第3号  2004年4月22日

 

全米労働教育協会

みなさん

 こちらはようやく毎日,青空が続くようになりました。気温は10度から22-3度くらい。ただし,日差しは強く,日に当たっていると暑く夏のようですが,日陰はひんやりしています。湿度が低く,風は冷たく清々しい感じです。

 3月31日に,LAに到着して,23日がたちます。こちらの生活にもカリフォルニア英語にもようやく慣れてきました。


  自宅そばのバス停から

 こちらの生活の基本パターンは,朝7時半頃起床して,特段予定がなければ10時頃に家を出て,徒歩またはバスでダウンタウン・レイバーセンターへ向かいます。歩くと25分かかります。わりと小綺麗な住宅地が続き,ウイルシャーブルバードという表通りに出ると英語とハングルの看板が並びます。ちょうどコリアンタウンの東の端にあたります。2つぐらいブロックを歩くと,ラテン系の人たちの地域となり,雰囲気が全く変わると,ダウンタウン・レイバーセンターがあります。レイバーセンターオフィスでメールを開いたり,スタッフと打ち合わせたり,予定を聞いたりしながら1日が始まります。

 昼食は,レイバーセンターの前のマッカーサーパークにやってくる車(中型のマイクロバスのような大きさで,キッチンがついていて,そこで調理している)でメキシコ料理をテイクアウトで買って食べています。サラダとかサンドイッチもありますが,チキンタコスが2つで2ドル。これが定番です。ちょっと辛くてなかなかおいしいです。

 夜は,集会とか勉強会とかがあって顔を出します。レイバーセンターでの勉強会には,メキシコ料理の食事が出ます。

 今週は,月曜日がロサンゼルス郡地区労(Los Angeles County Federation of Labor AFL-CIO)の月例代議員会に出席しました。内容はほとんど日本と同じです。100名以上の参加者で,各加盟組合の代表者が集まっていました。最初に事務局長(なんとHERE Local 11のマリア・エレナ・デュラゾの夫です。おもしろそうなおじさんでしたが)がこの活動報告と今後の予定や取り組みを提起し,10名くらいの代議員から闘いの報告や行動の案内・呼びかけがなされました。その中で,ケント・ウォンが突然,私を紹介し,何の準備もないのに挨拶させられました。みんな立ち上がって拍手するのだから,もう冷や汗ものでした。事務局長は「今日は国際会議みたいだ」と言って,はしゃいでおりましたが。

 火曜日は,ダウンタウン・レイバーセンターで研究会。大学院を出て、NGOや労働組合で活動しながら勉強もしている20代の若手活動家が自分の調査を報告する内容でした。報告者は2名でいずれもWorkers Center(移民労働者を対象とした労働相談と教育を主たる活動としている。団交権はないが,機能としては日本の地域ユニオンに近い組織)と労働組合との関係についての報告でした。

 一人はSEIU(全米サービス従業員組合)の支部で働き,もう一人は南カリフォルニア民衆教育協会(IDEPSCA)で働いています。報告のポイントは,Workers Centerと労働組合が協力もするし,競合(場合によっては対立)関係にもある中で,もっと協力関係を深めるにはどうしたらよいか,そこに,地区労やレイバーセンター,コミュニティの諸団体の仲介の役割が重要だというものでした。日本では地域ユニオンを誰が支援しているのか,単産との関係はどうなっているのか質問されました。この課題は,今後フォローしていく内容なので,またどこかで報告します。

 水曜日は,デモクラシーナウのメインキャスターであるエイミー・グッドマンの講演会があり参加しました。コリアンタウンの古いとても大きな教会で開催されましたが,2000名も集まり(こういうところは白人が圧倒的に多い。アジア系はほとんどいないので驚きました),テーマは,コーポレイトメディア(企業メディア,大マスコミ)とブッシュ政権批判でした。反戦の意思表示は明確でした。大統領選は,民主党のケリーはイスラエルのシャロンを支持していて問題だが,今はとにかくブッシュを落とすことが最も重要な戦略課題ということでした。参加者の熱気がすごくて驚きました。デモクラシーナウは,ホームページからアクセスして見られますから,ご関心ある方が是非アクセスしてみてください(リアルプレイヤーが必要です)。月曜日から金曜日まで毎日1時間の番組です。
http://www.democracynow.org/

 今夜は,レイバーノーツ主催で,草の根の活動家を集めて,南カリフォルニアで昨年10月から2月まで闘われたストライキについてのフォーラムが開催されます。ということで毎日結構忙しいのです。

 毎週月曜日の日中は,UCLA本校キャンパスへ出かけます。バスを乗り継いでいくので,1時間20分位かかります。キャンパスの様子は2号で触れたけれど,緑が豊富な広々したキャンパスで,芝生の上で学生たちが昼寝をしたり,読書したり,語り合ったりしていて,公園にいる感じです。学食があまりおいしくないのは日本と同じです。午後は,黒人の公民権運動の指導者である James Lawson師(75歳)の授業を聴講しています。1回3時間ですが,必ず当時の記録ビデオを見せて,ご自身の体験を踏まえて話をされます。50年代以降の民衆運動(公民権運動や黒人労働者たちの闘い,労働運動と地域,反アパルトヘイトキャンペーンや反戦運動,移民労働者など)を取り上げて,10回ほど講義をするもので,ケント・ウォンがアシスタントをやってフォローしています。なかなか興味深い内容です。私はただ傍聴するだけですから楽ですが,学生たちは,毎回100頁ぐらいの文献を読み,期間中に4回レポートを書き,最終試験を受けなければなりません。さらに別の曜日には,サブアシスタントとのディスカッションに参加しなければなりません。寝ている学生もたまにはいますが,18?20歳くらいの学生が熱心に話を聞き,議論をしています。クラスの学生の9割がマイノリィティです。大学全体も白人が少数で,7割ぐらいがマイノリィティです。黒人の割合が少なく,アジア系,ラテン系が多いです。

 さて,ここまででずいぶん長くなりましたが,今回書こうと思った本題は,全米労働教育協会(United Association for Labor Education,以下UALEと言います)の総会についてです。AFL-CIOとも共催で「年次教育総会」として、シカゴで先週4月15日から17日まで開催されました。青野と参加してきました。UALEは,大学で労働側にたって労働教育を行う人たちと労働組合の教育担当者で構成される組織です。2000年に結成されたばかりですが,それまでは大学の組織と労働組合の組織が別々にあったそうで,それが統合されてできました。

* 全米労働教育教会のホームページ http://www.uale.org

 この総会はなかなか興味深いものでした。参加者は約200名で,6割が大学からの参加者でした。思ったとおり8割ぐらいが白人で,次に黒人やラテン系で,アジア系は10名に満たない参加者でした。ケント・ウォンの存在感もよくわかりました。彼は結成時の会長です(現在は,降りています)。よくやったなあとも思いました。彼は本当に正面から問題提起をして,人の心をつかむのがうまいなと思いました。マイノリティと人種を問わず女性たちから強い人気があります。参加者の年齢は40代から60代,女性は20代から30代もいるが,男性は皆無,6割強が女性でした。近隣以外は代表者を送っていることと,労働組合の教育担当者に女性が多いことも原因と思います。

 生活賃金キャンペーンの研究をしていて来日もされたステファニー・ルースに会い挨拶してきました。たくさんの人たちに会い,UCバークレーレイバーセンターの所長ケイト・クワンさん,SEIUの西部と東部地区の教育責任者,ジョージミニーセンターのスタッフとは仲良くなれました。SEIUの西部地区の教育責任者から,SEIUの総会が6月にサンフランシスコで開催されるそうで,そこへ参加しませんかとお誘いを受け,LA地区で開催する若手リーダー育成セミナーへも誘われました。

 総会は,3日間朝8時15分から夜まで,32の正式分科会やコーカス,委員会会議,自主的な会合や組合別の会議など多数が設定されていました。私たちの出たのはわずか8つですから,とても全体像をつかむことはできませんがその一端が見えてきました。とりあえず感想的な内容になりますが3つだけ触れておきます。

 まずは「レイバーエデュケイター」(労働教育者)という概念の存在です。日本の大学にそのような概念はないと思います。労働組合に教育担当者はいますが,プロの「レイバーエデュケイター」として,自分を確立しているでしょうか? これをどう考えていくか,議論すべき課題です。

 次に,大学と労働組合の関係・距離,微妙な立場の違いについては議論になっていました。当然にして違うわけですが,日本との大きな違いは,大学の研究教育スタッフが,組合活動家と相互交流をし,組織化や協約キャンペーンキャンペーン戦略を提起し,実践レベルで相互議論・相互協力をしていることです。大学のレイバーセンターはそのために,調査研究をし,オルグや組合員の教育をし,もっている資源を組合に全面的に提供しています。人的な行き来があることも重要な点でしょう。まあ,組合からはアカデミックすぎて実践に使えないものがあるとかの議論もされていました。

 3つ目は,「民衆教育の手法」の活用です。パウロ・フレイレの『非抑圧者の教育学』の課題提起型,対話型の教育手法です。それを使ったワークショップに出てみました。まず,最初に,ある職場,この場合は制服の修繕・洗濯をやる仕事で,労働条件は劣悪で様々な移民・人種が一緒に働いている職場を想定する。次に5名ぐらいグループに分かれて,2チームは、現状はどうなっているか,何が問題かを議論する。他の2チームは,職場の人たちは何を求めているかを議論する。それを模造紙に書いて発表する。次に,その職場を想定しながら,一人一人がストーリーを考え,各グループで議論し,一つを選ぶ。それを発表して,テーマを一つ選ぶ。希望者を6名くらい募って,別室でそのストーリーを元に短い寸劇を作る。その間に,各グループはマッピングという作業をする。これは,職場の地図を作製する作業で,職場のレイアウトを書き,丸い色の付いたシールを人として,作業ラインやオフィスにはりつけ,上司や組合の職場リーダー,作業のライン,情報のライン,経営の指揮命令ラインを,色のついた糸でつないでみる。職場の仲間やグループをつないでみる。そういった作業を通じて職場分析をしてみる。その作業が終わって,発表した後,演劇ができていて,テーマは「奴らと一緒に働きたくない」。仕事は一緒なのに,昼休みは人種や出身国別に分かれて過ごす労働者の状況を描いた劇でした。その劇を見ている側から希望を募って,役を交代して,内容を変えてみる作業をやる。人種を越えて仲良くしようと呼びかける人ができたり,劣悪な条件を問題にする人が出てきたり,観客側が口を出して劇を変えていく。・・・・わずか2時間のワークショップでしたが,なかなかの内容でした(普通は1日かけてやるものですが)。このワークショップはカナダで労働教育をやっている人たちがファシリテイターとなってやりましたが,どうもアメリカよりカナダの方が前に進んでいるようです。

 加えて,たくさんの資料も入手してきました。大切なものはまた別途報告していきます。最終日には,オプションとしてレイバーヒストリーツアーがありました。シカゴはメーデー発祥の地でした。シカゴの労働者が8時間労働制を要求してストライキで闘ったのが,メーデーの起源としか知らなかった私としては,大変恥ずかしい限りでした。この件もまた興味深い内容で,次号(来週)で詳しく報告します。

 さて,今回もずいぶん長くなってしまいました。当面以下の点を課題としてフォローしています。これらについて,運動に参加しながら観察したり,インタビューしたり,ビデオを取ったりしながら,追いかけていこうと思いますが,これだけでも課題が大きすぎるかもしれません。テーマごとにまとまってきましたらまた報告します。

(1)HERE Local 11:4月15日でホテル関係の労働協約が切れ,協約交渉がこれから
  夏にかけて山場を迎えるので,それをフォローする。

(2)シュワルツネッカー知事による労働行政の全面的な切り捨て攻撃を調査する
 当面は, UCLAレイバーセンター(正式にはCenter for Labor Research and Education 労働研究教育センター)の上部組織「労働雇用研究所」(ILE)の廃止(センター予算の75%がカットされる)と反対の闘い(それを追いかけながらレイバーセンターの機能を調べる。3週間の滞在でいろいろ見えてきました。LAやカリフォルニアの地域労働運動ネットワークのコーディネーター的な役割を果たし,ケント自身は全米や国際的なネットワークづくりを仕掛けているのではないかと思います。だからこそ,シュワルツネッカー知事から攻撃を受けている)。
 ホームケアワーカーの「パブリックオーソリィティ」の廃止攻撃と反対の闘い
(SEIU434Bを調査する)。

(3)ワーカーズセンターや移民労働者運動
 レイバーセンターでプロジェクトをやっているので,そこに参加する
 KIWAやガーメントワーカーズセンター,その他のセンターや共闘関係をフォローする(メーデーに移民労働者の1日行動があります)

ではまた

高須裕彦

 

From: Hirohiko Takasu <h_takasu@jca.apc.org>
Date: Thu, 22 Apr 2004 17:54:45 -0700