台湾オルタツアーでお世話になった劉庸さんによる台湾バスの民営化反対闘争の文章を翻訳しました。台湾バス労働組合の委員長は、蔡萬祥さんで、オルタツアーの時には産業総工会(準)の呼びかけ人も兼任しており、オルタツアー団を歓迎してくれました。この間、台湾バスの民営化で、この組合が国会前に座り込むなど闘争を展開していましたが、政府与野党すべての賛成によって、民営化が強行されました。新しいナショナルセンターも、民営化がネックなようです。
この文章が掲載されている「工人力量」(Workers Power)は、劉さんが中心となって、オルタツアーでお世話になった楊くんらとともに発行し始めた月刊誌です。左派労働運動の立場から、全産総中央や現政権を批判しています。なお、劉さん楊くんともに昨年の全労協主催のレイバーサミットに招待されていますので、御存知の方も。
劉さんは現在、台北県産業総工会の中央執行委員、大同(民間大電機企業)山峡工場組合の中央執行委員です。2001/8/19 稲垣 豊
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劉 庸
新政権の規定政策のもと、今年6月30日、国内で最も早くから営業していた(そして唯一の)長距離バス会社――「台湾バス」が営業終了に追いこまれた。交通部長の菊蘭は「鋼と同じ意思」と称し、三千人以上の従業員の生活問題を無視して、さらに新政権誕生時の公約である「民営化の速度の緩和」という政策を投げ捨て、強力に台湾バス会社の門を閉鎖し、「新しい」「民営の」国光会社を育成した。
台湾バス会社は政権の一連の不当な政策を経験してきた(白タクの買収、国光号の買い付け、大型バス工場の推進、車体の改造など)。そして人気路線は財閥や地方の有力者らに放出され、それに加え管理職の出向はすべて政治的見返りの性質を持っており、多くは自らの利益のみを考えていた(失策をすればするほど、その地位は逆に高くなっていった)。それにより、損失の累積を招いた。それは政策の謝りが招いた結果といえるだろう。
政府役人はその政策の不当性を顧みることなく、ひたすら台湾バス会社の営業を終了させることに固執していた。民営化は特効薬で民間企業になってはじめて「効率」があがると考えているかのようであった。民間路線バス会社の「効率」とは何なのであろうか。現実の中からその答えを見出してみると、民間路線バス会社は利益のために、劣悪な労働条件を従業員に押しつける(たとえば24時間の長距離運転と24時間の休憩、事故の自己賠償、不当な賃金制度)。その他にも車両の安全検査と保守の強化には不熱心なので事故発生率が極めて高い(統聯バス)。当然、儲けにならない遠方へは運行したがらない。このような「効率」に人々を賛同させることはできない。残念なことは、多くの乗客が広く快適な民営バスに乗車している時に、運転手が超過労働によって披露困ぱいしているかもしれないということに思いが至らないことである。多くの民衆が民営化政策を支持する際、一旦サービス部門が全て「利潤の追求」を目標にしたら民衆の利益はどのように保障されるのかに思いが至らないことである。
経済の全面的な不況の現在、政府が強行に台湾バスの営業を終了させるということは、従業員を行き止まりに追いつめるに等しい。台湾バスの従業員は民営化政策のもと、すでに1万1千人以上がリストラされ、数名の従業員が中年で失業し、道を絶たれ自ら命を絶つ選択をしている。しかし政府は独断専行で台湾バスの従業員を失業の深淵に追いやっている! 矛盾しているのは政府は口々に失業問題を解決しなければならないと叫び、就業機会の創設を声高にうたい、いわゆる「就業希望工程」計画を打ちだし各地で「就業博覧会」を開催しているにもかかわらず、実際には大量の失業を創り出す先頭に立っている(民営化政策によって数万の失業者が出る)。
一部の民間の労働者は公営企業労働者の権利獲得闘争に「納得できない」という思いを抱いている。というのも公営企業労働者の労働条件はすでに申し分ないと考えているからからだ。このような感情が、台湾バス労働組合による労働権防衛の闘争に社会的支持を与えなかった。しかしわれわれは次の事を忘れてはいけない。毎年のベアはいつも公務員のベアを基準にしている。公営事業の労働条件は社会的基準なのである。いま、公営事業の労働条件が切り下げられていることは、まさに労働条件全体が切り下げられているということ示している。もしわれわれが公営事業労働者に敵意を持ちつづけるのであれば、同じ理由から大企業やさらに良い労働条件の労働者に対して敵意を持ち、そうして労働者の状況はますます厳しくなるだろう。なぜなら労働者が自ら分散化してしまうからだ。
大学生の高学費反対闘争を例にとってみよう。政府は公立と私立の学費の格差を縮小すると言っているが、政府のやり方は、私立の学費を引き下げるのではなく、公立の学費を引き上げ、「公平」であれば良いというものだ。われわれ労働者はこのような「公平」を求めているのだろうか?
台湾バス従業員による労働権の防衛はもちろん正当性がある。なぜなら政府が率先してリストラを行なっているのに、民間企業にリストラを行なわないよう求めることがどうしてできるのだろうか。民間企業が儲けを出していても、資本が必要とあれば、一方的に賃金カット、リストラを行うことができる。まったく不当なことである。
台湾バス労働組合の闘争の過程で、各政党の対応は冷たいものであった。これらの政党は、民営化政策についての態度はきわめて一致していると考えていいだろう。闘争過程における支援も極めて限られていた。上部組織だけでなく、他の公営事業労働組合の協力も少なかった。(中国の)戦国時代に秦国が燕国を飲み込む際に、他の5国がすばやく燕国に援助を与えず、燕国が秦国によって消滅させられてしまうのをみすみす傍観していた時のようだ。この過程で他の国営事業労働組合の反応は戦国時代の5国と同じく、台湾バス組合が政府によって無情に弾圧されるのをみすみす傍観していた。
台湾バス労働組合の闘争は、台湾バスの営業終了では終わらない。現在までに百数十人の人が離職を受け入れず、また国光会社への移籍も選択していないからだ。これからも彼らはその労働権のために奮闘するだろう。この台湾バス労働組合の闘争が民営化政策についての討論を巻き起こすことを期待している。闘争によって民衆が民営化の本質とは何なのかを理解することに期待している。
「工人力量」3号(2001年7月発行)