「サンドインザホイール」日本語版2003年第17号
5月20日号(通巻第175号)


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<目次>

1. 郵便サービスにもグローバリゼーションが押し寄せる(Globalization Goes Postal)

ブッシュ政権がその「事業転換計画」によって郵便局の普遍的公共サービスを標的にし、1970年の大規模な郵便ストライキで勝ち取られた団体交渉権への攻撃を準備する中、すでに戦闘態勢に入っている郵便労働者たちは、グローバル経済の中での新たな一連の通商協定に伴って押し寄せてくるさらなる攻撃に対する動員を準備している(1029語)。

2. 労働者の権利は考古学のテーマか?(Labour rights. A theme for archaeology?)

・・この国[米国]が労働法の基礎となっている法律をもはや認めていないというのはパラドックス(逆説)だ。現在この国は、「社会問題」や「環境保護」といった救済策は自由貿易協定の中には居場所がないと主張している。報道によってこの実態が暴露されなければ、何が起こるだろうか・・・(1192語)。

3. ウォルマートに反撃を (Up against Wal-Mart)

この世界最大で、最も収益の多い小売店では、低賃金、サービス残業、労働組合バッシングが日常化している。今、ウォルマートの労働者が反撃を開始している(819語)。

4. IMF・世界銀行・WTOがデタラメな経済政策で結束(IMF-World Bank-WTO Close Ranks Around Flawed Economic Policies)

5月13日、IMF(国際通貨基金)、世界銀行、WTO(世界貿易機関)の幹部たちがジュネーブで会合を持つ。表向きは、相互の政策上の協調を強化するためである。これに懸念を表明するべき十分な理由がある。この数十年間、IMFと世界銀行は途上国において、問題の多い政策的改革を組織的に推進してきた(1080語)

5. WTOあれこれ(WTO Tidbits)

米国の批評家が、イラク再建プロセスからのフランス・ドイツ・ロシアの排除を批判/WTOの農業交渉が手詰まり状態/GATSの下でのサービス自由化の「リクエスト」・「オファー」の提出が遅れている/ブラジルが米国をDSB(紛争解決機関)に提訴/モロッコと米国の貿易協議がイラク戦争のために場所を変更/NGOがWTOの投資協定に反対するキャンペーンを開始/最初の「民衆の世界水フォーラム」がフィレンツェで開催される(1290語)

アネマスとジュネーブで「No G8!」(No! G8 in Annemasse and Geneva)
交通、宿泊、この数日間のプログラムの詳細:http://www.attac.info/g8evian
動員のプログラム:http://www.attac.info/g8evian/?NAVI=1030-14en
「No G8 in Japan!」はhttp://www.attac.info/g8evianで見ることができます。

[要約]


郵便サービスにもグローバリゼーションが押し寄せる
Globalization Goes Postal
By Greg Poferl(全米郵便職員労働組合ミネアポリス・セントポール地域オルグ担当)
[「レイバーノーツ」6月号に掲載されたレポート]

グローバリゼーションは製品だけではなく郵便サービスにも広がっている。 
自由貿易協定が郵便の民営化を強いるブッシュ政権がその「事業転換計画」によって郵便局の普遍的公共サービスを標的にし、1970年の大規模な郵便ストライキで勝ち取られた団体交渉権への攻撃を準備する中、すでに戦闘態勢に入っている郵便労働者たちは、グローバル経済の中での新たな一連の通商協定に伴って押し寄せてくるさらなる攻撃に対する動員を準備している.。

昨年の秋、シアトルで全米郵便職員労働組合(APWU)の「全国委員長会議(NPC)」が、公共サービス・郵便分野の労働者に大きな問題をもたらす貿易協定の新ラウンドに関する連続教育セミナーを開始した。NPCはAPWUの伝統的な、開かれた会議で、地域・州の組織の委員長から成り、新たな問題について議論し行動するために年3回招集される。

NPCは3月29日にセントルイスで1日のセミナーを開催した。ミネソタ・フェアトレード連合の議長であるLarry Weissが基調講演し、自由貿易協定の形でグローバリゼーションがどのように公共・郵便サービスの民営化を強いるかを説明した。

新貿易協定の焦点はサービスで、そこには現在政府が提供しているサービスも含まれる。公共サービス分野の労働者に痛手を負わせる二つの貿易協定が交渉中である。一つ目はWTO(世界貿易機関)体制下のGATS(サービス貿易に関する一般協定)である。米国を含め144カ国が影響下に置かれる。二つ目は、NAFTA(北米自由貿易協定)に北南米の31の国々が加わりFTAA(米州自由貿易圏)ができることである。両交渉は2004年の終わりまでに決着が着き、2005年に議会で検討されると予想されている。

◆郵便局が標的に
Weissは、GATSとFTAAによって連邦・州・郡・自治体レベルの政府提供のサービスの多くが外国民間企業の入札に開放されることが要求されると考えている。Weissは、どのサービスがGATSの下に含められるかを見るには、交渉における最も影響力のある参加者(欧州と米国)が含めたがっている分野を見ればいいと話す。
欧州連合(EU)と米国は「郵便サービス」を特に標的にしている。欧州は「全ての物理的媒体に住所が書かれた通信」の取り扱い(つまりほとんどの手紙と小包を指す)をGATSに含めようとしている。米国は(全てが秘密裏に行われているため現在のところ分かる部分だけだが)「速達サービス」を含めようとしている。2004年に交渉が決着するまで新GATSにどの郵便サービスが含まれるか正確にはわからない。しかし少なくとも郵便サービスのかなりの部分が含まれることは明らかだ。

◆GATSとの対決
今のところ、郵便改革と貿易協定の次期ラウンドがより深刻な問題をもたらすかどうかは推測の範囲ではない。しかし、国内・国際的な前線で反撃するための戦略は必要である。最近NPCは、地域レベル・ワシントンDC両方でAPWUメンバーを教育・動員するための組織化戦略やノウハウを確立するワークショップを行っている。グローバリゼーションは理解するのが難しいため、NPCはミネソタ・フェアトレード連合、ミネソタ大学の労働教育サービスの協力を得て、トレーナー研修プログラムを作っている。これは今年夏に完成する。

NPCは、米政府の民営化論者やグローバル略奪者と対決するには、メンバーの教育と行動戦略が密接につながっている必要があると考えている。NPCはAPWUのメンバーがグローバリゼーションと民営化に関する理解を深め、この挑戦に挑み、地球規模で考え地域で組織化を行う方法を確立することを願っている。研修の主な目的は、地域レベルでメンバーが法的アクション、国際的連帯、公共教育、直接行動などの創造的な対応を確立し、可能な戦略を模索する機会を与えられることだ。

◆新たな悪徳資本家
Weissは、労働者、農民、その他の市民に暴虐を働いた20世紀初めの悪徳資本家を引き合いに出した。「企業の行為に対する国の規制がなかった。労働組合は暴力的に抑圧され、最低賃金はなく、児童労働がはびこり、多くの政治家は企業の利害の手の中にあった。」20世紀初めの歴史の大半は、市民が悪徳資本家に一定レベルの規制をかけるために闘った歴史だった。その結果、児童労働は違法となり、労働組合の組織化は合法化し、最低賃金が設定され、ルーズベルト大統領は「反トラスト法」を採用し、民間の経済力の集中を管理し、抑制し、分解した。

現在国の経済はグローバル経済に座を譲った。「グローバル企業は国内の規制から逃れ、新たな悪徳資本家の時代が確立された」とWeissは警告する。私達は過去から学び、国内と国外の労働者、信頼に基づいた運動、農家のコミュニティ、環境保護活動家、懸念を持つ市民と連合を作り上げ、新たな悪徳資本家と議会にいる擁護者に対決することができるだろうか。Margaret Meadは「思慮深く献身的な市民の小さなグループが世界を変えることができることを疑うべきではない。事実、今まで世界を変えることができたのはそういう人達だけなのだから」と話す。NPCのメンバーは正しい方向に動いているようだ。



労働者の権利は考古学のテーマか?
Labour rights. A theme for archaeology?
By Eduardo Galeano

毎週、9000万人以上の客がウォルマートの店を訪れる。これらの店で働く90万人以上の労働者は労働組合への加入が許されていない。もし誰かが組合結成・加入を考え始めたら、その人は解雇される。同社は国連が宣言する人権の一つ、集会・結社の自由を露骨に否定している。1992年にウォルマートの創設者であるSam Waltonは米国の最高の勲章の一つである「自由のメダル」を手にしている。米国の大人の4人に1人、また子どもの10人のうち9人がマクドナルドを食べて標準体重を超えている。マクドナルドの労働者は彼らが提供する食事と同じくらい使い捨てで、機械のように扱われる。それでも労働組合に加入する権利はある。

労働組合が今でも存在し機能しているマレーシアで、インテル、モトローラ、テキサス・インスツルメンツ、ヒューレット・パッカードなどの企業が、労働組合を排除しようとしている。マレーシア政府は電子産業を「労働組合の束縛のない」産業だと宣言した。1993年に、セサミストリートの人形を作る工場の火災で外から鍵がかかっていたため900人の労働者が亡くなった。彼らも互いに連携するチャンスはまったく与えられなかった。

昨年の大統領選キャンペーンで、ブッシュとゴアは米国の労使関係のモデルを世界中に広める必要があることに同意した。これは地球の端々まで浸透してくるグローバリゼーションの巨大な足並みに繰り込まれたもう一つのステップとなる。距離を乗り越える今日の技術がそれを可能にした。インドネシアのナイキ労働者が米国のナイキの重役と同じ給料を稼ぐには数千年間も働かないといけない。フィリピンのIBM工場でコンピュータを生産する労働者本人はコンピュータを買うことはできない。

植民地時代がかつてない規模で継続されている。世界の貧しい人々は伝統的な役割を果たしつづけている。この人々の安い労働力は、かつてはカカオ、米、コーヒー、砂糖を提供し、今は人形、スポーツシューズ、コンピュータ、その他のハイテク製品をグローバル市場に供給している。

1919年以来、世界の労使関係を規制する183の条約が結ばれてきた。ILO(国際労働機関)によると、フランスはこのうち115を批准、ノルウェーは106、ドイツは76を批准しており、米国は14である。グローバリゼーションの先頭に立つこの国は、自国のルールにしか従わない。だから巨大企業は許可を与えられ、安い労働者を狩りに走る。領土を征服して、汚い生産工場を設置して思う存分環境を汚染する。

米国が労働法の基礎となっている法律をもはや認めていないというのはパラドックス(逆説)だ。現在この国は、「社会問題」や「環境保護」といった救済策は自由貿易協定の中には居場所がないと主張している。報道によってこの実態が暴露されなければ、何が起こるだろうか? 抗議に直面すると企業は手を洗って「私達は無実だ」と主張する。

ポストモダンの産業では、労働力が分散化した。トヨタ自動車の部品の4分の3は下請け会社が生産。フォルクスワーゲン・ブラジルの労働者のうちこの会社に雇われているのは5人に1人だけだ。過去3年間に労働災害で死亡したペトロブラスの労働者81人のうち66人が下請け会社に雇われていた。バービー人形生産の下請け会社が300ある中で、半分は中国で生産された。中国には労働組合があるが政府の支配下にある。
中国の主要港湾都市の1つの共産党書記長であるBo Xilaiは最近、「私達は投資家に有益な条件を保つために、労働・社会の不安定化に対して闘う」と話した。

経済権力が今までになく独占されている中、国々や人々は必死に競争している。自分達を魅力的に見せるために、より少ないものと引き換えにより多いものを提供し、半分の賃金と引き換えに二倍働く。道端には労働者の権利のために200年間闘って得た成果の残存物が転がっている。メキシコ、中米、カリブ海地域のスウェットショップ(「搾取工場」)は、関連産業よりさらに状況が加速された地域を創り出した。アルゼンチンで新たに雇用された労働者の10人に8人が「black」で、何の法的保護も受けていない。南米全体で新たに雇用された労働者の10人に9人が「非正式セクター」に所属している。安定した労使関係とその他の全ての労働者の権利は、もうすぐ考古学者のテーマとなるのか? 誰がこの絶滅種を覚えているだろうか?

混乱した世界では、自由は抑圧される。お金の自由が労働者を恐怖の牢獄につないで支配する。市場の神が脅し、罰し、その神は全ての場所の全ての労働者を知っている。失業の恐怖は労働力のコスト削減を助長し、生産性を上げ、それが日に日に更なる世界的恐怖の源になる。

仕事を待つ長い列の最後尾に投げ出される恐怖に対抗するために何ができる?コカコーラの社長が言う「内部的障害」とみなされることを怖がらない人がいるか?(1年半前、コカコーラの社長は何千人もの労働者の解雇を「私達は内部的障害を排除した」と説明した)。世界は飼いならす人と飼いならされる人に分かれるのだろうか?私達は労働の尊厳のための闘いを国際問題にすることができるだろうか? 小さな挑戦だ!



ウォルマートに反撃を
Up Against Wal-Mart
By Karen Olsson

ジェニファー・マクラフリンとボーイフレンドのエリック・ジャクソンの話によると、ウォルマートは組合対策会議を開き、テキサス州パリの店で労働組合結成を試みている労働者を監視している。

ジェニファー・マクラフリンは22歳。一児の母で、トラックを運転し、髪をダークレッドに染め、ジーンズをはいている。そしてウォルマートで働いている。テキサス州パリにあるウォルマート148号店は、彼女がボーイフレンドと1歳の息子と住む質素なアパートからすぐの所にある。週5日店に車で行き青のベストを着てタイムカードを押す。園芸用品売場やおもちゃ売場で働く。仕事の密度は、一般的に仕事密度が高い通常の小売店と比べてさえ異常に高い。仕事をこなすのに十分な労働者がいないと感じることもある。与えられたシフトに応じてマクラフリンは、レジを受け持ったり高い棚から物を取るため機械リフトに乗ったりタンクから魚を捕まえたり商品棚に商品を足したり自転車かごのごみを片付けたりする。「ストレスがたまる。彼らは限界まで働かせて追加で誰かを雇うことをどれだけ避けられるか試しているように見える」と彼女は言う。

彼女の賃金の問題もある。マクラフリンはこの会社で働き3年目だが、年俸は1万6800ドル。「それでも高給取りな方だと思われている。この会社の給料の出し方では、20年間ここで働くか支配人にならない限り、副業を持つか誰かに助けてもらうかしないと生きていけない。」ウォルマートの健康保険プランでは2週間の給料550ドルから最大85ドルが引かれるため彼女は同保険に入っていない。息子の保険はメディケード(州と連邦政府が共同で行なう低所得者や身障者のための医療扶助)に頼っている。

人手不足と低賃金に関する苦情は小売店労働者の間では珍しいことではない。しかしウォルマートはシチュー鍋とラジカセの行商人とは違う。同社は世界最大の小売店で、2200億ドルの売上を誇り、国内最大の民間雇用者であり、3372の店舗を持ち100万人以上のパートを抱える。年間収入は国内総生産の2%を占める。経済が停滞していても同社は拡大し続け、2007年までに世界でさらに80万の雇用を増やす予定だ。

その驚くべき規模と急速な拡大のために、ウォルマートの給料と手当は米国中の経済における標準となりつつある。「米国民はウォルマートの給料では生きていけない。なのに同社は支配的雇用者で、同社の支払う給料は未来の米国労働者の給料となる。」とアメリカ国際食品商業労働組合(UFCW)の情報局長のGreg Denierは言う。平均的なウォルマートのパートは同社が昨年66億ドルの収益を得たにも拘らず年間1万8000ドルしか稼げない。労働者の40%は、同社の健康保険プランが年間2844ドルかかる上に控除条項(損害が一定限度以下の場合は保険会社が損害保証をしないことを定めたもの)を持つため、加入しないことを選んでいる。マクラフリンは「会社がフォーチュン500社(米国の経済誌Fortuneが毎年掲載する米国企業および海外企業の各売上高上位500社のリスト)のトップにいるのに対し、私達は自分の息子の健康保険さえ得られない。」と言う。

収益と給料のあまりのアンバランスに憤って、マクラフリンと同じような境遇の何千人もの労働者(すでに離職した人たちを含む)がさまざまな戦線で同社に闘いを挑み始めた。27の州で、労働者たちは賃金と労働時間に関する法律に違反しているとしてウォルマートを訴えた。オレゴンの陪審は同社が12月に労働者を組織的にサービス残業させたとして有罪の判決を下した。同社はまた70万人の女性に対して昇進・公平な給与を拒んだとして性差別で訴えられている。労働者のよりましな給料と労働条件を求めてウォルマートの労働組合を組織化する大きな動きが国中で始まっている。25の州の100以上の店舗の労働者が現在同社で労働組合化を図っており、7月にはUFCWが中西部で大キャンペーンを組織化し始めている。ここではミシガン、ケンタッキー、オハイオ、インディアナの労働者12万人近くが動員されると見込まれている。

ウォルマートはこの動きに対し、時に連邦労働法に反して労働組合化を阻止する行動に出ている。全国労使関係委員会はウォルマートが繰り返し労働者を尋問し、労働組合関連文献を押収し、労働組合支持者を解雇することによって、法律を侵したとして同社を指導してきた。店舗で組織化の気配があると、ウォルマートはアーカンソーのベントンビルにある本部から労働組合バスターを派遣し、労働者を監視するための監視カメラを設置することもある。「私の35年間の労使関係の経験の中で、労働組合を避けるためにウォルマートのような限度まで対策を駆使する会社は見たことがない」と経営コンサルタントのMartin Levittは話す。著書「労働組合バスターの告白」を書く前、彼は同社が反労働組合戦術を確立するのを助けた経験を持つ。



IMF・世界銀行・WTOがデタラメな経済政策で結束
IMF-World Bank-WTO Close Ranks Around Flawed Economic Policies
By Center of Concern, Washington

5月13日、IMF(国際通貨基金)、世界銀行、WTO(世界貿易機関)の幹部たちがジュネーブで会合を持つ。表向きは、相互の政策上の協調を強化するためである。これに懸念を表明するべき十分な理由がある。この数十年間、IMFと世界銀行は途上国において、問題の多い政策的改革を組織的に推進してきた。概してこれらは貿易と金融フローの自由化、規制緩和、民営化、予算の緊縮化を含む。この目的の達成のための戦略として、途上国の多くは過去の政策との関係を断って世界経済により早く自国経済を融合させることを強いられた。その結果、途上国の経済は成長が遅く不規則で、不安定さと収入の格差が増した。WTOは、紛争解決メカニズムによる経済制裁の脅威に支えられた貿易の法規によって、このような失敗してきた政策改革をますます定着させるようになった。

農業貿易政策研究所(IATP)ジュネーブ事務所のShefani Sharmaは、「技術的援助が、WTOで激しく論争されている「開発アジェンダ」の支持を勝ち取るための政治的道具に使われている。WTOでの途上国の立場を不利にする政策を実施させる技術援助が、開発に向けての改善になるわけがない」と話す。

■食料安全保障
何十年もの間、IMFと世界銀行のローンを貸す際の条件付けに従って、途上国は貿易障壁を緩和し、国内の食料生産者への補助金を減らし、地域の農業を促進する政府プログラムを止めることを強いられてきた。しかし、そのような条件は富裕な産業国には強いられていない。一方、WTOの農業協定では富裕な国々が余剰食料を生産コストより低い価格で投売りすることが許されており、このことが途上国の地域の生産を窮地に追いやり大規模な多国籍輸出企業の市場を拡大する結果となっている。同協定は途上国が地域の農業生産者を助ける新たなプログラムを導入することを禁じている。その結果地域の貧困を緩和するカギとなる途上国の農業分野は荒廃している。

■必須サービス(保健、教育、水など)へのアクセス
IMFと世界銀行は自由化と公共サービスの民営化を条件としてローンを貸し出してきた。たいてい、外国企業のこれらサービス参入が許され、商業的な価格決定システムが導入されると、貧しい市民はより高い料金を払わされるためこれらサービスへのアクセスが危うくなる。WTOでは現在GATS(サービス貿易に関する一般協定)によって、必須サービスの自由化と民営化を定着させる規定を交渉中である。GATSではまた、その国の規制が「負担を最小限に抑える」ものになることを保証できるよう模索中で、社会的発展、労働者の権利・人権、消費者と環境の健全を守るよう設計された公共政策と規制システムが危うくなっている。

■各国が外国投資家を規制する権利
同様に、世界銀行とIMFのローン貸し出しの条件の中でも、債務国は国内経済において外国投資家の運営を制限するような政策を取り除くよう要求されてきた。その政策とは、投資が国内経済に利益を与え環境や労働者の権利を守るようにするために設定された規制である。1994年には、WTOのTRIMs(貿易に関連する投資措置に関する協定)によって、外国企業投資家を管理する国内の規制のいくつかが排除されることが決められた。現在WTOにおいてEU(欧州連合)、日本、オーストラリア、その他の国々が交渉している提案では、政府が外国企業に対して無防備となり、国内政策が資本の自由な移動を妨げた場合その国が法的に訴えられる可能性が生じるような 枠組み作りが模索されている。

■IMF、世界銀行、WTOの統治
政策の失敗と間違いをいさぎよく白状する代わりに、世界銀行、IMF、WTOは、経済成長と開発に対する間違ったアプローチを「首尾一貫性を強める」ことで定着させようとしている。さらにこれら機関の正当性に疑問を持たせるような、非民主主義的で説明責任を果たさない形態の運営を続けている。IMFと世界銀行の投票のしくみは極端に富裕な国に偏向している。その首席は排他的な方法で、米国と欧州からしか選ばれない。理事会の会議や議事録は一般の人々には非公開で、ローンに関する文書は理事会の承認後に議会のみが見ることができる。この秘密主義は市民と選挙で選ばれた借り手側の高官の参加を妨げる。貸し手側の市民も、理事会が市民の名前と税金を使って何をしているのか知ることができないため参加できない。

「産業国がブレトン・ウッズ体制の統治にどれだけの権力をもつかを理解できれば、これらの機関が支持する貿易アジェンダがなぜWTOに加盟する産業国の交渉利害と重なっていることが多いのか理解できるだろう」とワシントンDCに本部を置くCenter Of ConcernのAldo Caliariは言う。

IMFと世界銀行に比べWTOはより民主的な構造を持っているとの意見がある。理論では、WTOの全加盟国が同等の投票権を持つ。しかし、秘密主義で非民主主義的なプロセスがはびこり、この構造を形骸化している。投票は一度も行われていないし、富裕な国の市場と援助に依存している弱い加盟国にとっては、合意を妨げることは現実的ではない。この権力政治に輪をかけて、非公式な手順を使うことで「意思決定を柔軟にする」というWTOの組織的慣行があるため、状況はさらに悪化している。

■社会的公正の主張者は首尾一貫性に関するアジェンダを非難
間違った「首尾一貫性」を推進する代わりに、民主的で正当な制度によって設計され実行される新たな政策が早急に必要である。少なくとも、世界銀行、IMF、WTOの投票のしくみとリーダーシップを選ぶプロセスは民主化されるべきで、その制度的プロセスは一般の人々に対して透明であり開かれているべきだ。市民と選挙で選ばれた高官が政府の貿易・金融政策の形成に参加する権利が保護されなければならない。社会、開発、環境に関する国民の関心こそが貿易・経済政策が確立される際の基礎になる。だから、市民社会組織はこれらの基礎を出発点としない世界銀行、IMF、WTOの「首尾一貫」アジェンダを非難する。

【この記事は40のネットワークとNGOが署名した声明の抜粋。全文は
http://www.coc.org/resources/articles/display.html?ID=484



WTOあれこれ
WTO Tidbits
By the Attac workgroup on International Treaties, Marseilles

イラク戦争のための米国の補正予算の改正では、同戦争に反対したロシア、ドイツ、フランスがイラク再建のための請負契約から排除されることが定められている。米国の解説者は、特定の関係者にメリットを与えるこの種の政治的差別は、WTO(世界貿易機関)ルールに違反していると指摘した。WTO加盟国ではないロシアがDSB(紛争解決機関)に提訴することはできなくても、EU(欧州連合)はドイツとフランスの名のもとに申し立てすることができる。

もう一つは、WTOにおける農業補助金の削減に関する交渉の膠着についてである。ニューヨークタイムズの記事では「これらの補助金が貧しい国々にとって主な貿易障害になっているという全般的な合意がある」と書かれている。しかし、世界銀行によると、途上国にとっての農業貿易障壁が完全に廃止されても、平均0.6%の収入増にしかつながらないという(「グローバル経済見通しと発展途上国2000」)。つまり、もしすべての富裕な国々が補助金その他の貿易障害をなくしても、エチオピアの一人当たりの所得は年間平均600ドルから603.60ドルにしかならないということだ。

(1)農業委員会が交渉の失敗を認める
3月31日の進捗検討の際、農業委員会は公式に「農業に関するモダリティーの合意に達するための加盟国の努力は失敗に終わった」と宣言した。委員会の議長は、農業の枠組み合意のモダリティーに合意できなかった加盟国、特に米国とEUに対して失望を表明した。これらのモダリティーは、交渉の範囲、現在の段階で従うべき手順、そして予想される結果を定めるべきものだった。カンクン前に困難な点を平滑化するために委員会は、関税削減、関税割り当て、途上国の主な製品、農業への支持、輸出信用、食料援助に関する詳細な計画を議論する非公式な協議をイースターの後も続けると発表した。

公式宣言の中で米国は、この失敗に関してEUと日本を責めた。6月に始まる予定のEU共通農業政策(CAP)の改革を視野に置き、米国は欧州の国々に、「昨年F.Fischlerが発表した提案を批准して、ドーハの開発ラウンドの指令に従う際に欧州委員会がもっと柔軟に対応できるようにすること」を求めた。オーストラリアもEUを批判。これに対しEUは、貿易をゆがめる効果を持つ「いわゆる食料援助」と輸出信用(両方とも主に米国が使っている)、貿易の懸念となるある国の価格設定の慣行(オーストラリアのケース)を持ち出した。EUはオーストラリアの検疫システムについてDSBに諮るという決定を正式に発表した。

(2)サービスの自由化を提供したのは少数の国だけ
これらの提供分野の提出の締め切り(2003年3月末)に間に合った国は、先進国だけだった(オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、米国)。EUは、来週には提出できそうで、スイスは4月15日までには提出できそうだ。WTO事務局はカンクンでの次回閣僚会議までの間、提出が続くと予想している。途上国の提出はまったくない。このことを、守られていない他の多くの締め切りに対する反発と見る人もいる。つまりTRIPS(知的所有権の貿易の側面に関する協定)、公衆衛生、合意の実施、途上国に対する特別かつ差異のある待遇、そして農業に関する締め切りである。

現在までのところ、30余りの最も進んだ途上国がリクエスト分野を提出したが、誰も提供分野を提出していない。オファー分野を提出していない国の中には、郵便サービスや水供給などの独占的分野を提供していない米国を引き合いに出す国もある。米国のNGOの中には、これらのオファーに対して否定的な反応を示している。IATP(農業貿易政策研究所)は、「これらは、自治体の承認を得ることなしに州の法律に影響を与える」と指摘し、オファー分野を決める準備段階で協議がなかったことを強調した。

(3)ブラジルが綿生産者に対する米国の補助金を提訴
ブラジルは米国によって綿生産者に提供される補助金(マーケティングローン、輸出補助金、直接支払い、認証)が世界価格を低下させ、ブラジルの生産者に被害を与えていると主張している。

(4)モロッコ・米国間の貿易に関する論議がイラク戦争のために場所を変更
エコノミスト誌によると、3月24日にラバトで予定されていた討議の第二ラウンドは、戦争で落胆した世論から遠く離れたジュネーブで25日に開催された。2月21日にこの討議が始まった際、米通商代表は対テロ戦争における米国との緊密な同盟国としてのモロッコの役割を強調し、この協定が「世界の不安定な地域の忍耐強く開かれたイスラム社会を米国が支持していることの証しと考えられるだろう」と話した。マラケシュとモロッコのその他の大都市は大規模な反戦デモの舞台となった。US Todayによると、その他の中東各国の政府、特にエジプトとバーレーンが、米国との貿易協定締結を熱望しているという。ジョーダン(ヨルダン)はすでに米国との貿易協定を締結している。

(5)投資協定に反対するキャンペーンが開始された
50のNGOの代表が3月19〜21日にジュネーブで会い、WTOの投資協定の本質と含意を検討した。投資を規制する必要性は認識しているが、参加者のほとんどはWTOがそれを議論する場として適当ではないと考えている。彼らの意見では、WTOは投資家の権利と義務の公正なバランスに達しておらず、環境、社会、開発問題を考慮することを拒否している。3月21日、これらのNGOは同協定の締結を目的とした交渉に反対するキャンペーンを開始した。ここでは、同協定が途上国に害を与えると強調。第三世界ネットワークのマーティン・コーは、EUと日本が発表した提案は「投資を規制することを目的とはしておらず、投資の規制ができないように政府を規制することを目的としている」と述べた。

参加者の中には、この問題が9月にカンクンでの第5回WTO閣僚会議の際NGOが結集するポイントになると感じている人もいる。その意味で、ジュネーブでのミーティングは市民社会の触媒の役割を果たしたといえる。このキャンペーンを開始したNGOにはオックスファム、パブリック・シチズン(米国)、第三世界ネットワークが含まれる。

(6)水に関するオルタナティブなフォーラム
最初の「民衆による世界水フォーラム」が3月21〜22日にフィレンツェで開催された。世界水議会(World Parliament of  Water)の設立を促進し、同時期に日本で開催された第三回世界水フォーラムのオルタナティブとなることが目的である。フィレンツェでのフォーラムはGATSの交渉中に出された「リクエスト」について検討した。

これは水供給のグローバルな民営化を進める最初の方策であり、水供給を富裕な国々や多国籍企業が売買し独占できる分野にするものである。参加者は「WTOからサービスを外す」ためのキャンペーンの間、この問題について圧力を強めることを約束した。このフォーラムは国連国際水年(UN International water year)の年に行われた。

【第一回民衆による世界水フォーラムのウェブサイトは、
http://www.contrattoacqua.it/