2002年12月6日に、中国籍の徐さん家族に対して法務大臣の裁決が出されました。1999年9月1日に開始された在留特別許可取得一斉出頭行動に参加した人たちすべてに裁決が出されたのです。第三次までで17家族、3個人・64名が出頭し、10家族43名に在留特別許可が認められたことになります。最後に裁決の出された徐さん父子については、子どもにのみ「留学」の在留資格が認められたものの徐さんは異議の申し出について理由がないとの裁決が出され収容されてしまいました。12月26日に徐さんは仮放免が認められましたが、心に大きな傷を負うことになりました。
3年余にわたって闘われた在留特別許可を求める集団出頭行動は、一定の成果をあげて終了することになります。10年以上引き続いて滞在し、中学生以上の子どもをもつ家族に対してはほぼ在留特別許可が認められました。ただし母子家庭、父子家庭などについては極めて厳しい裁決が出されています。法務省−入国管理許可は、未だに在留特別許可について個々のケースを慎重に審査しているとして「基準」自体の存在を否定していますが、この間の集団出頭によって一定の「基準」が形成されたものと考えています。
今後、一斉出頭行動によって形成された「基準」を拡大し、いまなお無権利状態にある非正規滞在外国人の救済を法務省−入国管理局に求めていきたいと考えています。以下の文章は移民政策検討プロジェクトでの議論を重ねた成果を市民がつくる政策調査会が2002年7月に「21世紀日本の外国人・移民政策」として発刊したものの抜粋です。ご意見をお願いします。
なお、一斉出頭行動は終了したものの、現在も2家族が法務大臣の裁決の取り消しを求めて東京高裁、東京地裁で係争中です。引き続き皆様のご支援をお願いいたします。
現存する非正規滞在者の処遇
1) はじめに
1980年代半ば以降、日本で就労し生活する非正規滞在外国人は増加を続けている。経済格差、貧困、武力紛争などがある限り、これらの人たちが大きく減少することはないだろう。1990年7月には106,500人であった非正規滞在外国人は、その後増えつづけ10年余で23万人を超えている。非正規滞在外国人を必要としている国内の労働事情もあり、高い水準を維持しながら推移していくものと考えられる。
この間、非正規滞在外国人は確実に定着・定住し、日本社会の構成員となりつつある。非正規滞在外国人の多くは小・零細企業の主要な担い手となり、生産活動に欠かせない存在となっており、子どもたちも地域の学校に通学していいる。これらの人たちを、非正規滞在を理由として、突然生活の場から引き離し送還することは人道的にも国際条約の観点からみても許されない。アムネスティの実施か、在留特別許可の弾力的な運用によってかは判断の分かれるところであるが、早急な救済措置がとられねばならない。
非正規滞在外国人の処遇をこのまま放置することは出来ない。正規に滞在する外国人と非正規のままで滞在する外国人が混在しながら定住化が進行すればすべての構成員が主体となって豊かで活力ある社会の創造を目指すなかで、新たな差別・偏見などの問題を生起させ、総合的な社会統合政策を進める上でも大きな支障をきたす。
2) アムネスティの実施について
現在、出入国管理局は非正規滞在外国人に対して、摘発と退去強制を基本とした政策を取り続けている。しかし非正規滞在外国人の定着・定住化傾向が顕著な現実となった今日、こうした政策は根本から変えなければならない。多くの国々で非正規滞在外国人に対して、何らかの方法で正規化措置が取られている。この正規化措置は、一斉かつ大量に行うアムネスティと個々のケースを審査し判断する在留特別許可とに大別される。
アムネスティの実施は、なにも特別な措置ではなく、アメリカ、フランス、イタリアなどの欧米各国ばかりでなく、韓国や台湾、アルゼンチンなどで広範に行われている。正規化の動機はいくつかあるといわれている。インフォーマルな経済からの切り離し、社会的な公正の実現、そして人道問題などである。これらの側面を評価し、アムネスティを選択した国々は、そのマイナス面も引き受ける覚悟で実施している。
一方、日本政府は非正規滞在外国人の増加と定住化を認知してはいても、アムネスティの実施に対して否定的である。それは出入国管理法が外国人を管理することを基本としており、人権や人道的な視点が弱いことに起因している。さらに法務大臣の裁量を残しておきたいという考えも根本には窺える。その結果、アムネスティの実施について「欧米ではいずれも失敗している。一度実施すると、また次ぎもと際限がなくなる。アムネスティには不法残留を誘引する作用がある」(坂中英徳・名古屋入国管理局長)といとも簡単に切り捨ててしまうのである。
23万人を超える非正規滞在外国人が存在し、非正規ゆえに人権侵害が日常化し、生存権すら脅かされている。非正規滞在外国人の正規化については移住労働者と家族の権利保護条約や子どもの権利条約などを考慮するならば、当然にもアムネスティは実施されなければならない。
日本では、アムネスティの存在に関して一般に広く知られていない。国はこの制度について、積極的意味、否定的な面を含めて社会のすべての構成員に知らせるとともに、これまで実施した諸外国の実施状況、実態などを公表していく必要がある。そのうえで、日本におけるアムネスティ実施の可能性を検討する委員会を関係省庁、専門家、NGOの参加で設置すべきである。
3) 在留特別許可の柔軟な運用による救済
在留特別許可は、法務大臣の自由裁量の中で。「恩恵」として認められてきた。そのため許可するか否かについての基準は明確にされず、審査の過程すらも公表されることはなかった。、また、裁決に対する異議の申し立ても「再審情願」以外にはなく、これすらも行政上の手続き行為ではなかった。
1999年9月以降、非正規滞在外国人が、日本に生活基盤が形成されたこと、就労中に負傷したけがの継続治療などを理由として、法務大臣の在留特別許可を求めて数次にわたり集団出頭した。この一連の行動は、法務省に、10年以上も日本に滞在し、子どもたちが小・中・高等学校にまで通学するようになった非正規滞在外国人とその家族の問題を、従来の摘発と退去強制という措置だけでは何ら解決しないということを痛感させた。
アムネスティに対して否定的な側面が強調され、政府もアムネスティに実施に取り組む姿勢が見られない中で、緊急を要する非正規滞在外国人の正規化については、この在留特別許可をより柔軟に適用し、非正規滞在外国人にとって権利性の高いものにしてゆかなければならない。法務省も、第二次入国管理基本計画の中で、一方では、「在留資格を有することなくわが国に事実上在留している外国人についてはこれを厳正に排除し、入管法違反者の減少を図ることを最大の目標」であるとしつつ、他方で、「我が国社会とのつながりが十分に密接と認められる不法滞在者」には「人道的な観点を考慮し、適切に対応していく」として、非正規滞在外国人に在留特別許可を適用することで救済する方向を示している。しかし具体的な適用にあたって許可基準を明確にしない、審査過程が不透明であるなど問題が多い。非正規滞在外国人を居住している場から突然退去させることについて、「まったく憲法からフリーハンドをもつわけではない」(近藤敦・九州産業大学教授)とする研究者もいる。そうであれば在留特別許可の運用にあたって具体的な指針や明確な基準がなければならない。したがって在留特別許可を非正規滞在外国人に適用する場合には最低限、下記の3点を明確にする必要がある。
@ 在留特別許可を適用する基準を明確にする。
A 在留特別許可の審査の過程、裁決の結果に関する理由を当事者に対して開示すること。
B 再審情願を再審査申し立て制度として法的に位置付けること。
※ 退去強制令書が発布された後に、在留特別許可を認められうるにたりる理由が発生したときに、退去強制手続きを再度求める手続き。在留特別許可と同様に申請行為ではなく、出入国管理及び難民認定法上の規定もない。読んで字の通り法務大臣の情けにすがるという古い時代を想起させる。
また、アムネスティの実施が困難と思われるため、在留特別許可を柔軟に運用することで非正規滞在外国人の正規化を行うことが必要である。正規化の基準については、1999年以降の非正規滞在外国人の正規化を求める行動で示された基準を後退させることなく行う。当面の基準は下記の通りとする。
@ 10年以上継続して滞在している非正規滞在者で、引き続き滞在を希望し、現に職業を有している者。
A 5年以上継続して滞在し、6歳以上の子か日本で出生した子を養育している実親と子。
B 病気の療養や労働災害により、長期間治療を要すると医療機関によって証明 を受けた者、または人道的にとくに必要と認められる者。
(A.P.F.S.代表 吉成勝男)
ASIAN PEOPLE'S FRIENDSHIP SOCIETY (APFS)