ニューヨークから 2004年11月6日 |
ストライキを闘ったグランドセントラル・オイスターバーの仲間と再会
今回は、紅葉に(ブッシュ再選の怒りに!)燃えるニューヨークからです。高須裕彦
1.Good by, Los Angeles
2.NYへ タクシーの運ちゃんとの政治談義に驚く
3.大統領選挙と改革派労働運動
4.ストライキを闘ったグランドセントラルオイスターバーの仲間と再会
5.味のある街、そしてエキサイティングなNY
エンパイアステートビル1.Good by, Los Angeles
31日夜、10時の飛行機でロサンゼルスをたち、11月1日、6時前にニューヨークJFK空港へつきました。離陸直後に見たロサンゼルスの夜景がなかなか圧巻でした。太平洋側へ向けて離陸した後、左旋回をしながらLA中を見せてくれました。7ヶ月もいたロサンゼルスに、"Good by, Los Angeles"と言えた気がしました。外灯が白い蛍光灯ではなく、オレンジ色なので、夜景の雰囲気も日本とは違って、暖かい感じがします。
ケント・ウォンさんが空港まで送ってくれました。最後に大統領選でブッシュが勝つか、ケリーが勝つかで、来年のAFL-CIOの会長選挙もスイニーが続投するのかどうか(ブッシュが勝てば続投とのこと)決まるだろうと言っていました。時間切れでその理由を聞きそびれてしまいました。
それから、来年8月にAPALAの総会がラスベカスであるので、日本から活動家たちをつれてこないか、ラスベガスはHEREくらいしかないでの、総会のあと、ロサンゼルスを案内したらいいと言っていました。ぜひ行ってみたいという方々がいらしたら、また企画したいと思っています。
2.NYへ タクシーの運ちゃんとの政治談義に驚く
NYまで5時間のフライトでしたが、大変揺れて、熟睡できないまま到着。タクシー乗り場へ向かうとあまりの冷たい風に驚きました。夏から真冬に来た感じです。実際には東京の12月くらいの気温です。
空港でタクシーに乗ると陽気な南アジア系の運ちゃんで、これがまたNYらしく、いろいろ話しかけて来ました。私たちが日本人だとわかると、「お元気ですか」と日本語で話しかけてきて、その後は英語ですが、「小泉は人気があるのか?」「中曽根はまだ生きているのか?」からはじまって、「日本はなぜ軍隊をイラクに送っているのか」と立て続けに聞いてきました。「国民の過半数は反対しているんだよ」「ブッシュが嫌いな日本人もたくさんいるよ」と話が弾みました。「ブッシュはたくさん罪もない民衆を殺して許せない」「世界中の人びとがブッシュに反対していることを知っているけれど、明日の選挙はどうなるだろうか?」と言っていました。
この話をNYの人に話すと、良くあることだそうです。運転手の多くが中東や南アジアの出身者が多く、出身国で医師や弁護士などの資格を持っている知識人が多いそうです。地下鉄の中でも政治談義を知らない人同士でもやるそうです。
今回の宿泊先は、ニューヨーク市東側の郊外、クイーンズのジャマイカと言われる地域です。バス5分で駅に出て、地下鉄でマンハッタンの中心部まで30分くらいです。毎日、郊外から通勤しているような気持ちでマンハッタンまで通っています。周辺は中流層が住んでいる大変美しい住宅地で、広々とした庭の中に赤レンガの家が並んでいます。日本で言うと別荘地に来ているような感じです。ちょうど紅葉の真っ最中なので、とってもきれいです。以前はユダヤ系の人びとがたくさん住んでいた地域でしたが、現在は、アジア系が増えて人種的には様々な人びとが住んでいるようです。
地下鉄の駅に出ると、レストランやお店が並び、様々な人びと、イスラム系の人びとも含めてあらゆる人びとがあふれていました。ロサンゼルスではまったく見なかった光景でした。空気が違うという感じで、これは同じ国だろうかと思ってしまいました。
そして、大統領選の当日は、マンハッタンまで出てみました。街にまったく人気(ひとけ)のないロサンゼルスとは違って、とにかく人があふれています。歩くのも大変なくらいに。そして、あらゆる人種の人びとが。
私が歩いてみた範囲では、ケリー支持のポスターやバッチはたくさん見ましたが、ブッシュ支持はありませんでした。ブッシュの名前や顔の入ったバッチは全部Xがついています。他の地域とは違って実際にNY市民の圧倒的多数がケリー支持です。
マンハッタンからの帰りはラッシュ時にぶつかりました。日本とまったく同じで、みんな疲れた顔をして、乗っています。緩やかに人が立ち並んでいる程度の混み具合です。座っている人びとの何人かはこっくりこっくりと寝てました。電車で寝ているのは日本だけだと誰かが言っていましたが、そんなことはありません。
ユニオンスクエア3.大統領選挙と改革派労働運動
メディアやホームページで取れる情報について、十分にフォローしているわけでもないし、日本でもアクセスできるので立ち入ったことは報告しません。ご承知との通り北東部と西部以外はブッシュが制して、多数を獲得し再選されました。NYやカリフォルニアと中部・南部のアメリカ人の意識はまったく違うようです。
大統領選挙後に私たちの会った労働運動関係者の反応は、落胆と怒りが同居し、労働者にとってさらにひどい時代が来る、次に任期中に最高裁判事も退任する者4人も出るから右翼の人間変えられてしまう、労働法の改悪もあるかも知れない、そして戦争の拡大など、さらに深刻な時代が来るだろうというものでした。SEIUをはじめ改革派の組合は総力を挙げてケリー支援をしていましたから、今回の敗北の大きさは大変なものでしょう。
ただ、NYのあるSEIU関係者が、選挙運動に関わった経験をもとに、以下のようなことを言っていました。
「SEIUをはじめ、改革派の組合は、カネと専門的なスタッフを投入して、上から戦略的な組織化をやっている。たしかに、いまの情勢から言うと効率的な組織化を進めるためにはそれが必要かも知れない。しかし、SEIUはさらに中央集権化しようとしている。トラスティーシップ(反対派が執行部の一部を握ったり、内紛が起きて混乱している支部を権利停止し、本部が直接信託統治すること)もそこの支部の組合員とは関係なく外から指導部が降りてくるだけで、現場の労働者から変えていく発想がない。
大統領選でコミュニティに入ったが、外からの動員ばかりで、そのコミュニティの中からオルグを採用して入っていく発想がなかった。そこで生活している人びとにとっては、選挙が終わっても生きていくための課題が残り続けるのに、それをどうしていくかの発想がない。選挙が終わればキャンペーンが終わり、みんな引き上げてしまった。
改革派のリーダーたちはいい人たちだが、白人の男ばかりだ。急増しつつある新しい労働者の多くは、移民、マイノリィティで女性たちだ。リーダーたちは労働運動を何とかしようと思っているが、今はいい指導部でも次が育たない。現場の労働者を信頼して、そこから知恵を引き出し、意識化していくような民衆教育の発想が必要。」
と、改革派労働運動の弱点を指摘していました。
4.ストライキを闘ったグランド・セントラル・オイスターバーの仲間と再会
NYのグランドセントラル駅にある「グランド・セントラル・オイスターバー」のストライキを闘った仲間たちに再会してきました。
オイスターバーの仲間たち 左からブライアン・カズンさん、ルイス・オレブコソさん、ジョン・ルーベンさん(ローカル6スタッフ)
このレストランはHEREローカル100に組織されていて、昨年秋、労働協約交渉が決裂し、12月以来ストライキに突入し、連日、ピケットラインを張り、闘いが続いていました。3月3日に品川駅前のアトレ品川にフランチャイズで東京店が開店し、オーナーや総支配人が来日するので、ローカル100は、オイスターバーの労働者2名を含む代表団を日本へ送ってきました。準備不足での来日となり、日本側も十分な受け入れ体制が組めませんでしたが、3月3日の開店に会わせて、前日夜、宣伝行動の実施を決定して、当日は60名を越える仲間を集めて、品川駅前で行動を取り組みました。行動の内容、当日のビデオ映像は以下のホームページ参照。http://www.labornetjp.org/Campaign/2004/OysterBar
ローカル100(NY地域のレストラン、カフェテリアなどを組織。組合員5千名)を訪問して、訪問団をコーディネートしていたリサーチャーのアマンダ・リームさんと再会しました。彼女は、「3月3日の行動で経営側が驚いて、3月26日の解決につながった」と本当に喜んでいました。
同時に、「過去の国際連帯の経験、ブリヂストン・ファイヤストーンやホテルニューオータニの経験がしっかり伝わっていれば、もっと効果的な国際連帯、日本での行動や取り組みができたはずだ」と改めて言っていました。彼女は、帰国後、ローカル11のマリア・エレナデュラゾや本部のリ・ストリーブへ「なぜ日本の状況を詳しく教えてくれなかったんだ」と電話を入れたと言っていました。このような争議はそう頻繁にあるわけではありませんが、お互いに経験を伝え、それを次に生かしていくことが本当に重要だと思いました。
彼女は日本語のシュプレヒコールを覚えていて「オイスターバーに入らないでください」とまた繰り返していました。それから来日したときの写真を見せてくれて、その中に写っていた国労闘争団の岩崎さんのことを「この人は本当にいい人だ」と言っていました。(岩崎さんもてましたね!)
日本語の通訳をかねて一緒に来日されたジョン・ルーベンさん(日本に10数年滞在されていた経験があって、奥さんが日本人で日本語が完璧)は、HEREローカル6で、事務所もすぐ隣のビルで、あわせて訪ねてきました。ローカル6はNY地域のホテル労働者3万9千名(HERE最大のローカル)、マンハッタンのホテルの9割、200以上のホテルを組織しています。
そして5日金曜日の夜に、ローカル100の委員長ビル・グランフィールドさんとジョンさんと一緒にオイスターバーを訪ねました。そこで、来日されたルイス・オレブコソさんとブライアン・カズンさんと再会しました。8ヶ月ぶりの再会、そして勝利を一緒に喜びました。実は品川のオイスターバーへはまだ行っていませんが(開店の時にお店の前で抗議申し入れをしただけなので)、NYの本店とまったく同じつくりのようです。日本側を「勝手に代表」して、生のオイスターとウニ、魚介のおいしいスープをたっぷりご馳走になりました。支援行動に参加していただいたみなさんには申し訳ありません。
次から次からお店の組合員たちがあいさつに来てくれました。雪に埋もれながらピケットラインを張っている写真などを見せられると本当に大変なストライキだったのだなあと思い浮かべながら、いろんな話ができました。ビル委員長がちょうどトイレに行ったら、マイケル・ガービー総支配人がいたそうで、東京で追いかけ回した相手だけに、あいさつぐらいしてやりたかったなあ!!!。
ストライキを闘った70名の組合員全員が職場へ復帰し、みんな元気に働いているようです。金曜日の夜でしたが、お店は大変な繁盛ぶりでした。たしかに日本人客もいました。ゴールデンウイーク、お盆、年末年始は日本人客があふれるそうです。
5.味のある街、そしてエキサイティングなNY
NYは、ロサンゼルスとは違って、車がなくても、昼夜とも自由に動き回れます。ようやく少し自由になった気がしました。
そして、なかなか味のある街だなあと実感しています。建物からして、古く趣のある、なかなかいい感じのビルが並びます。おもわず写真をどんどん撮ってしまいます。すべてが絵になる街です。歩くことが楽しい街です。
地下鉄の駅では、いろんな芸人たちがパフォーマンスや音楽をやっています。演劇、美術、音楽、労働者の文化運動、様々な社会運動、改革派の組合から労働者センター運動までがあふれています。本当にエキサイティングな街です。ロサンゼルスとは一桁違う規模で社会運動が展開しているように見えます。ロサンゼルスのイメージは平面的で拡散しているように見えますが、NYは立体的で、いろんものが集積しているというイメージを感じます。
次から次から新しい友人たちができて、もう少し、じっくり滞在して交流したいなあと思ってしまいます。おもしろい人たちが次々現れるので驚いてしまいます。しかし、もう、贅沢は言えませんね。
そうれから余談ですが、マンハッタンの West 19th St.に「革命書店」を「発見」しました。マオイストたちの書店です。看板がおもしろいので写真を撮りました。ホームページの方には、後ほど掲載しますのでご覧下さい。
革命書店ということで、NY訪問の前半も終わりました。週末は少しゆっくりして、来週も組合関係や労働教育関係者を回り、金曜日の飛行機で日本へ向かいます。長かった旅もあと1週間です。
ではまた
高須裕彦
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ニューヨーク滞在中もメールで連絡がつく予定です。なにかありましたらメールでご連絡下さい。
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ロス通信のバックナンバーは、以下のAPWSLのホームページから見られます。こちらは写真付きです。 http://www.jca.apc.org/apwsljp/労働情報へも引き続き連載を続けていますのでご覧下さい。http://www.rodojoho.org/10月1日号 サンフランシスコからーUCバークレイレイバーセンター10月15日号 労働運動と社会変革のための民衆教育11月1日号 労働組合と映像制作(あおのえみこ)11月15日号 ホテル労働者の闘い
大原社研雑誌8月号に労働史家・労働教育者のジェームスグリーンの自伝についての書評を書きました。また、7月号には昨年11月の来日時のケントウォンさんの講演が掲載されています。いずれも以下のホームページからダウンロードできます。http://oohara.mt.tama.hosei.ac.jp/
国際労働研究センター
第75回定例研究会のお知らせ
打ち続く台風や地震の災害、イラクでの悲しい事件に接し、胸を痛めていらっしゃる方も多いと存じますが、アメリカでは長かった選挙運動の末に大統領選挙の一般投票がいよいよ実施されました。拡大する貧富の差と深まる断絶を象徴するような激しい対立の選挙でした。
来年に向けてアメリカではもう一つの選挙がすでに昨年から開始されています。それはナショナル・センターAFL・CIOの会長選挙です。昨年の9月、SEIU,HERE,UNITE,レイバラーズ、カーペンターズの五つの全国組合の委員長が「新しい団結に向けての連携」NUPを立ち上げ、スイーニー会長に対抗して会長選挙に立候補することを宣言しました。NUPは95年以来のニューボイスの組織化攻勢が不十分だと批判し、組織化を最優先するための抜本的な改革を主張しています。その内容とは大胆な産別の再編、組合の中央集権化などで、既にHEREとUNITEは統合されています。
このNUPの改革提案に対して、専門家依存の上からの改革であり、組合民主主義の否定であるとする反論が提出されています。この10年近いニューボイスの改革の評価、これからの改革の行く末を巡って活発な議論が展開されています。
これまで私たちはアメリカ労働運動の新しい改革の動きをビジネス・ユニオニズムから社会運動ユニオニズムへの転換として捉えて注目してきました。しかし、この間のNUPを巡る動きはその流れの中に大きな分岐が起きていることを示しています。いま、その社会運動ユニオニズムを検証し、その意義と限界を考えることが問われているように思います。
今回の研究会では、そのために最適の人物であるマット・ノイズさんに講師をお願いしました。すでに今年1月と2月の定例研究会「民衆教育と組合民主主義」の中でSEIUのあるローカルの実態を克明にお話してくださいました。今回はアメリカにおける社会運動ユニオニズムの現実と労働運動改革を巡る論争について紹介してくださるようにお願いしています。多くの方々が議論に参加してくださることを期待しています。(非会員の参加者には会場入り口で500円の参加費をご納入願います。)
記日 時:2004年11月20日(土)午後1時半ー5時
場 所:東京大学社会科学研究所大会議室(1階)
(地下鉄本郷3丁目駅下車徒歩5分、赤門から入ります)
テーマ: アメリカにおける社会運動ユニオニズムの現実
報 告: マット・ノイズさん(AUD組合民主主義協会ウェブマスター)
司 会: 山崎 精一さん(国際労働研究センター)
通 訳: ルイス・カーレットさん(全国一般東京なんぶ)ベン・デービスさん(同左)
付記:今後の研究会予定では,
12月11日(土) 高須裕彦さん「アメリカの労働者教育」(仮)が決まっています。