ATTACニュースレター日本版2002年第28号
Sand in the wheels
Weekly newsletter - n°137 –
権利のための闘い
STRUGGLING FOR RIGHTS
「サンドインザホイール」(週刊)
2002年7月24日号(通巻137)号
ジョゼ・ボベさん歓迎イベント(10/23~31)を全国で成功させよう
関西:8月19日(月)午後6時:「フランスの学生は今・・・」ニコラ・デュボアさんを招いて交流会
京都:8月24日(土)午後7時「日本のODAとアジア」
目次
1- イタリアの移民法:外国人を刑事犯扱い(A Criminal Law)
6月4日にイタリア下院は移住者に関する「ボッシ・フィーニ法案」を可決した。昨日から、私たちはイタリア人であろうが外国人であろうが、EU加盟国の市民であろうがなかろうが、自由が大幅に制約されている。なぜなら、県がイタリアへの入国者やすでにイタリアに滞在している人たちの滞在許可のために指紋を採取するということは、ある種の非常事態の宣言にほかならないからである(904語)
2-
イタリアの移民法:排外主義と、主体としての移住者(Xenophobia and subjectivity of the immigrants)
・・・こうした条件は、「イスラムへの嫌悪」、「白人原理主義」の増長に味方している。外国人に「テロリストの支持者」、あるいは「潜在的犯罪者」というラベルを貼り付ける傾向がますます明確になり、それに伴って警察による支配と抑圧が一層厳しくなり、移住者の間では恐怖と不安が高まり、自己隔離に向かう傾向が増すだろう。(3081語).
3- テロリズムをめぐって(About terrorism)
[6月3日にバルバドスで開催されたOAS(米州機構)総会についてのコメント]・・・したがって、国家(あるいは権力)によるテロリズムは古代からあったのであり、今日ではテロリズムの主要形態であり、既存秩序の維持を目的にしている。個人やグループによるテロリズムは一般的には国家テロリズムへの対応であり、その逆ではない(1141語)
4-
自動車労組が「カンバン方式」を逆手にとって部品工場の労働者を組織化(Auto Workers Use ‘Just-in-Time’ Leverage To Organize Parts Plants)
6月の2日間、オハイオ州トレドにあるダイムラークライスラーのジープ工場では、自動車に取り付ける計器パネルが供給されないため操業できなかった。労働者たちは街頭に繰り出した。UAW(全米自動車労組)が、この工場に計器パネルを供給しているオハイオ州ノースウッドのジョンソン・コントロール社で組合承認を要求してストライキを行ったのである。(1022語)
5- ペルー:草の根の活動のドミノ効果(Peru: grassroots activism has domino effect)
リマの市政は代々にわたって、外国の鉱山会社に擦り寄られてきた。しかし、タンボグランデ(ペルー最大の果実栽培地域の中心にある)の人々は、カナダ資本のマンハッタン・ミネラル社の採掘計画に抵抗している。住民投票で98 %が反対の意思表示をした。同様の計画に直面している他の地域の人々も、この動きに注目しており、同様の行動を計画している。鉱山関係企業は、NGOによる住民投票への支持を非難している(2355語)
[要約版]
イタリアの移民法:外国人を刑事犯扱い
A Criminal Law
By Paolo Berardi Vernaglione
6月4日にイタリア下院は移住者に関する「ボッシ・フィーニ法案」を可決した。昨日から、私たちはイタリア人であろうが外国人であろうが、EU加盟国の市民であろうがなかろうが、自由が大幅に制約されている。なぜなら、県がイタリアへの入国者やすでにイタリアに滞在している人たちの滞在許可のために指紋を採取するということは、ある種の非常事態の宣言にほかならないからである。
EUや米国政府は9月11日以来、「テロに対するグローバルで永続的な戦争」という理由をつけて、このような政策を進めてきた。イタリアは警察の研修所として、また、ユーロポル(ヨーロッパ警察)の本拠地として、「不法移民対策」の先頭に立っている。米国では、イタリアのモデルに沿って、入国者の指紋採取のために必要なシステムを確立しつつある。
恐ろしいのは「犯罪予防」という理由で、移動の自由という権利(囚人を除くすべての市民の、奪うことのできない権利だ)の剥奪が拡大されることだ。これは移住者を犯罪者扱いすることにほかならない。しかし、政府の「安全」についての理念を詳細に検討すると、この法律が文化・教育に及ぼす歪んだ影響(それは社会規範として受け入れられるだろう)が浮かび上がる。まず、移住者の子供達が学校で差別を受け、学校という檻の中で監視されるということ。二つ目に、(既に米国ではよく知られていることだが)教育現場におけるゲットーが出来るという事。三つ目は、社会の中に身体的違いによる差別が生み出されると言う事。そして、四つ目は家事労働者や看護労働者、在住許可を持つ移住者も潜在的犯罪者と見られることである。
これだけでも反対の声を上げなければならない十分な理由である。しかし、今日、イタリアは国境のグローバル化の中で、収容センターとしての位置を担っている。ボッシ・フィーニ法はこの延長であり、統制のいっそうの強化をもたらすだろう。そのことは、次の事実から推測できる-(現在)海軍が入港禁止の解除に責任を負っているが、実際には「ケーターIレード」号[97年3月にイタリアのフリゲート艦がアルバニア船「ケーターIレード」号と衝突し、乗船していた移住者89人のうち56人が死亡した]をはじめ多くの海難事故で多くの移住者が犠牲になっている。指紋採取によって、この種の(制度と現実の対比)が数百倍に拡大するだろう。また、この制度は犯罪の行為を処罰するのでなく、秩序に従わない行為を処罰するという点で憲法違反である。
イタリアの移民法:排外主義と、主体としての移住者
Xenophobia and subjectivity of the immigrants
By Annamaria Rivera, professor of Cultural
Anthropology at the University of Bari
移住者の自己組織化という問題は、9・11以降の雰囲気-「テロとの戦争」と民族排外主義の結合-と関連している。
脅迫に満ちた空気がある。9月11日以来、大半の西側諸国は非常事態法を採択したが、それらは移住者の平等と権利と言う観点からは、これまでに勝ち取られてきたごくわずかな成果さえ後退させるものであり、ヨーロッパで永年にわたって徐々に進められてきた移住者の市民権獲得のプロセスを止めてしまうものでもある。また、厳しい規制と警察の方策は移住者に対する不信感を生み出し、外国人差別は移住者が自らを政治的主体とすることから遠ざけるものである。
こうした条件は、「イスラムへの嫌悪」、「白人原理主義」の増長に味方している。外国人に「テロリストの支持者」、あるいは「潜在的的」というラベルを貼り付ける傾向がますます明確になり、それに伴って警察による規制や弾圧は厳しくなり、移住者の間に恐怖と不安がのしかかり、自らを隔離する傾向が増えつつある。
ボッシ・フィーニ法案における移住者の扱い
ボッシ・フィーニ法案は政治的・社会的退行の中で出されてきた。
人種隔離主義(人種差別主義とまではいかないまでも)が、この法案-移住者を単なる使い捨て労働者にすることを意図している-を促進した。この法案はビザの発給と在留期間を雇用契約に完全にリンクさせる。外国人は会社と契約した時にのみ入国が許され、仕事を失う時、またはその後6ヶ月以内に他の仕事が見つからないと国外退去さされる。そのうえ、身分証明書を持たないものを犯罪とする。スポンサーがいる移民の入国する機会も失われ、家族の再会のチャンスも経たれてしまう。送還される移民の収容所は倍の移住者でうめられる。
そして実際に、警察などの機関はすでにその法案の考え方を実践している。毎日外国人に対する家宅捜索や脅迫が行われ、一方的に滞在許可を拒否され、難民の権利も剥奪される。
「白人社会」における多民族労働力市場
ボッシ・フィーニ法案が導入されると、企業、特に小規模企業やこの数年間の右翼の文化的主導権によって歪められてきた世論は大喜びする。それは「白人社会」における多民族労働力市場の下で、外国人と異端者を隔離するような社会秩序の土台となるだろう。
・・・
イタリアでは、テロと戦争は既に充満している空気以上のものに高揚している。通常ある嫌がらせ、人種差別の慣行、外国人嫌いの分散化、選挙において人種差別を利用する傾向だけでなく、「イスラムへの嫌悪」(イスラムフォビア)とも言えるような状況である。
・・・反イスラムの十字軍の例として、ある小さな本が2000年夏に出版された。その本は Giovanni Satori の“Multiculturalismo, pluralismo cultural ed estranei”である。この本は学者的見地により多元主義と多文化主義を考察し“統合されない他”を見る。イスラム教徒やアラブアフリカンは最も変わった移住者と見られる。決して統合される事はないからである。そして最も過激な宗教や人種の違いを具体化する。
2000年9月にはボローニャの大司教がイスラム教移住者者による国家の危機を訴え、当局に圧力をかけ、キリスト教移住者者の流入を促した。
・・・
これまで、衝突は思想闘争やメディアによる攻撃のレベルであったが、北部同盟の政治活動がこの流れを変えた。2000年10月14日に、北部同盟はローディでモスクの建設に反対する運動を組織した。・・・
現在起こっていることを見ながら省みると、ヨーロッパ各国に影響を与えるこの反イスラム十字軍運動は自然発生的ではなかった。Sartoriがキャンペーンに参加した目的は、「オリーブの木」連合の中の「怠慢で無責任な倫理観」を保持しているものを叩き、選挙戦で左翼の勝利を危うくさせることだった。他の人たちにとって、この十字軍運動は、外国人嫌いという世論につけ込んで選挙戦を有利にするための手段だった。
・・・反イスラムキャンペーンは9月11日のテロ後の今を見るとよく分かる。テロは既にあった傾向を激しいものにし、テロリスト、戦争、外国人嫌いという歪んだサイクルはもっと強固なものとなる。
今日“白人原理主義”と外国人嫌いは独善的に正当化される。テロ後私達はものすごい量の人種差別的な意見を受ける。テロ後、不法移住者はイスラムのテロリストであると糾弾される。
悪い事に、人種差別は発言にとどまらず実害が出る。9月11日以降それを示すさまざまな被害が、異邦人と考えられる者達やアラブ人の容姿をした人が襲われたり、抑圧されたりしている。
イタリア政治の中のレイシズム(人種差別主義)
イタリアでは人種差別的発言は珍しいものではない。これは人種差別の感情が広がっているとか右翼や左翼に利用されると言う事とは関係ない。どこでも、人種差別的な発言は知識層の間からもさまざまな反応、論争、意見が出されるが、それは社会的司法的レヴェルを越えることはない。一方、イタリアでは人種差別発言は非難されない、ある一部の政治や世論以外、そのようなものとは認められていないのである。
排外主義と移住者の弱点
さまざまな、これらの分析を見ると移住者者の組織というものが必要になってくるのではないだろうか。外国人は政治的立場も弱く、地方でも選挙権がない。移住者者の自助組織もなければ政治組織の内であろうと外であろうと労働組合であろうと、反グローバル運動のネットワークであろうと、こういうことが外国人嫌いと人種差別の増加に繋がっているのではあるまいか。
反レイシズム運動の経験
いろいろな歴史的背景からイタリアの移住者の権利や人種差別に関連する組織は複雑な特徴をもつ。コミュニティーもその一つであり、組織自体が同じ国民である場合が多いい。典型はネイティブや移住者からなる組織で構成され、反人種差別と市民権運動が重なっている。
このモデルに欠陥があると言うわけではない。運動の主唱者達は弾圧される恐れもある。一方コミュニティーを見ると被害は深刻でゲットーを作られてしまうだけで収まらない。
これらのコミュニティーは外国人の組織だけで作られたものだけではない。例えば、外国人女性の組織や民族や国境に起こる二重差別や隔離を経験している女性や移住者の組織もある。
白人中心主義の克服のために
組織強化の必要性は否定されるべきのものでなく、イタリアが抱えている外国人組織の機関に対する交渉能力が弱いと言う問題の取り組みも必要であるが、ここで重要な事は、まず、どのようにして民主的な組織ネットワーク、労働組合、政治団体、反グローバル化運動を進め移住者社会を開かれたものにするか。そして、どのように移住者が主体となるか?イタリアにおいてトップが誰であれこの複雑な多分か社会の中で白人中心主義の思想を止めなければいけないことに気づかなければならない。そして移住者者は自らが主体となり人種差別と市民権のために闘うのである。
テロリズムをめぐって
About terrorism
By Alejandro Tietelbaum
6月3日にバルバドスで開催されたOAS(米州機構)総会は、テロとの闘いのための汎アメリカ会議だった。反対意見、とくにNGOによる討論の呼びかけの提案は無視され、参加した各国政府は「主人」の声にだけ耳を傾けた。
テロリズムとは何か
ある人は、テロリズムとは恐怖、混乱、畏怖を通じてその目的を達成しようとする活動だと定義付ける。国家によるテロリズムの目的は政治的・イデオロギー的に対立する国家を破壊する事または敵の軍事を破壊する事だと言える。グループによるテロは国家やグループに対し要求や政策変更を求める事である。犠牲者にとって恐怖心は自己防衛本能を呼び起こし、意思のコントロールを抑えてしまう。
テロリズムの力は規律や秩序を維持する為古来より利用されてきた。旧約聖書やコーランも信者の忠誠を保つ為神の畏怖を利用した。フランス革命ではこれが制度化され美徳と一緒にされ新しい力として利用された。近代ではテロリズムよりも残酷なものとしてドイツに国家社会主義者による国家が誕生した。ラテンアメリカの人々は長年の間テロリズムを経験している。そして、CIA等、米国の各機関に教育された軍隊により、多くの人が暗殺され、蒸発し、拷問された。国家によるテロは米国などでまさに軍事政策に取り入れられ、大量に無差別に、一般市民を巻き添えにして空爆をする。この軍事政策は近年だけの事ではなく、1935−36年のイタリアによるエチオピアへの攻撃やスペインの市民戦争の時もイタリア、ドイツによって行われ、第二次世界大戦にはドイツのその同盟軍によって行われた。
したがって、国家(あるいは権力)によるテロリズムは古代からあったのであり、今日ではテロリズムの主要形態であり、既存秩序の維持を目的にしている。個人やグループによるテロリズムは一般的には国家テロリズムへの対応であり、その逆ではない。
個人テロやグループによるテロと言うものはもっと新しい。大国が持つような資源や時間がない。道具や犠牲を無視しても、熟練した技で即効性がなければいけない。首謀者や実行者達のメシアニズムや不合理な行動も道具の一つとなるのである。そして多くのケースで米国CIA等の諜報機関がテロの手助けをしていることが暴露されている。
テロリズムの法的定義の試み
今でも政治的な意見の違いにより正確なテロの定義と言うものは成されていない。国連総会でもその点に関して同様であった。1987年12月、国連総会は決議42/159を採択した。これは政府以外の勢力によるテロリズムの司法的定義と言うよりは社会的定義を行ったものだった。しかしおなじ決議のなかでテロと、民族解放・自由・市民の自由と独立のための闘いの明確な違いについて触れられている。
テロリズムの定義がないことは、多くの国家に利用されている。特に9月11日以来独自の規範を作り社会的、政治的抵抗や独立の動きに対してもまるでテロ活動のように扱う。国連では、多くのレポートや人権高等弁務官の報告が、テロリズムに反対する闘いが人権擁護を犠牲にしないよう注意を促している。
そしてテロリズムの論議は超大国が個々の国家に対する経済戦争にも使われる。最近では米国がキューバに対してバイオ兵器開発のあらぬ疑いをかけ制裁を加える。このばかげた疑惑はキューバの経済を窒息させる為のものである。
自動車労組が「カンバン方式」を逆手にとって部品工場の労働者を組織化
Auto Workers Use ‘Just-in-Time’ Leverage To Organize Parts Plants)
by Joanna Dubinsky
6月の2日間、オハイオ州トレドにあるダイムラークライスラーのジープ工場では、自動車に取り付ける計器パネルが供給されないため操業できなかった。労働者たちは街頭に繰り出した。UAW(全米自動車労組)が、この工場に計器パネルを供給しているオハイオ州ノースウッドのジョンソン・コントロール社で組合承認を要求してストライキを行ったのである。UAWは同社の別の3つの工場でもストライキを行った。一年以上にも及ぶ不毛な協約交渉と会社側の反組合キャンペーンの末の決定であり、UAWの新会長Ron Gettelfingerの就任直後の闘いだった。
2日間のストライキで大きな成果
6月14日、二日間に及ぶ交渉は大きな成果をあげた。契約の中身は1500ドルのボーナスと3ドル以上の賃上げ、新しい年金プラン、授業料の援助、昇給制度と苦情申請手続きに関する権利、工場閉鎖の禁止である。
ジョンソン・コントロール社は、ノースウッドと他の26の工場で、カードチェック方式による組合結成手続きを承認することを(つまり、会社側はUAWの組合結成準備に対して中立を保ち、その工場の労働者の過半数が組合承認のカードに署名すれば、従業員投票の手続きなしに、組合を結成できる)
トレドのジープ工場で働くGeorge Windauによると、「かんばん方式」のためにストライキが大きな効果を上げることができる。「かんばん方式」はストライキの絶好のターゲットである。もしJohnson Controls社が代替労働者を使うなら、組合はピケのラインをフォード社の工場まで広げると脅す。前代未聞の事態にフォード社はJohnson Controls社に争議が終わるまで部品は受け入れない事を示した。
ついに組合結成へ
ジョンソン・コントロール社では一部の工場でだけ組合が組織化されている。1970年代には半数を超える生産労働者が組織化されたが、現在の組合員は20%を下回る。UAWはビッグスリー(自動車大手3社)が人件費削減の為多くの工場を閉鎖または分社化すると見ていた。これらの工場はいまだに組合があり賃金もいい。しかしジョンソン・コントロール社のような、組合がなく低賃金の会社がビッグスリーとの契約を獲得して、業界を独占する。UAWは非組合工場を組織化する手立てがないと考えた。
1980年から1992年にかけて組合は予算の5%に満たない額しか組合の組織化に当てず、自動車業界よりも個別の組合や部門にしか目を向けていなかった。しかし2001年には組合員が増加。この4.5%の増加は非自動車部門である。
Gettelfingerは6月のUAW会議で部品部門での組織化の必要性を訴えた。彼のジョンソン・コントロール社での成功はケンタッキーに拠点を持つAccuride社とは対照的なものだった。GettelfingerとBob Kingは同じ手段を他の部品工場でも使うだろう。次はDana社、Magna International社そしてTRW社である。
ペルー:草の根の活動のドミノ効果
Peru: grassroots
activism has domino effect
By Stephanie Boyd
「私達はこの土地を買って、耕し、灌漑し、来る日も来るひも育ててきた。そして作物を育てる為に投資し、また投資した。いい加減にはしない。ここで育ち、日々を楽しみ、子供や孫もここに住みつづけるだろう。なぜならここは私達の大地であり、誰もここを投げ出さない。」
この誇り高い言葉は、タンボグランデにおける鉱山開発計画に対する抵抗のルーツを表現している。そして、この精神が、全国の人々にも勇気をあたえ、不人気な開発計画に対して民主的住民投票という形で抵抗する力を与えた。この言葉を書いたゴドフレド・ガルシアは、ピウラ(ペルー北部の海岸沿いの県)のマンゴー栽培者連盟の委員長で、タンボグランデの鉱山開発にもっとも強く反対した人であり、昨年3月31日に暗殺された。
警察当局はこのカリスマ的リーダーの暗殺事件を解決できなかった。そして彼は開発反対の急先鋒として市民グループの象徴的英雄となり、草の根の活動は全国規模に広がり国際社会の注目を集めるようになった。
果実か金か
60年前、世界銀行より融資を受けた灌漑計画はPiura州で150,000エイカーの荒地を亜熱帯果樹園に変えた。San Lorenzo ValleyでGarciaはあくせく働き家族を養った。そしてSan Lorenzoはペルーで随一の果樹生産地となった。伝説は25年前の事である。フランスの会社が金、銀、銅や亜鉛が眠っている土地を発掘するが、当時地元の反対でその会社はその地を去った。しかし、その後カナダのManhattan Minerals Corp.社が探鉱調査に乗り出した。同社の見積もりではおよそ10億ドルもの鉱物があると推定した。そして当地で開渠計画を立てる。Manhattan社は環境調査も十分に行わず、採掘は地元の環境にマイナス影響はないと主張するが、水文学者のRobert Moran氏は違った見解を示している。水質に長期的にそして品質、量の面で悪影響がでると予測している。生態学者によると、地元に多種多様な生物が生息している為農作物だけじゃなく生態系にも深刻な悪影響がでるのではないかと危惧する。周辺にはとても稀で絶滅の危機に瀕した種類の鳥も生息する。ゆえにこのような鳥の生息地は保護区にする必要があると自然保護を訴えるGodofredoは言う。
住民投票の明確なメッセージ
Manhattan社はそこの住民に多額の土地代と新しい近代的な家をオファーした。そして、多額のお金を関係改善のキャーンペーンにつぎ込んだ。しかし、同社の努力も空しく、98%の住民は自治体による住民投票で反対の意を示した。Manhattan社は住民投票の結果に対し、十分な情報が行き届かなかったと、その結果を一蹴した。7月中旬には新しい環境調査の結果を提出する予定である。ペルーのManhattan社会長のRoberto Obradovich氏は教育を受けている途上国ではこのようなモデルもうまく働くが、この国では国民は操作されやすくこのような住民投票がまた行われると国家が麻痺してしまうだろう、と言う。 Obradovichの見解は住民投票をモニターしたヨーロッパや北アメリカの国際監視団のそれとは異にしている。Canada’s
Right and Democracy CenterのStephanie Rousseauは、住民は進んで住民投票に参加した。これが垣根を取り払い解決の糸口を探るのに役立てばよい。と述べた。
タンボグランデの市長であるAlfredo RengifoはRousseauの住民投票に関する見解に賛同している。住民投票は彼の考えであった。地元のテンションやフラストレーションが草の根の民主主義により前向きな方法でこの採掘の答えを自ら出して欲しいと言う狙いだった。
当初彼は採掘計画に前向きであったが、多数の住民の反対で考えを変えた一人である。
市民のプロテストが2001年に始まった。規模の小さなグループが平和的な行進をしていた時Manhattan社で焼き討ちが起こった。同社は計画に反対しているタンボグランデ Defence Frontの仕業であるとし、過激派がいる事を非難した。しかしDefence FrontのFrancisco Ojedaはこれはグループのイメージを壊す為に仕組まれたものだと言う。マハトマ ガンジーの信望者であるRengifoは平和的にやり方であるべきだとし、タンボグランデにいる有権者の75%以上の署名を集めペルーの議会に提出、採掘の開発計画反対の嘆願をはじめた。Manhattan社はこれを不正なやり方であると非難し政府は嘆願を拒否した。そしてRengifoは自治法にのっとり合法的な住民投票を行った。ペルー政府のMinister of Energy and Mines のJaime Quijandria は法律的力がないと住民投票を認めずにManhattan社の提案をひきつづき検討した。彼は住民投票の結果を受けて政府はManhattan社の環境報告にかんし公聴会を開き採掘計画の続行を行うかどうか決めると述べた。
タンボグランデのリーダー達はもし住民投票の結果が尊重されなければ、公聴会に参加しないことを表明。Rengifo氏は民主主義を回復しようと言う流れの中で政府はどうして民意を反映できないだろうと述べた。採掘はペルーの輸出歳入の40パーセントを占める。そして外貨も流入し、国家を貧困から救ってくれる。とトレド政府は言う。
アルベルト フジモリ元大統領の下行われた民営化と門戸開放政策は外貨の流入でリマにおいて一握りの金持ちを生み出しただけで、市民の50%は一日2ドルの収入しかなく、経済的腐敗がひろがり約束された経済的利益は受けられなかったと嘆く。
そしてこの計画には複線があり、一度計画を認めるとペルー政府は株所有者と同時に監督者として25%の所有者となる。これは民営化促進をしている政府には異例の事であり、政府所有の会社を外資に売り渡している。
タンボグランデの住民投票の成功とプロテストは広がり、政府は民意と経済効果を天秤にかけることになるだろう。マンゴーとライムの生産業者の活動が国内外を問わず民意の力を受け世界に広がったのである。
住民投票運動が全国に広がる
Manhattan社は鉱業に反対する海外のグループが邪魔をするという。Manhattan社のObradovichはイギリスのOxfamが住民投票に資金提供をしていると非難。アメリカのOxfamに対してはMoran氏による独自環境調査にお金を出していると批判した。しかし、タンボグランデの反対運動は外から始まったものではなく、中から出てきたことに留意していない。
ペルー National Mining SocietyはOxfamに反対するステートメントを発表し、採掘に賛成であるメディアが協力するなど反NGOキャーンペーンは成功していたようにも思われる。しかしこれらは民意に影響する事はなかった。反対にタンボグランデの反対運動は他の地域にも広がり、投票の公聴会後Cajamarca州でMt.Quillshの命運をかけ住民投票が呼びかけられた。そして鉱業と無関係のコミュニティーでもこのマンゴー生産者の意思は受け継がれArequipa市の市長は国有電力会社の民営化について住民投票を呼びかけた。政府は会社を売り渡す決定を下し暴動が起きたため一週間におよび戒厳令が敷かれた。
Godofredoの息子であるUlises GarciaはArequipaの出来事を追い、Cajamarcaの探鉱があるコミュニティーを訪問。キャーンペーンの方策について自分が学んだことを助言した。この若者はタンボグランデの住民投票を興奮気味に話す。これは父の意思である。彼は住民投票を望んだそして彼はこれを喜ぶだろうと。