35. 『毎日新聞』、「サリンのベトナム前線配備の疑いぬぐえず」と解説 (98/07/30)

  『毎日新聞』は、7月30日の「ニュースの読み方」欄で、ワシントンの布施広記者の解説として、CNNの訂正と謝罪にもかかわらず、ベトナム前線へのサリン・ガス配備の疑いはぬぐえないという次のような記事を掲載した。

(禁転載)

ニュースの読み方
「米軍サリン使用」誤報
前線配備の疑いはぬぐえず

ベトナム戦争中、米軍が神経ガスのサリンを使ったとする米CNNとタイム誌の報道について、米国防総省は21日、約1カ月半に及ぶ調査の結果、「報道を裏付ける事実はない」と発表した。は既に誤報と認めて陳謝していたが、国防総省は膨大な内部資料と関係者の証言を検討し、米軍の「潔白」を自ら証明したわけである。
  CNNは米軍が1970年9月、ラオスでの「追い風作戦」でサリンを使った疑いがあり、逃走米兵も抹殺の対象になったと報じた。国防総省は(1)米軍は催涙ガスしか使っていない(2)神経ガス類は当時沖縄などに貯蔵され、前線には運ばれていない――と断定、CNNの報道を全面的かつ客観的に否定している。
  神経ガス類が沖縄にあった点は気になるが、これは既に知られていて、「追い風作戦」の前年、69年7月19日付の毎日新聞は1面トップで「米、沖縄に毒ガス配置」と報道。同月8日に沖縄の米軍基地で米兵ら24人が中毒となる「致死性神経ガス」の漏出事故を伝えている。
  「べトナム用に貯蔵」の見出しを掲げた記事もあり、漏れた「有毒ガス」は「それほど毒性の強いものではなく、米軍がベトナム作戦で使用」していると日本政府筋が明かしている。スクープしたウォールストリート・ジャーナルは、神経ガスのVXが漏出したと報じた。
  つまり米軍による「有毒ガス」使用疑惑は30年前からあったわけで、神経ガスのたぐいは沖縄から前線には一切運ばれなかったという調査結果には素直にうなずけない部分もある。
  ベトナム戦争時、米統合参謀本部議長だったトマス・ムーラー氏は、毎日新聞を含む複数の報道機関に対し、米軍による神経ガス使用は一貫して否定しながらも、前線への神経ガス配備は認めた。CNNは同氏とのインタビューを基に「米軍はサリンを使用した」と判断したのだが、その経緯はともかく、軍事作戦を統括していた人物の「前線配備」発言は重要である。
   AP通信は6月9日、レアード元米国防長官の発言として、使用はされなかったものの「少量」のサリンがベトナムに運ばれたと報じ、今月21日にはレアード氏が「ベトナムには運ばれなかった」と前日に言い直したという「修正情報」を流した。
  ベトナム戦争時の国防最高幹部の証言が180度変わるのも奇妙だが、戦争の全局面と作戦を正確に記憶するのは難しい。CNNは錯そうする情報の中で方向感覚を失ったのだろう。
                                                  【ワシントン・布施   広】
(『毎日新聞』1998年7月30日)

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