第14号 2004年10月11日 |
ホテル労働者の闘いーーサンフランシスコではストライキ突入
みなさん お元気ですか?
11月13日の帰国まで1ヶ月少しとなりました。ロサンゼルスに10月31日までいて、ニューヨークへ向かい、組合や大学のレイバーセンター、映像関係をまわってきます。残りわずかとなったロサンゼルスについて、何が見えてきたか総括的に書いてみます。
現在の最大の焦点、大統領選については、中途半端な情報では総括しようもないので、やめておきます。ただ、ロサンゼルスでは、ケリーのポスターは見るけれど、ブッシュのポスターはほとんど見ません。私たちのアパートのすぐ前の家も「Defeat Bush」の大きな看板を掲げています。労働運動、とりわけSEIUは全力を挙げてケリーの応援をしています。
高須裕彦
1.ロサンゼルスで何が見えてきたのか
2.ロサンゼルス郡労働総同盟の代議員大会にて
3.ホテル労働者の闘いーーサンフランシスコではストライキ突入
4.ロサンゼルスでの生活について5.ケント・ウォンさんを訪ねて日本から来られた人たちとの交流
1.ロサンゼルスで何が見えてきたのか
ロサンゼルス滞在も残り3週間となりました。3月31日に来て、長いようで短い7ヶ月が過ぎようとしています。ようやく、生活に慣れ、アパートの中にも、あいさつをかわす顔見知りの人たちもできました。自動車の街ロサンゼルスで、バスと自転車、徒歩で動き回り、地理にも明るくなり、おいしいレストランやおもしろいお店、通りの位置や名前も頭に入ってきました。
レイバーセンターのスタッフたち、大学の研究者たち、レイバーセンターに近い、つまり社会運動ユニオニズム(改革派)の流れに属する労働組合の役員、スタッフ、活動家たち、移民コミュニティをベースに活動する労働者センターの人たち、コミュニティ組織の人びと、そして、移民・マイノリティを中心とする普通の労働者たちの顔が見えてきました。顔をあわせれば、握手をし、"How are you?"と言いあえる人たちが数多くできました。
言葉だけでなく、肌で感じてきたことをどうすればみなさんに伝えられるのかなあ、考える毎日です。その一方、様々な運動がある中で、ほんの一部の運動組織にアプローチしただけだし、調査や観察した組織もどこまで内部に入れたのか、そして言葉の限界点もあって、どこまで知ることができたのかなあ、と考えてしまったりします。
厳しい現場で闘い抜いている労働者、活動家から見れば、私たちは外国から来た「旅人」に過ぎないのかも知れません。しかし、抗議デモの現場に行ったとき、活動家たちがニコニコしながら握手してくれると、少しは気持ちがつながってきたのかなと思ったりもします。
日本の地域労組の現場で、政府や経営側の攻撃に対して、14年近く苦闘しながら、闘い方、新しい運動のあり方を模索してきた私にとって、今回の訪米の目的は、今後の日本での実践へのヒントになるものを捜してくることでした。
仮説的に見えてきたものは、
(1)UCLAレイバーセンターが労働運動の一部として、大学と地域、労働運動、社会運動をつなぎ、問題提起や政策・戦略提起などの重要な役割を果たしていること、
(2)SEIUやUNITE-HEREなどの改革派―社会運動ユニオニズムを掲げる組合が、大規模に移民やマイノリィティの労働者たちを組織していること、
(3)その組織の仕方は、対象に対する綿密な調査に基づく戦略立案、市民的不服従行動、非暴力直接行動を中心とする大衆的な行動、コミュニティ・グラスルーツからの組織化、様々な資源の戦略的な投入によって成し遂げられていること、
(4)80年代後半から90年代を起点に、既存の組合による組織化が困難な領域を「労働者センター」が労働相談と労働教育を通して、労働者の意識化、組織化を進め始めていること、
(5)「労働者センター」は日本の地域合同労組・コミュニティユニオンに非常に類似しています。他方、ロサンゼルスだけでなく全米レベルで見ていくと課題、民族、産業、女性、若者など対象を特化しながら活動が拡がりつつあること、
(6)労働教育の方法としては、ブラジルの教育学者パウロ・フレイレの強い影響を受けた、課題提起型、対話型の「民衆教育」が積極的に活用されていること、などです。
その一方、労働運動の弱体化は依然として進行中で、組織率の低下が進んでいます(カリフォルニアは何とか横ばいを維持)。既存の労働運動の多数が、依然として旧来の専従者による組合員へのサービス提供を中心とする「ビジネスユニオニズム」に支配されていると思われます。
その意味では、日本とまったく同じで、前向きの動きもあれば、後ろ向きの出来事もありです。その良いところをどう学ぶか、私たち自身の運動にどう活かしていくかだと思います。感覚的にはその形が見えてきたように思えます。それをみなさんにどう伝えるかは、少し素材を発酵させる必要があるのかも知れません。
12月11日(土)午後に予定されている報告会では、それを少しでも具体的につかんでいただける報告ができないだろうか、できれば民衆教育を使ってと思っています。
2.ロサンゼルス郡労働総同盟の代議員大会にて
9月30日に開催されたロサンゼルス郡労働総同盟の代議員大会に参加しました。ケント・ウォンがロサンゼルス地域の労働者の状況と闘いについてのプレゼンをやったり、ロサンゼルスのストライキの最近の歴史をビデオと当事者の発言で振り返りながら、ホテル労働者の闘いへの支援を訴えたり、200名ほどの学生たちがプラカードを持って参加する中で、カレッジの学生のための奨学金制度の発足提案をして決議するなど企画も工夫されていました。
9月30日、ロサンゼルス郡労働総同盟の代議員大会にて、カレッジ学生のための奨学金制度の発足を決定しかし、約1000名近くの代議員の3分2が昼食直後のジョン・スウィニー(AFL-CIO会長)のあいさつを聞くと帰ってしまいました。4時からは、代議員が全員でストライキ突入目前のホテル労働者の支援デモに参加するはずだったのにと、私は閑散とした会場を見て驚くばかりでした。ケント・ウォンに聞くと、「多くの組合は依然としてビジネスユニオニズムなんだ。自分の組合のことは考えているけれど、ホテル労働者の闘いには興味がないんだ」と言っていました。
代議員大会終了後、ウイルシャーグランドホテル前までホテル労働者支援デモ
3.ホテル労働者の闘いーーサンフランシスコではストライキ突入
10月5日、ハイアット・リージェンシーホテル前での市民的不服従行動
UNITE-HEREのホテル労働者たちの労働協約改定闘争は、引き続き山場が続いています。ワシントンDC、サンフランシスコ、ロサンゼルスの3都市で闘いが続いています。争点はすでにご報告していますが、協約期間を北米他都市とあわせるために、2006年とすること、賃金引き上げ、健康保険の扶養者分の会社負担など多岐にわたっています。
ハイアット・リージェンシーホテル前でのピケット9月29日、サンフランシスコのホテル労働者たちが2週間のストライキに突入、経営側は、ストライキに突入していないホテルの組合員をロックアウトし、4000名の労働者たちがストないしロックアウトの中で闘いを継続しています。
ロサンゼルスでは、その動向をにらみながら、いつでもストライキに入れる体制の中で(経営側はスト破りを確保し続けなければならない)、せめぎ合いが続いています。
市民的不服従行動―組合員の見守る中で座り込みに入る
John Wilhelm(現在UNITE-HEREホテル部門の代表で統合前のHERE委員長)とローカル11のMaria Elena Durazo委員長
機動隊に包囲される
一人ひとりの逮捕が始まる10月5日には、2回目の市民的不服従行動がロスのダウンタウンのハイアット・リージェンシーホテル前で取り組まれました。メディア各社と約1000名の組合員、支援者たちが取り囲む中で、交差点に座り込んだ50名のUNITE-HERE役員(次期AFL-CIOの会長選挙に立候補すると言われている統合前のHEREの委員長だったJohn Wilhelmも参加)、組合員、地域の支援者たちが機動隊に逮捕されました。あらかじめロス市警とも打ち合わせ済みの行動ですが、メディアが報道し、組合員、支援者たちが団結を固め、経営に闘う意志を示す場として位置づけられていることがよくわかる行動でした。
サンフランシスコの2週間のストライキが終了する10月13日にどういった事態になるのか? 経営側がロックアウトを継続するか、一旦闘争は中断するのか、ロスやワシントンもストライキかロックアウトに入っていくのか、注目すべき段階に入ります。
交差点を制圧する機動隊最新情報は以下のホームページで見れます。http://www.hotelworkersunited.org
4.ロサンゼルスでの生活について
ここのところ生活に関わることは、ほとんど書いてきませんでした。今日は少し生活と経済的なことも報告してみます。
私たちの滞在しているアパートはコリアンタウンの東端、ダウンタウンからサードストリートを西方に自動車で10分ほど行ったところにあり、周辺は、同様の割と規模の大きいアパート群が並んでいて、比較的小綺麗なところです。ケント・ウォンが捜してくれて、入居にあたって助けてくれました。
コリアタウンの街並み(ハングルとラテン系に人びと、あふれる自動車)私の所は、600室もある大きなアパートで、中庭が広く、プール、ジャクジー、テニスコート、バーベキュー施設もついています。アパート内は3分の1ぐらいがコリアン系、他は、白人、アフリカ系、ラテン系、東南・西アジア系など世界中から来ている人びとです。
日本人は、私の部屋の隣に南カリフォルニア大学へ客員研究員としてこられている夫妻が住んでおられるだけのようです。はじめてアメリカへ来た移民たちや留学生、研究者も積極的に受け入れているようで、韓国語はもちろん様々な言語が飛び交っています。ほとんどが家族連れです。
毎週日曜日の昼には、アパートのオーナーからベーグル(ドーナツのようなパン)ブランチが無料で提供されます。そこにアパートに住んでいる様々な人びとが現れ、様々な人びとが交流しながら、ブランチを楽しんでいます。それを見ると本当に様々な人びとが住んでいるなあと実感できます。
私たちの部屋は、3階建ての3階、西向きで、広さは70平方メートルくらい、1ベッドルームと一部屋になっているリビングダイニングキッチンがついています。物がないので、二人で住むには少し広いかなあと言う感じです。家族持ちの人たちはリビングに子供たちが寝ているようです。家賃は、食堂のテーブル、ソファー,ベット、冷蔵庫などの家具付きで1230ドルです。屋上に上がるとハリウッドサインとグリフィス天文台がはっきり見えます。エアコンが部屋についていますが、結局利用したのは、気温が華氏100度(37.7度)となった数日だけです。
生活費はどれくらいかかっているかと集計してみました。5月から9月の平均で、食材、雑貨などの購入費が月236ドル、光熱費が、電話が20ドル、水道も20ドル、電気が30ドルくらいです。台所のコンロは電熱コンロとなっています。外食費用は集計していませんが、レストランで食べると1人あたり7−8ドルから15ドルくらいかかります。ファーストフードやメキシコ料理を売りに来るワンボックスカーで買うと2ドルくらいから6ドルくらいです。家賃と食費代は日本と比べて決して安くないなと思います。しかし、電話代はとても安く、特に日本への国際電話は1分7セントでかけられます。日本の電話よりずっと安いので、日本へもっと電話しろと怒られそうですね。
スーパーはアパートの隣に、向かい合わせで、大手チェーン店のVONSとRalphsがあります。多くの人が車で乗り付けて、一週間分くらい買い付けるようで、山のような食材をワゴンに乗せて、レジに向かっています。肉はいくつかの塊をパックして売ってます。日本のように薄切り肉はありませんので、塊を自分で切らなければなりません。BSEを意識して、主に鳥や豚を買っています。日本の肉よりおいしい気がします。果物は、未成熟の状態で収穫し、長期間流通をさせようとしているので、おいしくありません。ホントに。
交通費は、バスに乗ると通常1.25ドル、デイパスという1日乗車券が3ドル[3回以上バスやメトロレール(一部地下鉄の鉄道)乗る場合はこちらが安い]です。バスは、各通りを縦横に走っており、ロサンゼルス市内はほぼバスでたどり着けるようになっています。ただし、バスダイヤはいつも乱れていて、何台も続けてきたり、いつまでも来なかったり、当てにならないところがあります。まあ、それを余裕を見て時間を見積もり、アポに遅れないよう出ていくのが一つの技術です。平日の午後は、子供たちや女性、お年寄りがたくさん乗っていて、和やかな雰囲気ですが、夜8時を過ぎると本数が少なくなり、治安状況の厳しいところでは、利用が困難です。友人の自動車に乗せてもらうか、タクシーを呼ぶしかありません。なお、日本と違って流しのタクシーはほとんどいません。ということで、夜の移動には苦労しました。イベントや集会参加も足がないときや遠方の場合は諦めました。
自宅のアパート前自動車というか、自家用車の数は、統計を調べていないけれど、相当の数と思います。ほとんどの車は、運転をする人しか乗っていませんから、中流以上の階層は大人一人一台の世界ではないかと思います。ですから、一般道、フリーウエイとも朝晩は渋滞で、車があふれています。そして、事故が大変多く、毎朝、事故報道をしています。
ということで、総じて言えば、お金がない人たちにとっては住みにくい社会だなあと思い致すところです。
5.ケント・ウォンさんを訪ねて日本から来られた人たちとの交流
9月から10月に、日本からケント・ウォンさんを訪ねて来られた3人の人たちとのそれぞれ交流しました。3人とも30代で、女性2人と男性ですが、それぞれ労働組合や研究機関に関わってこられて、アメリカ労働運動の現場を知りたい、ケントウォンさんたちの活動を知りたいと言う方たちでした。それそれ問題意識は様々ですが、若い人たちがアメリカの改革派の労働運動を知りたいと来てくれることに、未来への希望を感じました。アメリカの運動の良いところ、ヒントとなるところをどんどん学んで、日本の運動、闘いへ活かしていきたいものです。
------------------------------------------------------------------------
ロス通信のバックナンバーは、以下のAPWSLのホームページから見られます。こちらは写真付きです。 http://www.jca.apc.org/apwsljp/労働情報へも引き続き連載を続けていますのでご覧下さい。
大原社研雑誌8月号に労働史家・労働教育者のジェームスグリーンの自伝についての書評を書きました。また、7月号には昨年11月の来日時のケントウォンさんの講演が掲載されています。いずれも以下のホームページからダウンロードできます。http://oohara.mt.tama.hosei.ac.jp/
------------------------------------------------------------------------
連絡先は以下のとおりです。郵便物・FAXはダウンタウンレイバーセンターへ送ってください。ロサンゼルス滞在は10月31日までです。
大学UCLA Downtown Labor Center675 South Park View St. Los Angeles, CA 90057-3306
Tel: 213-480-4155x203(代表電話の後203を押せばつながります)Fax: 213-480-4160
自宅Tel: 213-384-1029(留守電もついています)