2004年11月7日から11日にかけ、第二回目となるフィリピンスタディツアーを行いました。APFSではこれまでに、バングラデシュやビルマ、韓国などへも視察旅行を行ってきましたが、今年は昨年に引き続き、フィリピンを訪れた次第です。4泊5日の間に、マニラ市内のNGOや昨年のスタディーツアーでも訪問した小学校などを巡り、フィリピンの現実を垣間見ることができました。
参加者は吉成代表、津川副代表、山口事務局次長、服部アンパーロさんの4名です。現地では、4年ほど前まで日本で暮らしAPFSのボランティアをしていたリッキーさん(現在はマニラ市内在住)が運転手と案内役を引き受けてくれました。
◇ OFWを支援するNGO−「カカンピ」
私たちはまず、マニラ市内に本拠を置くOFW支援団体の「カカンピ(KAKAMM
PI)」を訪ねました。OFWとは、OVERSEAS FILIPINO WORKERS、つまり海外に出て働くフィリピン人労働者を意味します。
フィリピン政府は外貨獲得源となっているOFWの人々をとても大事にしています。先のイラク人質事件でフィリピン労働者の生命を守るために撤兵を即断したのにもそれはよく表れています。なんといっても毎日3500人もの人々が国外へ働きにいくのです。彼ら、彼女らが向かう先は、シンガポールや香港、イタリア、カナダ、アメリカなどです。また、シリアやサウジアラビアなどに就労先を見つける人たちもいます。そしてなんと言っても多くの人々が向かうのが日本です。
現在海外にいるフィリピン人労働者や、すでにフィリピンに帰国したOFWの人々、そしてその家族の中には深刻な問題を抱えて悩んでいる人が少なくありません。「トラフィッキング」と言われる人身売買(主に女性が被害者で、海外に売られてしまう)、国外の雇用先で、上司や同僚に暴力やセクシャルハラスメントを受けたケース。HIVに感染してしまったケース。国外での過酷な労働で精神的に不安定になってしまったケース等々です。多くの場合、当事者だけでなく、家族(特に子ども)もまた大変な苦労を強いられることになります。
グループのリーダーであるマリア・フェさんの説明によると、1983年に設立されたカカンピのスタッフは全員がボランティアだそうです。OFWとその家族を幅広く支援し、必要な情報を提供しています。本部は私たちが訪れたマニラですが、支部はフィリピン各地に点在しているそうです。
活動内容はとても豊富で多岐にわたっており、身体的、精神的カウンセリング、国内外に向けたラジオ放送(番組は3つあり、うち1つが国外向けです。日本で働いていたフィリピン人労働者がこのラジオを聴いて、帰国後、カカンピに相談をしにきたケースがあったそうです!)、託児所や母子を対象とするシェルターなどが挙げられます。いずれも、最終的には問題を抱えるOFWと家族の自立を目的としています。
また、フィリピン政府に対するロビー活動や、国内外NGOや政府系団体とのネットワーク作りにも熱心に取り組んでいるそうです。
カカンピのスタッフ、ジェナリンさんの言葉が心に残りました。
「OFWは好き好んで海外へ行くわけではありません。できれば皆、フィリピン国内で働きたいのです。しかしフィリピン経済はとても厳しく、やむなく国外を目指すのです。そんな人たちが海外で肉体的、精神的に傷つけられるのは悲しいことです。日本でもぜひ追い詰められたOFWの人々のためにシェルターのようなものを作ってほしいと思います。また、特に女性のOFWにひどい仕打ちをするヤクザは許せません。日本のNGOの皆さんとも協力して問題解決のために活動を続けていきたいと思います」
◇ ストリート・チルドレン問題−「SHELTER FOR CHILDREN」
次に、私たちはマニラ市から車で5時間ほどかけてダゴパン市に向かいました。ダゴパ
ン市は海に近く、市内に7つの川が流れていることもあり漁業関係の仕事についている人々が多いようです。マニラと比較すると、本当にのどかな田舎といえます。
まずは市役所を訪問し、福祉担当のエルサさんからダゴパン市が抱えている問題の一つ
「ストリートチルドレン」に関して話しをしてもらいました。ダゴパン市内には45000人の未成年がおり、未就学の子どもが少なくありません。そして、貧困や家庭内の問題から路上生活を余儀なくされている子どもたちの問題が大きいのです。
こうしたストリートチルドレンのためのシェルターをエルサさんの案内で訪れました。
SHELTEER FOR CHILDRENという団体です。この団体は去年の1月に設立されました。市内で唯一の子どもを助けるシェルターです。現在、3歳から17歳までの子どもたち15人が集団で暮らしています。そのうち、学校に通学しているのは4人だけです。
専従スタッフが7人おり、この人々が未就学の子どもたちに勉強を教えたり、食事の世話をしたりしています。また施設内に農園があり、スタッフ、子どもたちが協働で山羊や鶏も飼育しています。この団体は市の福祉部門から若干の助成をもらってはいるものの、基本的に農作物販売等の事業収入で運営されているのです。
このシェルターに入るまで、子どもたちは皆、幼くして悲惨な生活をおくってきました。親が犯罪に手をそめ刑務所に入っている子ども、幼少時にレイプされ精神的に不安定になっている子ども、親族から虐待を受けて全身傷だらけになってやってきた子ども。貧困から一家離散となった子ども等々…。肉体的、精神的なケアが必要な子どもたちが多いのですが、そのケアもシェルタースタッフが中心となり行っています。
スタッフが皆、無私の精神で子どもたちをサポートしているのがよくわかり感動しました。おそらくこのシェルターで暮らす子どもたちは将来、自分のことだけでなく、他者を思いやる心を持つことができるようになるでしょう。そう信じます。
◇ 浸水で老朽化した学校−「セイント・トマス小学校」
最後に訪問したのは、セイント・トマス小学校です。この学校には幼稚園も併設されており、400人を超える子どもたちが在籍しています。教師は14人います。この小学校には去年のスタディツアーでも訪れているので、教師の中には見覚えのある顔も見られました。
この学校を見て驚いたのは、毎年のようにある台風によりがけ崩れがおこり、敷地の一
部が崩落してしまっていることです。そしてこの崩壊は毎年おこり、敷地面積がどん
どん少なくなってきているとのことです。危険なため一部の教室が使用禁止となっています。また、子どもたちにパソコンの使い方を教えてあげたいが、高価なため購入ができない、とのことでした。
こうした厳しい状況にありながらも子どもたちの笑顔は輝いていました。彼ら、彼女らは私たちを歓迎するために和服(に似たもの)を着て日本風の踊りを踊ってくれたり、最近フィリピンで流行した「いつも」というポップスを合唱してくれたりしました。
今回のスタディツアーの結果、「SHELTER FOR CHILDREN」と「セイント・トマス小学校」には、私たちAPFSが出来る範囲で、草の根的な支援を行っていこうということになりました。
また「カカンピ」とは情報交換のために連絡を取り合おうという約束をしてきました。少しでも日本で働くOFWの役に立てばという思いからです。
日本国内だけではなく海外協力も視野に入れつつ、APFSは活動を行っていきます。
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