「サンド・イン・ザ・ホイール」日本語版2003年第5号
2003年2月19日号(通巻163号)
目次
以下の数字は推定である。さまざまなニュース・ソースから集めた数字である。それでも、ここに数えられていない国や国内の地域もたくさんある。しかし、この数字は2月15日に何が起こったかをかなり正確に伝えている。1500万人前後の人たちが、世界中でデモに参加したのだ(395語)。
2. 活動家はメディアの形式から自由でありえるのか?(Can
we free ourselves from media formats?)
活動家の国境を越えた結集を作り出すためには、共同行動の調整、情報の普及、複数の中心を持つ組織の運営のための優れた手段が必要とされる。だから、新自由主義的グローバリゼーションに反対して闘うさまざまなネットワークが、早くから、決定的に重要な手段としてインターネットの活用を発展させてきたのだ(3641語)。
3. 貿易問題は女性の問題(Trade Is a Women's Issue)
貿易による利益は、世界中の女性労働者たちの労働に依存している。女性は軽工業--世界の消費財の大部分を製造している--の労働力の半分を占めている。ところが彼女たちは、低賃金、長時間労働、ハラスメント、性的嫌がらせなど多くの問題に直面している。貿易交渉の場で女性の問題が論議され始めたが、問題解決への道のりは長い(2327語)。
4. 2002年、重要な年を総括する(2002: Assessing a Pivotal Year)
9.11以降に米国が直面してきた新しい世界の中で、そして帝国主義的な右翼の隠された願望を攻撃的に追い求めるブッシュ政権の下で、世銀は米国の目的を支持する国々に報酬を与えるために明白に利用されている。パキスタンは債務の救済に関連して世銀から異例の寛大な待遇を受け、アルゼンチンと同様の危機にあるトルコは、多くの国に認められてきた割り当てをはるかに上回る超える額の貸付金を受け取った(2614語)。
5. 「力の均衡」政治の復活(The Reemergence Of Balance-Of-Power
Politics )
・・・たしかに、最初の教訓はがっかりさせるものだ--無敵の超大国という立場は平和ではなく紛争を促進している。このことは冷戦終結の直後にはそれほど明らかでなかった。当時、西側諸国の間では、米国が唯一超大国としての立場を、多国間の秩序の安定化のために使うかも知れないという期待があった--それは米国の覇権を固定化するが、世界規模でアウグスティヌス時代のような平和を保証するだろうという期待である。(1735語)。
Illustrated version only in PDF format.
« Stoppt Den Krieg » Par Carole Faure http://suisse.attac.org
以下の数字は推定である。さまざまなニュース・ソースから集めた数字である。それでも、ここに数えられていない国や国内の地域もたくさんある。しかし、この数字は2月15日に何が起こったかをかなり正確に伝えている。1500万人前後の人たちが、世界中でデモに参加したのだ
オーストラリア、メルボルンで10万人。
ベルギー、ブリュッセルで6〜8万人
カナダ、モントリオール、-20°C 、強風の中を15万人
フィンランド、ヘルシンキで2〜3万人。
フランス、パリ25万人で、全国で50万人。
ドイツ、ベルリンで50万人。
ギリシャ、アテネで25万人。
ハンガリー、ブタペストで5〜6万人。
アイルランド、各地で合計10万人。
アイスランド、レイキャビックで4千人、全国で18万人。
イスラエル、テルアビブで3千人。
イタリア、ローマで300万人。
日本、東京で2万5千人(14日)、3千人(15日)
メキシコ、メキシコシティで5万人。
ノルウエー、オスロで6万人。
オランダ、アムステルダムで10万人。
フィリピン、3〜4千人。
ポルトガル、リスボンで10万人。
スロベニア、リュビュリャナで5千〜1万人。
南アフリカ、ヨハネスブルグで1万〜1万5千人。
スペイン、6 930
900 人(主催者発表) / 4
847 900 人(マスコミ発表) / 2
665 600 (警察発表)、57 都市:バルセロナで200万人、マドリードで100万人、バレンシアで50万人、セビリアで25万人、オビエドで20万人、ラスパルマスで10万人、カディスで7万人
スイス、ベルンで4万人。
スエーデン、ストックホルムで12万人。
シリア、ダマスカスで20万人。
英国、ロンドンで200万人、グラスゴーで8万人。
米国、「ニューヨークタイムズ」は「ヨーロッパで150万人がデモ」という見出しで報道した。同紙の編集部には人数の足し算をできる人がいないらしい。
NY市で30〜50万人。サンフランシスコで20万人。ロサンゼルスで10万人。その他百以上の都市でデモ。
活動家はメディアの形式から自由でありえるのか?
Can we free ourselves from media formats?
By Dominique CARDON、Fabien GRANJON(社会学者)
活動家の国境を越えた結集を作り出すためには、共同行動の調整、情報の普及、複数の中心を持つ組織の運営のための優れた手段が必要とされる。だから、新自由主義的グローバリゼーションに反対して闘うさまざまなネットワークが、早くから、決定的に重要な手段としてインターネットの活用を発展させてきたのだ。・・・
メディアに対する批判はオルタナティブなグローバリゼーションの運動の非常に重要な要素である。反グローバリゼーションの動きに関するジャーナリズムの取り上げ方を「監視」しているFAIR(「公正で正確な報道」)のようなNGOが形成された。ATTACの設立には、フランスのいくつかの新聞社も参加した。・・・インターネットが新自由主義に対する世界規模での抵抗運動の構築に重要な役割を果たすとすれば、それはインターネットがメディアのもっとも批判されているあり方に代わる新しい情報発信の実験場を提供しているからだ。
メディア批判は2つのパターンに分けられる。1つは、「ルモンド・ディプロマティック」に代表される「反ヘゲモニー」の立場からの批判である。同紙は、伝統的メディアがグローバリゼーション・イデオロギーのプロパガンダ装置になっていることを批判し、批判的な対抗的勢力の形成を提唱している。・・・
もう1つは、情報を作る側の閉鎖性、読者との関係の非対称性に対する批判である(「遠近法主義」的批判)。これは、主観的表現としての真理よりも、話し手の権利の擁護・増進に強調を置く。この立場は最近ではHarry Cleaver、Michael Hardt 、Toni Negri によって代表されている。・・・
この2つの批判は、反グローバリゼーション運動によってインターネット上で確立された2つのメカニズムを通じて表現されている--批評サイトとメディア活動家のサイトである。・・・
「反ヘゲモニー」のサイトは、反グローバリゼーションのデモやフォーラムでは、マスメディアの公共領域に対抗する位置を持っている。また、「水」、「第三世界債務」などで、専門的な「セカンド・オピニオン」を発信する機能を果たしている。
メディア活動家のサイトは、遠近法的メディアを作り、一般大衆に意見を述べ、情報源と(ジャーナリストや専門家など)プロの垣根を無くしている。・・・1999年11月シアトル・サミットの際のダイレクト・アクションのネットワークからインディーメディア・ネットワークが生み出され、今では20カ国以上に広がっている。このメディアは出版が自由で、オンラインで誰でも出版することができる。編集には規制はない。
オルタナティブ・メディアといえども、主流メディアと同じような問題に直面している。しかし、オルタナティブ・メディアの場合、活用している技術、収益性に拘束されないこと、投稿者のボランティア性などの要因によって、伝統的なメディアよりも自由である。また、批判的論争の再活性化も可能である。・・・
主流のメディアと緊張した関係を持ちつつ、インターネットを通じた編集・発行は、グローバリゼーションをめぐる報道に少なからず影響を及ぼしてきた。ジャーナリストたちはこのサイトから情報を収集し、「反グローバリズムのサイト」のオーガナイザーや活動家たちと関係を築いているからだ。また、サイトの記事は、国際批判の論議の場に新しい力と形態をもたらした。インターネットは批判的議論の再発を支持するが、そこでなされる議論の形態と思想を禁止する動きも高まっている。セカンド・オピニオン・メディアは、実証性、監視、調査を提供することを通じて、ある種の意見表明の形式に力を与えてきた。メディア活動家は表現の形式を開発し、個人の発言を勇気づけ、動員をそして怒りを求めてきた。急進的メディアの間で議論が再び活発化している。活動家メディアが、従来型メディアに代わるものとして、それと競合し、改良していくべきなのか、それとも市民のメディアとして、「情報の民主化」をローカルな、明確な目標を持つ問題に変えていくことを目指すべきなのかをめぐってである。
貿易問題は女性の問題
Trade Is a Women's Issue
By Bama Athreya(国際労働権財団副代表)
コーヒーからコンピュータまで、世界中のスーパーやデパートの商品の生産への労働を提供しているのは女性労働者たちだ。彼女たちは貿易には好都合だが、貿易は女性たちに問題はないのか。良い労働環境を確保するため、米国と世界的貿易のルールを変えるには長い時間がかかる。
貿易自由化と輸出主導型貿易は、特に製造業が女性の労働に頼っている。女性労働は、世界開発報告では、世界の輸出加工区(EPZ)の労働力の70-90%を、国連食糧農業機関(FAO)によると、農業人口の43%を占める。また、女性労働は世界食糧の半分以上を生産している。
貿易に関する国際的交渉が始まってから50年の間に、さまざまな変化があった。女性の問題が今では貿易、外交の課題となったのだ。1995年の国連世界女性会議(北京)を契機に、クリントン政権は女性(の地位)に関する省庁間の作業委員会を設けた。
90年代後半には、貿易交渉で女性団体の意見を聴取する場を設けることが珍しくなくなったが、しかしそこで話された問題が交渉の案件になることはなかった。女性の権利を要求する団体は、環境運動団体や労働団体と連携して、貿易が世界の貧困解決に役立っていないことへの批判を強めるようになった。・・・
米国の貿易協定は女性労働問題を取り上げていない
・貿易協定は、労働者の権利を一般的に述べているが、女性の特別保護に関する基準がない。
・労働組合は、女性労働者の組織化は難しいと述べ、また特に女性のための職場環境は改善されていない。
・主な労働基準は、性的嫌がらせなど女性に対する差別の規定がない。
女性たちは労働者の権利により保護されず、特別の抑圧と課題に直面している。Human Rights Watchの96年と98年のレポートによると、米国へ輸出する衣類、電化製品を製造するメキシコの工場では、組織的に妊娠チェック受けていた。彼女たちによれば、妊娠とわかると待遇が悪くなり、退職させられる。また、重いものを持ち上げたるなどの重労働を強いられたりする。しかし、女性たちは収入のため、自ら重い仕事をすすんですることもあるという。・・・
米国の新しい外交政策への提言
・米国政府は、「国際的に認められた労働者の権利」の定義に、差別撤廃についての記述を含めなければならない。
・米国は、ILOによる女性差別に関する取り組みをさらに進めるよう、積極的役割を果たすべきだ。
・米国は、女性労働者に関連する国際的基準に従う特別の責任を負っていることを認識すべきだ。
2002年8月6日にGSP(特恵待遇プログラム)が更新され、2006年12月末まで延長されることになった。この過程で、上院で(特恵待遇の条件として)「差別撤廃条項」を含めるという修正が付け加えられたが、上院と下院のすり合わせの過程で、この修正条項が取り除かれた。
・・・
ILOは労働者の権利の国際基準について規定している(結社の権利、団結権・団体交渉権、 雇用条件の平等と差別の禁止、強制労働の禁止、児童労働の禁止)。これらの最低限の労働基準を提供しても、女性たちはまだ多くの問題に直面している。ILOの基準は最低限のもので、社会問題としてより幅広い論議が行われなければならない。家族責任と家事の条項がILO規定に加わると、多くの女性が利益を受ける。さらに、世界の女性労働者の深刻な問題も取り扱われるべきだ。最低限の生活様式を維持できるだけの賃金が得られず、職場で嫌がらせや暴力が起きていることを公にすることだ。 ILOには性的嫌がらせに関する既定がない。早急に対処すべき課題だ。
米政府は、女性労働者の権利に関するガイドラインを提供する国際的協定the International Convention on the
Elimination of All Forms of Discrimination Against Women (CEDAW).を批准すべきだ。現在、国連加盟国の90%、170カ国がこれを批准している。ここで規定するのは、(1)教育、教育訓練、雇用における差別の撤廃 (2)職場での健康、安全、妊娠及び家族休暇、社会保障の保護 (3)性的嫌がらせの禁止 (4)女性への貸し出しの保障である。世界中で女性の権利が保護されると、米国CEDAWへの反対が減少するだろう。議会にこの協定を批准させよう。
2002年、重要な年を総括する
2002: Assessing a Pivotal Year
By
Soren Ambrose(50
Years is Enough Network/ New Voices on Globalization)
シアトルから3年が経った。シアトルは米国におけるグローバル・ジャスティス(「公正な世界」)運動を世に知らせるきっかけとなった。
シアトル以来、IMFと世銀は信用されなくなった。2000、2002年のワシントン、2000年のプラハの大結集が成功したからだ。私たちは、この国際金融機関の影響が低下するために圧力をかけ続ける。
シアトルの直前、IMFと世銀は構造調整反対の声の高まりに対応するため、貧困削減戦略(PRS)を打ち出した。債務国の政府と市民社会に、自分たちで開発プランを作成するよう求めるものだ。だが、私たちが予想した通り、世銀及びIMFは最も重要な問題--貿易、投資、補助金、貨幣価値などの「マクロ」問題--への彼らの参加を認めようとしないことが今では明らかになっている。その結果、作成されたプログラムは従来の構造調整プログラムとほとんど変わらない。
IMFと世銀の政策はアルゼンチンの経済崩壊によって信頼を失った。1997-98年の東アジアの経済危機で、IMFは責任がないと述べたが、一方アルゼンチン政府はIMFの最もまじめな生徒であり、1990年にワシントンに蔵相を派遣した。アルゼンチン政府とその政策は混乱の責任があるが、緊縮財政を求めるIMFの要求で事態は悪化した。現在でも事態は改善されないままで、IMFの役人たちは、IMFの名誉を傷つけられたと感じている。・・・
勇気付けられるのはブラジルの例だ。Luraが大統領に選ばれた。理由はいろいろあるが、IMFと世銀に反対したからだ。・・・
IMFと世銀の9月の会合の最大のニュースは、IMF筆頭副専務理事アン・クルーガーの提案で、デフォルト(債務返済不能)に陥った国が危機を免れるための母体を作るというものだ。アルゼンチンの経験から、彼女は「国家債務再編メカニズム」を提案し、主に国際的に影響を及ぼす危機に直面する「中所得」国に適用しようとした。
そのような委員会の考えはもともとドイツとオーストリアのジュビリー・キャンペーンから出てきたもので、 専門家の独立機関を作り、困難に陥った国の債務「停止」を命令し、債務者と債権者の利益のバランスを考慮し危機の解決策を課すものだ。提案では債務を全面的に停止するか、自らの問題(汚職、プロジェクトの失敗など)として違法だと判断するか余地が残されている。
しかしこの提案も、民間銀行が反対した。9月の進展は、米財務省がKruegerの提案を支持すると発表した。多分この提案は修正され、4月のIMFと世銀会議で発表されるだろう。・・・
最近、世銀による民営化提案が新しい問題になってきた。・・・世銀は構造調整で各国政府を荒廃させ、今後支援を得るためには、政府の責任は主に海外の民間部門にゆだねられなければならないと主張している。
・・・
9.11以来、ブッシュ政権が帝国主義を追求し、世界は新しくなった。しかし、世銀は米国を支持する国々のために利用されているようだ。パキスタンは債務救済で世銀から寛大な待遇を受け、アルゼンチンと同じような危機にあるトルコは、他の国よりも多くの債務の取り消しが認められた。世銀は、米財務省の気まぐれな支援と非難に脅え、Paul O'Neillの妄想を採用することを決め、反対意見を避けようとしている。・・・
私たちは複雑な世界に直面している。私たちの原則は依然として、グローバル・サウス(「南」の諸国の人々)と連帯して、経済の民主主義を構築することだ。バリケード、教会の地下、コミュニティーの集会で会おう。そこではグローバル・ジャスティスの運動を前進させるため教育と戦略論議が行われている。
「力の均衡」政治の復活
The Reemergence Of Balance-Of-Power Politics
By Walden Bello(フィリピン大学社会学教授、Focus on the Global South理事)
人々は今、迫り来る戦争を回避する上で全く無力であるという感情を語り、書いている。米国は強力だ。しかも攻撃を固く決意している。・・・(冷戦終結後の)最近、および当面の時期は平和にとって困難な時期となるだろう。しかし、それは国際的な力関係について、教訓に満ちている。それは必ずしも絶望的ではない。たしかに、最初の教訓はがっかりさせるものだ--無敵の超大国という立場は平和ではなく紛争を促進している。このことは冷戦終結の直後にはそれほど明らかでなかった。当時、西側諸国の間では、米国が唯一超大国としての立場を、多国間の秩序の安定化のために使うかも知れないという期待があった--それは米国の覇権を固定化するが、世界規模でアウグスティヌス時代のような平和を保証するだろうという期待である。
・・・新しい時代の不安定の主要な原因は、「非合理的」で私的な集団が伝統的な強力な国家に対して「非対称的な」戦争を準備していることにあるのではない。不安定の主要な原因は、世界的な国家システムにおける力のバランスの変化にある。
「国家間の力のバランス」は、John Mearsheimer の「The Tragedy of Great Power Politics」のテーマだ。この著書では、超大国が防衛のための力の均衡よりも、相手に対して優位にたつことを目指すこと、また、2つの超大国という構造が、力が均衡した多極構造よりも安定していることが指摘されている。
しかしMearsheimerが書いていないことは、1つの圧倒的な力を持つ支配的な権力が、多くの小さな権力に包囲されている状況(すなわち、今日の世界)こそ、紛争、緊張、不安定をもっとも招きやすいということだ。・・・
多くの米国批判は、ブッシュのユニラテラリズムは米国右翼の自己中心的、米国中心的世界観のせいだとしている。これは原因と結果を取り違えている。ブッシュのユニラテラリズムは、独特の構造的な条件--冷戦に勝利した(米国の)産軍複合体が米国エリートの主流となり、世界的な国家体制の中で米国と対抗する勢力がいなくなった--の産物である。
しかし産軍複合体は、抑止戦略から覇権戦略への転換を隠蔽するために、(その戦略のための)合理的理由を必要とし、この10年間、旧ソ連に代わる目標を探してきた--北朝鮮、中国、アルカイダ、「悪の枢軸」など。・・・9.11は、ブッシュの2002年9月17日の歴史的スピーチで打ち出した「無制限の先制攻撃」「一方的介入」に国内の支持を結集するための、神からの贈り物とも言えた。
・・・
現在のイラク危機がどのような形で収束されるかに関わりなく、冷戦時代の大西洋同盟の衰退は加速しつつある(ラムズフェルド国防長官が「古いヨーロッパ」と発言したように)。力の政治が再び生まれ、力を持たない国々は米国の侵略を封じ込めようと活発に協力している。ドイツ、フランス、中国、ロシア、ブラジル、また韓国もこれに加わるだろう。顔ぶれは代わるかも知れないが、この連帯は永続するだろう。現在、サダムが大量破壊兵器を所有しているかどうかという問題の陰になっているが、(これらの諸国にとって)本当の問題は、米国の脅威に対し国家的世界的安全をどう守るかだ。
国家体制のレベルにおける(米国への)抑止力の復活は、別の世界的抵抗運動の前進との関連で見ておかなければならない。イスラム原理主義グループは、9・11以降の米国の政策と、それに連動したイスラエルの政策のおかげで飛躍的に影響力を拡大した。もし戦争になれば、アラブ、イスラム社会のいわゆる穏健な政権をも弱体化させ、ついには米国に対して断固として対決する政府が生まれるかもしれない。
また、企業主導のグローバリゼーションに反対する世界的運動が急速に起こっており、反戦運動と結合して、国際的市民社会レベルで強力な反米の戦線が形成されている。この運動は、イスラム原理主義の運動とは違って、いくつかの国で近い将来に政権につく可能性もある(すでにラテンアメリカでは、ブラジル、ベネズエラ、エクアドルでそれが起こっている)。
イスラム原理主義も、企業主導のグローバリゼーションに反対する運動も、米国への抑止力としての外交的、実際的役割を果たすものではない。しかし、重要なことは、それが米国企業の正統性を掘り崩し、その実態、ありのままのヘゲモニーをさらす事だ。覇権国家であり続ける上では、究極的には彼らの正統性が基礎となる。
今後は、米国の利益のために世界を再構築する動きが見られよう。しかしまた、世界市民社会で反米運動が加速し、反米連盟が結成されるだろう。これはワシントンが望むゆるぎないヘゲモニーではなく、従来からある過剰拡大のダイナミズムだ。国の教訓としてはっきり言えるのは、帝国は一時的だが、レジスタンスは永遠だということだ。