・光・・年・・・
大魚となり、夜光虫となり、地に潜むものとなり・・・
海は満ち、月は満ち、やがて夥しく満ちてくる宇宙
耳をすませ、手に石はころころと鳴る
彫りふかい微笑の掌の上、かすかに波打つ
久遠の仏陀よ! 宇宙はいま凹める手の上に満ちた |