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戸井十月さんと藤林泰さんの新著(02/07/05掲載)忍野パーティのメンバーでもある戸井十月さん〈作家)と藤林泰さん(埼玉大学助手、ベ平連の原資料を管理している同大学 「共生社会研究センター」専任〉が、それぞれ、新著を出された。
戸井さんの新著は『それでも世界は美しい』という、多数のカラー写真ページを含む24の短編小説集。24の作品の舞台は、アメリカ、中国、オーストラリア、モロッコ、ボリビア、スペイン、モーリタニア国境、アルゼンチン、キューバ、フィリピン、パナマ、ペルー、フィジー、タンザニアと全世界を巡り、最後の第24話は、日本の富士山麓、忍野村。
登場人物の名は、フィクションの体裁をとっているから変えられているが、もちろん、誰でもわかる故吉田泰三さんへの鎮魂歌である。
帯には、「旅する作家、戸井十月が紡ぐ“地球と人間のラブストーリー”」とある。写真も各短編フィクションもすべて戸井さんの全世界を車やバイクでめぐる旅の経験から生まれた魅力溢れる作品ばかり。この書のタイトルにもなっている言葉が入っている本書最後のページの文を引用しておく。
貧困があり、飢えがある。自然破壊があり、殺し合いがある。
この世は全く不平等で、理不尽に満ちている。
しかし、
それでも世界はうつくしい、人間は捨てたものじゃないと、思いたい。
A5版 261ページ(うち、カラー写真 125ページ)アミューズブックス 2002年7月刊。定価1,905円+税。アミューズブックスのURLは、
http://da.amuse.co.jp/ (ただし、07/05現在、このページにまだ戸井さんの新著は載っていない)
藤林さんの新著は、前著『日本人の暮らしのためだったODA』(コモンズ)と同じく長瀬理英さんとの共同の編著で、藤林、長瀬さんの論考のほか、福家洋介、久保康之、村井吉敬、清水靖子、佐伯奈津子、高橋清貴、越田清和、神田浩史(掲載順)の各氏ら、「地域自立発展研究所」のメンバー(高橋さんのみJVC)の論文、レポートが収録されている。これは、藤林さんらが15年間にわたり続けてきたODA批判活動の報告の一つで、藤林さんは、この書物についてこう語っている。
――ODAがもたらす大小様々な陥穽を追っていいくと、鈴木宗男騒動に象徴される土建国家体質、アメリカ追随外交戦略・戦争協力、さらには貧相極まりない日本の政治風土などが見えてきます。そんな腹立たしくてうんざりする報告です。――
本書は、フィリピン、インドネシア、東チモール、タイ、カンボジアなどアジア各地におけるODAの実態を踏まえつつ、その問題点をあばきだすとともに、パキスタンへのODA援助が9・11以後の状況の中で、いかにアメリカの政策に沿うようになってきたかなど(村井論文)も鋭く批判する。また、ODAにかかわるNGOの動きもかなりの比重を占めて分析されているが、「NGOという言葉は、日本社会のなかでも定着してきた。しかし、言葉だけでは何も意味しない。わたしたちが自らをNGOと呼ぶ意味は、『国民』とひとくくりにされない、国家を相対化する視点をもっているかどうかにかかっている」(越田清和)など、重要な指摘もある。
46版 280ページ。コモンズ 2002年6月刊。定価2,000円+税。コモンズのURLは、http://www.commonsonline.co.jp/