第6号  2004年5月31日

 

レイバーセンターの活動と予算カット

みなさん

この1週間もいろんなことがありました。HERE(ホテルレストラン労組)の2000名規模のビバリィーヒルズでの労働協約締結キャンペーンのデモに参加したり、UNITE(縫製繊維産業労組)のクリスティーナ・バスゲス副会長に会ったり、Garment Workers Center(衣服労働者センター)を訪問したりし、在宅介護労働者問題についてセンターのスタッフから聞き取りをしました。これらについては、別途報告します。

本日はメモリアルデイ(戦没者追悼の日)で祝日、私にとっては久々の三連休で、ゆっくりできた休日でした。テレビでは1日、様々な戦争で亡くなったアメリカ兵たちの追悼番組をやっていました。もちろん、イラク戦争での死者についても。当然、アメリカの「敵」であるイラク人は出てきません。

ただ、CNNはイラク戦争で亡くなったすべての米兵の写真を1枚ずつ見せていました。様々な人種の若者たちが亡くなったのだなあと考えさせるものでした。アメリカ人たちはこの人たちは何のために死んだのだろうと、考えないのだろうかと考えていました。

アメリカ人のイラク戦争への賛否がようやく半々だそうです(労働組合の集会ではブッシュNO!戦争NO!が当然ですが)。刑務所での拷問を始め、連日、戦闘場面と米兵の死亡を報道しています。大メディアの偏向報道であっても、まじめ見ていれば、誤った戦争であったことは明確です。

今回の内容は、レイバーセンターの活動と予算カットについてです。
------------------------------------------------------------------------

レイバーセンターの歴史

レイバーセンターの起源は、1945年に、カリフォルニア大学に労使関係研究所(IIR)の設置にさかのぼる。64年、IIRの下に、労働研究教育センター(以下、「レイバーセンター」と略す)がバークレー校とロサンゼルス校に設置され、労働教育へ踏み込んでいく。79年には、労働安全健康プログラムが設置され、主として労働安全衛生教育を実施している。


ユニークなレイバーセンターの活動

レイバーセンターの活動は、時代や所長の個性によってそのあり方が変わる。SEIU(全米サービス従業員組合)出身のケント・ウォンは、レイバーセンターの所長に就任した91年以来、改革派の進める「社会運動ユニオニズム」とつながりながら活動している。現在のバークレー校のレイバーセンターの所長のケイト・クワンもUNITE(全米縫製繊維労組)副会長を経験した活動家だ。


社会変革と運動のための調査研究と教育

レイバーセンターのスタッフたちは、研究者や活動家、労働組合、社会運動団体と連携しながら運動側が求める調査研究を行っている。たとえば、組合の組織化戦略、生活賃金条例、健康保険制度、労災保険制度、移民労働者の権利、労働組合と移民労働者たちを組織する「ワーカーズセンター」の協力関係、個別の事例調査などである。

また教育プログラムには次のような内容がある。大学の学部生向けの労働副専攻のコース、大学院生の研究支援、学生たちが労働組合や様々なNGOに一定期間実習生として活動しながら労働運動を学ぶインターンシッププログラム、女性労働組合員夏期講座、指導者養成プログラム(アフリカ系、ラテン系、アジア系、ゲイ・レズビアン、組合リーダーを対象)、そしてレイバーセンター主催やほかの運動団体との共催セミナーなどを多数行っている。

昨年、戸塚秀夫さんと山崎精一さんらが翻訳・出版した『アメリカ労働運動のニューボイス--立ち上がるマイノリティー・女性たち』の原著は、ケント・ウォンらがレイバーセンターの活動をとおして作り上げた本だ。2002年には"Teaching for Change-Popular Education and Labor Movement"(変革のための教育-民衆教育と労働運動)というパウロ・フレイレの民衆教育の視点に立った労働教育の事例をまとめた本も出版している。


2002年、「ダウンタウンレイバーセンター」を開設

労働雇用研究所(ILE)がレイバーセンターの上部組織として2000年に設立された。バークレーとロサンゼルスのレイバーセンターの予算枠が大きく拡大され、ロサンゼルスのレイバーセンターのスタッフは5名から14名に増え、活動領域が一挙に拡がった。さらに大学と、労働運動やコミュニティの様々な運動との架け橋をめざして「ダウンタウンレイバーセンター」が2002年9月に開設された。

「ダウンタウンレイバーセンター」の大家は、2階に事務所を置くUNITE(全米縫製繊維産業労働組合)で、地下にはHERE(全米ホテル・レストラン労働組合)ローカル11の事務所もある。HEREローカル11の委員長マリア・エレナ・デュラゾが、守旧派執行部を倒すために委員長選挙に立候補したとき、選挙事務所につかわれた建物でもある。

レイバーセンターのスタッフであるラリー・フランクは、「ここは、ロサンゼルスの改革派労働運動のグランドゼロ」と語った。

周辺にはロサンゼルス郡地区労や様々な労働組合、「ワーカーズセンター」もあり、ロサンゼルスの労働運動の中心地である。毎日のように労働組合や地域の活動家や研究者たちが集まり、セミナーやワークショップ、研究会を開いている。また移民労働者のための英語やパソコン教室も開催している。

労働運動を「社会運動」として創りかえる

「レイバーセンター」とはどんな活動をしているのだろうか? 明らかに日本の大学の研究機関とは違う。この2ヶ月間、スタッフたちの活動を眺めきて仮説的に言えることは、彼らは「労働運動」を「社会運動」として創りかえようとしているのではないか、ということ。

スタッフたちは労働組合同士、労働組合とコミュニティや運動団体、研究者、政治家たちをつなげ、その活動を組織し、支援するオルガナイザーであり、労働教育者であり、仕掛け人でもある。

スタッフたちの1日は、いろいろな人に電話し、電話会議(こちらは複数の電話をつないで会話が可能)をやっている。会議に出席してセミナーやイベントを企画する。抗議行動やデモがあれば必ず駆けつける。

ケント・ウォンにいたっては、全米を駆け回るのはもちろん、AFL-CIOが交流を拒絶していた社会主義国の中国やベトナムとの交流を全国組合のリーダーたちと組織し、一石を投じている。


レイバーセンターがシュワちゃんの攻撃のターゲットに

しかし、なんと新たに知事に就任したシュワルツネッカーは、レイバーセンターの上部組織である労働雇用研究所を廃止し、レイバーセンターの予算の75%をカットすることを提案した。

現在の10名のスタッフのうち5名を解雇するというのだ。その内の4名はダウンタウンレイバーセンターのスタッフで、全員が解雇されるとセンターにはスタッフがいなくなってしまう(スタッフたちに冗談で、高須が受付をやったらと言われた)。

大学関係の予算カットは、レイバーセンターとマイノリィティの学生向けの支援プログラムだけをカットするというもので、その攻撃の政治的意図は明らかだ。他方、経営者のためのビジネススクールには、一切の予算カットはなく引き続き多額の資金が投下されている。


ケントたちの反撃

 関係する労働組合が抗議声明をあげ、ロサンゼルスタイムスなどの主要紙が疑問の声をあげるなか、ケント・ウォンたちは5月22日、レイバーセンター設立40周年の記念パーティを開催した。そこには州議会の主要な政治家をはじめ、労働組合、地域の諸団体から600名もの人びとが集まった(ケントは参加者の前で、私たちを日本からの労働組合活動家と映像制作者と紹介したので、驚いた)。あいさつに立った政治家たちは、レイバーセンターをなんとしても守ると発言していた。


  ケント・ウォン。レイバーセンター設立40周年記念パーティで

 7月1日の会計年度のスタートに向けて現在、州議会を舞台に知事との攻防戦が続いている。


ケント・ウォン(Kent Wong)にぜひ激励のメールを

簡単で結構ですからぜひ、激励のメールを送ってあげてください。
kentwong@ucla.edu

レイバーセンターのホームページは
UCLA Labor Center http://www.labor.ucla.edu/
UC Berkeley Labor Center http://laborcenter.berkeley.edu/
------------------------------------------------------------------------

労働情報に6月15日号から連載をはじめることになりました。このメールニュースと重複する部分もあるかも知れませんが、ぜひ読んでください。
また来週くらいに一報を出せると思います。

ではまた

高須裕彦

From: Hirohiko Takasu <h_takasu@jca.apc.org>
Date: Sun, 23 May 2004 22:51:55 -0700